とある百合好きの駄文置場。二次創作SSやアニメ・漫画等の雑記中心。ゆいあずLOVE!

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ゆるゆりSS 『緩百合的日常』

※さくひま、ちなあか、あやちと、ゆいきょうの俺得集大成。
※追記からどうぞ。



第一話
~その花びらにくちづけを~


その日は珍しく早く目が覚めた。
目覚ましを確認するといつもの1時間は早い時間。別に目覚ましを1時間前にセットしたわけじゃないのに、今日に限って生活習慣が狂ったことに少しばかり訝しげに思う。
普通ならここで二度寝を決め込むのが私流の生活パターンだけど、今日はちょっと違うことをしてみようかなって、早々に制服に着替えて自室を後にした。
魔が差したというかなんというか、とにかく、たまには向日葵の奴を起こしてやろうかなって、色々と考えた末に古谷家へと赴いた。
しかし、勝手知ったる幼馴染の家とは言え、さすがに早朝に何の前触れもなくお邪魔するのは少し気が引けて。でも今更諦めるのも嫌で、どうしようかと悩みながら古谷家周辺をウロウロしていると――、


「あれ? 櫻子お姉ちゃん、朝からお家の前で何キョロキョロしているの? なんだか怪しい人みたいだよ?」


幸か不幸か、偶然にも古谷家から出てきた向日葵の妹、楓とエンカウント。ここは背に腹は代えられないと楓に事情を説明し、許可も貰ったところで早朝の古谷家へと潜入することに成功したのだった。

そして今現在に至る。今まさに向日葵の部屋のど真ん中、ベッドの前に私はいた。
気持ち良さそうに眠る巨大なおっぱいを眼前に展開させながら、腕組み姿勢で仁王立ち。
私こと大室櫻子の戦いはここから始まるのだった。


「おーい、起きろ向日葵!」


嫌味ったらしく上下に揺れるおっぱいに怒りを覚えるが、しかしそこは大人の私。大きく深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着かせ、改めてその巨大な脂肪の塊に手を伸ばした。


「んっ…あぁ…はぁ…」


ぐにゅぐにゅと手のひらで形を変えるおっぱいを揉み解す。朝っぱらから何してんだという疑問の声も聞こえてきそうだけど、お寝坊な向日葵を起こすためなので仕方のない行為なのだ。


「はぁぁ…んぁっ…あふぁ…」


しかしいくら揉み解しても、いっこうに目を覚ます気配のないおっぱい。
これを遺憾に思わず、何をどう思えというのか。


「いい加減目ぇ覚ませって! 遅刻するぞ!」


実際はまだまだ余裕はあるけれど、私が起こしにきてあげてる時点で気持ち的には遅刻なのだ。


「んぁっ!」


ぎゅむっと、荒々しくおっぱいを掴んでみると、向日葵は頬を上気させつつ甲高い声を上げた。先ほどからやけに艶っぽい気持ちよさげな喘ぎ声が聞こえていたが、まさかおっぱい揉まれて感じてるのか、こいつ?


「…………」


べ、別にドキドキなんかしていないし。そう言った声を聞きたいがためにおっぱいを揉んでいるわけじゃないし。そう、これはあくまでネボスケな向日葵を起こすためなのだ……ほ、ホントなんだからねっ!


「む、むぅ…この櫻子さまがわざわざ起こしにきてやったのに、何だこの有様は」


おっぱいから手を離し、手持ち部沙汰に腕を組みつつ仁王立ちして思考する。目の前には憎き邪魔っぱいを上下させつつ、静かな寝息を漏らす幼馴染、古谷向日葵。
さて、これからどうしてやろうか。


「せっかく早起きして向日葵を起こしにわざわざ隣の家まで来てやったのに、このおっぱいはまるで起きる気ゼロだし…。これじゃ何のために早起きしたのか分かんないじゃん…って、別に向日葵を起こしたくて早起きしたわけじゃないんだからね!」


突っ込み不在という今の状況で、返ってくるのは当然無言と安らかな寝息のみ。その事に少しばかり寂しく思いながら、私は向日葵の顔に自分の顔を近づけてみる。


「お~い、向日葵起きろ~」
「すぅ…すぅ…」


目を細めつつ、向日葵の顔に自分の顔を近づけていく最中、向日葵の吐息が顔に掛かって少しドキドキする。それに、なんだかふわっとした甘い香りが鼻腔を擽って、顔が熱くなるのを止められない。


「ひ、向日葵ってば、いい加減起きてよ! もー、なんでこんなに起きないんだよ!」


自分の反応に訝しげに思いながらも必死に呼びかけを続けるが、まったく起きる気配がなかった。向日葵は低血圧が故に意外と朝は弱い。たぶん、そのせいだろうと思いながら軽く溜息を付く。
私より頭よくてしっかりしてるくせして、こういうところは抜けてるんだもんな。


「…ん~~、むにゃ…」


至近距離で向日葵の観察を続けていると、ふと向日葵に異変が起こった。


「へ?」


それは束の間の時。
私に考える隙さえ与えずに、突然向日葵の両腕が私の首に回され、一気に引き寄せられたのだ。


「なっなっ、ちょっ、ひまわむぐっ!?」


思いのほか強い力で引き寄せられ、成す術もなくその巨大なマウンテン二つに顔面がめり込んだ。


「ふもっふぐっむむぅううう!!」


私の顔面をあらん限りの力で押し付ける向日葵。その大きな二つの山がぎゅむぎゅむと形を変えて、私に天国と地獄をお見舞いする。柔らかくてちょっと気持ちいいのだが、呼吸ができなくて今にも窒息しそうだった。
私は何とか脱出できないかと、火事場のバカ力を発揮し、せめて顔だけでもと上下左右に揺さぶってみる。そのたびに向日葵のいい匂いがして脳が蕩けそうになるけど、命が掛かってるのでさすがに自重する。


「ぷはっ!」


すぽんっ!と言う効果音と共に勢いよくおっぱいから私の顔が飛び出る。どうにかこうにか、抜け出すことに成功し、全身に酸素を取り込むように肩で大きく息を付いた。


「はぁはぁ…あ、あぶなかった…はぁはぁ…た、たく…このデカっぱいは…殺す気か…はぁはぁ…」
「ふぁ…さーちゃん」
「っ…は、はぁ? さ、さーちゃん? 何言ってんだこいつ…」


向日葵の口から突如として飛び出した「さーちゃん」なる人物。怪訝に思うけど、ふと胸に何か引っ掛かるものがあった。そしてそれは、遠い昔の記憶の中、すでに思い出となっている幼き日の思い出の中に存在した。


「あ…さーちゃんって、もしかして私か」


もしかしなくて私だった。
もはや懐かしさすら感じるそれはずっと昔の記憶。本当に幼かった頃、私と向日葵がまだ普通に仲が良かった頃の事、向日葵が私の事を「さーちゃん」と呼んでいたのを思い出した。そして私が向日葵の事を「ひまちゃん」と呼んでいたことも。
私は不覚にも幼き日の懐かしい思い出に浸ってしまう。浸らずにはいられなかった。あの頃はあの頃で良かったなとか、そんな風に思っていたのも束の間の事で、向日葵は私に向って情け容赦なく爆弾を投げつけたのだ。


「さーちゃん…えへへ…大好きだよ♪」
「っ!?」


幼い子供を思わせるような、ふにゃっとした笑顔で、向日葵が突然そんな事を言った。いつの頃からか変わってしまったお嬢様口調も、昔の向日葵の口調に戻っている。
その母性本能を擽るような無邪気な笑顔に、私は不覚にも胸がキュンとしてしまう。


「な、なななっ、何言ってんだよバカ向日葵! じょ、じょじょ冗談も休み休み言えっ!! だ、大好きとかバカじゃねーのっ?!」


寝ている向日葵からはそもそも返事など返ってこないのだが反発せずにはいられない。
いったいどういったシチュエーションの夢を見ているのか知らないけれど、でもそれは間違いなく幼き日の夢なのだろう。
私の事を「さーちゃん」と呼び始めたのが確かな証拠だ。


「い、今更…好きなんて言われたって…」


とは言え、昔はよく向日葵に言われていた事を思い出す。
掘り起こされた記憶に戸惑いを隠せなくて、向日葵の腕の中でうわ言のように遺憾に思い続けた。
そう、今更「さーちゃん」とか「大好き」とか言われたって、胸がむずがゆくなるだけというか、こそばゆくなるだけっていうか、とにかく恥ずかしい以外の何物でもない。
いつしか喧嘩上等の仲になってしまった私達にとっては、それは黒歴史以外の何物でもないのだ。
しかし夢の中の向日葵はそんな事お構いなしに、ずかずかと私の心の中に踏み込んでくる。


「さーちゃん…好き…大好きだよ…」
「あっ、お、おいっ…」


愛の告白の最中、ふとした瞬間、またも強い力で引っ張られた。しかし今度は胸の中ではなく、顔を寄せられる。嫌な予感がしたのも束の間、気付いたときには向日葵の顔が至近距離にあって、


「ちょっ、まっ!」
「さーちゃん…んっ」
「~~~っ!?!?」


ちゅっと、向日葵のぷっくりとした瑞々しく潤った唇に私の唇が重なったのはそのすぐ後だった。柔らかい。柔らかくて温かい。温かくてほんのり甘い。
胸が破裂しそうなくらいドキドキした。

ジタバタと暴れる私をガッチリとロックして、キスの雨を降らせる向日葵。
唇どこか顔中に、向日葵の痕が残されていく。

精も根も尽き果てた時には、私はもう抵抗することをやめていた。
その最中、私は心に誓う。もう二度と、早起きはしないと。つまりこれは、たまに早起きするとろくな事にはならないって言う教訓なのだろう――。


・・・・・・
・・・・
・・


それから向日葵が目を覚ましたのは、きっかり1時間後だった。
向日葵の腕の中でぐったりと伸びていた私を他所に、向日葵のヤツは自然と目を覚ましたのだ。ふわ~っと言う大きなあくびをしたと思ったら、片手で目元を軽く拭って、静かに目を開く。


「ん……あら…?」
「ようやくお目覚めかよ…」
「なっ…ちょ…な、何で櫻子が私のベッドで眠ってるんですのっ!?」


目と鼻の先に私の顔があって心底驚いたようで。
寝惚け眼など一瞬で覚醒させた向日葵は、カッと、勢いよく目を見開いた。驚愕の表情は崩さずに、まるで金魚のようにパクパクと口を開いたり閉じたりを繰り返す。
まぁ当然の反応だろう。


「それはいいからさ…、いい加減離して欲しいんだけど?」
「え…? あ…ごめんなさい…」


今更ながらに私をホールドしていたことに気付いたのか、向日葵にしては珍しく素直に聞き入れる。
ようやく向日葵の腕の中から開放された私は、まるで刑期を終えた囚人のように清々しい気分になる。
シャバの空気の美味いのなんのって。


「ってそんなことより! どうしてあなたが私と一緒に寝ているんですのっ?!」
「ふん、珍しく早起きしちゃったから、たまには向日葵のこと起こしてやろうかな~ってのこのこ来てみればこの有様だよ。んなことより人の顔見てなんかいう事ないの?」
「え? あ、あら…顔中アザだらけですけど…蚊にでも刺されたんですの? なんていうか、酷い顔ですわよ?」
「むぐぐっ…ああそうだよっ! どっかのおっぱいのデカい蚊のせいで顔中虫刺されだよっ! どうしてくれんだっ! 責任取れっ!」
「え、えぇ~と…?」


何を言ってるか理解できず疑問符を浮かべる向日葵の態度に、ついに怒りのボルテージは頂点を極める。その時、私の中から容赦という言葉が消失した。つまりぷっつんしちゃったってことで、一つどうかよろしく。


「ねぇ向日葵」
「…な、なんですの?」
「さっきまで何の夢見てたの?」
「っ!? そ、そんな事…、おお、覚えていませんわ!」
「へぇ…そうなんだ、それじゃ仕方ないっか。できればそこら辺のとこ詳しくこの“さーちゃん”に教えて欲しかったんだけどなぁ。ねぇ、“ひまちゃん”?」
「~ッ!?」


そもそも最初から逃げ場など与えるつもりのない私は、止めとばかりに核心に触れた。
夢の中で散々呼ばれていたであろう懐かしい呼び名で向日葵の事を呼んでやると、向日葵の顔が途端にリンゴのように真紅に染まった。どうやら夢の内容は忘れていないらしい。

そのあとは当然のように人悶着あったのだが…。
それはまた別のお話ということで割愛しておく。




第二話
~練習という名の本番~


午後の陽気は眠気を誘い、気を抜いた瞬間に瞼が落ちそうになる。
縁側に腰掛けて見上げる大空。雲一つない突き抜けるような青空だった。燦々と照りつける太陽は眩しくて思わず目を細めて手をかざす。
こんな穏やかな午後のひととき。出来ることならあの人と一緒に過ごしたい。
実に切実な、些細なお願いなのに、それなのにどうして私は――、


「……あかりちゃんなんかと二人でお茶なんて飲んでるんだろ」
「あ、あれ? 今あかり地味にひどい事言われた?」
「な~んて♪ 冗談だよあかりちゃん!」
「……ちなつちゃんのそれは冗談には聞こえないよ」
「ん? なんか言った、あかりちゃん?」
「な、なにも!」
「そう?」


哀愁漂う溜息を付きつつ、どんよりとした負のオーラを放つ赤毛の少女あかりちゃん。その様子を訝しげに思いながらも、私は彼女から目を離し、ピンク色のもふもふツインテールを揺らしながらお茶を一口啜る。
喉を潤すお茶の苦みを堪能しつつ、私はまた大空を見上げた。


「はぁ…せっかくこんなにいい天気なのに、どうして私の隣にいるのが結衣先輩じゃなくてあかりちゃんなの? あかりちゃんが相手じゃますます私の存在感が薄くなっちゃうよ…」
「ねぇちなつちゃん。私そろそろ泣いてもいいかな?」
「も~本気にしないでよ。冗談なんだから♪」
「ぜんぜん冗談に聞――」


私こと吉川ちなつは、一つ上の先輩である船見結衣先輩に心をときめかす元気と明るさが取り柄の中学一年生だ。
ただ今絶賛お昼休み中。
給食を食べ終わった後は何かと退屈なご身分なので、同じクラスで隣の席のあかりちゃんを引き連れて、遥々ごらく部室――旧茶道部室へと足を運んでいた。
別に何かしたいことがあったわけじゃない。退屈だから何か面白いことでもないかなって。
いや、もしかしたら結衣先輩に会えるんじゃないかって言う期待がどこかにあったのかも。で、ちょっとの期待に胸を躍らせていざ扉を開けてみれば、そこには人っ子一人見当たらない静かな和室だけが網膜に焼付く。
えぇえぇ、それはもう不幸のどん底のように落ち込みましたとも。ちょっとどころかかなり期待してたみたいです。
でもまぁ、待ち合わせも何もしていないのだから文句を言っても仕方がない。
仕方がないんけど…。
どうして神様は運命の赤い糸で結ばれた私と結衣先輩にこんな試練をお与えになるんだろうか、と遺憾に思わなくもない。もう少しくらい良心的になってくれてもいいんじゃない?


「きっと我らが神様はくらげの姿をしてるに違いないよ、あかりちゃん」
「そんなのぜったいおかしいよっ! ていうかいきなり意味不明なこと言い出さないでよ! 反応に困るよ!」
「あかりちゃん…、いくら某魔法少女のマネしたって存在感は上がらないよ? だからいつまで経っても\アッカリ~ン/なんだよ」
「そこまで言っちゃうの!? そろそろ本気で心が折れちゃうよ?!」


唯一の特長とも言えるお団子バズーカを散弾させて、ぷんすかぷんすか怒るあかりちゃんの心からの叫びを私は右から左に聞き流す。


「今日も元気だお茶がうまい」
「人の話聞いてよぅ~」


暖かな日差しの下で過ごす、のどかで平和なひととき。いつもは騒がしさすら感じる毎日だけに、たまにはこうやって静かに過ごすのも悪くないかなって思う。


「そう言えばあかりちゃん」
「…なあに?」


テンション急下降中のあかりちゃんに世間話とばかりに話し掛ける。
話題は何にしようかと考え込んだのは一瞬で、そう言えば今朝、櫻子ちゃんがこんな話をしていたのを思い出す。
最初聞いたときは耳を疑ったが、まぁ落ち着いて考えてみれば規定事項と言わざるを得ない話だった。


「ちょっと小耳に挟んだんだけど、あの向日葵ちゃんがね」
「うん」
「あの向日葵ちゃんがだよ?」
「うん…あの向日葵ちゃんが?」
「櫻子ちゃんの寝込みを襲ってファーストキスを奪ったんだって」
「ごぶぅーー!?」


あかりちゃんはその話を聞くと、運悪く口に含んでいたお茶を豪快に噴出した。
実際には今朝方、向日葵ちゃんを起こしに行った櫻子ちゃんに寝惚けた向日葵ちゃんがキスをしたとのことだが、少しばかり魔が差して話を捏造してしまった。だがまぁいい。別にそこまで間違ってはいないだろう。キスした事は事実なんだし。


「ごほっ!げほっ!」


お茶が気管に入ってしまったのか、涙目になって咳き込むあかりちゃん。私は「大丈夫?」と声を掛けながらあかりちゃんの背中を擦ってあげた。
本当、不憫な子だ。そう言う星の元に生まれてしまったと言えばそれまでなんだけどね。


「ごほっごほっ…あ、あ、あの二人ってそう言う関係だったのっ?! あ、あかり知らなかった…」
「あかりちゃんって本当色恋沙汰に疎いよね。あの二人が好き合ってるのなんて一目見れば分かるじゃん」
「えー…いつもケンカばっかりだから分からないよぅ」
「嫌よ嫌よも好きのうちだよ、あかりちゃん。あの通りツンデレ同士だから分かりづらいけど、第三者から見れば丸分かりなんだよ。そもそも本当に嫌いなら一緒にいるはずないじゃない? あの二人ってなんだかんだ言ってもいつも一緒だしね。まさに熟年夫婦の域だよ。実はもうすでに婚姻届を提出してましたって言われても、誰も不思議に思わないんじゃないかな?」
「こ、婚姻届って…また随分具体的だね」
「私もいつか結衣先輩と! はぁ~ん♪」


妄想モードに突入よ♪


「…またちなつちゃんの病気が始まったよぅ。誰か助けて…」


活性化された脳細胞が描き出すのは未来の私と結衣先輩。白いタキシードに身を包んだ結衣先輩が、ウエディングドレス姿の私をお姫様だっこして、夕日に照らされた浜辺を駆けていくという映像が延々と映し出されていた。
なぜ浜辺なのかという疑問は残念ながら受け付けていないので悪しからず。妄想なんてものは所詮、自分の都合に合わせて形作られるものなのだからして。
とにかく本番を迎えるその日まで、準備だけは怠らないでおこうと心に決める。一に精進、二に精進。何事も努力と研鑽、そして修練あるのみだ。そう言った日々の積み重ねの先にこそ、明るい未来が待っているのだから。


「さぁ~て、そろそろお昼休みも終わるし、教室戻ろっかあかりちゃん?」


そう言って促すと、あかりちゃんは何故か怪訝そうな顔をする。


「え? ちょっとまって、私達の出番ってこれで終わりなの?」
「そりゃそうだよ。もうお昼休み終わるし」


さも当然のように首を傾げながらあかりちゃんを見つめると、あかりちゃんの額から一滴の汗がタラリと頬を伝った。


「で、でも私達まだゆるゆり的な事何もしてないよ? ただお茶飲んで駄弁ってただけだよ? いいのこれで?」
「もしかしてあかりちゃん、私とのゆるゆり展開を期待してたの? ちなあか的な意味で?」
「っ!? ち、違うよぅっ!」


私の的確なツッコミに、あかりちゃんにしては珍しく狼狽し、顔を真っ赤に染める。それは図星を刺された以外の何物でもない反応。
髪の色が赤なので、もはやその境目すら分からないほどに完全な赤。「これはリンゴです」と言っても誰も驚かないかもしれない。


「仕方ないなぁ、あかりちゃんがそこまで言うなら……しよっか?」
「な、なにを?」


分かってるくせに、往生際が悪いなぁ。
艶っぽい瞳で先にある瞳を見つめつつ、微かに濡れた唇に指先を添える。するとあかりちゃんの体がビクンと過剰な反応を見せた。つまりそれはこれから起こることを完全に悟ったということだ。
私はあかりちゃんの腕を強引に引っ張り、柱に押し付けた。


「やっ…だ、ダメだよ、ちなつちゃん…こ、こんなこともう…」
「ふぅ~ん、その割には抵抗しないんだね?」
「っ!」
「別に前みたいに無理やりってわけじゃないんだし、抵抗したいならしてもいいよ?」


あかりちゃんの頬を包み込むように手を添えると、それだけであかりちゃんの頬が赤らみ、瞳が濡れだす。あかりちゃんらしからぬ艶のある色気のある表情だった。
その表情に、不覚にもドキリとさせられる。まったく、あかりちゃんの癖に生意気な。一丁前に女の顔なんてしちゃって。


「あかりちゃん…」
「ぁ…」


あかりちゃんの頬の柔らかさを堪能しながら、私はゆっくりと唇を寄せていく。視線は交差し離れない。お互いの吐息が分かる距離まで近づけて、私はいったん動きを止め、あかりちゃんに囁くように語りかける。


「ね…あかりちゃん…」
「…?」
「私、あかりちゃんなら練習じゃなくてもいいんだよ?」
「……ウソツキ」
「じゃあ…試してみる?」


二人のシルエットが重なったその瞬間――、
校舎から昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。




第三話
~恋と愛の狭間で~


放課後になると、部活動に精を出す生徒以外は大抵真っ直ぐ家に帰るのがセオリーだ。
しかし中には例外というものがあって、すでに廃部となった茶道部室を占拠している『ごらく部』という、部活なのかなんなのかよく分からない部も存在している。
だが、その事はこの作品的に規定事項なので今更とやかく言っても始まらないので黙認しておく。
とにかく今の私にはごらく部の事など考えている余裕は皆無だった。いつもの私なら二言目にはごらく部やら歳納京子やら言ってるけれど、今日に限ってはそれもない。
今日の私は、冗談抜きにして生徒会の仕事が忙しい(予定)なのだ。
半ば早歩きで生徒会室へと向う私こと杉浦綾乃は、締め切りの迫られたアンケート用紙のチェックにこれから大忙しである。しかも今日に限って掃除当番という不運が降り掛かり、すでに30分ほど出遅れているという現状、落ち着いてなどいられない。


「千歳一人で大丈夫かしら? いやでも、大室さんも古谷さんもいるだろうし…、会長だって…」


足を止めずに独り言のように呟く生徒会副会長たる私。
掃除当番だった私とは違い、何の用事もなかった千歳はそのまま生徒会室へと足を運んでいた。先に仕事に取り掛かっているであろう親友を思うと、おのずと早歩きになってしまうのは仕方ないだろう。さすがに廊下を走るのだけは自重していたけれど。


「っと…」


そうこうしているうちに目前に迫った生徒会室。見慣れた扉がすぐ傍まで迫った。
扉の前で一度立ち止まり、呼吸を整えてから、改めて扉を開く。


「千歳、お待たせ! 私も一緒に…って、あら?」


生徒会室に入ると、そこには確かに千歳の姿はあった。しかし千歳はテーブルに突っ伏したまま、まったく反応なし。もしかして体の具合が悪くなって倒れたのかと、一瞬嫌な予感がして半ば駆け足で近寄ってみると、


「すぅ…すぅ…ん、むにゃ…」


千歳は気持ち良さそうな寝息を漏らしつつ眠りに落ちていた。


「はぁ…なんだ、驚かさないでよ」


どうやら仕事をしている最中に眠りこけてしまったようで、千歳の顔の下には、チェック半ばのアンケート用紙が下敷きにしてあった。さすがに涎までは垂らしていなかったけど、もしこれが妹の千鶴さんなら正直どうなっていたかは分からない。


「千歳が居眠りなんて珍しいわね…もしかして昨日夜更かしでもしたのかしら?」


部屋の中を見渡すと、千歳以外は人っ子一人見当たらない。どうやらまだ大室さんも古谷さんも、あの会長ですら来ていないらしい。もしかして全員ピンポイントで掃除当番とか言うオチだろうか?
とにかく気持ち良さそうに寝ているところを起こすのも何か悪い気がしたので、そのまま寝かせておくことにした。
それに仕事の進み具合を見てみると、すでにノルマの半分以上が終わっている。そこはさすが千歳と言うべきだろうか。逆にかなりのハイペースだ。
これなら最悪、誰も来なくても一人でも何とかなるレベルだろう。


「さて…と、それじゃ始めますか」


気持ちを新たにして、千歳の隣の席に座りつつ、アンケート用紙に手を伸ばしたその時だった。


「…綾乃、ちゃん…」
「っ…」


突然千歳に名前を呼ばれてドキリとして反射的に顔を向けたが、どうやら起きた様子はない。相変わらず、安らかな寝顔で笑みさえ浮かべている。どうやら寝言だったようだ。


「な、何の夢見てるのかしら?」


私の名が出ていたのだから私の夢だろうけれど、相手が千歳となると油断はできない。
千歳の事だから、どうせまた私と歳納京子の事を妄想して、


『あ、あかんて綾乃ちゃんっ、もっと優しくせな…、歳納さんハァハァしとるやないの…ハァハァって、ハァハァ…あ、あかんっ!妄想が止まらへーーーん!! ぶほぉぉぉーーー!』


こんな風に夢の中でも鼻血を噴いているのかもしれない。


「まったく…千歳もホント飽きないわよね」


彼女の趣味思考をとやかく言うつもりはないが、毎度毎度鼻血を噴かれたら堪ったものではないので、もう少し抑えてくれると助かるっていうのが正直なところ。


「鼻血の処理も大変なんだからね」


やれやれと思いながらも、変わらぬ彼女の生き様に少しおかしくなって笑みを漏らした。
何気なく彼女の髪の毛に手を伸ばす。軽く撫でてみると、ふわふわとした白銀の髪が私の指の中で零れ落ちた。気持ちのいい髪質。ずっと触れていたいと少し思う。


「こうして見ると、千歳も本当に可愛いのにね」


可愛らしい寝顔に思わず口にしていたが、本当の事なので一々弁解などしない。これが歳納京子相手なら、たぶん持ち前の「素直じゃない自分」を遺憾なく発揮しているだろうけど。
でも、千歳が相手なら私はいつだって自然体でいられるのだ。彼女が私の友達になったあの日から、親友になったその日から、池田千歳は私にとって、歳納京子とはまた違った特別になった。
歳納京子への気持ちが恋慕なら、千歳への気持ちは愛慕……なのかもね。


「千歳…」


千歳の寝顔に母性本能を擽られたのかもしれない。なぜか胸に愛しい気持ちが溢れ、思わず指先をその柔らかな頬に滑らせていた。
その指先はやがて瑞々しく潤った唇へと降り、軽く指でなぞってみる。凄く柔らかくてちょっと湿ってる。


「な、なにやってるのかしら…私」


その行為に気恥ずかしさを覚え、胸を高鳴らせ、体を火照らせる。


「んん~…や~…むにゃ」


擽ったそうに身を捩る千歳の反応が一々可愛い。もう少し悪戯してみたい気持ちになってしまう。好きな子ほど苛めたくなるっていうのはこういう心境の事を言うのかもしれない。


「くすっ…千歳、いつも本当にありがとうね…」


鼻血を噴くのが玉に瑕だけど、それでもいつも私のために一生懸命になってくれる大切な親友。これからもずっと私の傍で、私の事を見守っていて欲しい。
そんな気持ちを込めて、私は自分の顔を千歳に寄せる。


「ちゅ…」


その頬に軽くキスを落とした。それは刹那の時。すぐに顔を上げる。
すると、先ほどまで陶器のように白かった頬がはっきりと朱色に染まっているのに気付く。その様子に怪訝に思いながらも一つの答えに辿り着く私。それが正解かどうかは声を掛けてみれば分かる事だった。


「……千歳、もしかして起きてる?」
「っ」


呼び掛けに反応するように、千歳の体が小さく震えた。
その反応はもはや肯定しているのと一緒だろう。
私は軽く溜息をついて、千歳に話しかける。


「もう、いったいいつから起きてたのよ」
「……綾乃ちゃんの指がうちのほっぺに触れたときや」
「言ってくれたらよかったのに」


静かにそっと目を開けた千歳は、頬を赤らめたまま、軽く伸びをして起き上がった。


「最初は黙っとこ思うたんやけど、綾乃ちゃんてば急にお礼言うてホッペにちゅーするんやもん。さすがのうちも無反応ってわけにはいかへんよ」


先ほどのキスを思い出したのか、千歳の耳が桜貝のように赤く染まる。
軽く頬を膨らませたその表情は、怒っているようにも取れるし、照れているようにも取れる。しかしいまいちどこかはっきりしない。ただ、もしかしたらそのどちらも当てはまるのかもしれないが。


「ご、ごめんなさい…その、嫌だったかしら?」
「い、嫌やあらへんよ…、ただなぁ、ああいうことはうちやのうて、歳納さんにしたったらええやないん?」
「なっ!? なな、何言ってんのよっ! そ、そんな事出来るわけないでしょっ! ど、どうして私が歳納京子なんかにっ!」


思いがけない反撃に、私の顔が一瞬で真紅に染まる。
歳納京子相手にキスなんて正直逆立ちしたって出来ない。それが杉浦綾乃クオリティー。きっと10人に聞けば10人がヘタレと言うだろうけど、歳納京子を前にしたら余裕なんてありま温泉なのよ!
ただ千歳にとってその返事は半ば予想通りだったのか、少し呆れた風に「相変わらず素直やないなぁ」と苦笑いを浮かべながら首を横に振った。


「にしてもや、綾乃ちゃんて意外と女たらしやねんね? 歳納さんだけや飽き足らず、うちにまで手ぇ出すんやらから。いくらなんでも二股なんてあかんよ?」
「んなっ! べ、別に二股なんてしてないナイアガラよっ!」


とんでもない事を平然と言い出した千歳に、思わず持ちネタの駄洒落で反論していた。しかし千歳は意に介した様子もなく、くつくつと楽しそうに笑うばかり。
挙動不審になる私を余所に、千歳は私との距離を一気に詰めると、耳元に唇を寄せて、


「ツンデレさんもええんやけどなぁ…、あんまり素直やないと、そのうち歳納さん、誰かに取られてまうで?」


まるで子守唄のような優しい声でそう囁いた。


「うぐっ…べ、別に歳納京子なんて…っ!」
「そうなん?」


どこまで行っても素直になれない私に千歳は笑顔を崩さずに、そして何かを思いついたように悪戯っぽい笑みを浮かべると、


「ほんましゃーないなぁ、ほんなら綾乃ちゃんのこと想うとるどっかの誰かさんが、歳納さんに告白する前に、綾乃ちゃんのこと攫ってまうかもしれへんで?」


「え?」と思ったのも束の間、千歳は私の頬にその柔らかな唇を寄せ、軽くキスをした。
ちゅっと言うリップ音。柔らかな唇の感触。ふわっと香る千歳の甘い匂いに、私の顔が途端にカァっと熱くなる。
反射的にパッと千歳から離れて、唇の触れていた所に手を添えると、触れていたところがやけに熱く感じる。そして消えることのない唇の感触に胸のドキドキが止まらなかった。


「ち、ち、千歳ぇっ!?」
「あはは~♪ じょーだんや、じょーだん♪」


二人きりの生徒会室に、私の叫び声と千歳の笑い声が響き渡った。
千歳は屈託のない笑顔で、ペロリと舌を出してウインクして見せる。その笑顔が妙に印象的でドキッとさせられたのは内緒だ。
千歳の真意がなんであれ、あの言葉が本当なのか嘘なのか、実際のところそれは千歳にしか分からないけれど、


「んもー! 千歳のバカァー!」
「うふふ、綾乃ちゃん顔真っ赤や~♪」


しかしそれでも、たった一つだけ分かることがあった。
どうやら私はこの先も、千歳に振り回され続けるのだろうって…。
彼女の笑顔を見ていると、自然とそう思ってしまうのだ。




最終話
~たった一つの冴えたやり方~


たとえ次の日が学校であろうと、京子が放課後そのまま私の部屋に泊まりに来るのは珍しい事じゃない。
それはすでに日常になりつつあるが、それに慣れていきている私も大概なのかもしれない。
何はともあれ、ただいまの時刻は夜9時を少し過ぎたあたり。夜はまだまだ長い頃合いだ。
夕食もお風呂も済ませ、あとは寝るだけではあったが、同じ幼馴染のあかりならいざ知らず、夜9時で眠るなんて芸当、とてもじゃないが真似は出来ないので、私達は自然と眠くなるまでの間、その時間を趣味にあてていた。


「ラムレーズンうめぇっ!!」


テレビの前で肩を並べて座る私と京子。
ゲームに夢中になっていた私の横でラムレーズンを食べていた京子は、その瞳に星を飛び散らせんばかりの輝かしい笑顔を放ちながらお約束の一言を叫んだ。
私はバカみたいに響き渡るその声に思わず片手で耳を押さえて渋い顔をする。


「いちいち大声出すな! 叫ぶなら心の中で叫べバカ!」


一応防音完備となっている部屋ではあるが、それでも隣近所に聞こえてしまわないか少し心配になる声量だった。


「あれ~、口に出してた?」
「思いっきりな」
「う~む…無意識とは恐ろしいものですなっ! なーんて♪」


自分には非はないと言わんばかりに、笑顔のままラムレーズンをかき込み続ける京子に、思わずコントローラーから指を離して大きな溜息を付いた。
ジト目で睨みつけるも、京子の笑顔は崩れない。
言い訳ならもっとマシな言い訳考えろと言いたいが、京子にそれを言っても無駄なことは百も承知。きっと京子自身、言い訳とすら思っていないだろう。ああ言えばこう言うのが京子なのだから。それは今に始まったことじゃない。


「絶対無意識じゃないだろ…それ。ていうか前から言おうと思ってたんだけど、ラムレーズンって一応高級銘柄のアイスなんだから、そんなご飯かき込むように食うな。勿体無いだろ」


呆れ顔でそう言って聞かせるが、京子は意に介した様子もなくどこまでもにこやかだった。


「ふっ、結衣はバカだな~。ちょびちょび食べたってさぁ、ラムレーズンの本当の美味さは理解できないんだよ」
「ほう。そのラムレーズンはいったい誰が買ってきてやっ――」
「ラムレーズンが口の中一杯に溶けた時、世界が変わると言っても過言じゃないね!」
「聞けよ人の話…。ていうか、世界とはまた大きく出たな…」
「結衣も試してみたらいーよ」
「遠慮しとく…絶対お腹壊しそうだし」


溜息の尽きない私を他所に、京子は変わらず屈託のない笑顔でラムレーズンに喰らいつく。


「つまり何が言いたいかって言うと、高級だろうとなかろうと、好きなものには手加減なんかしたくないってこと。好きなものには常に全力で、それが私の生きる道なのだっ! ラムレーズンしかり! ミラクるんしかり! ちなつちゃんしかり!」


ふんっ!と胸を張る京子に、やれやれと首を振る私。
とりあえずちなつちゃんには迷惑が掛からない程度にフォローしておかないと後々厄介な事になりそうだ。私が止めに入らないとこいつはどこまでも突っ走るからな。


「分かったから少し黙ってろよ。ご近所迷惑だから」
「えー、そんな事言わずにもっと付き合ってくれよぅ。結衣ってばゲームばっかで私の相手をするっていう重大な任務を忘れてないかい?」
「はいはい、後でな」


横でブー垂れる京子を軽くあしらいつつ、私はコントローラーを握る手に力を込め、画面に集中した。
そう言えば、京子の相手をしている暇など皆無だった事を思い出す。


(まったく、どこまでやったか忘れちゃったじゃないか…)


最近のRPGは大抵ラスボスを倒した後に隠しダンジョンやら隠しボスなどが存在するが、私は今まさにその隠しダンジョンを制覇し、隠しボス一歩手前でステータスチェックをしている最中だった。
さすが隠しダンジョンというだけあって敵の強さは並じゃないし、倒した時に得られる経験値もバカには出来ない。レベル上げの好きな私としては、敵を倒した傍からポンポンとレベルが上がっていくのは、正直見ていて笑いが止まらなかった。
まぁ、さすがに京子みたいに声に出して笑ったりはしなかったけど…。


「えーと…」


スキルや技、装備や手持ちアイテムなどのチェックを入念に行い、これからの戦闘に備える。そこそこレベルを上げれば倒せるラスボスと違い、今回のボスはレベルが高くても倒せるかどうかという難敵。戦い方一つで変わってくるので、ここはしっかりと確認しなくてはいけない。


「……これで負けたら、当分このゲームできないかもな」


何せここで負けたら隠しダンジョンに乗り込む前の状態のデータに戻ってしまうのだ。上げたレベルも当然元に戻ってしまう。せめて隠しダンジョン内にセーブポイントの一つでもあれば安心できたものだが、どうやらこのゲームはそこまで良心的に作られていないらしい。


「まぁいいか、ないものねだりしたってどうにもならないし」


それに今の私にはそれなりの自信と確信があった。
必ず勝てるという絶対的なまでの自信と確信が。


「よし…こんなもんか」


満足の行く結果に気合十分。いったんコントローラーを置いて、自分の頬を両手で叩いた。
少しジンジンと痛むが、眠気覚ましには丁度いい。
さて、そろそろ最強の敵相手にケンカを売りに行こうかと、ステータス画面を閉じようとキャンセルボタンを押そうとしたその時だった。
ふと、私の膝辺りに、今さっきまで感じなかった確かな重量感を感じた。


「…ん?」


気になって視線をそのまま降下させると、そこには膝枕よろしく私の膝の上に我が物顔で頭を乗っける京子がいた。


「おい京子…重いんだけど」
「重いなんて失礼なっ! 羽のように軽いこの私に向って何たる暴言、腹を切って詫びろ!」
「冗談言ってないでさっさとどけ。今いい所なんだから」
「ぶぅー、結衣冷たい! ラムレーズンより冷たいよ! 私はこんなにも結衣を想っているのに!」


まるで癇癪を起こした幼い子供のように、私の膝の上でジタバタと暴れる京子。いつにも増して傍若無人なその様子に、いったい何がそんなに気に入らないのかと不思議で仕方がない。ただ私としては早くボスと一戦交えたいので適当にあしらっておくことにする。


「分かった分かった。お前が私を想ってるのはよぉ~く分かったから。だからもう少しだけ待ってろ。な?」
「その台詞、もう10回聞いた。なのに結衣ってば私の事なんかそっちのけでゲームゲームだし。さすがの私も結衣の愛を疑うよ」
「愛って…そんな大袈裟な。ていうか…10回も言ったか?」
「言った」


どうやらいつにも増してゲームに夢中になっていたらしい。京子が言うにはそうらしいが、私にはまったく身に覚えがなかった。どうやら無意識に言い放っていたらしい。


「京子もさっき言ってただろ? 無意識は恐ろしいものって」
「屁理屈言うなっ!」
「屁理屈じゃ、ないんじゃないか?」


無下に扱うのもそれはそれで悪い気がしたが、しかしそう思う反面、この状況も仕方のないことだと諦めている自分もいた。
何せ相手は未知のダンジョンに人知を超えた敵だ。一度死んだら終わりというこの状況では、いつも以上に神経は研ぎ澄まされ、集中力も並ではなかったりする。


「ぶぅー!ゲームより私に夢中になれよぅー!」
「ったく、子供かお前は…。ちょっとは我慢できんのか」


そう言って突き放すと、京子の目尻には涙を浮かびあがっていく。
あ、ちょっと言い過ぎたかなと思って、すかさずフォローしようとすると、京子は突然起き上がり、私の胴体目掛けて突進してくる。それはまるでラグビーのタックル並みの勢いだった。容赦の欠片もない攻撃に仰け反りそうになったが何とか堪える。


「お、おいっ…京子! は、離せよ!」
「ん~、やぁ~!」


駄々っ子みたいに、思い切り私にしがみ付いて離さない京子。力いっぱい抱きしめて、自分の頭をグリグリと押し付けるように頬擦りをしてくる。もう何を言っても離してもらえそうになかった。
これでも京子との付き合いは長い。
彼女の全身から放出されている「かまってオーラ」を嫌でも感じ取ってしまう。今でこそ思うが、もしかしたらさっきの「ラムレーズンうめぇ!」も私の気を引くためのものだったのかもしれない。


「はぁ…やれやれ」


弱ったな…と思いながらも、涙ぐむ京子のその様子に、昔の京子の面影が重なって見えて少し懐かしい気分になる。
泣き虫で、いつもビクビクしてて、私やあかりの後ろを片時も離れず付いて回っていたあの頃。最近ではそんな弱々しい京子も見なくなって少し寂しい気持ちだったが、たまに見せる記憶の中の懐かしい京子に、愛おしい気持ちが溢れ出してしまう。


「京子…」
「…なに?」


幼い子供相手にするように、優しく頭を撫でながら名前を呼んでみると、京子はちょっとぶすっとした様子で、しぶしぶ顔を上げた。
案の定、京子はその瞳を涙で濡らし、口をへの字に曲げていた。そんな京子を少し可愛いと思ったが、これ以上機嫌を損ねたら後々厄介なのでさすがに自重する。


「あとでまたラムレーズン買ってやるから、だから機嫌直せって」


とりあえず京子の好物で釣ってみたのだが、


「ぶー、いつもラムレーズン与えとけば大人しくなると思ったら大間違いだぞぅ」


思いのほか京子の反応は悪かった。
頬をぷく~っと風船みたいに膨らませて、珍しく怒った様子で食って掛かる京子に少し唖然とする。あの京子がラムレーズンに釣られないとは、これは相当根が深いのかもしれない。
さすがにこう何度も食べ物で釣られてはくれないか、と遺憾に思いながらも、だからと言って他に策がないわけじゃないのでここで諦めたりはしない。


「仕方ないな…」
「え? あっ」


出来れば使いたくなかったけどこうなったら最後の手段だ。
私は軽く溜息を付いて、京子の背中に腕を回した。ちょっと強いくらいの力でグイっと抱き寄せて。京子は突然の事に無抵抗のまま驚き声を上げるが、私はそんなの待ったなしで、京子の顔に自分の顔を近づけた。
そして――、


「ん…」
「~~っ!?」


勢いそのままに重なった私と京子の唇は、軽いリップ音の後に一つに溶けて交わる。
薄目を開けて京子の様子を確かめると、京子は気ぐるみパジャマのトマトよろしく真っ赤になって、声にならない声を絶えず上げていた。
思いのほか可愛らしい反応に胸の奥がキュンとする。もっとキスしていたいって気持ちに駆られたけれど、そこは自重してそっと唇を離した。
真っ赤になった京子の顔を隠すように間髪入れずに胸元に抱き寄せて、


「これでしばらく我慢してくれ。あとちょっとで終わるから。そしたら一緒に遊ぼう。な?」


そっと耳元で優しく囁いてやると、


「う、うん…」


すっかり大人しくなってしまった京子の出来上がり。
トマトみたいな顔は隠れてしまっているが、残念ながら耳まで赤くなっているのは隠しきれていない。これじゃ私の気遣いが水の泡じゃないか、やれやれ。


「ふふっ」


だけどそれはそれで予想通りの反応。期待を裏切らない京子に私は堪らず笑みを漏らした。
単純なように見えてちょっぴり複雑で、複雑なように見えてやっぱり単純なんだよな。


「さて、それじゃあボス倒しに行こうかな」
「……即行で終わらせてよ?」
「はいはい」


どうやら隠しボスを倒した後の余韻には浸らせてくれないらしい。
やれやれ。まったくもって困ったお姫様だな。




おしまい

[ 2011/10/05 20:46 ] 未分類 | TB(0) | CM(5)
ちょ…いつのまにこんな大作を…
もー流石です!!脳内にキマシタワー
建設されましたwwww

しかも結京も…\(^o^)/
かなーり、2828させて頂きましたっw
[ 2011/10/05 22:52 ] [ 編集 ]
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[ 2011/10/08 00:14 ] [ 編集 ]
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[ 2011/10/08 00:37 ] [ 編集 ]
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[ 2011/10/09 07:10 ] [ 編集 ]
もっとちなあか作ってください素晴らしいです!!!!
[ 2011/10/12 21:58 ] [ 編集 ]
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