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とある百合好きの駄文置場。二次創作SSやアニメ・漫画等の雑記中心。ゆいあずLOVE!

唯梓SS 『NEWアズプラズ-後編-』 

※アズプラス+の続編。
※ギャグも一回りすればシリアスになるかと思えば結局ギャグでしかなかった。
※追記からどうぞ。



それはふいの瞬間だった。


ガタタンッッ!!


「ッ!?」


けたたましく響く扉の音に、私の体はビクンと過剰に飛び上がった。
反射的にドアの方に目を向けると、そこには忘れようにも忘れられない少女が一人、こちらに目を向けていた。
色と光を無くした絶対零度の瞳が私を貫く。
一瞬たりとも目を逸らせない雰囲気を醸し出すその少女は。

見間違うはずもない、中野梓ちゃんその人だった。

迫り来るあずにゃんに不穏な空気を感じて咄嗟にDSを背後に隠したのはこれ幸い。
これを見られたら何を言われるか分かったものじゃないし、それ以上にこれだけは死んでも見せちゃいけないと、本能的な所で察していた。
あずにゃんは私の前に立ちふさがると、無表情のまま首を傾げて第一声を放った。


「ユイセンパイ?」


地の底から這うような声に心臓をわしづかまれたような錯覚に陥る。
動けない。まるで金縛りにあったみたいに足が床に縛り付いていた。


「ど、どうしたのあずにゃん、な、なんか顔怖いよ?」
「この顔は生まれつきです。ところで今、何してたんですか?」
「え、えー、何のことぉ? 別に何もしてないよー?」
「…ふぅん」


まったく感情の篭っていない「ふぅん」に背筋がゾッとしてやまない。
まるで浮気がバレて嫁に包丁を突きつけられた旦那さんの気分。


「……」
「……」


静寂、そして緊迫した空気が支配する音楽室。
そして天使のキス顔と光を失った悪魔の瞳で迫るあずにゃんズ。
天国と地獄のフルコースで板挟みを食らう私に安らぎなどありはしない。
ならばこの状況を打破するために私が選ぶべき選択肢は――、

1 誤魔化す
2 逃げ出す
3 焼き土下座


どれを選んでも暗い未来しか想像できないことに目尻が熱くなった。

ふと前方の狼、否、あずにゃんに動きがあった。
膠着状態に痺れを切らしたのか、はたまた真面目に取り合おうとしない私に怒りを覚えたのか定かではないが、顔を俯かせて唇を噛み締めた次の瞬間、


「…ぐすっ」
「あ、あれ?」


予想外にも耳に飛び込んできたのは怒声でも罵声でもなく涙声だった。
ギョッとしたのも束の間、あずにゃんの大きな瞳から大粒の涙がポロポロと零れ始めた。
床を点々と濡らす雫。
その様子を目の当たりにして頭が真っ白になる。


「どどっ、どうしたのあずにゃん! どっか痛いの?!」
「唯先輩…私のこと嫌いになっちゃったんですか?」
「え…ど、どうして?」
「だって…最近私の相手、ぜんぜんしてくれないし…スキンシップも、しなくなったし…目が合っても、逸らすだけだし…だから」
「えっ! えーと…そ、それはその…色々あって…」
「……?」
「と、とにかく違うんだよ! あずにゃんのこと嫌いになったとかそんなことは絶対にありえないから!」


むしろ好きで好きで仕方なくて、あずにゃんと仲良くなるために必死に今日まで頑張ってきた。
なのに仲良くなるどころか逆に、私の独り善がりのせいで一番大好きな人を泣かせてしまっている。
現実は目の前にあった。
あずにゃんの目から零れ落ちる涙がその現実を嫌ってほど教えてくれる。
だが――。


(そういえば私、ここのところあずにゃんのことばっかりで、あずにゃんとあんまりお話してなかったなぁ…ってちょっと待って…あれ?)


そんな時ふと生じる疑問。
珍しく冴え渡る脳細胞が導き出した答えは、むしろ私なら気付いて当然の事。


(そう言えばあずにゃんって、私にスキンシップされるの嫌いなんじゃなかったけ? なのに何でこんなに…あれれ? これって変じゃない? むしろ飛び上がりたいくらい喜びそうな気がするんだけど…)


言ってて悲しくなる事を平然と考えながら私はある一つの結論に達する。
つまり。


(もしかして、嫌いじゃ、ない?)


いやいや、さすがにそれは、ねぇ?
考えすぎというか、自意識過剰というか、ねぇ?


「あ、あずにゃ…」
「嫌いじゃないって言うなら、何で最近私によそよそしいんですか?」
「そ、それはその、オホーツク海よりも深くてエベレストよりも高い已むに已まれぬ事情というものがあって――」
「ま、まさか…他の先輩達が言うみたいに本当に彼氏でも出来たんですか?! だから私の相手なんてしてる暇無いって事なんですか!?」
「かっ!?」


思いがけない言葉に心臓がドクンと飛び出す。
動揺は隠し切れず、心臓はドキドキと早鐘を打ち始めた。

実際にあずにゃんの言うような事実は欠片もないけれど何故か無視できないその言葉。
それはつまり自分の心に多少なりとも疚しい気持ちがあるからに他ならない。


「えとっ…あ、あのっ…そ、それはっ…ね?」


言葉を選びつつ必死に誤魔化そうと試みるが、まるでなってない。
焦れば焦るほど言葉が浮かばなくなり、逆に慌てれば慌てるほど肯定していると言わんばかりに声が裏返ってしまう。
無論、そんな意味深な反応を見逃すあずにゃんじゃないので、次の瞬間には私の腕はあずにゃんの手にがっちりとホールドされていた。
おまけにさきほどまでのシリアスムードとは打って変わって大粒の涙が嘘みたいに止まっている。

嫌な予感がした。

身動ぎ一つできず逃げ場を失った私になす術はもはや無かった。
それは安易に逃がさないと言われているような気がしてこれからの自分の運命を呪わずにはいられなかった。
せめて五体満足で生きていられますように…、そんなネガティブ思考が心中を覆い尽くす。


「…やっぱり、そうなんですね…?」


地の底からドスの利いた声が響いた。
おおよそあずにゃんの口から出たとは思えないそれに全身の神経が怯んだ。
物理的にも精神的にも縛りつけられた私はもはや蛇に捕って食われる前の蛙同然。


「あ、あずにゃん!ま、まずは話をしようか!」
「話…? それは唯先輩とどこの馬の骨とも分からない輩とのノロケ話を延々と聴かされる破目になるってことですか? 唯先輩は私に死ねって言うんですか? ねぇ?」 


あずにゃんの目がクワっと見開かれたその瞬間、全身の神経が凍りついた。
恐ろしいまでの鬼の形相でミシミシと音を立てんばかりの怪力を発揮して腕の骨を折らんばかりだ。
正直物凄く痛い。
これが愛の痛みなのですか妖精さん?
物理的な痛みしか感じないんですが?


「誰なんですか唯先輩の彼氏って? 殺ッテヤルデスからここにつれて来てください」
「ちょっ! ちょっと待ってあずにゃん落ち着いて! 私に彼氏なんていないよ! 全部あずにゃんの妄想だよ!」
「じゃあ何でさっきはっきり『いない』って言い返さなかったんですか? それって心にやましい事がある証拠でしょ? しかもさっき、なんとなく焦ってるように見えました。思いっきり目が泳いでましたし」
「うぐぅっ!」


意外とちゃんと見てるんだなぁ、とちょっと関心する。
ここまで退路を絶たれては某タイヤキ少女も食い逃げの現行犯で逮捕は免れないだろう。
例え事実として彼氏がいなくても、今ここで何を言ってもあずにゃんには通用しない。
怒りで我を忘れた今のあずにゃんには何を言っても悪い方にしか転ばない。
そんな気がしてならなかった。

確かにここ最近の私生活を思い返せば、あずにゃんの言うことは全部が全部間違ってはいない。
というよりあずにゃんの発言はかなり的を得ている。申し開きのしようもないくらいに。
だから焦ってしまった。心に疚しいどころの話じゃない。
原因の発端はまさに今私の手に握られているのだから。


(うぅ…ど、どうしよう…こんな時の対処法なんて妖精さんから何もレクチャーされてないよ!)


まさかバカ正直にこれを見せて「あずにゃんを攻略するためにあずにゃんを攻略してました♪」なんて自分からアホの子発言なんて出来るはずもないし。
下手をしたらドン引きされてあずにゃん攻略どころの話じゃなくなってくる。


(かと言って他に策があるわけでもないし…このまま黙っているくらいならいっそ開き直って…いやでも…)


考えている猶予はない。
今この時も私の腕は変な方向にミシミシと音を立ててへし折れそうだ。
考え抜いた末に思いついた最良の手段はザ・人任せ。


(妖精さんヘルプミー!)


ところがどっこい現実はゲームのようにそうそう上手くはいかないもので。
現状一番頼りになりそうな沢庵の妖精さんは今頃この校舎を綺麗にする役目を担って大忙しだろう。
箒片手に鼻歌を口ずさみながらレレレのレーってな感じで。


「…ん?」
「あっ…!」


この状況を打破するための良策を思案する最中、無意識のうちにDSを持つ手に力を込めていた。
しかしそれがいけなかった。そんな怪しい挙動を見逃すあずにゃんじゃない。


「なんですか? 今何か後ろに隠してませんでしたか? ちょっと見せてくださいよ」


目聡く食いつくあずにゃん。
その手を背中へと伸ばしてアレを奪い取ろうとする。


「だ、ダメだよあずにゃん! こ、これは私にとって命よりも大事な尊厳といいますか! なんといいますか!」
「言ってることが意味不明です! あっ…もしかして浮気の証拠ですね! そうなんですね!」


今日のあずにゃんは積極的以前に痛いところを突きまくり。
冷や汗がダラダラ流れて止まりません。
浮気ではないと言い切りたいけど言葉が喉に引っ掛かって出てこない。
それ以前に何故浮気なんて話になっているのか小一時間ほど話し合いたいよ。
が、今はそれどころじゃない。


「やっ!だ、ダメだよあずにゃん!」
「そんなに必死になるなんて怪しいです! いいから見せてください! 疚しい事が何もないなら別にいいじゃないですか!」
「そ、それは!そうなんだけど…でもやっぱりダメー!」
「往生際が悪いですよ唯先輩!」


あずにゃんは手の力を緩めようとしない。
しかしこちらも必死で抵抗した。
奪われないように揉み合いになりながらも最後の砦だけは死守しようと踏ん張る。

が、それも長くは続かなかった。

私の砦が陥落するのも時間の問題。
扉を抉じ開けられて侵入されるのも時間の問題。
何もかもが時間の問題だった。


「私だってもう我慢の限界なんです! 唯先輩は私の口癖が殺ッテヤルデスから病ンデヤルデスに変わってもいいんですか!?」
「それ意味わかんないよあずにゃん!? 何言ってるの!?」
「私だってヤンデレルートは嫌なんですからね!!」
「だ、だから意味が…ってちょっ、ダメだってばぁ…!」
「ふぬぬぬっ…!」


一体全体、この小さな体のどこにこんなパワーが眠っているのか不思議で仕方がない。
まるで火事場の馬鹿力。力関係は獅子と兎そのもの。ちなみに後者が私。


「ああっ!?」


そんなこんなで抵抗の甲斐も空しく、遂にあずにゃんの手が『証拠』に届いてしまう。
一度触れられたが最後だった。二度と離さないとばかりに力を込め、一瞬の隙を突いて一気に引き抜くあずにゃん。
私の手から放れるDS。最後の抵抗にと伸ばした手は虚しく空を切った。


「まったく、何をそんな後生大事に持ってるんですか…ってこれってDS? 何でこんなもの…って、え?」
「ああっ!? ダメ! 見ちゃダメだよあずにゃん! 目が焼け爛れるよ!」
「こ、これって…え、嘘…」
「ああああずにゃんっ!?」
「…わ、私?」


DSの画面を食い入るように見つめるあずにゃんの表情が驚愕と困惑の色に染まる。
そりゃそうだ。むしろ驚いてくれなきゃどうしようかと思ったくらいだ。
自分と同じ姿形をした存在が、よもや画面の中でキス顔を晒しているなんて飛び抜けた惨事だろう。

しばらくするとあずにゃんの顔が見る見るうちに赤面していく。
この場合照れているのか怒っているのか判断に難しいが、明らかに前者ではないことは確か。
だって、こめかみがピクピク痙攣してるんだもん。
怖いんだもん。


「唯センパァ~イ? これは一体どう言うことなんですか? もちろん説明してくれるんですよね?」
「う、うぅ…」


女子高生の身空でまさか浮気がバレた人間の気持ちが分かってしまうなんて世も末だ。
これ以上隠し続けるのは無理がある以前に自分の命が危ういと感じた。
限界。ここが引き際。ここを逃したら私は明日の朝日は拝めない。
ここで誤魔化そうものならどんな仕打ちが待っているか考えただけでも体がブルってしまう。
もう諦めるしか道はない。もうどうにでもなれだよ。


「はぁ…分かったよ。だからその怖い顔やめて? 実はそれね――」


私はこれまでの経緯をあずにゃんに身振り手振りで説明した。
ツンツンなあずにゃんともっと仲良くなりたい私の悩みが全ての発端だったこと、そんな悩みを聞きつけた沢庵の妖精さんにこの幻のソフト『アズプラス』を貰ったこと、そして今日と言う日まで『アズプラス』を攻略してきたことを、言葉を選びながらゆっくりと話して聞かせた。

さすがにゲームあずにゃんとの愛の軌跡まで触れる気にはなれないビビリの私。
これ以上あずにゃんの神経を逆撫でするのは自殺行為にも等しかったので。


「………」


あずにゃんは黙って話を聞いていた。
その表情からは喜怒哀楽のどんな感情も窺い知ることは出来ない。
せめて『怒』の前に『激』がつかないことを祈るばかりだ。


「――というわけなの。最近はずっとこっちのあずにゃんで手一杯だったんだ。だからあずにゃんの事が嫌いになったとかそういうのは絶対にないからね?」


説明を終え、あずにゃんの様子を窺う。
俯いて表情の読めないあずにゃんの顔を恐る恐る覗き込んだその時、まったく同時にあずにゃんが顔を上げた。
それから大きな溜息を付き、呆れた風にやれやれと首を横に振って見せた。
意外にも怒っていないようでホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、


「唯先輩も大概ですけどムギ先輩にもホント困ったものですね。まさか唯先輩のためだけにゲームソフトまで開発しちゃうなんて、これが呆れずにいられますか。正直度肝を抜かれましたよ。職権乱用もいいとこです。ていうかそのやる気をもっと別のことに生かせばいいのに。何が沢庵の妖精ですか。アホですか」
「あ、あはは…そ、そうだねぇ」


沢庵の妖精さんに対して言いたい放題のあずにゃん氏。
容赦のない発言の一つ一つに棘を感じる。
しかしそれに相槌を打ってしまった私も同罪確定なのだ。
きっとムギちゃんの事だ。
今頃くしゃみの一つでもして「誰か私の噂でもしてるのかしら?」なんて言いながらキョロキョロと辺りを見渡しているに違いない。たぶんだけど。


「唯先輩も唯先輩ですよ。こんなゲームに頼らなくたって生身の私はここにいるじゃないですか」
「そ、そんなこと言ったって、私がスキンシップするとあずにゃん怒るじゃん。悪い時なんかねこパンチが飛んでくるし」
「そ、それはっ…だって…人前だったし…。で、でも唯先輩がそこまで言うなら、二人きりの時だけ許してあげても…」


頬を赤らめながらもじもじしてるあずにゃんはそれはもう果てしなく可愛いんだけど。
正直、ぼそぼそと喋っているせいか内容まではよく聞き取れなかった。
二人きりがどうとか聞こえた気がしたけど、よく分からないや。


「だからね。少しでもあずにゃんの気持ちを理解しようってそのゲームを始めたの。あずにゃんと仲良くなるために私頑張ったんだよ?」
「ゆ、唯先輩…そ、そんなに私のこと…。い、いやその、気持ちは嬉しいんですけど、そんな面と向かって言われると恥ずかしいって言うか、あはは」
「? よく分かんないけど、とりあえずそのDS返して欲しいな。それ私のだし」
「……」


何気なく放ったその言葉は、あずにゃんの動きを停止させるには十分な地雷的要素を含んでいたらしい。
言った後に後悔したって後の祭り。音楽室の温度が一気に急降下して、背筋が凍るような悪寒を感じた。


「あ、あれ?」


私としては別段深い意味があって言ったわけじゃない。
あずにゃんの手のひらで踊り続けるDSが万が一にでも手から離れ、まかり間違って落下でもして壊れたら大変だろうと思っただけで、他には何も。
それなのにあずにゃんは何を勘違いしたのか、一度は止まったこめかみの痙攣を再発させながらこう言った。


「な、何言ってるんですか? 唯先輩にはもうこれは必要ないじゃないですか。私がいるんだし。あはは、私耳が悪くなっちゃったのかな。今、私の『あずにゃん』はゲームの中にいるから返してって聞こえた気がするんですけど…。あれ、つまり私はもうお払い箱ってことですか?」
「えぇ!? ちょっ、そ、そんなこと一言も…!」


あまりにも飛躍し過ぎた発言に思考が追いつかない。
どこをどう聞いたらそういう解釈になるのか頭が痛くなってくる。
こればかりはさすがの私もお手上げだった。

しかしそんな時だ。

まるでこの時を待ってましたと言わんばかりにとある第三者がその重たい腰を上げた。
だが果たしてこの場合、その人物が第三者と言っていいのものか、悩みどころだ。


『さっきから黙って聞いてれば、いい加減見苦しくて見てられないよ。もう諦めたらどう? アンタはもう唯先輩にとって大した存在じゃないんだよ? 唯先輩にとって今一番大事なのはアンタじゃなくて私なの、分かる? 捨てられたことにすら気付けないなんて脳みそお花畑もいいとこだね』
「ちょ、あずにゃん!?」
「なっ!? ちょ、唯先輩? これって私の声……って今なんて言ったのコイツ?」


ゲームの自分と声が一緒だったことに一瞬の驚きを見せたのも束の間、あずにゃんの意識はすぐに目の前の自分から放たれた言葉に青筋をおっ立てた。
眉間に皺を寄せて火花を散らすあずにゃんとあずにゃんの視線が交差する。
あずにゃんとあずにゃんが交差するとき物語は始まる。
空想と現実。
二次元と三次元。
異種バトルが今まさに始まろうとしていた。


『唯先輩、こんなのほっといてさっきの続きしましょうよ』
「え、さっきの続きって…その、何だっけ?」
『もう、ホント忘れっぽいですね。キスですよキス。私だって覚悟決めたんですから、最後まで責任取ってくださいよね』
「ちょっと唯先輩っ!? それってどう言うことですか?! キスって!?」
「ちょ、あずにゃん少し落ち着いて…!」
「これが落ち着いていられますか! だってキスですよ?! 熱いベーゼですよ!? そんな羨ま(ry」


頭に血の上ったあずにゃんの怪力が私の肩をガクガクと揺さぶって離さない。
しかも火に油を注ぐが如く、ゲームあずにゃんはさらにリアルあずにゃんを追い詰めていく。


『実は私ね、さっき唯先輩とキス寸前までイったんだよ。唯先輩がどうしても私とキスしたいって言うからさ。あ、それだけじゃないよ? 唯先輩、私のこと好きだって言ってくれたの。アンタよりも私の方が好きだって』
「ええ!? そ、そんなこと言ってなっ……いやまぁ好きとは言ったけど、あはは」
「こ、このっ…!」
『あれ怒った? でも自分が撒いた種じゃん。あんまりツンツンしてるから悪いんだよ。唯先輩は必死にアンタと仲良くなろうと努力してたのに、それを無下に扱ったのはアンタじゃん? それを今更ぐちぐちと唯先輩のせいみたいに言っちゃってさ、どんだけ器小さいの?』
「言わせておけばっ…! ア、アンタこそそっから出られないくせに偉そうなこと言わないでくれる!? キスって言ったって本当に出来るわけじゃないんだしさ、ふふん」
『そ、それはっ…!』
「その点私は生身だし? キスどころか【禁則事項】とか【禁則事項】とか、唯先輩が望むこと何でも出来ちゃうんだから!」
『ふんっ! 生身の利点なんて結局生身であることだけでしょ? ああそうそう、そういえばすっかり言うの忘れてたけど…』
「な、なに…?」
『私、唯先輩と寝たから!』
「NTR!?」
『唯先輩、毎日私のこと胸に抱いて眠ってるんだよ? ここだけの話、おはようからおやすみまで着替え見放題だしね。今朝だって私の前で無防備に脱ぎだしてパンツ晒してたし、フヒヒ』
「そ、そんなのってないよ!どういうことなのあずにゃん!」
「なんて羨まっ…! くっ、この泥棒猫! これ以上私の唯先輩を汚したら許さないから!」
『そっちこそいい加減身の程ってヤツを知りなよ! 三次元はどうやったって二次元には勝てないんだから!』


えーと、色々突っ込みたいところは山ほどあるんだけど……。

そんな事よりこれ、夢なのかな?
やっぱり夢だよね。だっておかしいもん。
あのあずにゃんとあずにゃんが私を取り合っているように見えるんだよ?

夢にまで見た光景が今まさに広がっているというのに私にはそれが信じられなかった。
思わず目元を擦ってみるけど別に眠いわけでもないし、試しにちょっとホッペを抓ってみたけど痛いだけで夢から覚めるなんてことはない。
これが夢じゃないということは、つまり。
現に今、あずにゃんズが私の奪い合いを――。


(ふぉおおおおおおおおおおおおおおお!)


思わず心の中で発狂してしまった私を誰が責められようか。
ずっと嫌われてるとさえ思っていた相手がまさか私の事をそこまで想っていてくれたなんて。

ならば私も応えよう。
その熱き想いに。


(私的一度は言ってみたかった言葉ランキングトップ10のあの言葉を今こそ使う時だ!)


ふんすっとお馴染みの鼻息で気合を入れ直して軽く深呼吸。
心の中で言葉を選びながら何度も何度も反復して予行演習をして万全の体制を望む。
チャンスは一度きり。失敗は許されない。

そして。

暴走特急の如く言い争いをしているあずにゃんズの間に割って入り声高らかにこう言い放った。


「やめるんだぁ二人ともぉ! 私のために争わないでぇくれぇ!」


ドヤァ!決まった!決まったよ!これ一度言ってみたかったんだよね!
と、全てを出し切ったあとの清々しいまでの爽快感に身を震わせたのも束の間だった。


「『唯先輩は黙っててください!!』」
「…ハイ」


ステレオになって鼓膜を突く怒声を前に、しょぼんと無残な姿で取り残される私を他所に二人の言い争いはさらにヒートアップして行くのだった。
しかもその矛先は私に突きつけられるまでにそう時間はかからなくて、


「もういい加減こんな馬鹿げた言い争いしてても仕方ないよ! こうなったら唯先輩に決めてもらおう!」
「え?ちょっ…あ、あの…あずにゃんさん?」
『アンタにしてはいい考えじゃん。いいよ、唯先輩にはっきりしてもらおう。ま、唯先輩が選ぶのは私以外ありえないけどね』
「おーい…二人とも聞いてますかー」


本人の前でとんとん拍子に決まっていく不穏当な発言の数々に逃げ出したい気持ちで一杯になる。
しかし残念、平沢唯は逃げられない。これがRPGならラスボス戦と言っても過言じゃない。そりゃそうだ。ラスボス相手に『逃げる』コマンドが使えないのは言うまでもないんだから。


「さぁ唯先輩どっちを選ぶんですか!?」
『二次元ですか?! 三次元ですか?!』
「ちょっ、二人とも落ち着いて。そ、そう、まずは話し合おうよ! そうすればきっといい案が…」
「そんなものは最初からありません!」
『二つに一つです!』
「『さぁどっちですか!?』」


それはまさに究極の選択。
私に残された道は二つに一つ。
空想か現実か。
二次元か三次元か。
ゲームかリアルか。
あずにゃんかあずにゃんか。
さぁどうする?


(うぅ、選べない。誰か助けて。ヘルプミーだよムギえもん!)


私にそれを選べとは酷な話だった。
二次元だろうと三次元だろうとあずにゃんがあずにゃんなのには変わりなくて、どちらか一方を選べば必ず片方が傷つくのは言うまでもないことだし、かと言ってあずにゃんを傷つけるなんて絶対したくないし。


(なら私が選ぶべき道は…)


新たなる可能性に続く道、幻の第三の選択肢しかないじゃないか!


「そうだよ!三人仲良くこれからもヨロシクやって行こうよ!それで万事解決だよ!私って頭イイー!」
「何言ってんですか! 根本から解決してませんよ!」
『そうですよ! どこまで優柔不断なんですか!』
「『あずにゃんはこの世に一人で十分なんですっ!!』」
「…はひ…ずびばぜん…」


二言目には息ぴったりのステレオで返してくるのはどうしたものかと。
意外と相性いいんじゃないかと思うんだけど。ケンカするほど仲がいいって言うし。
でもそんな事言うとまた怒っちゃんだろうなぁ…やれやれ。


「だいたい唯先輩はですね…くどくど」
『元はと言えば唯先輩が…がみがみ』
「……」


そうしてしばらくの間。
二人のあずにゃんに挟まれながら小一時間ほど説教を食らい続ける私が完成した。
焼き土下座を宣告されなかっただけマシだけど、小言が二倍に増えたのは勘弁してほしかった。
やれやれ、これがこれから毎日続くかと思うと気が滅入りそうだよ。



一方その頃、音楽準備室前――。


「見て二人とも。あれがリア充と非リア充を極めた者の姿よ。二兎追うものは一兎を得ずなんて言うけど何事も成せばなるってことね」


音楽室を覗き込む三つの影が揺れ動く最中、沢庵の妖精こと私のビデオ撮影は本日も通常営業だ。


「いや、あれどう見てもただの修羅場にしか見えないって。本当にこんなんで良かったのかムギ?」


明らかにバットエンドとしか見えないとばかりに首を振る澪ちゃんだった。
が、だけどこれこそが私の望んだ展開だった。むしろ上出来すぎて少し物足りなさすら残るくらいだ。


「多少のズレはあったけどおおよそ私のシナリオ通りね。いつまで経っても煮え切らない二人に第三者を介入させることで二人の熱を一気に燃え上がらせる作戦、見事に大成功よ。燃え上がるどころか大爆発しちゃったわね」
「そ、そっか」
「でも第三者を誰にするか最初は悩んだのよ。どこの馬の骨とも分からない輩を武力を持って介入させるわけにはいかないから。そんな時ふと気付いたの。そこはさすが私と褒めてあげたいわね」
「どういうことだ?」


と、りっちゃん。
首を傾げながら質問する彼女に私はコクンと頷いてこう語った。


「つまり、唯ちゃんに介入していいのは後にも先にも梓ちゃんだけってことよ。だってそれしか私は認めないもの。ゆいあずは世の理。だからこそ私は『アズプラス』の開発に踏み切ったのよ。さもありなん」



おしまい!



【あとがき】
なんとかかんとか書きあがりました。遅れて申し訳ないです。
相変わらずのギャグテイスト。シリアスなんて一瞬あったかなかったか。
アズプラスはこれにて完結です。

これが唯先輩誕生日記念SSってことにしておきます。今更ですがw
唯先輩への一番のプレゼントなんて、あずにゃんしかないんですから!

ではここまで読んでくださった方ありがとうございました!

[ 2012/01/20 00:49 ] 未分類 | TB(0) | CM(3)
いやぁある意味「想定内」と言うかある意味「予想外」と言うべきか…
ムギ師匠の御信託であらせられる
「唯ちゃんに介入していいのは後にも先にも梓ちゃんだけ」
が全て上手く納めてるように見えるんですが…

効果ありすぎぢゃね?(爆)
嫉妬にゃん(byリアルVer)のぷち病ンデレモードもさることながら、デレにゃん(byゲームVer)の独占欲も相当な物。しかものこのデレにゃんはリアルVerでも展開可能なはず。
さすがの憂ちゃんでもフォローできませんなぁ(爆)
唯さん?こうまで彼女を変えてしまったのは貴女の責任です。一生かけてその責務を全うして下さい(笑)

ちなみに唯さん。「自分のために争わないで」は男性的立場ではエロマンガシチュを除き200%死亡フラグです。確実です。それだけはやってはいけなかった…!
貴女は紛う事なき見目麗しき女性ですが今回に於いてはまず間違いなく「男性的立場」にあります。
いわば「双子の姉妹両方にコナかけて『どっちを選ぶの!』と攻められてるのと同じです。二次元のあずにゃんもあずにゃんです。独占欲の強いあずにゃんです。合い並び立ちません。

まぁ…
「どっちもあずにゃんだから選べるなんて出来ない!だから2人まとめて面倒みる!」ってのが最善の答なのかなぁ…




ところで
『三次元はどうやったって二次元には勝てないんだから!』

あー…うん、そう。
そうなんだよ。
常識的には酷く間違ってるはずの言葉なんだけど…
おかしいなぁ…なんでこうまでストンと納得出来る自分が居るんだろう?
全国から『その通り!』って大合唱が聞こえるのは何故なんだろう?
そしてそのシュプレヒコールの中に自分のダミ声があるのはどうしてなんだろう?
きんたろう様教えて下され(核爆)

[ 2012/01/20 20:41 ] [ 編集 ]
新作お疲れ様でした!!
ゲームあずにゃんが身を引いて少ししんみりと終わるかと思ったけど、そんな事は無かったぜ!
実は最近唯梓創作されてる皆様の影響で某大型匿名掲示板でSS投下してるんですが、
金たろうさんのテンポの良い文章は読みやすくて文章力が羨ましいです
嫉妬にゃんや病んでるにゃんな梓も可愛いですよね!
晶絡めてそのネタで一本書けないかなと妄想中です(笑)
[ 2012/01/20 22:52 ] [ 編集 ]
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[ 2012/01/23 01:00 ] [ 編集 ]
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