※高校生になったちょっぴり大人な二人のお話。
※少々エロめ、R-15くらい。
※追記からどうぞ。
抑えられないこの衝動は、貴女がくれた必然だった―――。
とある日の休日。時刻は15時を回って少し過ぎた辺り。
1週間後に迫った期末試験の勉強を始めて2時間余りが経った頃、休憩がてら筋肉の緊張を解きほぐすように背筋を伸ばした。
猫背のまま固まっていた筋肉がいい感じに和らぎ、心地のいい感覚に思わず目を細めた。
ほぅっと熱い吐息を漏らしながら力を抜いて、それからテーブルの傍らで転がっていたシャーペンを握る。
さぁ、勉強再開だ。
――その時だった。
ふと、共に試験勉強に勤しんでいた千歳の横顔が目に留まる。
自然と手が止まり、彼女の何気ない仕草を目で追った。
なぜ、なのかは自分でも分からない。
毎日のように見ているはずの千歳の顔に何らかの変化があったかと言えばそうでもない。
なのに、何故か目が離せない。
理解が及ばない自分自身の感情に戸惑いつつも、ただ一つ心が感じていたもの。
それは、
(…千歳って、本当、可愛いわよね…)
何を血迷った事を。そう思わずにはいられない事だった。
邪まと言えば邪まな考えに、首を振って考えを改めようと試みる。
しかし一度巡った思考はそう簡単には覆ることはなく、考えないようにすればするほど頭の中は千歳の事で埋め尽くされていく。
(…どうして、なのかしら…)
確かに、千歳は昔から可愛いらしい子だったし、高校生になった今もそれは健在で、中学生の頃は感じることのなかった大人びた雰囲気も最近になって感じさせるようになった。
ただ、中身はさほど変化はない。
私と歳納京子で妄想するのは相変わらずで、メガネを取れば鼻血も噴く。それが彼女の生きる道、個性と言ってしまえばそれまでだが、千歳の未来が心配にならないと言えば嘘になる。
(千歳は変わらない…、なら、変わったのは私かしら…?)
千歳を意識するようになったのは、私自身に何らかの心境の変化があったからなのだろう。
それが友情にしても、愛情にしても、恋愛的な感情にしても。
池田千歳という存在が私の心の大部分を占めているのは紛れもない事実だった。
「ん~? 綾乃ちゃん、どないしたん? じーっとうちのこと見つめてからに。うちの顔に何かついとる?」
私の視線に気付いた千歳が不思議そうに首を傾げる。その仕草が一々可愛いらしかった。
見ていた事がバレたからと言って、私は一々取り乱したりはしない。昔の私ならいざしらず、最近の私はどうやら落ち着きというものが身についてきたらしい。相手が千歳だからというのも大きな要因だろう。
「んー、目と鼻と口が付いてるわね」
「うふふ、なんやのそれー。そないなこと言うたら、綾乃ちゃんも同じやん?」
「ふふ、ホントそうね」
クスクスと楽しそうに笑う千歳に、自然とこちらまで笑顔になった。
「で、ほんまはなに見てたん?」
「ん…千歳、可愛いなって」
「あ、え?」
隠すことでもないので素直に告げると、千歳の態度は著しく変化した。動揺と戸惑いが少なからず見て取れる。
「な、なに言うてんねん! 冗談きついわ綾乃ちゃん! う、うちなんてぜんぜん可愛くあらへんよ!」
狼狽しながら、顔を赤らめて、視線を泳がせはじめる。千歳らしからぬ反応だった。
恥ずかしがっているのか、怒っているのか、もしかしたらそのどちらも当てはまるのかもしれないが、とにかくそんな愛らしい表情をする千歳に胸がときめく。
「…やっぱり可愛いわね…」
それは無意識に心が紡いだ台詞だった。
「も、もぉ~綾乃ちゃんってば、いい加減にしぃーや! そ、そんなん、歳納さんに言うたらええやん!」
千歳は珍しく怒ったように、頬をぷくっと膨らませて、そっぽを向いてしまった。
ただ、頬が赤くなっているところを見ると、多少意識はしてくれているらしい。
しかし千歳は気付いているだろうか?
その一つ一つの仕草が私の心に多大な影響を与えていることを。
「千歳…怒らないで、こっち向いて?」
優しく、幼い子供をあやす様に千歳に呼び掛けると、
「ほ、ほんなら…もぅ言わへん?」
頬を赤らめた千歳が、潤んだ瞳で、上目遣いでそう訴えかけてきた。
きっとそれが引き金。
それを見た瞬間、私の中で、何かがぷつりと音を立てて切れたのを感じた。
「……」
「あ、綾乃ちゃん?」
私は無言で左腕を伸ばし、彼女の頬に優しく触れ、それからその白銀の髪を梳くようにして撫でる。
擽ったそうに身を捩る千歳に、私はかすかに笑みを漏らしながら、その髪質を堪能した。
見た目通り、千歳の髪の毛はふわふわとしていて気持ちいい。ずっと触れていたいとすら思った。
「あ、あやのちゃん…あ、あかんよ、こんな…」
そう言いつつも、決して逃れようとはせず、それどころか私に寄り添うように距離が近づいていることに気付く。千歳は案外素直じゃないのかもしれない。中学の頃に出会い、その付き合いも3年以上になろうとしているが、それは初めて見る千歳の姿だった。
「なら、振り解いてもいいのよ? 別に無理やりしているわけじゃないんだし」
我ながら、ずるい言い方だと思う。
それでも千歳の反応を楽しみたくて意地の悪いことをしてしまう。
まるで、好きな子ほど苛めたくなってしまう小学生の男の子みたいだ。
「せ、せやかて…あ、綾乃ちゃんが…」
「へぇ…私のせいにするんだ? なんだか自分から撫でられにきてるような気がするんだけど、気のせいかしら?」
千歳の顔がカァっと真っ赤に染まる。どうやら図星を突いてしまったようだ。
「ち、ちゃうねんっ…こ、これはっ…!」
今更言い訳なんて通用しないことくらい分かってるはずなのに。
本当、大上際が悪いんだから。まぁそこが可愛いくもあるんだけど。
「千歳…」
そっと千歳の肩を抱き寄せると、特に何の抵抗もなく千歳は寄り掛かってきた。
肩に掛かる千歳の重みが心地いい。
「…こないなこと…歳納さんにしたったらええのに…どうしてうちなん…?」
「さぁ、どうしてかしらね、私にも分からないわ」
嘘。
本当の本当は、もうとっくに気付いていたのかもしれない。千歳への想いの強さに。
けど、長年に渡って歳納京子を想い続けてきたのも事実なだけに、今更千歳を選ぶなんて虫が良すぎるような気がしてならなかった。
だけど、それでも。
「ぁ…」
私はそっと千歳のメガネを外す。
素顔の千歳はとても綺麗だった。思わず見惚れてしまうほどに大人びている。
幼さを残しつつも、長い年月の積み重ねが生み出した美しさがそこにはあった。
「あ、綾乃ちゃん…?」
「鼻血、出ないのね」
昔はメガネを外すたびに鼻血を出していたし、今でもそれは変わっていないはずなのに。
「っ…」
「もしかして、今は私の事しか考えられない?」
千歳は何も答えなかった。
答える代わりに、その問いを肯定するかのように、見つめた瞳が途端に潤みだす。
「そ、そんな言い方…ズルいわ」
「千歳…」
目と目で会話し、合図を送り、私達は自然と顔を近づけていく。
最初に目を閉じたのは千歳だった。
私はそんな千歳の顔を堪能しながら、ゆっくりと瞳を閉じる。
これから何をするかなんて、それが理解できないほど、私達は子供じゃない。
何も知らない子供では、もういられないのだから。
「…んっ」
「…ふ…」
重なる唇。
触れた唇は熱を帯び、その熱は体中を、全身を駆け巡る。
千歳の唇はとても柔らかくて、狂おしいほどに甘い。
鼻腔を擽る千歳の甘い香りは否応なく理性を解かしていく。
「…はぁ…」
いったん唇を離し、最初に目に飛び込んできたのは、とろんと蕩けた表情で熱い吐息を漏らす千歳だった。どこか名残惜しげに、私に熱い視線を送る。それが妙に色っぽくて、ドキドキせざるを得なかった。
「あやの、ちゃん…うち、あやのちゃんのこと…」
見てみぬフリをしてきた千歳の想い。
その片鱗がついに千歳の口から出かかって、
「分かってる…分かってるから」
けど私は、もう何も言わなくていいと、千歳の唇を塞ぐ。
自分の唇で蓋をして、熱い口付けを交し合う。
「んんっ…!」
触れるだけのキスはやがて、ちゅっちゅっと啄ばむような口付けに変わっていく。
ただがむしゃらに、千歳を求めた。
千歳も私に完全に身を預け、必死に応えてくれる。
それが嬉しくて、愛しくて、もっともっと千歳が欲しいという欲望が渦を巻き、千歳を汚してしまいたい衝動に駆られた。
「んくっ…んちゅっ…ふぁ!…あ、あやのちゃっ…んんっ!!」
少し強引に唇をこじ開け、すかさず舌を差し入れると、驚いたように千歳の体が強張る。
最初こそ舌を押し返すように抵抗していたものの、すぐにとろんと力が抜け、逆に自ら舌を絡め取るように動き始めた。
「んちゅっ…ちゅぷっ…れろ…」
「んっ…ちゅ、ちゅっ…はぁ…」
絡まる舌がぴちゃぴちゃといやらしい水音を立てる。
体が極限まで熱く火照っていた。止められない性衝動は、キスだけに留まらず、さらに深い行為へと踏み出していく。
(いい、わよね?)
唇を愛したまま、身を預ける千歳の胸にそっと手を伸ばし、やんわりと揉みしだく。
柔らかな千歳の胸。中学の頃から順調に育ったそれは、形、大きさ、手触りとも絶品と言えた。
「あんっ…!やっ…、あ、あやのちゃん…いややっ…!」
千歳は、突然の愛撫に驚いて唇を離す。ただ声はどこか甘くて、喘ぎにも似ていたけれど。
私と千歳の唇を繋ぐ銀色の橋が途切れるのを見計らい、囁くように語り掛ける。
「イヤなの? 千歳がイヤだって言うならもうしないけど…」
「い、いややあらへんよ…、で、でもうち…こんなん初めてやし…」
「私だって初めてよ、こんなこと」
逆に初めてじゃなかったら、そっちの方が大問題だ。
ずっと一緒にいたはずの千歳が他の誰かとそう言った行為に及んでいたなんて、考えただけでも胃に穴が開きそうだし、泣きたくなる。
「……や、優しく、してくれるん?」
千歳は怯えた子犬みたいな、不安と期待の入り混じったような眼差しで私を見つめる。
「……努力はするわ。実際に始めたらどうなるか分からないけど」
「あ、綾乃ちゃんて、意外とワイルドなんやね」
「千歳だけよ、こんな私でいられるのは。今も昔も、千歳は私にとって色んな意味で特別だもの」
「……歳納さんのことはええの…?」
「それは、言わない約束にしましょう」
歳納京子に自分の想いが届かないことくらい、ずっと昔から分かっていたことだった。
あの子にもあの子の大切な人が、心から求める相手がいると知っているから。
――私にとっての千歳のように。
私とあの子は似た境遇なのかもしれないと今では思う。
だからこそ、惹かれたのかもしれない。
「綾乃ちゃん」
「うん?」
「うち、綾乃ちゃんのこと好きや、ずっと前から、好きやったんよ…」
「…ん…知ってたわ」
「…そか」
千歳は優しく微笑む。
私も微笑み返す。
もう、言葉はいらなかった。
言葉だけが想いを伝える手段ではないと知っているから。
おしまい。
【あとがき】
高校生になった二人のちょっと大人な関係を妄想してみた。
綾乃が少しイケメンすぎるような気がしないでもないけど、でも千歳相手だから問題なし。こんなものだと思います。
それと、途中からそのままR-18指定に突入しそうになったけど自重してみる。
え?自重しない方がよかったって?
さて、そろそろ結京やちなあかにも手を出してみようかな。