ピクシブにあげたもの
海未ちゃんが小鳥を飼い始めたという――その噂は瞬く間にμ's内に広まり、話題のネタとして皆の注目となっていた。
あらかじめ言っておくけど、ことりじゃなくて小鳥だよ? 鳥類の小鳥だからね? そこのところ間違えないでね。
「ハラショー…。まさか、ことりだけじゃ飽き足らず、小鳥にまで手を出すなんて…海未はそこまで見境がなかったの? まさか鳥なら何でもいいって言うんじゃないでしょうね?」
絵里ちゃんのよくわからない発言に、海未ちゃんはそのまま「意味がわかりません!」と返す。
その様子を分厚い本を読み耽っていた真姫ちゃんが興味なさげに髪の毛をくるくるいじりながらボソリと、
「……海未って鳥類に好かれやすいわよね」
ん、それってどう言う意味かな真姫ちゃん? もしかしてことりも鳥類って言いたいのかな?
別にって…ひどいなぁ…ことりは一応ニンゲンだよ? まぁ、海未ちゃんの小鳥さんにならなってもいいけど…。
「そういう真姫は、ぴょんぴょこ跳ねる可愛らしいうさぎにとても懐かれているようですけど?」
「…イミワカンナイ…ていうか可愛いじゃなくてやかましいうさぎの間違いでしょ?」
海未ちゃんの思わぬどんでん返しに、真姫ちゃんは明後日の方を見ながら頬を赤らめた。図星をつかれてさぁ大変です。さて、件の赤い目をしたうさぎさんはと言えば、ジト目で真姫ちゃんを睨みつけながら、
「…ねぇ真姫ちゃん、やかましいうさぎって誰のことよ? 怒らないから言ってみなさいよ、ねぇ?」
怒らないとか言いながら、すでに激にこぷんぷん丸。しかしそんなあからさまな怒り顔にも真姫ちゃんはまったく意に介した様子もなく、
「別に、誰だっていいでしょ?」
と、ただ淡々と告げる。
にこちゃんはテーブルから身を乗り出して、
「よくない! ここが重要なとこでしょうよ! かわいいかわいいうさちゃんが誰なのかはっきり言いなさいよ!」
「ふん…きっとにこちゃんみたいにさびしいと死んじゃうようなメンドクサイ子でしょ」
まるで他人事のように素っ気なく言い放つと、真姫ちゃんはつまらなそうに窓の外に目を向けた。若干顔が赤かったけど、にこちゃんには負けた。
にこちゃんの顔が真っ赤に燃える。ほっぺは餌を詰め込んだハムスターみたいにぷっぷくぷぅ。まさにムカ着火ファイヤーだった。
「め、めんどくさいって何よ! このちょろまき! そういうあんたは気まぐれなネコがお似合いね!」
ネコは凛にゃー!と元気いっぱいに吼える凛ちゃんを隣でかよちゃんが宥めていた。その様子を、希ちゃんがニコニコしながら見守っている。まるで母娘みたいな光景に胸がほっこりした。
「――で、話を戻すけど、海未ちゃんってばよく小鳥さんを飼おうなんて思ったね?」
そう言った穂乃果ちゃんの視線が何故かことりに向いた。
アイコンタクト。その意味深な視線の意味するところは言葉を介さなくともはっきりとわかる。わかってしまう。長年連れ添った幼馴染は伊達じゃない。言葉なんてもはや不要なのだ。
「じー…」
「ん? 何かな穂乃果ちゃん?」
「う、ううん…なんでもないよ」
じゃあその『ことりちゃんならもう飼ってるのに…』って目はなんなのかな? 私は別に、海未ちゃんに飼われてるわけじゃないんだからね? 主従関係じゃなくて恋人同士だよ?
「で、で? どうして小鳥さん飼おうと思ったの?」
「いえその…飼おうと思ったわけではなくてですね……」
海未ちゃんはしかたないと言った感じでふぅっと一息つくと、事の顛末を語り始める。
「実はこの間、羽を怪我して飛べなくなっている小鳥を見つけまして…」
曰く、道端で偶然にも発見したその小鳥は怪我をして力なく鳴いていた。そんな状況を見過ごすことが出来ない優しい海未ちゃんは、小鳥さんを家に連れ帰り、介抱したのだと言う。
「怪我の治療が終わるまではと思い、家で面倒を見ていたのですが…」
それからしばらく小鳥さんの怪我は無事完治したそうだ。しっかりと翼をはためかせ飛べるまでに回復したらしいのだが、しかし、そこで予想外のことが起こった。
なんとその小鳥さん、怪我が治っても海未ちゃんの傍を離れようとはせず、そのまま園田家に居着いてしまったらしい。一度は心を鬼にして空に返したらしいのだが、まるで散歩を終えて自分の家にでも帰ってくるかのように戻ってきてしまうらしい。しかも定位置は決まって海未ちゃんの肩、もしくは頭の上。…ちょっと羨ましい。
「ふぅん、海未ってつくづく鳥に縁があるわね。もしかして鳥に好かれるフェロモンでも体から出てるんじゃない?」
それはつまり、私も海未ちゃんのフェロモンに骨抜きにされたと言いたいのだろうか。間違ってはいないけど、間違っていると声を大にして言いたい。何度も言うけど、私はニンゲンであって鳥ではない。名は体を表すというけれど、私はれっきとしたヒトに属する生き物…のはず。
「……そういう絵里は犬に好かれるフェロモンが全身から滲み出ているようですが?」
「……ど、どういう意味かしら?」
海未ちゃんの的確な返しに、絵里ちゃんは引き攣ったような笑みを浮かべた。
言い得て妙。だけどあながち間違いではないから動揺してしまう。
「さぁ? 穂乃果にでも聞いてみたらいいんじゃないですか? ねぇ、穂乃果?」
「え、どういうこと? 穂乃果には意味不明だよ。絵里ちゃんはわかるの?」
「さ、さぁ…私にも何が何だかわからないわね…」
ほ、穂乃果? チョコレートあるけど、食べる? わーい! と相変わらずのやり取りが始まった。そんなあからさまな餌付けに穂乃果ちゃんはしっぽを振る。
知らぬは本人ばかりなりってよく言うけど、穂乃果ちゃんは自分が犬っぽいことまるで自覚してないみたい。餌をあげると誰にでもついてっちゃいそうになるからちょっと心配だけど、絵里ちゃんが躾ればきっと大丈夫だよね。…そう思いたい。
「――そういえば、その小鳥に名前はあるん?」
ふと、希ちゃんが質問を投げかける。
海未ちゃんは一瞬考える素振りを見せると、それから照れ臭そうに頬を掻きながら、
「えーと…その、そのまま『コトリちゃん』です。『コトリ』ではことりと被ってしまいますので、“ちゃん”付けするのがポイントです」
いやはやお恥ずかしい…と、海未ちゃんは目を伏せて照れていた。
「なんでまたことりと同じ名前にしたのよ? そこはほら…ホノカ、でもいいわけじゃない?」
ホント、絵里ちゃんの頭の中は穂乃果ちゃんでいっぱいなんだね。幼馴染として、喜んでいいやら、悲しんでいいやら。ちょっと複雑です。
「ぅ、絵里ちゃん? どうして穂乃果と同じ名前なの?」
穂乃果ちゃんの純粋無垢な瞳が絵里ちゃんを襲う。下から覗きこむように見つめるつぶらな瞳が絵里ちゃんをどぎまぎさせる。
きっと無自覚でやってるんだよ、あれ。ホント、天然って怖いね。え? 私に言われたくないって? う~ん、意味がわからないなぁ。
「ちょ…穂乃果、近っ――……え、えと…た、たとえ話よたとえ話! た、他意はないわ!」
穂乃果ちゃんは若干納得のいかない顔をしていたけれど、しぶしぶ顔を離して「ふーん…」と漏らす。
とりあえずホノカちゃんの下りは脇に置いておくとしても絵里ちゃんの疑問は尤もだった。そこにいる誰もが感じていた当然の疑問だったんだけど、
「で? なんでコトリちゃんなん?」
と、希ちゃんが催促すると、
「…いえその…ことりみたいでとても可愛らしかったので…つい」
海未ちゃんは顔を赤らめてそう言った。すると皆、苦笑しつつも生温かい目で海未ちゃんを見つめた。
そんな中、海未ちゃんらしいなぁ…なんて考えつつも、私の顔はカァっと熱を生み始める。熱く、暑く、火照っていく真っ赤な顔を隠すように、人知れず俯いて顔を振ってみた。でも顔の火照りは増すばかりで、感情の高ぶりは静まるどころか勢いを増していく。海未ちゃんに恋する気持ちが胸いっぱいに溢れ出してしまう。
(…『ことりみたいで可愛い』だなんて…よくそんな恥ずかしいこと平気で言えるよね…)
きっと言った本人だって、自分の言動がどれだけ恥ずかしいか分かってないんだろうね。
ホント、ずるい人。そしてそんな言葉一つで幸せを感じてしまう私はなんて単純なんだろう。惚れた弱み、なんて言うけど、海未ちゃんには一生敵わない気がする。
私としてはコトリちゃんじゃなくてことりに夢中になって欲しい。けど今の海未ちゃんはコトリちゃんのことばっかりでことりのことは二の次です。ことりみたいで可愛いと言われた手前、文句も言えません。
正直複雑です。そんな複雑な気持ちを抱えながら、
「…海未ちゃんのばか…もっとことりのことも構ってよ…」
と、海未ちゃんの口から度々漏れるコトリちゃんに対抗意識を燃やして、精一杯の不満を口にしてみる。
「ん? 何か言いましたか? ことり?」
「…むぅ…べつに」
けど、海未ちゃんはそれすらひらりとかわしてなんのその。そのきょとんとした顔にムカっと怒りが湧いてくる。
私は真姫ちゃんみたいな素っ気ない態度でぷいっとそっぽを向くことしかできなかった。
ホント、いろいろと複雑です。
※
恋人同士としてお付き合いを初めてからお互いのお部屋にお邪魔することが多くなったと感じる。
無論、付き合う前からそれなりにお邪魔してはいたけれど、基本的には同じ幼馴染である穂乃果ちゃんのお家に集まることがほとんどだったから――。
だからかな、なおさら多く感じるのは…。
私は小さく「お邪魔します」と呟いて、勝手知ったる海未ちゃんのお部屋に入る。海未ちゃんも後に続くと、最初にやることは決まっていると言わんばかりに一直線に窓に向かってしまう。
なんだろう?と思っていると、海未ちゃんはガラリと窓を開け放った。すると窓の外に備え付けられた手作りの鳥の巣が目に付いて、そこからひょっこりと顔を出した一羽の小鳥が海未ちゃん目掛けて飛んでくる。
例のコトリちゃんです。その名が示す通り体は小さく手のひらサイズの大きさだった。実は見るのは初めてだったけど、私の髪と同じ鶯色の翼をぱたぱたと動かしながら宙を駆けるコトリちゃんはとっても必死に見えました。それだけ海未ちゃんに会いたかったってことなのかな…。
(むぅ…)
さて、そんな様子を目の前で見せられて、私――南ことりはぷんすかご立腹です。
せっかく彼女と二人きりなのに、まず最初にやることがコトリちゃんの相手だなんて…。
構うならことりにしてって、言いたくても言えない私はただ海未ちゃんが堂々と浮気する様を眺めていることしかできなかった。
『ぴぃ~!』
「ふふ♪ いい子にしてましたか? コトリちゃん」
ピィピィと元気よく鳴きながら、海未ちゃんの肩にとまるコトリちゃんは、ご主人様のご帰宅にどこか嬉しそう。ホントに海未ちゃん好きなんだね。そりゃ命の恩人だもんね。
海未ちゃんはふっと柔らかく微笑むと、人差し指でコトリちゃんの頭を優しく撫でる。コトリちゃんもどこか気持ちよさそうに海未ちゃんにすり寄っていた。
なんだか複雑を通り越して、疎外感を感じるのですが…。
私、海未ちゃんの彼女だよね?
(ねぇ海未ちゃん? 彼女をほったらかしにして、他の子に夢中っておかしいんじゃないかな?)
そんな気持ちを知ってか知らずか、海未ちゃんはコトリちゃんに「ちょっと待っててくださいね」なんて優しく告げる。コトリちゃんは意図を察したかのようにぱたぱたと肩から飛び立つと、テーブルの上に降り立った。
ずいぶんとお利口な小鳥さんだなぁなんて考えていると、ふと振り向いた海未ちゃんと目が合った。
「ことり」
「っ…な、なにかな?」
じっと見つめられてちょっとドキドキです。
もしかしてことりの相手をしてるくれるのかな?なんてちょっぴり期待を胸に抱いていると、
「お茶の用意をしてきますので、ゆっくりしていてくださいね」
「あ…うん」
なんていうか、海未ちゃんは上げて落とすのが得意なのかもしれない。私が勝手に期待してただけなんだけど、ちょっと腑に落ちない。
部屋から出ていく海未ちゃんを横目にふと視線を戻すと、テーブルの上で羽を休めるコトリちゃんと目が合った。
『ぴぃ?』
「むぅ…」
この際だからはっきりと自分の意思を伝えておこうと思う。
相手は小鳥さんだ。伝わらないかもしれない。いや、たとえ伝わらずとも、言うのと言わないのとでは大きな違いがあると思う。ていうか、このままじゃ色々とおさまりがつかないわけですよ、私としても――。
「おほん」
私は咳払いしつつテーブルの前に正座して、コトリちゃんと目を合わせる。不思議そうに小首をかしげていたコトリちゃんだったが、何を思ったのかとてとてと小さな足を動かしてことりを真正面から見上げた。
相対することりとコトリ。片や海未ちゃんの恋人で、片や海未ちゃんをご主人様と慕う一羽の小鳥。両者の間には見えない火花のようなものがバチバチと散っている…ようにも見えた。
「はじめましてコトリちゃん。私は南ことり、海未ちゃんの彼女さんです。わかりますか?」
『ぴ?』
「つまり、私と海未ちゃんは恋人同士ってことなんです。キスとかえっちな事とかいっぱいしちゃう仲なんです」
『ぴぃぴぃ!』
恋人関係であると伝えるや否や、コトリちゃんはまるで威嚇するかのように翼をバサバサとはためかせた。もしかして意味を理解しているのだろうか? いや、たとえしていなくても大切なご主人様を奪いにきた泥棒猫くらいには思われているかもしれない。
私からすれば、キミの方が泥棒猫――いや、泥棒鳥だよ、まったく。私の海未ちゃんをたぶらかしていい度胸してるよね。ぷんぷん!
「あのことり…? いったい何をしているのですか?」
「あ、海未ちゃん」
『ぴぃ!』
一触即発で睨み合う私とコトリちゃんの間に割って入るように、お茶とお菓子の乗ったお盆を持って戻ってきた海未ちゃんが扉の前で唖然とこちらを見つめていた。
「ううん、ただコトリちゃんにことりの自己紹介してただけ」
「そうですか。この子、結構賢いですから、ことりのこともすぐに覚えると思いますよ」
「うん、そうだね」
たぶん、海未ちゃんを奪い合うライバルとして覚えられただろうね。海未ちゃんは相変わらずモテモテさんだけど、まさか鳥類がライバルになるなんて予想外にもほどがあるよ。
「海未ちゃん、私絶対負けないから」
「はぁ? よくわかりませんが、頑張ってください」
「うん、がんばるよ!」
苦笑しながらテーブルにお盆を置いた海未ちゃんは、それから両手を広げて優しく微笑んだ。ドキリと跳ねる心臓の鼓動。その優しい笑顔が今まで見たこともないくらい綺麗で、私は思わず見とれてしまう。まるで夢の中を彷徨っているかのようだった。
だけど、次に放たれた言葉がことりの意識を現実に引き戻した。
「おいで、コトリちゃん」
私だって一度も聞いたことがないくらい優しい声色だった。そんな呼び掛けに応じて、私の視界を横断するコトリちゃん。翼をぱたぱた鳴らして、海未ちゃんの頭の上に降り立ち翼を休める。
何気ないやり取りだったけど、私としては色々とダメージが大きい。特に精神的ダメージは相当なもので、気付けば居ても立ってもいられず、腕を伸ばして海未ちゃんの胸にダイブしていた。
「えっ…え?」
海未ちゃんはわけもわからずキョトンとしてる。
その頭の上でコトリちゃんもぴぃ?と首をかしげていた。
「あ、あの…こ、ことり?」
「……呼んだもん…『おいで、コトリちゃん』って…」
「い、いえ…呼んだのはことりじゃなくてコトリちゃんで――」
「呼んだもん! 海未ちゃんのバカ!」
ねぇ、海未ちゃん。
私以外の人にそんな優しい顔を向けないで。
そんなに優しい声で呼び掛けないで。
私だけを、見てよ――。
海未ちゃんの胸に顔を埋めて、柔らか感触に浸る。とくんとくんという海未ちゃんの鼓動が私を安心させ、徐々に落ち着きを与えてくれる。
どうしよう、やっちゃった…なんて、今更言っても遅い。思わず考えなしに行動してしまったけど、これはさすがに軽率だったかもしれない。
そう思っていると、私の耳に海未ちゃんの溜息が聞こえてくる。
「…ことり、顔をあげてください」
「…海未ちゃん」
やっぱり、めんどくさい子って思われちゃうかな。思われちゃうよね、きっと。自分でも、変だって思うもん。なんでこんなことでヤキモチ妬いてるのか、さっぱりわからないの。自分の事なのに自分がわからない。変だよね。
ちょっぴり怖かったけど、言われた通り顔を上げる。
何を言われてもいいように心の準備だけはしておこうと思ったけど、幸か不幸か、降って湧いたのは予想外にも言葉ではなかった。
「――んむっ!?」
一瞬、何が起こったのかわからなかったけど、見開かれた目に海未ちゃんの綺麗な顔が映る。ああ、私海未ちゃんにキスされてるんだって気付くのに、そう時間はかからなかった。
私の背中に腕を回して、力強く抱きしめて、私の唇を優しく犯してくれる。気持ちよくて、胸がドキドキした。私も海未ちゃんの首に腕を回して、さらに深く口づけて、熱く柔らかい感触に身を委ねる。
気の済むまで恋人同士のキスを交わした。離れるころには頭がぼーっとして脳がとろとろに蕩けきっていて、頭の中は海未ちゃんのことでいっぱいいっぱい。
海未ちゃんは荒い息をつきながら、柔らかく頬笑んで、私にこう言った。
「こんな事は、ことりにしかしませんよ?」
「うん…」
つまりそれは、心配する必要なんて何一つないということ。わかってる。わかっているはずだったのに、ちょっぴり不安になってしまっただけなんだよね。ただ、まさかコトリちゃんにヤキモチを妬いてしまうなんて思ってなかったけど。
「すきだよ…海未ちゃん」
「はい…私も好きですよ、ことり」
あいしています――と、耳元で囁かれてゾクリと体が震える。悦びに打ち震える。もっと海未ちゃんが欲しいと体の奥が疼いて止まらない。
そんな気持ちを察してか、海未ちゃんは頭の上に乗ったコトリちゃんをそっと支えてテーブルに乗せて一言「ちょっと我慢していてくださいね? あとでたくさん遊んであげますから」なんて言って――え?と思った時にはもう遅く、私は床に押し倒されていた。
「う、海未ちゃん?」
「してほしいのでしょう? ことりはすぐに顔に出ますからわかりますよ」
「…そっか」
どうやら海未ちゃんの前ではポーカーフェイスは意味がないらしい。そもそもポーカーフェイスなんて言うほど、自分を抑えられるわけでもない。私のことをずっと見てきた海未ちゃんだからこそ、ことりのどんな些細な変化にだって気付いちゃうんだろうなって、そう思っちゃうのでした。
「ねぇ海未ちゃん…ことりにしかしないこと、もっといっぱいして欲しいな…」
「ええ…嫌って言ってもぜったい止めませんから、覚悟してくださいね?」
そう言った海未ちゃんの琥珀色の瞳が妖しく光った。
『ぴぃ~!』
ふと、コトリちゃんの声が耳に届く。
きっと遊んで貰えなくて不満なんだね。
でも、ごめんねコトリちゃん。
今だけは、海未ちゃんのこと一人占めさせてね?