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とある百合好きの駄文置場。二次創作SSやアニメ・漫画等の雑記中心。ゆいあずLOVE!

唯梓SS 『アズプラス+』

※前作『アズプラス』の続編
※追記からどうぞ。



前回までのあらすじ。

梓とねんごろな関係になりたい唯。
果てしないその悩み。
しかしそれは無理無駄無謀を描いた三無の境地だった。
そんな絶望的な状況の中、彼女に希望の光を見出したのは、とある沢庵の妖精さんだった。
妖精さんから授かった「アズプラス」をその手に、唯は遂に梓攻略に踏み切る。

しかしそれは全ての始まりに過ぎなかった。
前座だったはずのシュミレーションはやがて、彼女を底知れぬ泥沼へと誘っていく。
底なし沼に片足どころか両足を突っ込んだ唯は、リアルから非リアルに天秤が傾きつつあった。
唯の気持ちはリアル梓から非リアル梓へと移行を余儀なくされ、リアル梓への干渉が極端に減った。
だがしかし、それらがすべて沢庵の妖精さんの思惑通りだったなどと一体誰が気付いただろうか。
すべては妖精さんの手のひらの上で踊っているに過ぎなかった。
すべてが終わったその時、己の勝利で幕を閉じる事を妖精さんは確信していた。
すべては仕組まれた出来事だったのだ――。


『アズプラス+』開幕


それは。
唯がアズプラスを始めて1週間が経過したある日の事――。
中野梓――この少女もまた、悩み多き年頃に拍車を掛けるように唸るように頭を抱えていた。

・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。


「はぁ…」


親友の憂、純と机を取り囲み、いつも通りお昼休みを満喫していた私は、お弁当箱に伸ばした箸をピタリと止めて物憂げな溜息をついた。
無論それに気付かない親友二人ではない。
雑談を放棄してまで私に目をくれると、「どうかしたの?」と口を揃えて決まり文句で尋ねてくる。
私はどうしようか少し迷った。相談するか、否かだ。
悩み事と言えば悩み事ではあるのだが、人に相談するほど大した事でない。
なんて思っていた矢先、無意識につかれた溜息同様、無意識のうちに言葉を放ってしまっていた私がいた。


「……最近、唯先輩の様子が変なんだ」
「え?」


言ってから後悔しても遅いが、一度出した言葉は引っ込みがつかない。
しかもその中心にいるのが唯先輩とあれば、妹の憂が食いつかないはずがなかった。


「お姉ちゃんの様子が、変?」


憂は目をぱちくりさせながら、聞き返す。
私はコクリと頷いて、


「うん、そうなんだよね。…いやまぁ、唯先輩が変なのは前々からだけど。でも今回は明らかに変の種類が違うっていうか…」
「何かあったの?」
「い、いやホント大したことじゃないんだけど…、ここ最近さ、いつもみたいに抱きついてこなくなったなぁ~って、い、いやそれ自体は別に私としても願ったり叶ったりなんだけど、唯先輩らしくないなーって」
「つまり梓は、唯先輩のスキンシップがなくなって寂しさMAXってことなんでしょ?」
「だ、誰もそんなこと言ってないし! 逆に唯先輩のスキンシップがなくなってようやく肩の荷が下りたって感じだよ! へ、変な勘違いしないでよね!」
「はいはい」


純の戯言に思わず反論していたが、純はニヤニヤとした表情を崩さずにお昼ご飯のパンにパクリと食らいつく。
どうやらとんでもない勘違いをしているようだ。
とは言え、これ以上何を言っても純の都合よく解釈されてしまうのが関の山だろう。
こう言う場合は、無視を決め込むか話を逸らすに限る。


「で、でさ憂…、最近唯先輩の様子が変わったとか、そういうのなかった?」
「え? う~ん…」


憂は腕を組み、目を閉じながらここ最近の姉の様子を思い返す。
しばらくの間うんうん唸っていた憂は、ある時「あっ」と声を上げた。


「な、なになに! 何かあったの?!」


思わず身を乗り出し、憂の肩に掴みかかるようにして左右にガクガクと揺すっていた。


「ちょっ…お、落ち着いて梓ちゃん…!」
「あ、ご、ごめん…」


ハッとなって慌てて手を離す。今更のように自分の行いに気付いた。
だ、ダメだ…このままじゃまた…。
なんて思っていたのも束の間、やはりというかなんというか。
純がくつくつと悪戯っぽい笑みを浮かべながら反応を示した。


「唯先輩のことになると必死だねー、梓ー?」
「そ、そんなことないし! そ、それより憂の話聞かせて?」


強引に話を変えて、憂に急を促すような視線を送ると、憂は「あはは…」と心情を察してくれたかのように苦笑いを浮かべながら、


「えーと、たぶんそんなに大した事じゃないと思うんだけど…それでもいい?」
「うん、とにかく今はできるだけ多く情報が欲しいし」
「あれ梓? 唯先輩のことはどうでもいいんじゃなかったっけ? その割にやる気満々じゃない? そんなに唯先輩に構ってもらえなくて拗ねてんの?」
「純…いい加減にしないとその頭についたモップ二つ引っこ抜くよ?」
「よし憂、話の続きをどうぞ!」


純は私の凄みに負け、冷や汗を流しつつ引き攣った笑みを浮かべながら憂に催促する。
それを受けた憂は、苦笑しながらコホンと咳払いをして、


「えーとね、ちょっと前の話になるんだけど……」


回想スタート。
聞けばさほど過去の話ではなく、それはおとといの夜の出来事だった。
ただ唯先輩の様子がおかしくなり始めたのはここ一週間の話なので、時期的にも間違いない。
私は耳をそばだてながら、憂の話を聞き漏らさないよう息を潜める。


「――それで私がお風呂から上がった後に…」


憂はその時、お風呂が空いたことを知らせるために唯先輩の部屋に向かったそうなのだが、唯先輩の部屋の前を通りかかった際、中から人の話し声が聞こえてきたと言うのだ。


『ねぇ……ずにゃん…今度……-トしない?』
『ど、どう…て……わ、私が……唯…輩とデー……しないと……けないんですか!』
『そんな…言わずに~…親睦を深める……にもね?』
『ま、まぁ…せ、先輩が……そこまで…言う……いいですけど…』
『うわ~い! やったー、絶対だからね!』
『も、もう……そ、そんなに…私と…-トできるの嬉しいんですか?』
『うん!』
『っ…ば、バカ…』
『あれ~…ずにゃ…照れて…のー?』
『知りません!』


もちろん唯先輩の部屋なのだから唯先輩の話し声が聞こえて当然なのだが、どうやらそこには唯先輩とは別にもう一人分の声もあったそうで、最初はいつもみたいにギー太と戯れているのかと思ったそうだが、無機物であるギー太が喋るはずがないのは言うまでもないので、それはありえないと首を傾げたそうだ。
謎が謎を呼び、さすがの憂も気になって少し様子を窺うことに。
もちろんそんな時でもノックを忘れない憂に感服だ。


『お姉ちゃん? もしかして誰かと電話中? お風呂空いたんだけど…』
『っ!? あ、う、憂…? え、えとその…あのあのえーっと…ちょ、ちょっちあずにゃんとお電話してたの…! べ、別にやましいことしてたわけじゃないからね!』
『え? う、うん…』


あからさまに隠し事をしている姉の様子に、怪訝な顔を浮かべざるを得ない憂だったそうな。
どこか緊迫した状況の中、ゴクリと生唾を飲み込む音だけがはっきりと聞こえたとか聞こえなかったとか。
憂は意を決して、尋ねたそうだ。


『あ、あのお姉ちゃん…今、後ろに何か隠さなかった?』
『え、えー? そ、そうかなぁー? そんな事ないと思うけどー?』


冷や汗をたらしつつ、下手糞な口笛で応戦を試みる唯先輩。


『あっ、そうそう携帯、携帯電話だよ! それ以外ないじゃん? だってさっきまで電話してたんだし!』
『え、でもお姉ちゃんの携帯、テーブルの上にあるよ?』
『オーマイギー太ァァ!』


謎の奇声を発する唯先輩に驚きを隠せない憂。


『あ、あの…お姉ちゃん?』
『あはは、なんでもないよ! え、えーとぉ…ところで憂は何しに来たのかな?』
『えーと…だからお風呂なんだけど…』
『あ、そうそう。そうだね。お風呂だったね。うん、今行くから憂は先に部屋を出るといいよ』
『う、うん…』


憂は有無を言わせない唯先輩の迫力に圧され、その場は素直に部屋を出て行ったそうだ。
だから唯先輩が本当は何をしていたのか、それを知るまでには至らなかったみたい。
ただ人知れず、ひた隠しにしたい何かがあることだけは誰の目から見ても明らかだった。


「――と、言うわけなの。私もそれ以上は深く聞けなかったから…、ごめんね梓ちゃん」
「う、うんん…べ、別にそれはいいんだけど。それよりちょっと待って」
「え、なに?」
「私、おとといの夜に唯先輩から電話なんてもらってないよ。もちろん私からだって掛けてないし」
「え、でもお姉ちゃん、確かにそう言ってたよ?」
「え、ど、どういこと…?」


頭を抱えて唸る私たちを他所に、純は納得の表情で「なるほどねー」と腕を組みながらうんうんと首を縦に振った。


「な、なにがなるほどなのよ、純?」
「これはアレですよあずにゃんさん」
「あずにゃん言うな! あずにゃんって言っていいのは唯セン…ゲフンゲフンっ! で、アレってなんなのさ?」
「うふふ~♪ だ~か~ら~、男だよ、オ・ト・コ! かいつまんで言えば彼氏ってヤツ?」
「……」
「え、え~! じゅ、純ちゃん、それって…」
「だってそれしか考えられないじゃん? だって妹の憂にも隠し事だよ? 軽音部の先輩たちならいちいち隠したりしないでしょ? 夜な夜な誰かと電話して、しかもそれが梓じゃないと来たら、これはもう彼氏以外考えられないじゃん。きっと皆に内緒で愛を語り合っているに違いない! 大人しい顔して、唯先輩もやる事はやってるんだねぇ」
「ちょっ、純ちゃん…それって冗談だよね?」
「はは、まぁ半分はね…ってあれ梓? どした?」


唯先輩に、彼氏。
だから私へのスキンシップが減ったのか、ふーん。
彼氏なんて出来たら、私の相手なんてしてる暇ないもんね、ふーん。
ふーん。
へー。


「ま、別に唯先輩に彼氏が出来ようが私にはどうだっていいことだけどね。むしろいいことじゃない? あはは」


乾いたような笑みを浮かべ、机の傍らにあった牛乳パックを無造作に手に取った。


「ちょっ! そ、それ私の牛乳…っ」


なんて言う純の言葉を無視して、ずずーっ!と音を立てながら一口頂いた。


「梓…」
「梓ちゃん…」


すると何故か、哀れむような表情をした二人の視線が私を射抜いた。
純は「やれやれ…」と首を振って、ポンポンッと私の肩を優しく叩きながら言った。


「梓、そこは口じゃない、鼻だよ。鼻から牛乳なんて一昔前のコントじゃないんだからさ…」
「梓ちゃん、気を強く持って。さっきのアレは純ちゃんの冗談だよ」
「……」


優しい眼差しを向けながら、慰めるように肩を抱く二人に首を傾げる。


「いやーごめんごめん、まさかここまで動揺しちゃうなんて思ってなかったからさ、ホントごめんね梓?」


自身の鼻の穴に容赦なく突き刺さった牛乳のストロー。
そして私は何事もなかったように、ストローを鼻から引き抜いて、


「あ、そういえばそろそろ部活の時間だった。それじゃ先行くね二人とも」


そう言って、食べかけのお弁当箱を纏めて席を立った。
二人はギョッとした視線を向けたかと思ったら、二人同時に席を立って慌てた様子で私を抑えに掛かる。
一人は羽交い絞めにして、一人は私の腰に巻きつくようにガッチリとホールドして。


「ちょっと二人とも、私部活行かないといけないから、離してよ」
「何言ってんの梓!まだお昼休みだよ!5時間目と6時間目終わってないし!」
「あ、梓ちゃんしっかりして!まだ傷は浅いよ!」
「ま、まさかここまでダメージ大きいなんて思ってなかったよ…」
「もぉ、純ちゃんが変なこと言うから…」
「くぅ…鈴木純一生の不覚! すまん梓!」


動揺とかなんとか。
私は至って平常運転なのに、この二人は一体何を言ってるんだろう。
これではまるで腫れモノ扱いだ。

結局私は、二人に押さえ込まれ身動き一つ取ることが出来なかった。
おかげで部活に大遅刻だよ、まったくもう。


 *


時は1週間前に遡る――。
唯を除く、軽音部の年長組が一同、秘密裏に会していた。
場所は軽音部の部室でお馴染み、音楽室。


「というわけで、かくかくしかじかこれこれこう言うわけだから、澪ちゃんとりっちゃんにも協力してもらいたいの」
「別に構わないぞ。しっかしあの唯が梓攻略をねー。そんなことしなくてもとっくに攻略してるのにな」
「そうよねぇ~」
「いやいや待て待て二人とも。勝手に納得して話を進めないでくれ」
「どうしたんだよ澪?」
「何か質問でもあるの? 澪ちゃん?」
「いや、質問って言えば全部だよ。律は今の『かくかくしかじかこれこれこう言うわけ』で全部理解したのか? まったくもって意味不明だよ」
「はぁ、澪は相変わらず察しが悪いな」
「ごめんなさいね澪ちゃん…、尺の関係上、説明してる余裕はないの。詳しい事は前作『アズプラス』を読むことをおすすめするわ」
「やれやれ…適当だなまったく。とりあえず、口裏合わせればいいんだろ?」
「そうね、大体は私から話を切り出すから、二人は私の話題に乗っかってくれたらいいわね」
「まかせとけって、私の演技力を持ってすれば梓の一人や二人、どうにでもなるさ」
「お前に演技力なんてあったのか?」
「るせーやい!」
「うふふ♪」


私の計画に支障はない。完璧なシナリオだった。
唯ちゃんがアズプラスを手にしたその瞬間、すでにエンディングは見えていた。
私が思い描くストーリー、そのトゥルーエンドへと辿り着く道筋が――。


「にしても、唯も難儀なヤツだよな。梓の態度ほど分かりやすいもんはないと思うけど…」


りっちゃんはしみじみとそんな事を言いながら、やれやれと呆れた風に首を振る。
私は苦笑を浮かべて、


「仕方ないわ、なんて言ってもあの唯ちゃんだもの。それに案外、当事者になってみると気づかないものなのよ、こういうのは。だからこそ、ここは第三者の手助けが必要だと思うの」
「やれやれ…ムギに目をつけられて梓も大変だな…唯もだけど」
「何か言ったかしら、澪ちゃん?」
「い、いや何も…!」


中野梓ちゃん――通称あずにゃんは、その名が示すとおり性格がネコに酷似している。
似ているからどうしたと思うなかれ。ネコとは元来ツンでデレな生き物である。言い換えれば気まぐれな存在だということだが、ここだけの話、梓ちゃんは唯ちゃんのことが大好きで大好きで仕方がない。
それこそ唯ちゃんの写真(天使の笑顔ver)を生徒手帳の間に隠し持ってしまうほどに。
つまり梓ちゃんが唯ちゃんに冷たく当たるのは好意の裏返し以外の何物でもない。
梓ちゃんが絵に描いたようなツンデレなのは誰の目から見ても分かる事だった。
ただし唯ちゃん以外は、だが。
すでに唯ちゃんを除く軽音部の親友各位には完全に筒抜けになっていて、そもそも隠す気があるのかないのか曖昧3センチ。おでこの広い親友の一人から言わせてもらえば「え?あれで隠してんの?」とのことだ。
梓ちゃんが唯ちゃんのことを好きなのは周知の事実。
それは人間が呼吸をするのと同義と言っても過言ではなく、たとえ彼女を知らない人がその様子を目撃しても「あ、このネコちゃんはご主人様のことが本当は大好きなんだな」と、まず一瞬でその答えに辿り着くだろう。


(今のままの関係を続けるのも、それはそれで悪いものではないし、当事者でない私がとやかく言うのは間違っているのかもしれないけど…、変化の乏しい観察対象にいい加減飽きが来たのもまた事実…)


そうして満を持して動き出す琴吹の本領。
私、琴吹紬は己の欲望に負けた。負けるべくして負けた。その結果が、今まさにこの状況と言える。
唯ちゃんにアズプラスを提供することで、唯ちゃんの目を梓ちゃんから一時的に外し、その一方で突然態度の変わった唯ちゃんに不審に思う梓ちゃんが、遂には感情を爆発させる。
とまぁ、大まかな流れとしてはこう言った展開を期待しているが、果たしてどうなるものか。
だが私の予想通りなら、シナリオの大幅な変更はありえないはずだ。


(私が動き出してしまった以上、もはや止めることはできない。行くところまで行くわ。ごめんなさいね、二人とも)


重要なのは梓ちゃんが唯ちゃんに好意を寄せていること。
そしてもう一つは唯ちゃん自身がその好意に気付いていないということ。
有名なことわざに「知らぬは本人ばかりなり」という言葉がある。
その言葉が指し示す通り、その事実に気付いていないのは好意を寄せられている唯ちゃんだけ。
すでに願いは叶っていることなど露知らず、唯ちゃんは奮闘する。
そしてその時、梓ちゃんが取る行動は――。


(狂気の沙汰ほど面白いものはない…、うふふ…楽しくなってきたわね…)


くつくつと唇の端を歪ませて笑みを浮かべて、この先の展開に胸を躍らせていた。


  *


時は戻って、一週間後の放課後――。
梓が暴走しかけたお昼休みから数時間後。


「よーし!んじゃ今日の練習はここまでにしよーぜ」
「ああ、にしても今日は珍しく真面目に練習したな」
「なんだよ澪~、まるでいつもは真面目にやってないみたいな言い方じゃんか」
「いやいや、まったくもってその通りだろ? 基本的にお茶とお喋りが通常営業だし」


軽音部としての練習を終え、帰宅前にティータイムをしていくことになった。
それぞれ席へとつく面々だったが、ただ一人、そわそわとして落ち着かない様子の唯ちゃん。
しばらくすると、意を決したように口を開いた。


「あ、あのっ…今日私、ちょっと用事があるから先に帰るね?」
「んー? どうした唯、なんか顔赤いぞー? 風邪かー?」


素知らぬ顔で問いかけるりっちゃんに、


「ち、違うよ! え、えと…んじゃ私帰るから、それじゃまた明日ね!」


唯ちゃんはパタパタと手を振って否定し、私たちの返事も聞かずに、荷物を纏め、そそくさと音楽室を後にした。
後に残される唯ちゃんを除く四人。私は計画の第二段階に移行したことを悟り、内心ほくそ笑む。
なぜ唯ちゃんが先に帰ったのか、それはアズプラスのシステムを1から100まで理解している私には手に取るように分かった。
どうやら唯ちゃんは、この短期間の間に順調にアズプラスを攻略しているようだ。まぁもともと梓ちゃんの性格や人格データそのものをプログラムしているので、オリジナルの梓ちゃんを骨抜きにしてる唯ちゃんが攻略できない道理はない。


「唯先輩、何かあったんですかね? 何か知ってますか、先輩方?」


唯ちゃんが出て行って間も無く、梓ちゃんから予想通りの質問が飛んでくる。
気のない素振りを見せたところで、やはり本能的に気になって仕方ないのだろう。


「あー、そう言えば、昼休みに唯が言ってたような気がするな。誰かと待ち合わせしてるとかなんとか、誰とまでは聞いてないけど」


無難と言えば無難に、少し小芝居染みた喋り方で返す澪ちゃんだった。


「そうですか、まぁ別に唯先輩がどこで何してたって興味ないですけど」
「梓ちゃん、唯ちゃんが何してるか知りたいの?」
「いや、今興味ないって言ったばかりじゃないですか。でもまぁ、教えてくれるなら聞かないこともないですけど」


つまりそれは、要訳すると『知りたくて知りたくて堪らない』ってことなんだろう。


(ふふ、どうやらそろそろ頃合のようね)


餌の撒きすぎは、逆に獲物を逃がす可能性もある。捕まえられる時に捕まえておいて損はない。
そう判断した私は、ニコっと微笑みながら核ミサイルの発射スイッチを容赦なく押した。


「梓ちゃんがそこまで言うなら教えちゃおうかな~。実は内緒って言われてたんだけど、唯ちゃん今日は放課後デートなんだって♪ 妬けるわね~」


そこですかさず話に乗ってくるりっちゃんと澪ちゃん。


「な、なにー! 唯のヤツ、いつの間に彼氏なんて作ってたんだ! これは明日尋問しないといけないな!」
「そ、そうだな! まったく唯のヤツ、私たちに内緒で一人だけデートなんてけしからん! あ、梓はどう思う?」


そんな流れの中、突然話を振られた梓ちゃんはと言えば、先ほどまでとは打って変わって動きはなかった。
というか無反応にも等しい。少し予想外の反応だった。軽く暴れだすくらいの事はするだろうと覚悟していたのだが、ちょっとどころかかなり拍子抜けだ。
梓ちゃんはただただ優雅に紅茶を啜りながら、静かに熱い溜息をついて、


「まぁいいんじゃないですか? 唯先輩だってお年頃なんですから、彼氏の一人や二人、いてもおかしくないと思いますよ」


あれ?×3


「あ、梓ちゃん? 唯ちゃんがどこの馬の骨とも分からない輩とデートしてるのよ? 何とも思わないの?」
「はぁ、まぁちょっと驚きましたけど、別に騒ぐほどのことじゃないんじゃないですか?」
「そ、そう…なの?」


内心疑問に思う私たちを他所に、お茶を飲み干した梓ちゃんはその場を立ち上がった。


「それじゃ私、この後用事があるので先に帰らせてもらいますね」
「え、えぇ…」
「あ、あぁ…」
「お、お疲れ様…」


唖然とする私たちを横切り、スタスタと扉へと向う梓ちゃん。
しかし次の瞬間、私もりっちゃんも澪ちゃんも度肝を抜かれる光景を目にした。
たしかに梓ちゃんが向ったのは扉だった。
扉だったんだけど……。


「あ、梓…、そこ出口じゃない物置部屋の扉だぞ」
「あれ? おかしいですね」
「い、いや…おかしいのは梓の方で…」
「それじゃ今度こそ、また明日です」


ペコリと可愛らしくお辞儀をした梓ちゃん。
今度こそ出口へと向うかと思われた、がしかし。

次の瞬間、さらに驚くべき光景を目の当たりにした。

ガチャリと開け放たれたのは扉ではなく窓で。
そのまま窓のふちに足をかけた梓ちゃんはそのまま――、


「ってちょっとぉぉおお!何ナチュラルに窓から飛び降りようとしてんだ!自然すぎて一瞬そのまま見送るところだったぞ!」


さすがに叫ばずにはいられないりっちゃんだった。
私は頬に冷たい汗を垂れ流し、


「ず、ずいぶんとスタイリッシュな帰り方ね。さすが梓ちゃん」
「言ってる場合か!」


今にも飛び降りてしまいそうな梓ちゃんを慌てて止めに入る澪ちゃんに引っ張られようやく梓ちゃんも正気に戻る。


「あ、あれ澪先輩、どうかしたんですか?」
「ど、どうかしたも何も……ああもう! とりあえず出口はそっちだ!」
「あ、はい。それは分かりますけど…」


出口の扉まで手を引かれ、ようやく外へと出ることに成功した梓ちゃんではあったのだが…、


「梓のヤツ、無事に家まで辿り着けるのか?」
「正気に戻ってたし大丈夫でしょう。それより、二人ともあの梓ちゃんを見てどう思う?」
「いや、どうこうも、明らかに動揺してるというか、動揺しすぎて狂気すら感じたよ」


澪ちゃんの言葉には確かに同意せざるを得ない。


「私もまさかあそこまでとは思ってなかったわ。でも、おかげでエンディングが見えた」


梓ちゃんのあの反応、まず間違いなく大衝撃に脳を揺さぶられ、足にキテいる。
下手をしたら臨界点突破間近の虫の息だ。
軽く小突いただけで倒れてしまいそうなほどの危うさを孕んでいる。
これはそう遠くない未来、嵐が巻き起こりそうな予感がする。
修羅場と言う名の嵐が――。


「では、これよりシナリオを最終段階に移行します」


つづくはず。


【あとがき】
次で終わりとか言っときながらこの体たらく。申し訳ないです。
でも文章量の関係上、別けざるを得なかったと言い訳してみます。
年末の忙しさにやれられて疲れ果てたとか、そういうのはありません。ホントありません。
とにもかくにも今回はあずにゃんメインです。あずにゃんがそろそろ臨界点突破しそうです。
唯先輩とあずにゃんの運命やいかに。
次回で本当に終わりです。

[ 2011/12/29 20:19 ] 未分類 | TB(0) | CM(5)
初めまして
どうも初めまして。
唯梓のSSを探し回っていたらこのブログにたどり着きました。
良SSが豊富なので、一気読みしようと思いますw

今後も良いSSをまってますね!
頑張ってください!!

[ 2011/12/29 22:37 ] [ 編集 ]
アズプラス+お疲れ様です。

いやー動揺するあずにゃん可愛ええ!
どんだけ唯の事好きなんだよww

最近はずっと受験勉強ですが、
久々の良質百合成分いただきました!
[ 2011/12/29 23:15 ] [ 編集 ]
次作はアズプラス+HDとかになるんでしょうか?ww
楽しみです!
[ 2011/12/30 01:25 ] [ 編集 ]
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[ 2011/12/30 04:54 ] [ 編集 ]
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[ 2011/12/31 01:23 ] [ 編集 ]
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