とある百合好きの駄文置場。二次創作SSやアニメ・漫画等の雑記中心。ゆいあずLOVE!

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ゆるゆりSS さくひま&あかちな 『とある女子高生たちの華麗なる憂鬱』

☆第2期3話さくひマフラー回記念☆
私の私による私のための記念!というわけで我慢できずに1日で書き上げた高校編の続きです。
さくひま高校生とあかちな高校生の話がリンクしておりますので、先にそっちを読むのをおすすめします。

さくひま1『変わるもの、変わらないもの』、2『オトナの保健体育』
あかちな1『本番は貴女から』、2『もう貴女しか見えない』

追記からどうぞ。


 それは、お腹と背中がくっ付くか否かの瀬戸際――。
 まるで狙ったように4時間目の終了を告げるチャイムが鳴った。

 先生は教科書その他もろもろを片しながら授業の終わりを告げる。
 日直の号令に立ち上がる周囲の生徒達に合わせ礼をすると、先生は次の授業の範囲を一言二言告げ、足早に教室を去っていった。
 これにて午前中の部はすべて終了となる。
 それは同時に、昼休みの始まりを意味しているわけで、授業の緊張感を拭い去るように大きく伸びをする生徒達の顔にも、自然と笑みがこぼれ始めていた。
 昼休みは学校生活において数少ない憩いの時間――とは言え…、何をするにしたって昼食が先なのは世間一般的にはどこも一緒だろう。
 それは給食が主の小中は当然のこと、高校生になった今もさほど変化はない。
 腹は減っては戦はできぬ。
 言い得て妙だとは思うが、まったくその通りだと言わざるを得ないのもまた事実。

(うっ…)

 食事のことを考えていたせいか、空腹で限界間近のお腹が「きゅーっ」と可愛らしい声を上げる。
 思わず周囲の様子を窺っていたが、誰も気にしていないところを見ると、どうやら聞かれてはいないらしい。
 私はホッと胸を撫で下ろし、軽く咳払い。羞恥の赤に頬を染めつつ授業の道具を片付け、それから代わりに取り出したるお弁当箱は、相も変わり栄えのしない自作のお弁当。
 友人曰く「よく毎日作れるねー」とのことだが、果たしてそこまで大袈裟に言うことだろうか?
 普段から料理をしているが故、毎日のお弁当作りはそれほど苦にはならないし、しかもそれが三年も続けば嫌でも慣れるだろう。
 それはもはや日課と言っても過言ではなく、私にとっては朝の歯磨きとさほど大差はなかった。
 そんな色気もへったくれもないお弁当を机に置こうとしたその時。
 それは来るべくしてやってきた。

「ひーまわり!」
「――っ!」

 不意に、私の肩をポンっと叩く手のひらの感触。
 そして聞き覚えのありすぎる声が鼓膜をかすめた。
 弁当箱を巾着から取り出していた矢先のことなので、突然の事に過剰反応した私は、その手から弁当箱を離してしまった。――が、大事な食料元をみすみす台無しにするわけにはいかないので、そこは持ち前の反射神経で何とかキャッチ&ホールド。

(あ、あぶなっ…!)

 背筋が凍る思いとはまさにこのことか。
 下手をしたら床に落下して大惨事ということも――。
 ああ、そう考えたら無性に腹が立ってきた。
 結果無事だったとは言え、最悪の事態を招きそうになったのは事実。文句を言ってやらねば気が済まない。相手が相手なのだから尚のことイライラする。
 私は弁当箱をがっしりと両手で掴みながら、ジトっとした視線を背後に送る。そこにいたのが誰かなんて言うに及ばず、

「……ちょっと櫻子」
「ん? なーに?」

 視界に飛び込んだのは見慣れすぎた顔。
 クラスメイト兼幼馴染、大室櫻子。
 そしてもうひとつの肩書きは、何を間違ったのか《恋人》である。

「急に背後から声かけられたら驚くじゃない! あなた私に何か恨みでもありますの!? 危うくお弁当を床にぶちまけるところでしたわ!」
「あはは、悪い悪い♪ そんなに怒んなってー。可愛い顔が台無しだよ?」

 にししっと無邪気に笑って意味不明な事をのたまい、謝罪のしゃの字も感じられない風体で返す櫻子。ムッとする前に、怒りとは別の意味で顔が熱くなる。

「ま、またそうやって誤魔化して――!」
「えー? だって向日葵ちょー可愛いし。それに揉み応えも百点満点だし。おまけに綺麗だし。とにかく可愛――」
「ちょっ……ひ、人前で可愛いとか連呼しないで…お願いだから! そ、それに…揉み応えとか…言っている意味がわかりませんわ…!」

 カァッと顔を熱くして、思わず胸を隠すように腕を交差させていた。
 意識した時点でその意味を一番理解しているのは私だった。

「えーわかんないの? その胸にぶら下がってるメロンの事だよ? 味はメロンっていうよりさくらんぼって感じだけ――」
「さ、櫻子っ!?」
「……へーへー、悪ぅございましたぁ。まったく、向日葵はいつまで経っても向日葵だなぁ」
「だから、意味がわかりませんわ」

 怒りの赤を織り交ぜて憤慨してみせるが櫻子にはあまり効果がなかった。
 まったくもって反省の色が見えない。

(くっ…櫻子と付き合い始めてからこんなのばっかりですわ…!)

 とは言え、この程度のことに腹を立てていたら、恋人どころかそれこそ幼馴染としてもやっていけないことは、幼少の頃よりわかっていることなので一々声に出していたらキリがない。

「はぁ…やれやれですわね」

 結局のところ、私が折れるしかこの場を収める方法はなかった。

「まったく、いい加減そういうのはうんざりですわ」

 だけど最後の抵抗とばかりに精一杯毒づいてみたのだが、言った瞬間に後悔する羽目になるなんて誰が予想しただろうか。
 やはり恋愛事に関しては櫻子のほうが一枚上手なのか、ひょうひょうとした態度に変化はない。むしろ待ってましたと言わんばかりに得意げになって、呆れた感じに肩を竦めながら、

「やれやれ、そういうウソはいい加減聞き飽きたって。相変わらず嬉しそうな顔してるくせにさ。顔、赤くなってるよ? 気付いてないの?」

 まるで胸の内を見透かしたような言い方。私は思わず胸を押えていた。
 胸の奥に脈打つ嬉々とした感情。自分でも実感しているからこそ始末に負えない。
 どうして私は、こんなにも――。

「う、うるさいですわね! これは怒ってるから赤いんですわ! 勘違いしないでくださる!? ていうかあなたも大概しつこいですわよ! 二言目には可愛い可愛いって…いい加減からかうのはやめなさい!」

 本当は、櫻子の言うとおりだったけど、それを認めたら私は一生櫻子に頭が上がらなくなりそう。それは何となく負けた気がして嫌だった。
 櫻子もそれに気づいてるからこそ、味を占めたようにから何度も何度もからかってくるのだ。ていうかそれしか考えられない。
 となれば、これ以上調子付かせるわけにはいかない。それはあまりに癪だった。
 私はありったけの怒りを込めて睨みつけてやる。しかしそこまでしても当の櫻子には効果が薄くて。逆に――、

「別にからかってるわけじゃないし。向日葵が可愛いのはホントのことだもん」

 なんて真顔で言い返される始末。もう踏んだり蹴ったりだった。

「か、かかっ、可愛い禁止ですわ!」
「あー!それ私の専売特許だぞ!著作権の侵害だー!訴えてやるもんげー!」

 ……そう言えば付き合い始めてから、櫻子の「おっぱい禁止!」聞かなくなりましたわね。だからなんだってわけじゃありませんけど。少し懐かしい気分になったのは確かだった。
 と、それはそれとして、これ以上の論争はいい加減不毛なだけなのは、空腹のお腹が教えてくれる。

「なんだかもうぐだぐだになってきましたし、いい加減やめませんこと?」
「なんだよー。向日葵からふってきたんじゃん」

 適当に合わせて聞き流す。
 ある意味、これが一番効果があるのかもしれない。

「それはもういいから…いい加減お腹も空きましたし、お昼にしましょう」
「あっ、そうだすっかり忘れてた。私、ちょっくら購買行ってくるからって言おうと思ってたんだ」
「あら? 今日はお弁当じゃありませんの?」
「うん。今朝お母さん寝坊しちゃってさぁ。お金やるから何か好きなの買って食べなさいって、五百円渡された」

 その手のひらを広げると、お義母様から渡されたであろう五百円玉がキラリと光った。

「んじゃ、ちょっと行ってくるね。あ、先食べてていいから」
「……いいえ、折角ですから待ってますわ。早く行ってきなさいな」
「そっか。じゃ、待たせるのもアレだし、そっこうで買ってくる!」
「廊下を走るんじゃありませんわよ?」
「わかってるってー!」

 なんて言って駆け出した櫻子だったが、本当にわかっているのか曖昧三センチ。長年培った経験からして分かっていない方に一票。おおかた爆走しているに違いない。

「さてと…」

 櫻子がいなくなり、手持ち無沙汰。とりあえずお弁当箱は机に置いておく。

「……お腹空きましたわね」

 だからって、待っていると言った手前先に手を付けるわけにはいかない。
 何気なく周囲を見渡してみると、すでに数名の生徒達はそれぞれグループを作ってランチタイムを始めていた。限りある自由を謳歌していて結構なことだ。

「……あら?」

 そんな時、ふと教室の入り口から別のクラスの女子生徒が一人、私の席の方へ一直線に向かってくるのを肉眼で捉えた。
 若干、周囲の光景から浮いたピンク色の髪を揺らしながら、今日も元気いっぱいの明るい笑顔を振り撒く彼女は、私のよく知る人物だった。

「やっほー向日葵ちゃん」

 そんな第一声とともに、持参した可愛らしいピンク色のお弁当箱を私の席に置く彼女は、中学からの友人の一人、吉川ちなつさんだ。
 お弁当を持ってきたということはここで食べていくのは明々白々。と言っても、普段から櫻子と吉川さん、そしてもう一人の赤毛の少女も交え、四人グループで昼休みを過ごすのが日課となっていたりするので今更なのだが。

「ええ、ごきげんようですわ。吉川さん」

 挨拶を返して、彼女を前の席に座るよう促した。いそいそと座る吉川さんを眺めつつ「そう言えば」と気になったことを質問する。

「あの、今日は赤座さんは一緒じゃないんですの?」

 いつもなら当然のように傍らに佇んでいる彼女がいなくて不思議に思う。

「ああ、うん…」

 まさか影の薄さが災いして遂に透明化してしまったのでは……と、一瞬失礼な事を考えてしまったが、中学の頃ならいざ知らず、現状の赤座さんを鑑みてそれはありえないと頭を振る。
 何故ならこの高校で、赤座あかりの名を知らないものなどいない。
 中学時代の反動なのかどうかは定かではないが、もはやその存在は、存在感の塊と言っても過言ではなく、吉川さんと恋人関係を結んだ今も、その人気はとどまるところを知らないのである。
 ここだけの話、それは櫻子にも言える話だった。
 おかげで私も吉川さんも気苦労が堪えないのである。

「あかりちゃんならお昼買いに購買に行ってるよ」
「あら、赤座さんが購買なんて珍しいですわね。いつもならお弁当ですのに」
「ホントはお弁当だったらしいんだけどね」
「何かあったんですの?」
「なんか朝学校に来る途中に、お腹を空かせたワンちゃんにあげちゃったとかなんとか」
「……なんていうか、赤座さんらしいですわね」

 その辺は、中学の頃から変わりない赤座さんの性格がにじみ出ている。

「ホントだよまったく。そういうところは中学の頃から全然変わってないのに……」

 どうやら吉川さんも同じ事を思っていたらしい。
 吉川さんはやれやれと首を振るうと、何か思うところでもあるのか、苦笑気味に溜息をついた。

「そういう櫻子ちゃんは? もしかして休み?」
「櫻子でしたら、今しがた購買へお昼を買いに行きましたわ」
「じゃあ、あかりちゃんと一緒か」
「忘れてきた理由は違いますけどね」
「ふーん、そっか。……あのさ、一つ提案なんだけど」
「はい?」

 吉川さんはオホンと咳払いをして、

「櫻子ちゃんの分のお弁当も、向日葵ちゃんが作ってあげればいいんじゃない?」
「なっ…ど、どうして私があの子の分まで…」
「1つ作るのも2つ作るのも手間は一緒ってお姉ちゃん言ってたよ? 違うの?」
「そ、それはまぁ、確かにそうなんですけど……それとこれとは話が別といいますか…」
「何言ってるの向日葵ちゃん! 合法的に愛妻弁当を作ってあげられるチャンスなんだよ? これを生かさない手はないよ!」
「あ、愛妻!? あ、あの…べ、別に私は、櫻子の妻ってわけじゃ…」
「まったまたぁー♪ 櫻子ちゃんの奥さんなんて、向日葵ちゃん以外ありえないじゃん?」

 『櫻子の奥さん』と言う甘美な響きに、顔の筋肉が緩みだすのを止められない。

(櫻子の…奥さん…私が?)

 妄想は、亡き女を想うと書く。想像力豊かな年頃というのも考えもものだった。
 私の脳内人生設計は、すでに櫻子の奥さんとして大手を振るっている光景を鮮明に思い描いていた。私は意外にも尽くすタイプだったらしく、実に甲斐甲斐しく櫻子の世話を焼いている。

(……仕事から疲れて帰ってきた櫻子に、私はこう言ってしまうんですのね?)

『お帰りなさいあなた。ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも…わたしにします? なんて――あっ』

 冗談めかしてもじもじ告げる私に、櫻子は辛抱溜まらず強引に私を抱き寄せて唇を寄せる。そして伸びた手はいやらしく私のお尻を這い回り私の理性を溶かしていく。
 
「い、いけませんわ櫻子…! 玄関でなんてそんな…夫婦の営みはベッドの中でと相場が…! で、でも櫻子がそれを望むなら、やぶさかではありませんけど…!」
「あ、あのちょっと向日葵ちゃん…?」
「ああ…ダメ…ダメですわ櫻子…そんなっ…あ、そこはっ…」
「向日葵ちゃん!!」
「はっ!」

 ふいに、吉川さんの大声に我に返る。私は今、一体何を?

「あ、あのね…妄想してるところ悪いんだけど、そのニヤケ面は絵的にまずいと思うよ? これがアニメだったらモザイク入るかもね……ていうか玄関でって、向日葵ちゃんも結構アレだね、はは」

 若干引き気味の吉川さんは苦笑しながら顔を赤らめていた。
 古谷向日葵一生の不覚。まさか人様の前で妄想を垂れ流してしまうとは首吊り自殺ものだ。

「そ、そういう吉川さんこそ、赤座さんとはその後どうなんですの? 何か進展ありまして?」
「ちょっ…ど、どうしてそこで私に振るのよ?」
「まぁまぁ、いいじゃありませんの。ちょうど赤座さんもいませんし…」
「べ、別に…向日葵ちゃんが気にするようなことは何も…」

 何も、と言う割に顔を逸らしつつ顔が真っ赤なところを見ると相当進んでいるように思える。下手をしたら大人の階段を二段も三段も飛び越えて、未知の領域まで辿り着いている可能性だって――。
 いや、それはさすがに考えすぎか。私たち、まだ高校生ですし。そんなアブノーマルなプレイなんて…げふんげふん。今のは聞き流していただいて結構ですわ。

「前から気になっていたんですけど…赤座さんって、他のみなさんの前ではいつも通りほんわかした感じですけど、吉川さんの前ですと途端に雰囲気変わりますわよね。ムダにカッコいいというか、凛々しいというか、なんというか…」
「そう!そうなんだよ!あれって反則だよね!あかりちゃんの癖に!あかりちゃんの癖に!くきぃー!」

 吉川さんもやはり思うところがあるのか、目をクワっと見開きながら、興奮気味に机から身を乗り出した。

「吉川さん、とりあえず落ち着いてくださいな。注目されてますわ」
「あ、ごめん…」

 周囲の視線を集めて、縮こまる吉川さん。しかしそれも一瞬の事で、すぐに調子を取り戻し、もじもじと生娘の如き風体で体を捩らせながら、赤座さんとの馴れ初めを勝手に話し始めるのだった。

「つ、付き合う前はその…そんなに昔と変わらなかったんだけどね。いやまぁ、気付いてなかっただけで変化はあったのかもしれないけど…」
「ということはやっぱり、付き合いだしてから赤座さんの様子が豹変したわけですわね?」
「豹変って…そこまで大袈裟なことじゃないんだけど…まぁそうだね。でもいつもあんな感じじゃないんだよ? みんなの前ではいつも通りだし」
「でもそれが…二人きりになると?」
「うっ…な、何だか急に目付きが変わるんだよね。まるでウサギを狙うライオンみたいに。あれは狩人の目だよ。きっと心の中で舌なめずりしてるんだよ、きっと…」
「なんだか昔の吉川さんみたいですわね」
「うっ、そんなことない…って言いたいところだけど。確かに最近、立場逆転しちゃってるんだよね…。この間だって…」
「……この間、ですの?」
「うん…」

 吉川さんは遠い目をしながら、『この間』とやらの回想を始めた。

「まさかあかりちゃんが、あんなに嫉妬深いとは思わなかったなぁ…。ま、まぁ…それだけ私の事を本気で想ってくれてるってことなんだろうけど…」

 意外そうに、でもとても嬉しそうに、吉川さんはその日のことを語って見せる。
 それは先週の日曜日のことだそうだ。吉川さん宅でのお泊り会の際、特に意識するわけでもなく、自然と先輩方の話題で盛り上がったらしい。
 むろん、ここで言う先輩方と言うのは、吉川さんと赤座さんにとって馴染みの深い歳納先輩と船見先輩のお二方だろう。

『実はこないだね、結衣先輩と電話でお話したんだけど――』
『………』

 吉川さんとしては、そんなつもりなんて毛頭なかった。
 事実、吉川さんの心の中には未練なんて欠片も存在していなかった。
 今はただ純粋に、先輩後輩の仲に満足していたのだから。
 だが、赤座さんにとってはそうではなかったのだろう。吉川さんの初恋の相手、船見先輩との電話のことを楽しそうに話す吉川さんに、途端に目の色が急変したそうだ。

「そりゃ…私もちょっと無神経だったかなって思うけど…、私の中ではもう決着がついたことだったし…」

 言いながら、何故か顔を赤らめてもじもじする吉川さん。
 話途中だが、話の終わりにナニが待ち構えているのか、大体想像は出来た。

『それでそれで結衣先輩がね!おっかしいんだよ~♪』
『……ねぇ、ちなつちゃん』
『っ…な、何?』

 吉川さんにとっては、久しぶりの先輩との会話にテンションが上がってしまっただけ。
 だけど赤座さんにとっては、当然勘違いさせるだけの危険を孕んでいた。

『……はぁ』
『あ、あの…あかり、ちゃん?』

 目の色を無くし、放心したように俯く赤座さんに只ならぬ雰囲気を感じ取った吉川さん。
 不意に顔をあげた赤座さんに、蛇に睨まれた蛙よろしく硬直してしまう。
 その瞳の深さに吸い込まれそうな感覚に陥りながらも、その奥に秘められた黒い何かを感じ取ってしまった。
 動くこと叶わない。息すらつかせない。そんなどす黒い何かを――。

『ちなつちゃん、さ…もしかしてまだ、結衣ちゃんのことが忘れられないのかな?』
『へっ? あ…ち、違うよ! そういうんじゃなくて、ただ久しぶりにお話したから嬉しかっただけで…未練があるとかそういうんじゃないからね!』
『ふぅん…』

 何の感情も篭っていない「ふぅん」に背筋が凍った。冷や汗が全身から吹き出すのを感じながら、吉川さんはただ黙って思考を巡らせる。
 この事態を収拾するためにどうしたらいいのか、そんな事を考えていたのも束の間、赤座さんの魔の手?は思考の隙間を掻い潜り襲いくる。
 あっ!と思った次の瞬間には、吉川さんは赤座さんに手を引かれ、胸の中にすっぽりと納まっていた。恐る恐る顔を上げると、そこには冷酷とは打って変わって優しくて温かな眼差しを向ける赤座さん。だけどその心情は――、

『あ、あかり、ちゃん…?』
『ごめんね。ちなつちゃんは何も悪くないよね。悪いのは全部、私だよ。ちなつちゃんが私のこと好きでいてくれてるって安心して、浮かれて、ちなつちゃんはもう大丈夫だって楽観視してた私がいけないんだよね』

 一人納得する赤座さん。それは大きな間違いだということにまったく気がついていない。
 あるいは冷静さを保っていられたなら気付けたかもしれないが、既に理性をなくした獣のように、本能だけが心を支配する最中、それを赤座さんに求めるのは酷だった。
 つまるところ、それだけ『吉川ちなつ』と言う存在が、赤座あかりの心の大部分を占めているという証拠なのだろう。こんな状況でさえなければ、微笑ましいの一言で片付けられるのだが…。

『だ、だから違うって!話を聞――んんっ!?』

 赤座さんは有無を言わせずに、吉川さんの唇に吸い付いた。口内までたっぷりと蹂躙しつくしたところで、そっと離すと、銀色の糸が重力に逆らわずぷつりと途切れた。
 その間、約一分弱。
 赤座さんに翻弄され続けた吉川さんは、とろとろに蕩けた熱い視線を向けながら、完全に赤座さんのことしか考えられなくなっていた。

『心配しなくてもいいよ、ちなつちゃん。すぐに私のことしか考えられないようにしてあげるからね。身体の隅々まで、私の跡を刻み込んであげるから。ふふ…』

 その後のことは言うまでもなく、そう言った展開で締め括られた。さすが事細かな詳細までは語られなかったが、そう言った事実があったというのは誰でも察しはつく。

 ――と、ここで吉川さんの回想は終わるわけだが、話しているうちにその後の事を具体的に思い出してしまったのか、吉川さんは真っ赤な顔で内股を擦り合わせながら熱い吐息を漏らす。これが俗に言う『女の顔』に相違ない。たぶん。

「お、お疲れさまですわ、吉川さん…」
「ううん…話したら少しすっきりした」
「そうですの…それならよかったですわ」

 吉川さんは一息ついて、動悸の激しい胸を押さえながら気を落ち着ける。私も私で、どこか居心地の悪さを感じていた。当事者でなくとも、その臨場感は肌で感じ取った。変な汗が額を濡らしてやまない。

「なんていうか最近、あかりちゃん相手にぜんぜん主導権握れなくなってきてるんだよね…。昔は、私の方が一枚も二枚も上手だったのに…」

 しみじみと呟く吉川さん。そのセリフはそっくりそのまま私にも跳ね返ってくるのだった。

「わかりますわ、その気持ち…。私も最近、櫻子にしてやられてばかりですの…」
「へぇ…あの櫻子ちゃんがね。まぁわからなくもないけど…」
「お互い苦労しますわね」
「そうだねぇ」

 でも、そうだとしても。今でこそ自分の気持ちが手に取るようにわかるが故、その心に嘘はつけない。

「それでも、好きなんですわよね…難儀なものですわ」
「ホントだよ。好きな人になら何をされたって許せちゃうし、多少乱暴に扱われたってむしろ悦んじゃうくらいだし。女の子って生き物はホント神秘の塊だよね」
「べ、別に乱暴にされたいわけじゃありませんけど…でもそういうのもアリですわね」
「あはは…わ、私はその…結構そういうの悦んじゃうタイプなんだって身体に教え込まれちゃったよ…あかりちゃんに。私って自他共に認めるSだと思ってたけど、案外Mの素質があったのかも…って何言わせるの向日葵ちゃん!」
「よ、吉川さんが勝手に言ったんじゃありませんの! わ、私のせいではありませんわ!」
「うっ…」

 ぐすんっ!と涙ぐむ吉川さん。素質云々は置いておくとしても、その表情は全然嫌そうには見えなかった。たぶん、心の底から赤座さんになら何をされても構わないと思っているのだろう。そこは信頼か、そういう素質が働いているかで、またその先の理由が変わってくるのだが。

(私も…いつか櫻子にそういう道に引き摺り込まれてしまうんでしょうか…)

 なんて少し思ったが、不思議と嫌な気持ちよりも喜びの方が勝っていた。
 認めよう。どうやら私も吉川さんと同じタイプの人種だったらしい。

「でも、ちょっとは抵抗したって罰は当たらないと思いません?」
「そうは思うんだけどね…、でもあの目を見ちゃうとどうにもこうにも…」
「ああ…」

 なるほど…と、吉川さんが言わんとしていることが何となく理解できた。

「…愛されてるって、わかっちゃうからね…」
「…そう、ですわね…」

 見つめ合うだけで、感じ取ってしまう相手の想い。吸い込まれそうなほど澄んだ瞳から、流れ込んでくる狂おしいまでの愛情。それは束縛の鎖となって、私の――私たちの心を決して離そうとはしないのだ。

「好きだよ。大好き。愛してる。そんな言葉もいいけどね。でも私は、あかりちゃんの瞳から伝わってくる愛情が一番好きかもしれない。だって、どんな時だって、あの目だけは絶対に変わったりしないから」
「ふふ、吉川さんって、案外ロマンチストなんですのね」
「そう言う向日葵ちゃんだって、納得の表情ですが?」
「うっ、それはまぁ、わからなくもないってだけで…。別に櫻子のそれに期待してるわけじゃ…そもそも櫻子にそういうのは似合いませんわ!」

 似合う似合わない以前に、既に情事の際はそういう感じの雰囲気が出来上がってしまっているのは内緒にしておこう。

「私の何が似合わないって?」
「っ…!」
「あ…」

 ふと、吉川さんではない第三者の声が私の鼓膜に届く。『櫻子の』と言って『私の』と返ってくる時点で、その人物が誰かなんて言うまでもない。火を見るより明らかだ。

「さ、櫻子…い、いつの間に戻って…!」
「ん、今さっきだよ」

 瞬間的に振り返るとやはりそこにいたのは大室櫻子。私の幼馴染兼恋人が我が物顔で私の後ろを陣取っていた。

「なんかちなつちゃんと二人して盛り上がってるし、私も混ぜてもらおうかなーって思ったら、ちょうど私の名前が聞こえて……、で、結局何の話してたの?」

 購買で買ってきたパンと飲み物片手に、不思議そうに首をかしげているところを見ると、その言葉通りどうやら話の核心までは聞かれていなかったらしい。
 が、そのことにホッとしたのも束の間だった。

「私もちょっと気になるなぁ。ねぇ、ちなつちゃん? 私には教えてくれるよね?」
「あ、あかりちゃん!? い、いつの間に私の背後に…!!」
「最初から…って言ったらどうする?」

 そう言って、にこやかに笑って見せる赤毛の少女は、吉川さんの頬の筋肉を引き攣らせるには十分の言葉を放つ。
 まるでニンジャのように音もなく参上仕った赤座さん。平然と気配を断って来るあたり、さすが元\アッカリーン/は伊達ではないのかもしれない。

「なんてね。冗談だよ冗談。実は櫻子ちゃんと購買で一緒になってね? 一緒にここまで来たんだよ」
「そ、そっか…それならよかった」
「ふーん、何がよかったのか小一時間ほど問い詰めたいところだけど…まぁいっか。お腹も空いたし、みんなでご飯食べよっか?」
「そ、そうだね! そうしようそうしよう! ほらほら、櫻子ちゃんもいつまでも向日葵ちゃんのおっぱいばっかり見てないで座って座って!」
「なっ! さ、櫻子!? どういうことですの!!」
「ちょっ、ちなつちゃん!? べ、別に私、向日葵のおっぱいなんてガン見してないし! って向日葵も何身構えてんだよ! 別に見てねーし! 向日葵のメロン美味しそうだなって思ってねーし!」
「お、おお思いっきり思ってるじゃないの!?」
「ち、ちげーし! 向日葵ってば自意識過剰すぎだっつーの!」

 この四人が揃うと、必然騒がしくなってしまうのはいつもの事で、そんな光景を他人事のようにニコニコと見つめる赤座さんの視線がやけに優しいのもいつのも事だった。

「ふふ、櫻子ちゃんも向日葵ちゃんも、早く食べないとお昼休み終わっちゃうよ?」
「あかりちゃんの言うとおりだよ? 夫婦喧嘩は犬も食わないって言うし、いい加減にしといたら?」
「夫婦じゃないし!(ですわ!)」
「ああはいはい…息もぴったり仲良し夫婦って言いたいわけね。いちいちそんな主張しなくてもわかってるってば」

 吉川さんは呆れたように溜息をつき、隣の赤座さんも苦笑しながら私たちを見守っていた。
 まさかこんな辱めを受けることになるなんて。すべては目の前のバカが諸悪の根源。許すまじ櫻子!

「櫻子のバカ!櫻子のせいで変な誤解を受けたじゃないのよ! こんな事ならもうおっぱい禁止ですわ!」
「なっ、勝手に私のセリフ使うなよ!」
「ぷいっ!ですわ」
「ふんだ!そんなに言うならもう向日葵とはもう×××しないもん! 一人悶々とした夜を過ごせばいいんだ! 向日葵なんて!」
「ちょっ! そ、それとこれとは話が別じゃなくて!? ずるいですわ!!」
「はいケッテー! 今後は御一人で勝手にどーぞ!」
「ダ、ダメですわ! 断固拒否権を発動します! ひ、ひとりでなんてそんな…」
「なんだよ? そんなに私にされたいのか? 向日葵ってば案外むっつりスケベだなぁ」
「なっ…なんですって!? あなたこそ気のないふりして結構足にきてるんじゃありませんこと!?」
「ち、違うし! これは武者震いだし! 勝手な勘違いすんなこのおっぱいバズーカ!」
「なによ!! そのおっぱいに毎度毎度ぱふぱふを求めてくる変態のくせに!!」
「なんだよ!! 向日葵こそおねだり上手の欲しがりさんのド変態のくせに!!」

 終着駅の見えない果てしない言い争いは、その後お昼休み終了間際まで続く事になるのだった。
 それはまぁいいとしても、お昼休み終了後あたりから周囲の視線が妙に生暖かく感じたのは、できれば気のせいであって欲しいと切に願う。


「…やれやれ、この調子じゃお昼休み終わるまで続けてそうだねこの二人…」
「うふふ、仲が良くて私はいいと思うけどなぁ」
「ま、二人らしくていいかもね」
「うん。ところでちなつちゃん」
「ん、なあに? あかりちゃん」
「向日葵ちゃんと何を話してたのか、今夜ゆっくりじっくり聞かせてもらうから、覚悟しといてね?」
「――」

 一方こちらもこちらで、一波乱あったとかなかったとか。
 尺もないので、それはまた別の話ということでこの場は締めたいと思う。



 おしまい


【あとがき】
2期3話パネェェェエェ!!! 1年以上待った甲斐があった!ありすぎて泣けた(号泣)
もう思い残すことは………一杯あるもんげ☆
次はあれだ、散歩回とかダイエット回とか
そして大本命、婚姻届回!!

ばっちこーい!ふぅ~


[ 2012/07/18 20:22 ] 未分類 | TB(0) | CM(0)
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