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とある百合好きの駄文置場。二次創作SSやアニメ・漫画等の雑記中心。ゆいあずLOVE!

ゆるゆりSS 櫻子×向日葵 『変わるものと変わらないもの~前編~』

※懲りずに高校生な二人、第3弾。
※追記からどうぞ。




季節は春。
春風に舞う桜は人々の心情などお構いなしに散りゆく運命だが、いっそ桜の花びらと一緒に自分の悩み事も散ってしまえばいいのに、と向日葵は半ば本気でそう思っていた。
桜側からしてみれば「さすがに無理な相談だ」と口を揃えるかもしれないが。


「…はぁ」


向日葵は、春の陽気には似つかわしくない溜息をついた。
彼女の席の半径1m範囲も、どこか哀愁が漂っている。

今年18歳になる高校三年生。それが現在の向日葵の肩書。悩み多き年頃とは言え、最近は溜息の数も増える一方だった。
その原因はやはり、時の流れが生み出した産物だろうと思わなくもないし、来年には大学受験を控えている身ということもあり、心と体の成長に伴う情緒の不安定さも相まって、それらは間違いなく彼女の心を蝕み続けている。

端的に言えば、心の疲れ。つまりストレスだ。

溜まりに溜まったそれはイライラとなって日増しに酷くなっているが、それを他人にぶつけるわけにも行かず、一人悶々としている日々を送っているのが現状だった。
そして今日もまた、そのストレスの一端を担っている要因に溜息の嵐は尽きないのである。


「ねぇねぇ。櫻子ちゃんって誰か好きな人いるの?」
「え? べ、別にいないってそんなのっ!」
「ふぅ~ん。まぁ、櫻子ちゃんには向日葵ちゃんっていう彼女がいるもんね」
「なっ…ひ、向日葵は関係ねーしっ!」
「まったまたぁ~♪」


ストレスの一端、否、ストレスのほぼ9割を担っている大室櫻子が、クラスメイトと談笑している姿が向日葵の目に留まった。
向日葵はその様子を机に頬杖をつきつつ遠目で眺めていた。その様子は傍から見たら「恋する乙女」の心情に似ていたが、とりあえず彼女にそんな意図は欠片もない。


(今、私の名前が出ていたような…? まぁいいですわ)


話を聞く限り、どうやら女子高生らしく恋バナで盛り上がっているらしい。
女子という生き物は、いつの時代も他人の恋愛話が好きな存在なのだ。


(…あまり理解はできませんけどね…)


正直何が楽しいのか、と。同じ女子としてはどうかと思うことを平然と心の中で呟く。
昔の記憶を掘り返す限り、今に至るまで恋愛らしい恋愛をした記憶がまるでない向日葵。だからこそ、そう言う思考に行き着いてしまうのだ。半ば仕方のないことだろう。
そしてそれは、櫻子も同じなのだろう……と、向日葵は確信していた。
不本意ながら櫻子との付き合いの長さもそこそこの向日葵。恋愛話が出ると決まって狼狽し始める櫻子の態度がそういう結論に至らせた。
とは言え、結局のところ、二人にその意思があろうとなかろうと、周りはそんな事はお構いなしなのだ。


「そう言えば櫻子ちゃんさぁ、この間も下級生の子に告白されてたじゃん? 実はもうその子と付き合ってたりして~」


ふと耳に飛び込んできた“告白”という摩訶不可思議な単語に向日葵の体が過剰に震える。それは無意識の反応だった。


「い、いやいや! ぜ、ぜんぜんそんな事ないって。ちゃんと断ったし!」
「え~、そうなの? 勿体無いなぁ。でも相変わらず記録更新中なんだ? 難攻不落の要塞は伊達じゃないね」
「な、難攻不落って…、だからそんなんじゃないってば! ていうか、もういい加減この話やめない?」


どうやら櫻子は下級生の子から愛の告白をされたらしい。
詳しい話は良く聞こえないが、向日葵にはとりあえず思うところがあった。


(また…ですのね)


また――と言うからには前にもあったという事になる。
そう、その通り。事実は事実、変えようがない。
櫻子は、頻繁に愛の告白というものをされていた。
あの櫻子が、だ。


(まったく…櫻子のどこがいいのかしら…)


その告白を受け入れているのか、断っているのか、それは知らないし、知りたくもない。そもそも櫻子自身が話さないことを聞く気にもなれなかった。だいいち自分が気にする事でもない。

――櫻子が誰と付き合おうと、そんなの、私には全く関係ないもの…。


(そう…関係ない、はずなのに…)


なのに、櫻子が自分以外の誰かと親しげにしている様子を思い浮かべるだけで、向日葵の胸の奥に鈍い痛みが走った。


(もうっ…いったいなんなんですの…!)


意に反する胸騒ぎ。向日葵は思わず胸を押さえて憤慨する。
思えば、あの櫻子が、今のように人気が出始めたのはいつの頃からだっただろうか。思い返してみると、それほど過去の話でもないような気がした。
確か高校二年生に進級し、それほど経たない頃にはすでに今のような状況だったような。特に下級生の女子からの人気は目を見張るものがあり、それは現在進行形で増え続けている。
対象は下級生が主だが、稀に同級生も含まれていた。

核心的な話、櫻子が人気の理由はさほど難しい話じゃない。
単純な話、櫻子は告白をされるほど魅力的だと言うこと、その一言に尽きる。いや、この場合、告白されるほど魅力的になってしまったというべきか。

中学の頃はさほどでもなかったはずなのに――というかほとんどなかったというのに――時間の流れとはかくも恐ろしいものだ、と向日葵は考える。
中身は相変わらずのお子様なのに、その容姿だけは無駄に目を引く。言い換えれば美形。世俗な言葉を使うならイケメンという奴だ。その言葉が女子に当てはまるかどうかは定かではないが、そう言った言葉がしっくりくるのは確かだった。


(…イケメン…イケメン、ね…あの櫻子が…)


この数年を鑑みるに、一番変化が著しかったのは櫻子なのかもしれない。
いつの間にか向日葵を追い抜いてしまった身長は、女子の割に高いほう。向日葵とはすでに6cmも差がついている。おかげで櫻子の顔を見るときは一々見上げなくてはいけなかった。


(…私なんて中学の頃からあまり身長は伸びていませんのに…)


逆にコンプレックスの塊である胸囲ばかり育ってしまう始末。まるで身長にいく栄養がすべて胸に吸い取られてしまっているような気がしてならない。誠に遺憾ともしがたいものがある。

話を戻すが、櫻子が容姿的なもので目を引く理由は、何も身長だけという話じゃない。
その整った顔立ちや、ウェーブの掛かった肩まで伸びる色素の薄い明るい茶色の髪にしてもそう。
さらには前髪からチラリと覗く釣り目がちな瞳。下手に見つめたりしたらさぁ大変。心臓ごと射抜かれ、鷲摑まれてしまうのがオチだった。
その視線の鋭さが一見強面の印象を与えがちだが、逆に中身の子供っぽさがいい感じに作用して、そのギャップが堪らないという人もいるとかいないとか。


(ふんっ…何がギャップですのよっ! 櫻子の良い所も悪い所も、付き合いの長い私が一番よく分かってますわっ!)


ふつふつと、向日葵の心中に言い知れぬ怒りが湧きあがった。
そして心の中で思わず無意識に口にしていた言葉にハッと我に返る。心の中で叫んだ言葉を思い返し、途端にカァっと顔が熱くなった。
頭を勢いよくブンブンと振る向日葵。


(わ、私は、いったい何を考えているんですのっ?!)


櫻子を絶賛する言動が見え隠れしていた。それだけでは飽き足らず、これではまるで櫻子に想いを寄せる相手に嫉妬しているみたいではないか。そんな事絶対にあるはずがないと思いつつも、それでも意に反する感情に戸惑いを隠せない向日葵。


(わ、私、別に櫻子の事なんて…!)


誰もそんなことは聞いていないのだが、自問自答とはそう言うものだ。
屈託のない笑顔で笑う櫻子を見ていると、胸の奥がギシリと軋んだ。胸の奥が無性にざわついてならない。櫻子を見ているだけで、自分が自分じゃなくなってしまいそうな、そんな感覚。

この胸の奥に、しこりのように残るこの気持ちは何――?

考えたところで答えは出なかった。思考の堂々巡りが関の山で、今の向日葵には、その答えを出せるほどのゆとりは持ち合わせていなかった。

大室櫻子。

物心ついた頃から一緒に過ごしてきた幼馴染。
喧嘩ばかりでお世辞にも仲がいいとは言えないけれど。


(どうして…それで納得できないんですの…?)


自問自答は続く。何が不満なんだろう。自分はいったい櫻子に何を求めているんだろう。櫻子との関係をどうしたいんだろう。思案することはどれもこれも明確な答えの出せない事ばかりだった。


(…もう、やめましょう…)


抜け出せない迷路に嵌った思考を強制的に戻すように、軽く頭を振って、溜息をつく向日葵。
こんな、いつ終わるとも知れない自問自答をいくら繰り返したところで何も親展しないことは目に見えていた。だからこそ向日葵は考えるのをやめたのだ。


「はぁ…」


向日葵は、同年代の女子のそれに比べるといささか大きすぎの胸に手を添えて深呼吸を繰り返す。大きな胸が軽く揺れ動いた。
深呼吸のおかげで幾分か落ち着きを取り戻した向日葵は、今一度頭を振る。


(…いけませんわね…最近こんなのばっかりですわ…気をつけませんと…)


何にしても、櫻子に変に思われるのだけは避けたい向日葵だった。
しかし、そう思っていたのも束の間――。
それは運命の悪戯か悪魔の罠か。いや、悪魔の罠の方だろう。それは油断して無防備になった向日葵の心を待ち望んでいたかのように容赦なく仕掛けられる。


「っ…!」


心臓が止まる思いとはまさにこのこと。
ふいに、クラスメイトとの雑談に夢中になっていた櫻子と向日葵の視線が交差する。
思いがけない偶然に息を詰まらせる向日葵。
それは本当にまったくの偶然。別に意図してやったわけじゃなかった。
当然それは、目を離せば済むだけの話。なのにそれができない。まるで複雑に絡まりあった糸のように、金縛りにあったかのように、その瞳の深さに視線を外すことが出来ない。
それは時間にしたら数秒という短い時の中だった。
だが、向日葵には数分にも長く感じていた。

――衝撃は次の瞬間だった。

櫻子は何を思ったのか、向日葵に向って「にししっ♪」と、無邪気な笑顔で笑ったのだ。


「~~~っ!?」


その瞬間、向日葵の顔面が灼熱の業火に見舞われた。そしてそれは連鎖反応を引き起こし、胸の奥がキュンっと締め付けられたと思ったら、気づいた時には体の芯が火照っていた。


(なっ、なっ、なんて顔で笑うんですのっ! こ、こんなのぜったいおかしいですわっ!)


目を引く容姿に、その子供っぽい笑顔が相乗効果を発揮し、とてつもない破壊力を生み出す。つまり向日葵を動揺させるには十分な威力を誇っていたわけだ。胸キュンどころの騒ぎじゃない。


(うぅ~っ! 櫻子の馬鹿っ!!)


「櫻子のくせに生意気ですわ!」と、心の中で一人ごちながら、今度こそ勢いよく顔を逸らす。真っ赤に染まった顔を隠すように、心の動揺を悟られないように、窓の外を見つめて、無関心を装った。



 *



その日の放課後――。
向日葵は3日後に迫った学力テストに備えて、最後の追い込みをかけるべくテスト勉強に勤しんでいた。
ここは向日葵の自室である。
中学の頃は妹の楓と二人部屋だったが、高校に上がった頃に一人部屋となった。あの頃に比べればだいぶ模様替えされたその部屋に、カリカリとシャーペンの芯が走る音が響いている。


「…この問題は…この公式を当てはめて…」
「う~~~~ん…」


シャーペンの音は2本。
やはりと言えばそうだが、そこには向日葵だけでなく、櫻子の姿もあった。まるでそこにいるのが当たり前のように。我が物顔……というわけではないが、ここが自分の部屋だと言わんばかりにくつろいでいる。


「ねぇ向日葵。ここ分かんない、教えて」
「たまには自分で考えたらどうですの? そんな事じゃいい大学には行けませんわよ」
「ぶー、別に大学なんてどこでもいいもん。ところで向日葵はどこの大学行くの? この間の進路調査出したでしょ?」
「それを聞いてどうするのよ? 私がどこに行こうが、櫻子には関係ないでしょう?」
「いいじゃん教えてくれたって。参考までに聞いておきたいの!」


目の前のテスト勉強そっちのけで向日葵の進路を聞きたがる櫻子。


「はぁ…一応、第一志望は**女子大ですわ」


向日葵は呆れながらもしぶしぶ自分の予定進路を告げた。結局、第二志望も第三志望も話す破目になってしまったが。


「ふーん、じゃ私もそこにしよっと」


さも当然のように、櫻子はあっけらかんとのたまった。


「はぁ? 何言ってるんですの? 冗談も休み休み言いなさいな」
「冗談じゃないし。どうせ行くなら向日葵と同じとこがいいなって、前から考えてたんだ」
「っ」


思いがけない回答に、向日葵の心臓が飛び跳ねた。
深読みなどしたくはないが、それではまるで、自分と一緒にいたいから同じ大学に行きたいと言ってるようなもの。

――ま、まさか…本当に? いや、櫻子に限ってそんな…。


「ど、どうして…私と同じところに、行きたいんですの?」
「え? だって私がいないと、淋しんぼの誰かさんが泣いちゃうじゃん?」


櫻子はさも当然のように真顔でそう言った。


「いやぁ、私って超優しぃー!」
「そ、そう…誰かしらね、その淋しんぼとやらは…」


向日葵のこめかみ辺りがピクピクと痙攣する。


「ま、誰とは言わないけどね」


とか言いながら、口元に手を当ててニヤニヤと笑みを浮かべる櫻子。
そもそも自分と同じ大学に行きたいと言っている時点で、その『誰かさん』が該当する人物は一人しかいないという事に気付かない向日葵じゃない。

――つまり、誰かさん=私。フザケルナ、ですわっ!!


「ふ、ふんっ…その誰かさんも、櫻子がいないくらいで泣いたりはしないんじゃないかしら? 逆にせいせいするんじゃありませんこと?」
「そ~お?」
「そうですわよ。櫻子ごときが……自惚れるのも大概になさい。見苦しいにもほどがありますわよ」
「でもなー、その誰かさんって意外と泣き虫だしぃ、私が傍にいてやらないと一生独り身な気がするんだよね」
「なっ!? 失礼にもほどがありますわよ櫻子!! 誰が一生独り身ですって?!」
「べっつにー、誰も向日葵の事だなんて言ってないしー」
「ぬぐぐっ…!」


失礼極まりない言動の数々に、向日葵の堪忍袋が切れそうになる。
でもここは大人の貫録を見せつける場面。見た目ばかり変わって中身はまったく変化のない櫻子相手に怒りをぶつけるわけにもいかない。子供相手には子供の目線になって言って聞かせなければいけないのだ。
それが責任ある大人の対応と言える、と向日葵は考えていた。


「ま、まぁいいですわ。百歩譲って私と同じ大学に行くのは認めましょう。でも言っときますけど、今の櫻子の成績じゃ逆立ちしたってその大学には受かりませんわよ」
「え、マジ?」
「そりゃそうですわよ。伊達や酔狂で行けるような大学じゃないんですから」
「じゃあ向日葵に家庭教師してもらおっと。つーわけで、私が大学行けるように勉強を教えることを命ずる。付きっ切りでよろしく!」
「どこまで図々しいんですのあなたは!?」


向日葵は、思わずテーブルをダンっと叩いて身を乗り出した。


「うむ、よきにはからえ」


ふんっ、と胸を張って、どこまでも偉そうな櫻子。


「はからいたくありませんわ!!」


とか反論しつつも、要点を纏め分かりやすく勉強を教えている辺り、向日葵も相当甘いのかもしれない。それは小学、中学と変わらない彼女たちの関係そのものだった。


「やっぱ向日葵って私への教え方上手いよね? そんなに私の事好きなの? ちゅーしたいの?」
「死ねごくつぶし」
「いい加減オブラートに包むことを覚えろよ!」
「櫻子相手にその必要はありませんわ。ていうか、真面目にやらないならもう教えてあげませんわよ?」
「ぶー、向日葵ノリ悪い! そんなんじゃ嫁の貰い手ないぞ!」
「うっさいですわ! そんなの余計なお世話ですわよ!」
「ていうか実は向日葵って私の事好きでしょ? 割とマジで」
「すっ…は、はぁ!?」
「だってさぁ、なんか最近、向日葵から熱い視線を感じるだよね。恋する乙女の視線ってやつ? ま、モテモテの櫻子さまを好きになっちゃう気持ちは分からないでもないけどね~」
「なっなななんっ?!」


向日葵の顔が、羞恥からカッと赤く染まった。ぱくぱくと口を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返している。
そんな向日葵に対し、櫻子はニヤニヤとした笑みを浮かべて、さらに彼女を追いつめていくのだ。


「へへっ、大丈夫だって~、向日葵が淋しくて死んじゃわないように、この櫻子さまが一生介護してやるから、だから心配すんなって♪」
「だ、誰も心配なんてしてませんわ! て、ていうか勝手に私の好きな人をあなたにしないでくださる?!」
「え、じゃあ誰が好きなの?」


櫻子は首を傾げながらクエスチョンマークを浮かべる。


「櫻子じゃないことだけは確かですわ」
「つまりそれって、私以外考えられないってことだよね?」
「どこをどう聞いたらそう言う解釈になるんですのっ?!」
「まぁまぁ、いい加減素直になれって♪ 私たち来年には大学生になるんだよ?」


このままでは本当に自分の好きな人が櫻子だと勘違いされたまま話が終わりそうで気が気じゃない向日葵。それだけは絶対に避けたかった向日葵は、意気揚々と反撃の狼煙を上げる。


「そ、そういう櫻子はどうなんですの? 聞きましたわよ? 先日もまた下級生の子に告白されたそうじゃない。毎度毎度飽きもせず告白されているようですけど、その中にちょっとは気になる方もいたんじゃなくて?」


今度は櫻子が顔を赤くする番だった。


「なっ…べ、別にいないしっ! ていうか今までの告白はぜんぶ断ったもん!」
「あ、あら…そうなんですの?」


その事実にほんの少しホッとしている向日葵だった。心中は遺憾だらけだったが。
断った理由も多少気になりはしたが、それを詮索するのは気が引けた。というか、櫻子に気があると思われそうで、それが向日葵には嫌だった。
しかし彼女がどう思おうと関係ない。しばらく思案していた櫻子は、意味ありげに唇の端を歪めると、その理由を勝手に話し始めたのだ。


「だってさぁ、私が誰かと付き合ったりしたら、どっかの泣き虫おっぱいが傷心のあまり自殺しちゃうかもしれないだろ? あのおっぱい、態度とおっぱいだけは人一倍デカいくせに、かなりデリケートだからさ。ホント、私も気を使うの大変だよ」


やれやれと首を振る櫻子に、今度こそ向日葵の堪忍袋の尾は切れた。
形容するなら、ぷっつんと言うより、ぶっつんとだ。


「さ~く~ら~こぉ~! 誰が泣き虫おっぱいですってぇ!? いい加減にしないとその舌ねじ切りますわよ!?」
「はんっ! 別に向日葵の事だなんて言ってないしっ! 自惚れんなこのおっぱいバカっ!」
「今おっぱいって言ったじゃないのっ?!」
「ふんっ、最初のは別人おっぱいだし! あ、まさか向日葵のために告白断ったとか思ってんの? そっちの方が自惚れてんじゃん!」
「なんですってぇー!」
「なんだよー!」


バチバチと火花を散らしながら睨みつけることしばらく、我慢できなくなった二人は、互いに掴みかかり、ゴムのように伸びるその頬を際限なく引っ張りあった。
いつ終わるとも知らない不毛な喧嘩、それはその後30分ほど続くのである。



―次へ―
[ 2011/09/29 21:17 ] 未分類 | TB(0) | CM(0)
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