とある百合好きの駄文置場。二次創作SSやアニメ・漫画等の雑記中心。ゆいあずLOVE!

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メルルのアトリエSS トトリ×ミミ 『命短し恋せよ乙女』

※追記からどうぞ。



私、あなたの事が好きなの―― 

「…え?」

午後の陽気に誘われるようにウトウトと瞼が垂れ下がり始めていたそんな時、ふと頭の中に直接語りかけてくるようなそんな声。反射的に我に返りきょろきょろと辺りを見渡してみるが特に変わった様子はない。

(…気のせい?)

あるいは幻聴だったのかもしれないが、しかし心のどこかでそれは違うと訴えている自分もいる。確信を以てそうだと言えるわけではないのだが。
しかしこの狭いアトリエ内。ホムくん&ホムちゃんがアストリッドさんの手伝いで出払い、ロロナちゃんが新作パイのアイデア探しにお散歩中という現状、私とトトリ先生しかいないこの空間で、私が発した声じゃなければおのずと答えは導き出される。

「……」

私は錬金釜をぐるりと一周掻き回してから作業を止めて、隣の錬金釜をちらりと見やった。正確には釜の方ではなく、その前で物憂げな表情で何かに意識を取られてるトトリ先生にだが。
まぁ、言わずもがなさっきの独り言にも似た呟きの正体は、この人が発したものに相違ないと私は思うわけ。無論、さっきのが幻聴でなければの話なのだが。

「あの、トトリ先生?」
「っ…あ…。メ、メルルちゃんっ…ど、どうかしたの?」

トトリ先生は今の今まで夢の世界に旅立っていましたと言わんばかりにハッと我に帰り、動揺を悟られまいと必至に表情を作りながら誤魔化すが、良くも悪くも素直な性格が災いしているのか、隠すという動作そのものが不釣合いに映って見える。

「どうかしたって言うならそれは私のセリフなんですけど……まぁいいです。それよりトトリ先生、さっき何か言いませんでしたか?」
「え? 別に何も言ってないよ?」
「あれ?」

おかしいな。でもそれにしてははっきり聞こえたような。そんな風に小首を傾げながらクエスチョンマークを浮かべる。しかしトトリ先生の顔は本当に嘘を言ってるようには見えない。

「うーん…おっかしいなぁ。さっき確かに『あなたのことが好きなの』って聞こえた気がしたんだけど…」
「……~っ!?」
「あれ?」

その一言にどんな地雷的要素が含まれていたのかは、当事者でない私にはもちろんわかるはずもない。わからないけれど、それでもそのワードを耳にしたトトリ先生に著しい変化が訪れたのは間違いなかった。

「あ、あのぅ…ト、トトリ先生?」
「な、ななな何かな!?」

それはトトリ先生にあるまじき動揺っぷり。さすがの私も驚きを隠せなかった。
顔どころか耳まで赤く染めてしどろもどろ。頭からは湯気が立ち込めもくもくと天井に雲を作る。果たしてこれほど取り乱すトトリ先生を見たことがあっただろうか。いやない。出会いから5年弱、未だ嘗て私の脳内に刻まれたことはなかった、はず。

(トトリ先生らしくないって言えばらしくないけど……でもなんか可愛いかも)

普段から先生の名に相応しいまでに毅然と佇んで見せるあのトトリ先生が、まるで初めて恋を知った少女のようにあからさまな反応を示すとは。不覚にもちょっと胸がキュンとしたではないか。
妙齢の女性に対して少女なんて失礼かもしれないけれど、見た目幼いトトリ先生だからきっと大丈夫。いや、これも十分失礼か。

「トトリ先生、さっきもボーッと何か考え事してましたよね。何考えてたんですか? あ、もしかして恋のお悩みとか?」
「ふぇ!?」

『私、あなたが好きなの』というのが聞き間違いではなく無意識下でつかれたものだったとしたら。
もしやと思って尋ねてみると、案の定、トトリ先生は予想通りの反応を示し、しかもポンっと言う効果音つきで茹った頭から蒸気を吹出したではないか。

「ち、ちち違うよう! そそそそそんなことあるはずないよ!」
「い、いやなんか、もう……隠す気ないですよね先生…」

赤面した顔をぷるぷると横に振り乱しながら否定の意思を示すトトリ先生。しかしその挙動不審っぷりに怪しさ大爆発。どう頑張って見ても肯定の意思が見え隠れしている。実は半分冗談で言ったようなものだが、どうやら初っ端から当たりを引いてしまったらしい。

「もう、別に隠す必要なんてないじゃないですか。誰だって恋の一つや二つするものですよ」
「うう…」

そう言って聞かせるとトトリ先生は諦めたようにうな垂れた。それはつまりトトリ先生が誰かに恋をしてると認めたということで。

(そっか…トトリ先生にもようやくいい人が見つかったんですね)

特にトトリ先生の場合、二十も半ばに差し掛かろうというのに一向に浮ついた話がないから少し心配していたのだが、この調子ならどうやらその必要はなさそう。
さて、ここまで来たらあとはトトリ先生の好きな人を聞きだすだけなんだけど、さすがにプライベートにまで首を突っ込むのは少し気が引ける。
とは言え私も乙女の端くれ。身近な人のコイバナに興味がないと言えば嘘になる……ってことでここは下手にGOだ!

「おほんっ…それでその…し、失礼ついでにお聞きしますけど……ト、トトリ先生の好きな人って、一体誰なんですか?」
「っ……そ、それは!」

核心に触れる質問を投げかけるとトトリ先生は途端に茹蛸だ。その様子からしてやはりトトリ先生は誰かに恋してる。
あの錬金術一筋のトトリ先生が生娘のようにもじもじしている姿はそれはもう可愛いのだが、ここは一つ私も予想してみようか。

(えーと…トトリ先生の身近な男性と言えば…)

ジーノさんにステルクさん、それにライアス君、ルーフェス、ジオおじ様くらいかな。まさかお父様なんてことはないだろうけど。あとジオおじ様もね。ここはド固いところで幼馴染のジーノさん辺りだろうか?

「え、えと…ね」

しかし、そんな予想が意味を成さないと気付いたのは次の瞬間。
私の予想は根本から違っていたのだと思い知らされるのだ。

「あの…と、トトリ先生?」

トトリ先生は何を思ったのかその手をそっと胸元に伸ばしたではないか。そしてその先で七色に煌く首飾りに触れる。無論、その行為自体にはなんらおかしい点はない。
だが――、

「え…うそっ…」

でも私は確かに感じ取ってしまったのだ。その先に秘められた真実を。直感。確信。そのどれをとっても答えは一つだった。

(ま、まさか――)

その一言が脳裏にちらついて離れない。思わず目を見開いて眼前の光景を疑った。しかし現実は確かに目の前にある。トトリ先生の胸元に飾られたそれが嫌でも教えてくれる。

「好き、なのかな…。自分でも、本当にそうなのかわからないんだけど…。でも、やっぱりそうなのかな…」

トトリ先生はその首飾りを見つめながら、自分に言い聞かせるようにそっと呟き、ほうっと熱い溜息を漏らす。それはさながら恋する乙女そのもので、その視線が全てを物語っていた。
その首飾りを通して誰か大切な人を想い浮かべていること。それはいくら鈍感な私でも容易に見て取れる。

(トトリ先生の好きな人って…もしかしなくても…)

七色に煌く虹のかけらのペンダント。
その名も無き首飾りは――。

(…ごくりっ…)

それはあの日、ミミさんからトトリ先生にプレゼントされたもの。
つまりトトリ先生の好きな人は――、

「ミミさん」
「……っ!?」

無意識に放っていたその名を耳にしたトトリ先生は驚愕に目を見開いた。その反応からして十中八九私の考えが正しかったことを知る。

「ど、どうして…?」
「い、いえ…その…なんとなくです。熱心に首飾り見てるから、そうなんじゃないかなって。ち、違ってましたか?」
「………」

トトリ先生はふぅっと軽く溜息をつくと諦めたように頭を振った。

「ううん…正解だよ。さすがメルルちゃん。鋭いね」
「い、いえ…。で、でもトトリ先生の好きな人がまさかミミさんだったなんて、予想の斜め上っていうか…。い、一応お聞きしますけど……友達としてではないんですよね?」
「う、うん……」
「そ、そうですか…」

よかったですねミミさん、なんて思いながら窓越しに映るあの人の背中を見やる。いつもと変わりないその背中に少しホッとする。果たしてミミさんは、トトリ先生の気持ちを知った時、どう想い、どう感じるだろうか。

「その、やっぱりおかしいかな。私もミミちゃんも女の子だし……」

さすがにもう女の“子”って歳じゃないんじゃ…と少し思ったが、不意に背筋がゾッとするような感覚に襲われ、瞬時に思考を切り替えた。これ以上考えたらいけないと直感的に何かを感じ取ったのかもしれない。

「うーん…私、そう言うのはまだよく分からないですけど、別におかしくはないんじゃないですか? 人を好きになるのって、そう言うのとはまた別って感じがします」
「そうかな? うーん…そうかもね。なんだかロロナ先生も同じ事言いそうだよ」
「ロロナちゃんも? ああ、元のロロナさんですか」

そう言えばロロナちゃんって、今はアストリッドさんの企みで8歳児相当に若返っているけど、正真正銘トトリ先生よりも年上の大人の女性なんだっけ。

「うん。ロロナ先生って何も考えてないように見えるけど、意外と色々考えてたりするんだよね」
「ず、ずいぶんと言いたい放題ですね」
「あっ、ち、違うの。そんな先生のおかげで助かってる部分も多いし感謝してるんだよ」
「そうですか。とにかくトトリ先生は自分の気持ちに自信を持って全力でぶつかっていけばいいと思いますよ。どんな結果になっても、きっとミミさんなら真正面から受け止めてくれますって」
「そ、そうだよね。ミミちゃんならきっとそうだよね。うん、頑張らないと!」

トトリ先生は迷いを決意に変え、新たな気持ちでガッツポーズ。そんな可愛らしい子供のような仕草に私は思わず笑みを漏らしていた。

「トトリ先生、本当にミミさんのことが好きなんですね」
「うんっ…すき」

トトリ先生はへにゃりっと表情を崩して、最高の笑顔でその想いを口にした。その想いの強さに不覚にもドキリとしたのはミミさんには内緒にしておこう。トトリ先生にここまで想って貰えるミミさんが、少しだけ羨ましく感じた。

「それでトトリ先生、ミミさんにはいつ告白するんですか? なんなら今からでも言っちゃいます? ほら、ミミさんなら安定のアトリエ前待機ですし、探すのには苦労しませんよ?」

人はそれをトトリストーカーと呼ぶのだが、これ言ったら明日からミミさんの待機場所がハルト砦かトロンブ高原に変わりそうだから言わないでおこう。

「そ、それはさすがにまだ心の準備ができてないというか…。あのね、実は贈り物とか考えてるんだけど」
「おおっ、なるほど。ミミさんに貰ったペンダントのお返しも兼ねてるってことですね!さすがトトリ先生!」
「あはは、今日のメルルちゃんは本当に鋭いね。うん、実はそうなの。これを貰ってからずっとお返し考えてたんだけど、なかなかいいのが思いつかなくて」

いやもう、ミミさんならトトリ先生に貰えるものなら魚の目玉人形だって喜びそうな気がしますけど…。まぁそれはさすがに、ねぇ?

「ちなみに何を渡そうと思ってたんですか?」
「え、えと…ゆ、指輪、とか」
「ゆ、指輪ですか…それはまたあからさまに意味深な贈り物ですね。でも告白もするんですから、指輪くらいインパクトあった方が喜ばれるんじゃないですか?」
「えぅ…で、でもまだ告白が上手く行くって決まったわけじゃないし…ミミちゃんが私と同じ気持ちかも分からないし…」

いやいや、もう120%くらい結果は見えてますって。だってあのミミさんですよ? トトリ先生の事が好き過ぎて5年間もストーカー(笑)しちゃうようなあのミミさんがですよ? トトリ先生に好きなんて言われた次の日には、結婚式を上げる準備くらい平気で終わらせてそうですよ。
……なんて言えたら良かったけど。私からそれを言うとミミさんからエンゼルホルンを食らいかねないので、恐ろしくてとてもじゃないけど言えない。

「あっ! じゃあ私がそれとなくミミさんとお話してみますよ! もちろんトトリ先生の名前は出しませんから。さりげなーくミミさんの心の中を探ってきます!」
「そ、そう? ならお願いしようかな。それで少しは脈があるのかどうかわかるかな?」
「ええもちろんです!任せておいてください!これでもミミさんと出会って5年。あの人のツンデレ具合は十分学ばせてもらいました!」

おかげでミミさんの行動原理が常にトトリ先生基準であることがわかってしまったが、それはそれ、これはこれだ。トトリ先生を安心させてあげるためにも、ここは本気で取り掛からなければ。たとえ結果が分かり切っていたとしてもね。

「だからトトリ先生は指輪作りの方、頑張ってくださいね」
「う、うん」
「あ、ところでどんな指輪を作ろうとしてたんですか?」
「えーとね…実はレシピはもう考えてあるの。あとは素材を揃えて調合するだけなんだけど…」
「何か問題でもあるんですか?」
「うん…実は私が考えたレシピって、もともとあるレシピで作れる指輪を全部使うんだけど…」
「え…もともとのレシピで作れる指輪って…もしかして…」

トトリ先生は軽く頷きながら、机の上に調合に必要なアイテムを均等な感覚で置いていく。無論そのどれもが指輪。左から炎と氷の指輪、昼と夜の指輪、聖魔の指輪とそれぞれ名前があり、それ単体でも強大な力を秘めているのは、一度装備したことのある者なら誰もが知っている。なのに……それを全部調合に使用する、だと?

「あ、あの…それ全部調合に使っちゃうんですか?」
「うん。でもまだ足りないよ。白と黒の指輪も必要だから。4つの指輪が揃って初めて完成するの。あ、もちろん指輪だけじゃなくて他にも素材は必要なんだけどね」
「い、いえそういう事じゃなくてですね…」

トトリ先生のレシピで誕生する代物に脅威を感じた私はたぶん正常だ。その4種類の指輪が一つになるってことは無論、誕生するのは究極の指輪然りなわけで。

「……トトリ先生はミミさんを覇王にでもするつもりですか?」
「? 何言ってるのメルルちゃん?」
「い、いえ…それで問題と言うのは?」
「うん。実は白と黒の指輪に使う素材が足りないの。メルルちゃんも知ってるでしょ? 深淵の魂って」
「ええ、それはもちろん。あー、そう言えば白と黒の指輪って何気に深淵の魂が必要でしたっけ。確かあれって無限回廊の黄昏の乙女が…」

深淵の魂。それは無限回廊を根城にする乙女という名の魔物が落とすレアアイテム。実は苦難の末、一度は魔物を倒し、一つだけ素材を入手したことがある。
だがあれは以前、アストリッドさんに頼まれた若返りのクスリを作るために使ってしまったため、今は持ち合わせが…。

「うん。だからまた倒しに行っちゃおうかなって♪」

満面の笑みで恐ろしい事を口にした私の先生はまさしくトトリ先生で間違いない。
やはりこの人、錬金術師である前に、あの伝説の冒険者ギゼラ・ヘルモルトの娘なんだと今更ながらに思い知った瞬間だった。
触らぬトトリ先生に祟りなし。この際余計な事は言わないでおこう。

「そ、そうですか。それでえーと、護衛には誰を? さすがに今回ミミさんは連れて行かないんですよね?」
「そうだね。ミミちゃんもあれで結構鋭いところあるし、下手したらバレちゃうかもしれないから」
「うーん、それじゃあエスティさんとステルクさん辺りに護衛を頼んだらいいんじゃないですか? あの二人すっごく強いし頼りになりますよ。それに私、当分採取に出かける予定ないですから、私が頼めばきっとOKしてくれます、あの二人なら」
「そっか。それじゃあお願いしちゃおうかな」
「ええ!任せといてください」
「よーし。それじゃあ早速準備始めないと。えーと…エリクシルはとりあえず1個持っていけばいいよね。あとは特性強化した神秘のアンクと刺激的な香りのついた王家のアロマを――」
「トトリ先生、少しは手加減してあげないと魔物がかわいそうです。トトリ先生はただでさえ永久機関搭載してるのに、良心が痛まないんですか?」
「ふふっ、魔物よりも良心よりもミミちゃんが大事だもん。ミミちゃんのためなら私……なんだってするよ?」
「……(怖っ!?)」

トトリ先生の真っ黒い笑顔に冷や汗を垂れ流しつつ、こうしてトトリ先生によるミミさんへの告白大作戦は開始されたわけだが、

(は、早めにミミさんに話つけた方がいいよね)

トトリ先生が無事に帰ってくるのは100%決定しているにしても、私も私で仕事があることを忘れちゃいけない。もし忘れたりしたら後でどんな処罰を受けるか分かったものじゃないし。
とにかく頑張ろう。うん。


 *


トトリ先生が護衛を引き連れ無限回廊へと旅立って数日が過ぎたある日のこと。
そろそろ作戦を実行に移そうかと気を引き締めてアトリエの外に出ると、やはりというかなんというか、この5年で見慣れに見慣れた背中がぽつんと石垣に腰掛けていた。
その名もミミ・ウリエ・フォン・シュヴァルツラング。
由緒ある貴族のお嬢様で、トトリ先生の大親友で、トトリ先生命で、トトリ先生ラブで、トトリ先生と一緒のお風呂に入りたくて、一緒のお布団で寝たくて、好きで好きで堪らなくて、とにかくトトリ先生第一に考えているツンデレ風お嬢様だ。

「あらメルル、ごきげんよう。何だか元気ないわね? 何かあったの?」
「あはは…そ、そう見えます? じ、実は調合でちょっと失敗しちゃって」
「なぁに? また爆発させたの? トトリといい、あなたといい、もう少しスマートにできないのかしら、錬金術って」
「まぁ失敗から学ぶものもありますし、いい経験ではあるんですけどね」
「なるほど、そういう考え方もあるのね。……ところで」

しばらく世間話を続けていると、ふとミミさんに変化が訪れる。まるで今までの話は前座と言わんばかりにそわそわと落ち着きがなくなる。こう言う時のミミさんの口から出るのは、9割方トトリ先生の話なのだ。

「さ、最近、トトリの姿が見えないけど、何してるのかしら? あっ…べ、別にトトリの事が心配だからとか、そういんじゃないからそこのところ勘違いしないでよね!」
「あはは…トトリ先生もそうですけど、ミミさんのそれも大概ですよね…」
「? 何を言ってるのかわからないけど、それよりトトリは何しているのよ?」
「え? トトリ先生なら数日前から素材採取に出かけてますよ? たぶん、あと一週間もしないうちに戻られると思いますけど…」
「え……そ、そうなの」

それを聞いて、ミミさんは途端に複雑そうな顔で眉を垂れ下げた。

「あれ、もしかして知らなかったんですか?」
「っ…そ、それは…まぁ、知らなかったけど…、で、でもまぁ…ト、トトリがどこで何をしていたって、私には関係ない話しだしね!」
「……そうですか」

どう見ても、関係ないって顔には見えないんですけどね。目に見えて落ち込んでるっていうか、今にも泣き出しそうっていうか。「どうして私も連れて行ってくれなかったのよ!」という心の叫びが嫌ってほど聞こえてくるのはこれ如何に。

(トトリ先生、ミミさんに採取に行く事言ってなかったのかな)

出かける時に一言くらいあっても良さそうなものだけど。やっぱり今回は事が事だけにミミさんには完全に内緒か。特にミミさんの場合、トトリ先生が採取に行くと聞けば、私の護衛を放り出してでもついて行きたがるだろうしね。懸命な判断かも。

「実はトトリ先生、今回はとてもレアな素材を探してましてね。深淵の魂って言うんですけど、無限回廊の敵が落とす素材で――」
「なっ! そ、それならどうして私も連れて行ってくれなかったのよ! それってつまり魔物退治ってことでしょ! 私の本領じゃない!」
「ちょっ、ミミさん少し落ち着いて!」

私の肩を掴んでガクガクと揺さぶるミミさん。我を忘れているのか私の言葉に耳を貸そうともしない。

「ううん…魔物退治じゃなくても…素材採取だけだって、トトリはいつも私の事連れてってくれるのに…なんで今回に限って…」
「あ、あのミミさん?」
「はっ! ま、まさか私のこと、嫌いになったんじゃ……グス」
「そ、それはさすがに飛躍しすぎですよ!」
「で、でも…」

しょぼん…と落ち込むミミさんからは普段の強気な態度は微塵も感じられなかった。とても弱弱しくて、触れただけで折れてしまいそう。下手したらぷにの一撃ですらダウンしてしまいそうなほどの脆さを感じる。それほどまでにトトリ先生がミミさんに与える影響というものは大きいのか。

「トトリ先生にとってミミさんは大切な親友です!それは間違いありません!」
「そ、そうかしら? で、でも…」
「デモもストもないです! まったくもう、トトリ先生がミミさんを嫌いになるなんてあるはずないじゃないですか」

逆にラブが強すぎてアテられちゃいましたよ。

「あの、ちなみに聞きますけど……もし万が一にでもトトリ先生に嫌われちゃったりしたら、どうします?」
「ッ!?…と、トトリが…わた…私のこと…き、きらっ…きららららっ……ぅぐっ…!」

聞くんじゃなかったと後悔先に立たず。
ミミさんは顔面蒼白になりながらその現実に耐え切れなくなり、塞き止められていたダムが崩壊するが如く、ぶわっと、目尻から大粒の涙を滝のように吹出しではないか。

「わわっ!う、ウソです冗談です!そんなこと万が一にもありませんから泣かないでください!」
「な、泣いてなんかっ…うう…ととりぃ…グスン」

ダメだこの人!もうトトリ先生なしじゃ生きていけない体になってるよ!トトリ先生早く帰ってきて!私じゃ手に負えないです!

「と、とにかく今回はちょっと理由があってミミさんを連れて行けないだけですから、そんなに落ち込まないでください」

それを聞いたミミさんの目尻から涙が消えた。滝のように溢れ出していたものが一瞬で止まったのを見て嫌な予感が背筋を駆け抜ける。

「理由? 理由って何? メルル、あなた何か知ってるの?」
「あ…」
「知ってるのね!!」

あれほどトトリ先生に口止めされていたにもかかわらず何たる体たらく。今更後悔してももう遅い。思わず口を滑らせていた一言はミミさんに余計な疑念を抱かせるには十分だったらしい。

「うふふ…もちろん話してくれるわよねメルル? 大丈夫、悪いようにはしないわ」
「ひぃ!」

ミミさんはピクピクとこめかみを痙攣させながら鬼の形相で私を掴む。それは逃がさないという意思の表れか、私の肩からメキメキと嫌な音がした。

「ちょっ、い、痛いですミミさん! か、肩ががが!」
「ん、なあに? 聞こえないわね」

メキ!ゴキ!メキメキッ!

「わ、わかりました! 話します! 話しますから!」
「最初からそう言っていればいいのよ。まったく素直じゃないわね」
「……ミミさんがそれをいいますか」
「何かいったかしら?」
「い、いえ…」

肩から激痛が消えてホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、ああは言ったものの、さてさて何て説明したものかと思考を巡らせる。
もともと隠し事が得意じゃない私には少し荷が重いが、こういったものは結局、なるようにしかならない。となれば私の取る選択肢はただ一つ。行き当たりばったり作戦。これに尽きる。まあ、さすがに言葉は選ばなければいけないけれど、ここで何とかしなきゃ私に明日はない。

「そ、その…実はですね。トトリ先生、とある人に贈り物をするつもりらしくて。で、さっき言った深淵の魂が、それを作るために必要な素材なんだそうです」
「っ!? お、贈り物? い、いいい一体誰に何を贈るつもりなのかしら!?」

目に見えて動揺を隠し切れないミミさん。本当にわかりやすい。
しかしそれ以前に私が半分答えを言っていることにすら気づいていない。とある人への贈り物と、ミミさんを連れて行けない理由はイコールなのだ、なのに。あるいはそれほどまでにミミさんから余裕を奪っているってことなんだろうけど。

(ミミさん…もう少し冷静になりましょうよぅ)

でもそうか。この調子なら、もう少し情報を与えてもトトリ先生の告白作戦には支障ないかも。よし、そうと決まればイケるところまでいってみよう。

「お、おっほん! あー…これ言っちゃっても大丈夫かなぁ…」
「なっ、何よ!言いたいことがあるならはっきりしなさいよね!別に知りたくなんてないけど!」

ジャキッ!

「ちょっ!? し、知りたくて仕方ないのは十分わかりましたから槍を構えないでください!」
「だ、だから知りたいとかそういうんじゃっ…!」
「なら槍の切っ先を首元に突き付けるのはやめてください!生きた心地がしませんよ!」

ミミさんは「くっ…」と苦悶の表情を浮かべながら、しぶしぶ私の首元から槍を離した。私はホッと胸を撫で下ろし大きく息をつく。本当、トトリ先生のこととなると当然のように暴走するなこの人。
私は呆れ溜息を付いたが、これ以上待たせると今度こそ命の危険性が出てくると判断し、思考をフル回転させる。そして頭の中で言っていい事と悪い事を選別しつつ、核心に触れるであろう情報をミミさんに提供する。

「こ、ここだけの話なんですけど、あっ、これはもちろん他言無用でお願いします。特にトトリ先生には絶対に言わないでください」

そう言って念を押す。もしトトリ先生に知れた日には、私は新型爆弾の材料として錬金釜逝き確定だ。メルル爆弾なんて、考えただけでゾッとするよ。

「実はトトリ先生にはとっても好きな人がいて……あ、ここで言う好きっていうのはもちろんラブの意味ですよ?」
「~ッ!? だ、誰なのよ!トトリの好きな人って!!」
「さ、さぁそこまではさすがに……ご、ごめんなさいミミさん」
「そ、そう…それならまぁ…仕方ないわね…くっ」

今目の前にいますけどね、とはさすがに言えないし言わない。それだけは何があっても私の口から言うわけにはいかないのだから。こればかりは固く口を閉ざす。あと言えそうなことは、そうだなぁ…、

「そ、それでですね? トトリ先生はその人に愛の告白をするために贈り物を…、あっ、そう言えば確かぁ、贈り物は指輪って言ってたような、言ってなかったような…?」
「ッ!?」

あたかも風のうわさで耳にしましたと言わんばかりの演技口調。大根役者もいいとこだ。しかしそんなあからさまな態度にすらミミさんは不審に思わない。いつものミミさんであればすぐに言葉の裏に何かが隠されていると気付くだろう。並みの洞察力ではないのだからして。だが冷静さを欠き、もはや死に体のミミさんにそれを求めるのはあまりに酷と言うもの。

「…そ、そう…愛の告白に…指輪を、ね…ふ、ふぅーん…ま、まぁ別にいいんじゃないかしら…わた、私には関係ないことだし…ね。そ、そうよ、わた、私には関係、ない…し」
「あ、あの…ミミさん大丈夫ですか?」

トトリ先生の相手が自分などとは露程も思っていないのだろう。トトリ先生が他の誰かと愛を語らっている姿でも想像してるのか、その表情は今にも崩壊してしまいそう。

(はあ…やっぱり今更詮索しなくたって、ミミさんがトトリ先生を想ってるのは一目瞭然だよね…何やってんだろ私…)

それとなくミミさんの心の内を探るつもりが何を間違ったのかこの状況。ミミさんを奈落の底へと突き落とす結果になろうとは誰が予想しただろうか。
だからって贈られる指輪がミミさんへの物だと教えるわけにもいかないし。それはつまりトトリ先生の好きな人を教えてしまうことと同義なのだからして。

「メ、メルル…わ、私、少し気分が悪いの…ちょっと一人にしてくれないかしら…」
「は、はあ…な、なんかすみませんミミさん」

それから数日、ミミさんはこの世の終わりを悟ったような絶望感溢れる顔で真っ白に燃えつきていた。しかし律儀にもアトリエ前から移動しないだけさすがミミさんと言えるかも。


今日も今日とて窓から見えるミミさんの背中は頼りない。今にも儚く散ってしまいそうなほどに痛々しい。

「先生、早くミミさんの笑顔を取り戻してあげてください」

ミミさんから笑顔を奪った張本人が言う台詞であったかどうかはこの際言いっこなしにして、今はただ、トトリ先生の帰還を今か今かと待ち望む。

「はあ…」

私の溜息は今日も重たい。

トトリ先生が帰還したのは、それから三日ほど経ってからだった。


 *


「できたあ!」

神妙な面持ちでその背中を見守る私の耳に届く知らせ。その言葉の通り遂に件の贈り物が日の目を見ることになる。本当にここまで長かった。だがこれでようやく肩の荷が下りる、私の。

(ミミさんもそろそろ限界だろうし…本当によかった)

あの日、無事帰還を果たしたトトリ先生は寝る間も惜しんで調合に取り掛かった。採取してきた深淵の魂のお披露目もほどほどに作り上げた白と黒の指輪は、どこに出しても恥ずかしくない一品に仕上がる。しかしそれは前座に過ぎないのは言うまでもなく、それからさらに一週間をかけ、ようやく待ち望んだ日がやってきたのだ。

「やりましたねトトリ先生! これでミミさんもようやく元気になりますよ!」
「うーん。そのことなんだけど、ミミちゃん何であんなに元気ないのかな? もしかしてメルルちゃん、私がいない間にミミちゃんに何か余計な事吹き込んだんじゃ…」
「そ、そそそそんなわけないじゃないですか! き、きっとお仕事で疲れが溜まってるんですよ! トトリ先生が指輪と一緒に告白してあげれば一瞬で天に召されますって!」

正直、言い訳のしようもないくらい私のせいなのだが、トトリ先生の言葉に真っ黒い何かを感じて咄嗟に誤魔化すことを選択した私はたぶん利口なんだと思う。情けない話ではあるんだけど。

「天に召されるのはさすがにあれだけど…でも、喜んでくれるといいな」
「大丈夫ですって。ミミさんと色々お話しましたけど、あれは間違いなく脈ありです。きっとミミさんもトトリ先生の事が好きで好きで堪らないんだと思いますよ」

思う、じゃなくて実際は品質120に匹敵する想いなのだが。

「そ、そこまではっきり言われると…は、恥ずかしいよ」
「あとは当たって砕けるだけです!頑張ってくださいトトリ先生!」
「あはは、砕けるのは嫌だけどね。うん、頑張るよ」

頬を赤らめながらもじもじしつつも、完成した指輪を見つめる視線に迷いはない。覚悟は決まっている。そんな気持ちが痛いほど伝わってくる。

「それにしても…なんていうか凄い指輪ですね、それ。見てるだけで吸い込まれちゃいそうっていうか。まるでこの世の物じゃないみたいです」
「そうだね。自分で作っといてなんだけど、本当に凄いよこの指輪」

太陽と月と星と空の力が溶け合って、雲一つない澄み切った蒼穹に、虹の如く輝く鮮やかさな七色が神々しい光りを放つ。それはまさに万物を司るに相応しい至高の一品と言えるだろう。

「それじゃあ……そろそろいってくるね」
「はい!頑張ってください。陰ながら応援していますから!」

トトリ先生は笑顔で頷いて見せ、アトリエから最初の一歩を踏み出した。その勇気ある背中を見送りながら心の中で敬礼、激励する。これ以上先に私の出る幕はない。あとはなるようにしかならないだろう。

「………………」

とは言ってみたものの。

「うー!やっぱり気になるよ!」

いくら綺麗事を並べたところでやはり二人の様子が気にならないと言えば嘘になる。
そんなわけでトトリ先生の勇姿をこの目に焼き付けんと窓からこっそりとその様子を窺う野次馬根性丸出しの私。その目に映るお二人の今は――、

「ぷっ…あはは♪ やっぱり心配なんて必要なかったね」

声が聞こえなくたってその顔を見れば一目瞭然。蒼白が赤に変わる瞬間。ミミさんの顔が絶望の淵から救出されるその様は、まさに劇的ビフォーアフター。思わずお腹を抱えて笑ってしまった私を誰が責められようか。


その後の話を少しだけしよう。
トトリ先生から贈られた指輪がミミさんの左手薬指にすっぽりと収まっているのは言うまでもなく、一番の変化と言えば、やはりトトリ先生の待機場所がアトリエのソファからミミさんの隣に変わったことだろうか。

アトリエから一歩外に出れば目の前の石垣の上には見慣れた背中が二つ。つがいのように寄り添うお二人が仲睦まじく愛を語らうその様子は見ていて微笑ましいのだが、あまり直視しすぎると口から砂糖を吐くので油断は禁物だ。

正直、アトリエ前を通り過ぎるたびにそれを見せられる私の身にもなって欲しいものだが、お二人の時間を邪魔するなど到底出来るはずもないので(というより私はまだ馬に蹴られて死にたくはないので)最近ではウニのなる木から横の石垣を飛び越えてショートカットしているのはお二人には内緒にしていたりする。

やれやれ。仲がいいのはいいけれど、せめて時と場所をわきまえてほしいよまったく。なーんて軽く愚痴りながら、今日もお二人を誘って冒険の旅へと出掛ける私なのでした。

「あらメルル。ふふふ、今日は何だかいい日になりそうね♪」
「あ、メルルちゃん。困ったことがあったら、遠慮なく相談してね♪」

めでたしめでたし…で、いいんだよね?



END
[ 2009/04/06 21:26 ] 未分類 | TB(0) | CM(0)
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