ゆるゆり高校生『とある女子高生たちの華麗なる憂鬱』の続編
R-18…一歩手前のR-15くらいです。閲覧は自己責任でお願いします。追記からどうぞ。
その日も…そう、なんてことはない、相変わらず代わり映えのしないお昼の風景だった。
もともと別クラスの私とちなつちゃんが櫻子ちゃん達の教室に入り浸るのはいつものこと。
そんな仲良しグループのランチタイムはとても日常的な光景で、それは傍からも見慣れた、あるいは呼吸するのと同じくらい自然に映っているかもしれない。
「ごちそうさまでした」
最後に残った私が食事の終わりを告げる。同時にそれは言葉通りのお昼休み開始の合図でもある。
余った時間は当然すべて自由時間となるわけだけど、だからと言って何か特別なことをするというわけでもない。
教室から外に出るのが億劫というのもあるし、小学生や中学生の頃ならいざ知らず、わざわざ体育館や校庭を使って運動に勤しむ気力も持てなかった。認めたくはないが、それだけ歳を重ねたということだろうか。
結果として、他愛ない雑談で時間が過ぎていくのがいつもの流れで、お弁当箱やゴミを片しながら自然と雑談が始まるのだった。
そんな折、ふと向日葵ちゃんが忙しない様子で席を立った。どこか切羽詰っているように見えるのは気のせいじゃない。
「わたくし、ちょっとお花を摘みに行ってまいりますわ」
ああ、なるほどね。と心の中で納得。
「おー。てか、普通にトイレに行くって言えばいいじゃん。どこのお嬢様だよまったく。この中で一番庶民的なくせしてさ」
「う、うるさいですわね。こういうのは気分が大事なんですわよ!」
「……どんな気分だよ」
「ガサツな櫻子には一生かかっても理解できないですわ」
向日葵ちゃんは顔を赤らめつつ「ふん!」とそっぽを向いたが、そろそろ限界(膀胱破裂的な意味で)が近いのか、それ以上は反論せずにいそいそと教室を飛び出して行った。
我慢せずにもっと早くにいけばよかったのになぁ、なんて考えていると、
「あ、向日葵ちゃん待って、私も一緒に行くよ。――あかりちゃん、ちょっと行ってくるね?」
続けざまにちなつちゃんが席を立ち、ぼそぼそと私に耳打ちしてくる。
「うん。念のため言っとくけど、向日葵ちゃんと浮気しちゃダメだよ? トイレって色んな危険(誘惑)がいっぱいなんだから」
「ぶふっ!? し、しないよ浮気なんて! 私あかりちゃん一筋だもん! ――って恥ずかしいこと言わせないでよもう!」
ちなつちゃんは冗談を本気にしながらそう言うと、失言だったとばかりに顔を赤く染め、わたわたと取り乱した。
それから居た堪れなくなったようにプイッとそっぽを向いて頬を膨らませる。
その「私怒ってます!」っていう仕草がいちいち愛らしくて感嘆せずにはいられない。まるでハムスターのような小動物を思わせた。やはり私の目には当社比3倍増しで可愛く見えるのかもしれない。
(うん、そうだね)
今なら、私のちなつちゃんは世界一の可愛さを誇っていると断言できる。
(ここが学校じゃなかったら…やばかったかも)
無論、理性が追いつかない的な意味でだが。とは言え、今ここではどう足掻いても自重するしかないのが実に歯がゆい。いっそ私もトイレに赴いて――と考えなかったわけではないのだが。
「じゃ、じゃあ行ってくるから!」
「ふふ、いってらっしゃ~い」
向日葵ちゃんの後を追うようにトイレへと向かうちなつちゃんに軽く手を振りながら、それから何気なく窓の外に目を向けた。
特に意味はないし、見慣れた風景にも変化はなかった。いつも通り穏やかな空色が広がっていた。今日もおおむね世界は平和だ。
たとえそれが矛盾だらけのはりぼての平和だったとしても――。
(今日もいい天気だなぁ…)
しみじみと、感慨深く物思いに耽りながら、私は視線を正面――櫻子ちゃんの方に向けた。
「ねぇ櫻子ちゃ――」
しかし次の瞬間、私の目は驚愕に見開かれることになる。
「……むぅ」
「えーと…」
たらり、と冷汗が一筋頬を伝った。思わず疑いの眼差しを向けていた私を誰が責められようか。
何故ならあの櫻子ちゃんが真面目な顔で考え事をしているんだもの。ていうか私が窓の外に気を取られている刹那の間に一体何が彼女をここまで――。
これが天変地異の前触れと言われても誰も驚かないはずだ。
だって“あの”櫻子ちゃんが、だよ?
その光景はあまりに不自然極まりなくて、さすがの私も「これは現実ではなく夢の世界なのでは?」と半ば本気で頬を抓っていた。
(もしかして私…疲れてるのかなぁ? まぁ、ここ最近は連日連夜だったもんね…ちなつちゃんが可愛いすぎるせいとは言え…《禁則事項》とか《禁則事項》はさすがにやりすぎたかなぁ…たぶん寝不足がたたって白昼夢でも見てるんだよね…うん、絶対そうだよ…今日からちょっと自重しようかなぁ…)
失礼極まりないかもしれない。だが何せ相手は櫻子ちゃんだ。あの大室櫻子ちゃんなのだ。大事なことだから二回言うほどなのだ。
中学の頃から今現在に至るまで、普段の彼女は真面目なんて無縁の生活なのは言わずとしれたこと。真剣なんて言葉は辞書にすら存在していないと言わんばかりのアホの子ぶりを発揮しているのは今に始まったことじゃない。
本人曰く「強いられてるんだ!」とのことだが……果たしてどうだろう。
何にしても、やはり日頃の行いというものはある意味その人の人格を形成する上で必要不可欠な要素だと言える。
なので「櫻子ちゃんのこれもきっと一時的なものだ」と楽観視して放っておくこともできただろう。
(でも…)
だけどやっぱり、私はどこまで言っても赤座あかりでしかなく、幼少の頃から培われた本質は今も昔も変わってないのだろう。なんて他人事のように考えながら、こんな櫻子ちゃんを見て見ぬ振りできるような性格をしていないことを誰より自覚していた。
相手は5年来の級友にして親友なのだし、放っておけという方が土台無理な話である。
「ねぇ…櫻子ちゃん? どうかしたの? そんなに真剣な顔して…もしかして悩み事でもあるのかな?」
「ん? あー、うん…悩みごとってほどのことじゃないんだけど…ちょっとね」
眉根を寄せる櫻子ちゃん。ここまで彼女を悩ませる存在なんて、やはり向日葵ちゃん関連だろうか。というかそれ以外考えられないんだけど。
「なんか深刻そうだね…もしよかったら相談にのるよ? 私じゃ頼りないかもしれないけど」
「えと…でも大したことじゃないし…」
「まぁまぁ、それは話してみてからね?」
果たして、鬼が出るか蛇が出るか。それは聞いてみないことには何とも言えないし始まらないだろう。
「うー…まぁ、あかりちゃんがそこまで言うなら…」
櫻子ちゃんは諦めたように「ふぅ…」と溜息をついた。
哀愁が見え隠れするその表情が妙に絵になっていて、それを偶然目にした女子達の視線が若干熱を含んでいるように見えるのは気のせいじゃない。
普段の彼女の茶目っ気と目を引く容姿のギャップが織り成す櫻子マジックは今も健在のようだ。さすが七森女子高等学校を代表する第一級フラグ建築士。落とした乙女は数知れず。特定の相手が出来てもなおこの人気とは恐れ以上に畏れ入る。
色めき立つ周囲に気付くことなく我を通す目の前の彼女は軽くかぶりを振ってから、何かを決意したようなキリッとした視線を私に向けて、
「実は――」
(はぁ…櫻子ちゃんってホント、自分の容姿とかに無頓着だよね…)
話始める櫻子ちゃんを他所に私は内心溜息が尽きなかった。
向日葵ちゃんを含む、櫻子ちゃんに惚れているであろう乙女達の気苦労が目に浮かぶようだ。
もしこれを狙ってやってるのだとしたら、櫻子ちゃんはとんだジゴロ野郎だろう。
ただでさえ目を引く容姿だというのに、想い人にこんな真剣な眼差しで迫られたら、瞬間あの世逝き確定だろうなぁ。私は目の前の天然ジゴロ少女にやれやれと肩をすくめるのだった。
(向日葵ちゃんも気が気じゃないだろうなぁ…)
ちなみに私こと赤座あかりは、恋人である吉川ちなつ以外の存在には興味がないので、特に櫻子マジックに惑わされたりなんてことにはならなかったのだが――と、そんなどうでもいい事を考えながら耳を傾けていたのがそもそも間違いだったのかもしれない。そんななりで得られた情報に齟齬が生まれるのは半ば仕方がないことだと思う。
「向日葵が可愛すぎて生きてるのがつらいんだ」
「うん?」
それは明らかな聞き間違いだと確信できるだけの要素があった。そうだと思わざるを得ない妄言が右耳から左耳へ流れていた。そう、これは何かの間違いだと、私の全神経が訴えかけていた。
「ごめん今なんて? ちょっと何言ってるかわからないからもう一回言ってくれるかな?」
「え? うん…だからさぁ――」
私は眉間にしわを寄せながら指先で額をとんとんと叩き、櫻子ちゃんに「どうぞ」と手で合図を送り意思表示。
それを受けた櫻子ちゃんはコホンと咳払いをして、さっきよりも落ち着いた様子ではっきりとこう告げた。
「向日葵のことが好きすぎて生きてるのがつらいの」
「へ、へぇ…そうなんだぁ」
可愛いが好きに変わっただけで、どうやら聞き間違いではなかったらしい。たぶん逆立ちしても同じ結果が待っているのだ。どうあがいても絶望。そう思うと頭が痛くなった。
しかしながら予想外と思う自分がいる反面、予想通りと思う自分がいたのもまた事実。あるいは心のどこかで拒否反応を起こしていたのかもしれない。他人のノロケ話なんて逃げ出したって罰は当たらないはずだし。そもそも真面目に取り合おうとした私が愚かだったのかもしれない。
「あー、えっと櫻子ちゃん?」
「えーと。うん。向日葵が可愛すぎて困っちゃうって話なんだけどさ。実はこの間こんな事があったんだけど――」
「ああうん、やっぱり聞かなきゃダメなんだよね。うん、わかってた。わかってたけど、ちょっとくらい希望を持たせてくれてもよかったんじゃないかなぁ、なんて。あはは…」
乾いた笑みを浮かべながらも、勝手に回想に入る櫻子ちゃんを私は止めはしなかった。
止めたところで意味がないことを心のどこかで理解していたし、というより、この手の話題は一度語り終わらない限り必ずどこかで聞く羽目になることを悟っていた。
早いか、遅いかの違いだ。ならいっそこの場でお惚気を全てぶちまけてくれた方が精神衛生上のダメージが少なくて済むのではないだろうか。
(ここに向日葵ちゃんがいなくて正解だったかもね…)
むしろ向日葵ちゃんがいないからこそ話せる内容なのかもしれない。
やっぱり私もちなつちゃんと一緒にトイレにでも行けばよかったなぁと涙を呑みながら、願わくば櫻子ちゃんのO☆HA☆NA☆SHIが手短に終わってくれることを切に願っていた。
*
この間――と言ってもそんな昔のことじゃない。
つい先日、2日くらい前、私が向日葵の家に泊まりに行った時の話だ。
私と向日葵は昔馴染み――いわゆる幼馴染ってヤツだったし、恋人として付き合う前も今も、どちらかの家にお泊りなんて日常茶飯事だったから。
その日は珍しく、私と向日葵二人きりの夜だった。
いつもならおばさん達や楓もいるわけだが、その日に限って向日葵の親は仕事で出張、おまけに義妹の楓は我が愚妹こと花子に誘われ――つまり私の家にお泊り会だそうだ。
そうなれば必然、向日葵宅には私と向日葵だけ残される結果となる。
ここだけの話、久しぶりの二人きりに気分が高揚していていなかったといえばウソになる。むしろ気分が高まらずして何が恋人同士か。私だってまだまだ若い盛りだし、二人きりという甘美な響きにその身を肉欲の渦に投じようとして何が悪いと逆ギレしそうな勢いだ。
無論、それは向日葵にも同じ事が言えた。
長い付き合い故、些細な変化でもすぐわかる。いつも以上にそわそわと落ち着きのない向日葵を見ているのは実に愉快だったが、それが私とのあれこれを期待してるからこそだと私は知っていたから余計な詮索はしないでおいた。
で、その瞬間は瞬く間に訪れたわけだ。
「向日葵、まだかな…」
私は向日葵のベットに横たわりながらその時を静かに待っていた。
向日葵は未だにお風呂から上がる気配がない。もう1時間は経とうかという頃合だ。
ていうか一体どんだけ気合入れて念入りに磨いているんだアイツは……。
ちなみにその日は別々にお風呂に入った。と言っても二人でお風呂に入るのは稀なんだけどね。
でも今日に限っては何故か向日葵に「さ、櫻子から先に入って…わ、私は後から入るから」と念を押され、しぶしぶ一人で入ったわけだ。せっかく二人きりなんだし、たまには二人で一緒に入るのもいいと思ったんだけど……。
そんなこんなで、向日葵を待つまでの間は手持ち無沙汰。私が出来ることと言ったらそれほど多くはなく、することもなかったので適当にごろ寝していた。
「おそい…ぐぅ」
たぶん、というか確実にそれがいけなかったのだろう。気付いたら私の意識は闇の中にぶっ飛んでいた。つまり寝ちゃってたわけなんだけど、そもそもあまりにも遅い向日葵にも責任がないとは言えない。
いくら私のために体の隅々までぴかぴかに磨いてこようともだ。
だからこそ、その後偶然降って湧いた悪戯心は、言うなれば必然の産物なのだ。
―――
――
「――櫻子?」
(んぁ…?)
「ね、寝ちゃったんですの?」
(あ、やべ…私、寝ちゃってた?)
ふと私の名を呼ぶ向日葵の声にまどろみの中を彷徨っていた意識が覚醒した。
現状把握するのに数秒労したが、頭がはっきりしてくると何故こんな状況になったのか、すぐにその理由を思い出す。たぶん寝ていた時間も数分かそこらだと思う。
向日葵も来たことだしそのまま起きてもよかったのだが、しかし私はそのまま寝たふりを続け、薄目を開けて様子を窺っていた。別に理由らしい理由はない。あるとすれば「ただなんとなく」だ。
(う…)
ごくりと生唾を飲み込む音がどうか聞こえませんように、と心の中で祈った。
(向日葵…いろっぺぇ)
私の眼前に女神が、否、バスタオルを巻いたまま不服そうに眉を下げる恋人の姿があった。
どうやら準備万端ヤル気十分のご様子。きっとそのバスタオルを外した瞬間、この世のものとは思えない美しい肢体が目に飛び込むのだろう。
今すぐにでも飛びつきたい衝動に駆られたがそれでもなんとか我慢した。
何故そこまで我慢する必要があったのだろうかと、今でも不思議なんだけど。
そんな風に向日葵に気取られないように様子を窺うことしばし、ふと向日葵に動きが――。
(え? ちょ…お、おい…向日葵ってば何してんの…ねぇ?)
クエスチョンを浮かべる私を他所に、向日葵は何を思ったのかバスタオル姿のままベッドに腰掛けるとそのまま私に添い寝するようにして体を寄せてくる。
むにゅとかぽよんとか言う擬音が聞こえてきそうだ。体の至る所が柔らかい向日葵はそれだけで破壊力満点。その豊満なボディをぐいぐいと押し付けられるだけで理性と言う名のブレーキがお空の彼方に飛んでいってしまいそうになる。
おまけにお風呂上りのせいか鼻腔を擽るシャンプーやら石鹸の匂いがやたらと本能を刺激する。これは参った。今すぐにでも白旗を振ってしまいたい気分だ。ていうかもうゴールしていい?
(くぅ…!堪えろ!堪えるんだ私!こ、こんな誘惑に屈する私じゃないだろ!)
「さくらこ…? ホントに寝ちゃったんですの…?」
向日葵は消え入りそうな声でそう言いながら、私の胸元に指を添えてのの字を書き始めた。
(ごめん、実は起きてます。てか、今目を開けたら一瞬で理性が消滅しちゃうかも…)
それから私の胸に顔をうずめるように、まるで私を求めるように頬擦りをする向日葵。
それだけならまだいいが、足を絡めるようにして密着してくるのはけしからん。
無意識にやっているのだろうが、これでは生殺しもいいとこだ。
だったらさっさと目を開けてネタバレしちゃえと思うけど、ここまで来ると意地でも負けたくなかった。私は一体何と戦っているのだろうか。
(くっ…向日葵それやばいって…)
向日葵のむっちりとした太ももが私のそれを撫でるたびに触れた部分が熱を帯びていく。半端な神経の持ち主なら今すぐにでも獣に成り果ててしまうだろう。ていうかむしろ向日葵はそれを望んでいるのだ。
「せっかく…二人きりですのに…ばか…」
ぐすっと涙ぐむ音が聞こえた。罪悪感に胸が痛くなるがここは我慢だ。
そぉっと薄目を開けてみると、最初に目に飛び込んだのは私の胸に押し付けられたバスタオルからこぼれんばかりのおっぱいの谷間だった。添い寝したせいで着崩れを起こしたのか今にも先っぽが見えてしまいそうだ。
私は思わずゴクリと大きく喉を鳴らしていた。
(くぅっ…見るな!見たら死ぬぞ!あんなものただの贅肉袋だし!)
昨日の敵は今日の友。私の宿敵は今や私の大好物となりつつある。
餅のようにふっくらとした感触、張りのある手触りと、何より先っちょに実ったさくらんぼの味は我を忘れるほどの甘美な媚薬足りえた。
いつの間にか私は、向日葵のおっぱいなしじゃ生きて行けない体になってしまっていたらしい。
昔の私が今の私を見たらなんて言うだろう。
笑うだろうか?怒るだろうか?
正直、検討もつかなかった。
「はぁ…今日は櫻子の気の済むまで好きにさせてあげようと思いましたのに…さくらこのバカ…」
(な、なんだってー!? つまりアレとかソレとかコレとか縛って前とか後ろとかetcetc…)
「わ、わたしだって…ちょ、ちょっとはその…期待、してたのに…」
(ぐはっ…つ、つまり…今までなけなしの良心が邪魔してできなかったフルコースができたってことか!?)
理性と本能の戦いはあっけなく終わりを迎えそうだった。
それだけ向日葵のその言葉は大きな意味を持っていた。そして私にとってもそれは待ちに待った瞬間でもあった。
ビバ二人きり。今日ほど向日葵と二人きりでよかった日はないかもしれない。
じゃあそろそろネタバレを……と思って行動を起こそうと思った次の瞬間、その出鼻を挫くように、向日葵は不審な行動をとり始めた。
「ね、寝てるなら…いいですわよね…ちょっとくらい…」
(え? あ、あのひまちゃんさん…一体何して…)
「さ、さくらこが…悪いんだから…」
向日葵は自分に言い聞かせながら、そっと私の手を握って、その手をそのままバスタオルの隙間を縫うようにして、その場所へと導いた。
そこが一体どこかなんて野暮なことは言わない。その手のひらに伝わる熱とマシュマロのように柔らかな巨肉の感触は、まごうことなき向日葵のおっぱい――通称ひまっぱいだ。
「ふっ…ふぁ…」
(あ、あのー…ひまわりさーん…ナニしてるんですかー?)
向日葵は私の手を使って、零れ落ちんばかりに自己主張を続ける胸を揉みしだき始めた。私の手のひらでいやらしく形を変える豊乳に併せて向日葵の漏らす吐息も喘ぎ声も自然と熱が篭っていく。
「あん…ん…ふぁ…あっ…あぁ…さくらこぉ…」
(……)
まぁ、なんだね。
つまり向日葵はエッチな気分を抑えられず、我慢できなくなって一人でおっぱじめちゃったんだね。そこで自分の手じゃなく私のでしちゃうあたり、やっぱり私に触られたくて堪らないってことなんだろうね。
(ごめん。私、死んだ)
――
―――
ちなみに私の理性もここで無事限界を迎えたわけで、実はタヌキ寝入りしていたと知ったときの向日葵はそりゃもうご立腹だったけど、それ以上に可愛くて堪らなかった。それこそ今までの人生の中で一番と言ってよかった。
「…ばか…いぢわる…」
顔を限界まで赤に染め、目尻いっぱいに涙を溜めて、私を誘うように上目遣いで見やる向日葵に、果たしてそんな意図があったかどうかは今となってはわからない。だけど向日葵のその一言が、そのたった一言が私を獣に変えたのは紛れもない事実だった。
私はその日、一匹の狼となった。
*
「――ふぅん。で、結局朝までフルコースだったんだ?」
「まぁねー。あの日の向日葵のおねだりモードは今までの比じゃなくてさぁ。5ラウンドから先は数えるのもやめちゃった」
なにはなくとも、ひとまず回想話も終わってホッと一安心。
長いように思えたが、終わってみれば案外短くて、とりあえずは向日葵ちゃんが戻ってくる前に終わってよかったと胸を撫で下ろす。
そもそもお昼時に話すような内容ではないと思うんだけど、そこら辺は気にしない方向で。
「うーん、普段の向日葵ちゃんからじゃ全然想像できないなぁ」
「まぁ、慣れてない人ならそうかもね。ほら向日葵ってあの通り普段から素直じゃないないじゃん? いっつもツンツンしてさ。ま、私限定にだけど」
「そうだね」
そのセリフは運命共同体である櫻子ちゃんにもそっくりそのまま跳ね返ると思うんだけどね。
「その反動なのかどうか知らないけど、一度スイッチ入っちゃうとさ、それこそ素直すぎて怖いってくらいに従順になっちゃうんだよアイツ」
従順な犬と化した向日葵ちゃんと言うのも、やはり想像もつかない絵空事だった。
「それがまた私のツボをいい感じに刺激するもんだから、私もいろいろ大変なんだよね」
「なるほど…。まぁ、その気持ちはわからなくもないよ」
向日葵ちゃんほどではないが、うちのちなつちゃんも似たような感じだ。無論、今後の扱い方次第ではさらなる高みへと辿り着く可能性はもちろんあるし、それはそれで私の望むところだ。
「ほほう、つまりはちなつちゃんも同類だと?」
「フフフ…そこはまぁ、ご想像におまかせするよ」
「あーずるい!私も話したんだからあかりちゃんの武勇伝も聞かせてよー!」
「くすっ、また今度ね。教えてあげたいのはやまやまだけど、ほら、ちょうど二人とも戻ってきたから」
本人のいる前で話して、羞恥色に染まるちなつちゃんもそれはそれで見てみたい気もするけど。
今がお昼時であることを忘れたわけじゃないので今日のところは自重しておこうと思う。
機会があればそのうち、ね。
「ただいまですわ」
「もー、向日葵早すぎだよ。もっと遅くてもよかったのに。そしたら面白い話が聞けそうだったのにさ」
「はぁ? なんのことですの?」
「べっつにー。向日葵は相変わらず空気が読めないなーって」
「意味がわかりませんわ。ところで、先ほど赤座さんとなにやら楽しそうにお話してるのが見えましたけど、一体何を話してたんですの?」
「ああうん。この前向日葵んちに泊まりに行った時の向日葵の痴態について。その一部始終をね」
「――!?」
「あ、やば」
その日、とある高校のとある教室に局地的な雷が落ちたのは余談にもならないどうでもいい話であるが、とりあえず櫻子ちゃんには「口は災いのもと」という言葉を是非とも辞書に書き足しておいてほしいと思った。
おしまい
すごくいい話だなーって笑みが浮かべて、うへへとか嫌な笑い声まで出てきたりしてw
これからも小説、楽しみにしていますから。頑張って下さいね!