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とある百合好きの駄文置場。二次創作SSやアニメ・漫画等の雑記中心。ゆいあずLOVE!

唯梓SS 『しんらばんしょう』

※ゆいあずssと謳ってるけどお嬢様メイン、でもゆいあずss
※追記からどうぞ。




ムギはその特徴的な眉毛を吊り上げて。
珍しく真剣な顔で考え事をしていた。


「どうして『男』は存在するのかしら」


しかし口を告いで出たのはこの世界の理を根底から覆す言葉だった。
飲みかけのティーカップを危うく落としそうになって、慌てて両手で掴む。
紅茶がたぷんたぷんと波打つ。カップから溢れそうになるのを静かに耐え。
零れずホッとして、そのまま律に視線を向けた。


「律、至急救急車の手配だ。ムギがついに壊れた」


いつか壊れてしまうんじゃないかと危惧していた矢先にこれだ。
もはや神も仏もありはしない。入学当初のムギはどこに行ってしまったのだろう。
いや、逆に時代がようやくムギに追いついたということなのだろうか。
律は、まぁまぁと私を宥めにかかり、


「落ち着け澪。まずはムギの話を聞こうじゃないか」
「律、お前実は楽しんでるだろう?」
「てへぺろ☆」


と、楽しげにウインクをかます律。肯定したも同然だった。
まったく私の十八番を取るんじゃない。著作権侵害もいいとこだぞ。


「それでムギ、今度はいったいどうしたっていうんだ?」


律が見守る中そう聞くと、ムギは私達に目もくれずに明後日の方を見つめながら、


「どうして『男』は存在するのかしら」


最初と同じ台詞を淡々と述べた。その様子はどこか哀愁が漂っている。


「おいおいムギ、そんな事言い出したらムギのパパさんだって男だろ? そうじゃなきゃムギは生まれてないんだし」


ムギの眉毛がピクリと動いた。それから律の言葉を否定するように頭を二度、三度横に振る。


「そうじゃないわりっちゃん。私が聞いてるのはそう言う事じゃないの」
「じゃあどういうことだよ?」
「すでに男と女の二種類に分かれてしまった今の世界に文句はないわ。そもそも文句のつけようがないもの。それが自然の理。男と女がいなければ子孫だって残せない。そういうシステムが人の心に完全に定着してしまった世の中では、逆に私の考えの方が非難されてしまうでしょうね」
「まぁ…そうなのかもしれないな…」


それに、とムギは続けて、


「私も家族を愛しているし、お父様の事だって勿論大好きよ」
「そっか」
「男と女が存在する世界に何の疑問も持たずに生きてきたもの。もちろん男と言う存在が嫌いというわけでもないわ。これでも初恋の相手はお父様だったしね」
「うん? じゃあつまりどういうことだってばよ?」


律は疑問符を浮かべながら首を横に傾ける。私もコクコクと頷いた。
ムギは昔を懐かしむように目を細めると、


「唯ちゃんと梓ちゃんの二人を見ていて、私は今まで疑問にも思わなかったことを考えるようになったの」
「唯と」
「梓?」


それぞれの視線が唯と梓に集中する。
二人はソファに座って、我々の事など空気だと言わんばかりに、これ見よがしにイチャついている。
……ように見えただけで、実際、唯と梓に先輩後輩、友人以外の関係性は今のところない。
まぁ、あったらあったで、それは問題なのだが。
唯は手に持った小皿に乗ったケーキにフォークを刺すと、梓の口元まで持っていき、


「ほぃあずにゃん、あ~ん♪」
「は、恥ずかしいですよ…! 一人で食べられますから放っておいてください…!」


まるで恋人同士のようなやり取りに頬を染める梓。視線はフォークと唯の顔を言ったり来たり。


「ほらほらそんな事言わず~、あずにゃんの大好きなバナナケーキだよ~♪」
「う…も、もぅ! こ、今回だけですよ?……あ、あ~ん」


さすがの梓も好物のバナナケーキの魔力には勝てなかったらしい。
まるで親鳥が子供に餌を与えるように、梓はその伸ばされたフォークに小さな口を広げたのだが、


「ぱくんちょっ!……むぐもぐ」
「あ~…ってあれ?」


梓が口に咥える瞬間、ひょいっとフォークを戻した唯は、その先に刺さったケーキを自分で食べてしまった。


「うふふ~、あずにゃん引っ掛かった~♪」


これには梓も憤慨せざるを得ない。


「むぅー! 唯先輩のバカ! もう知りません!」


頬を膨らませながらプイッとそっぽを向く。


「あはは、うそうそ! 今度こそちゃんとあげるから、はい、あ~ん」
「……あ、あーん」


梓はしぶしぶながら、再度伸ばされたフォークに口を付ける。
もぐもぐと食べ進んでいくと、梓の頬にも赤みが増し、幸せそうにトリップしていた。


「おいしい?」
「はい、とっても♪」
「でもこれってよく考えたら間接キスだよね」


唯が口付けたフォークに今度は梓が口付けた。つまり立派な間接キスの完成だ。


「ッ!? な、ななな何恥ずかしいこと言ってんですか!!」


梓は唯の指摘に途端に顔を真っ赤に染める。


「私と間接キス、いや?」
「ぅぐ…」


唯の子犬のようなつぶらな瞳が梓の瞳をロックオン。
もう掴んで離さない。瞳どころかハートまでキャッチされてしまったに違いない。
それくらい唯の天然ジゴロアイは破壊力抜群だった。
この眼力に落とされた少女達が今まで何人いたことか…。
勿論そんなものを至近距離で喰らった梓はひとたまりも無い。
我慢できずに顔を逸らすと、真っ赤な顔で口を開く。


「べ、別にいやじゃないです…。そ、それより…そう言う事は今後私だけにやってくださいね。他の人がされたらきっと迷惑でしょうから」
「ふふっ…うん!りょーかいだよあずにゃん!これからもあずにゃんにしかやらないから!」
「わ…分かればいいんです…」


ちゃっかり唯を独り占めしようと企んでいる梓に感服するが、なんだかんだでお互いが想い合っているのは一目瞭然だった。その笑顔を見れば、どれだけ幸せなのかいやでも伝わってくる。
それくらい二人の笑顔は印象的だった。なんだか少し、胸がほわっと温かくなる。


(…い、いかんいかん…私もついにムギに毒されたか?)


唯と梓のスキンシップもほどほどにムギに視線を戻すと、


「二人とも、唯ちゃんと梓ちゃんを見てどう思った?」


待ってましたとばかりに、間髪入れずにムギから質問が投げかけられる。


「え? いやまぁ仲がよろしくていいことだなーっと」


まずは律が質問に答え、


「そ、そうだな…仲良きことは素晴らしきっていうか」


続けて私も無難に答える。
するとムギは納得したようなしていないようなよく分からない表情で頷き、


「他には?」
「他にって、他に何かあるのか?」


質問の意図が分からず私は問い返す。


「そういう社交辞令的な回答じゃなくて、唯ちゃんと梓ちゃん、二人のやり取りを見て心から感じたことをそのまま口にして欲しいの」


言われて私と律はお互い顔を見合わせる。
それから何故か恥ずかしくなり、顔を逸らしてポリポリと頬を掻く。


「えーと、そうだな…」


私達は一呼吸置いてから、


「「…胸がキュンってしたかも…」」


一言一句同じ言葉を口にしていた。堪らず私達は顔を見合わせる。
恥ずかしさよりも驚きの方が勝ってしまった。まさか律も同じように考えていたなんて…。
そんな私達を他所にムギは後光の差し込むような女神の如き笑顔でぱちぱちと拍手をして、


「ようこそ二人とも、百合の世界へ。二人はようやくその第一歩を踏み出したの。私は二人を歓迎するわ」


何をどうしたらそう言う話になるのか、いつの間にか私達はムギの百合ワールドに片足を突っ込んでいたらしい。
ここは反論の一つでもしてやらなきゃ気がすまない。そう思って、口を開きかけたその時。
まるで私に会話の機会を与えないように、狙ったようなタイミングでムギが割って入ってくる。


「つまり何が言いたいかと言うと、百合は素晴らしいってことです。女の子同士には無限の可能性が秘められているの。分かってもらえたかしら?」
「「……」」


私と律はとりあえず言葉を失っておいた。
何を言い返しても無駄かなという諦めにも似た感情がふと湧き上がった。


「百合の素晴らしさを理解したところで、最初の『どうして男が存在しなければいけないのか』という話に戻るけど。『男』の存在は、それこそ遥か昔、神話、原初の時代、生物が誕生したその瞬間に『性別』という概念として固定されてしまった理よ。だからこそ不思議に思うの。どうして世界は、男と女に別れなければいけなかったのかなって」
「そ、それは…」

哲学的な難しい話を持ち出してくるムギに思わず口ごもり、律に助けを求めるように視線を送ってみたが、律も律で、同じように困った顔で私を見つめていた。
どうしようもないので、とりあえずムギの話に耳を傾ける。


「どうして女だけではいけなかったの? 女だけでいけない理由はなに? そもそもそんなシステムを創ったのは誰? アダムとイブ? そんなの知ったことじゃないわ。 イブとイブでいいじゃない!!」


徐々に声のトーンが上がりヒートアップしていくムギ。言ってることもどこか支離滅裂。
息も付かせぬムギの自問自答に、落ち着けと言わんばかりに律が慌てて会話に割って入る。


「まてまてムギ、何度も言うけど、女だけじゃ子孫が残せないからだろ? 男だけでもしかりだ。動物だってオスメス別れてるんだし。性が一つだけなら男にしろ女にしろ、原始時代で滅んでるだろ」


律の言うことはもっともだった。それは長い歴史がすでに答えを出している。


「なら…もしも最初の時点で、性が一つだけ、同性同士で子孫を残す方法があったとしたら? まぁ、性が別れていないならそもそも『性別』なんて概念は生まれなかったのだけれど」


ムギは一人納得したように頷く。
そんなムギの話に耳を傾けつつ腕組みしていた律は、珍しく「う~ん…」と考えるような素振りを見せる。


「まぁちょっと難しい話だけど、確かにムギの言うとおりか。最初から性別って概念が存在しなくて、それでも子孫を残す方法があるんだとしたら、きっとそれが当たり前の世界になってたんだろうな」


律は遠い目をしてしみじみ告げ、私は「確かに…」と、頷く。
それが当たり前の世界なら誰も不思議には思わないだろうとは思う。
とは言え。
それも結局はお伽話と言われても仕方のない机上の空論にすぎないが。


「自然と不自然は紙一重ってことね。今の世界の性別社会が原初からの歴史の積み重ねが生み出した産物だというのなら、私は迷わずやり直しを要求したい。宇宙を、世界を構築したシステムそのものを創り変えてしまいたい」


ついにムギは、この世の理を創造した神様に喧嘩を売り始めた。


「……神様にでもなるつもりかお前は」


ポツリと、独り言のように呟いた私の言葉はしっかりとムギの耳に届いていた。


「神なんていないわ。この世のどこにも。神なんてものは所詮、人間が都合よく創り出した一種の仕組みだもの」


予想に反して、ムギは悲しそうに寂しそうに頭を振る。
まるで最初から自分の言葉が全て夢物語だと悟っているような様子で、


「ただ、ね…」


ふいにムギの声のトーンが落ちる。


「……冗談を抜きにしても、唯ちゃんと梓ちゃんを見てるといつも思うの。同性同士が愛を育んでいけない理由なんて、本当は世界のどこにもないんじゃないかって。男とか女とか、そう言うしがらみを越えた先にこそ真実の愛はあるんじゃないかって。まぁ、奇麗事だって事は分かってるんだけど」
「……ムギ」


この世界は“法律”と言う二文字だけでその可能性を取り上げる。
そして人はそれに何の疑問も抱かない。
それが当然の事だと、考える事を止めてしまう。
それは親から子に少なからず受け継がれ、歴史を積み上げていく。
まるで呪いのように。
一度すり込まれた先入観や固定観念から抜け出せない。


「それでも、あんなに幸せそうな唯ちゃん達の笑顔を奪う権利なんて誰にもないと思うわ」


ムギは表情を曇らせつつ俯き、


「それなのに…人はそれを認めようとはしない。人とちょっと違うというだけで蔑んで、中傷の目を向けて、男女間にしか恋愛は存在しないと本気で思っているような人間がこの世の中には沢山いる」
「まぁ、そうかもな…すべての人間がそうじゃないとは思うけど、多かれ少なかれ、そう思っている人間の方が多いのが事実だよな。人間って、自分達と違うものは中々認められない生き物だし」


律はムギの発言に肯定的な物言い。ムギは静かに頷いて、


「そうね。悲しいけれどそれが事実よね。でもね、それでも。人と違うというだけで蔑まれるような世界だけは絶対に間違っているし、認めちゃいけないと思うの」


恋とか愛って、本当のところ何なんだろうなって、たまにそう思うことがある。
誰かを好きになって、結婚して、子供を生んで、それらも愛の成せる業と言えばそうなのだろう。
でももしかしたらそれらは全て、生物が本来持っている生殖本能からくる衝動なんじゃないだろうか。
なんて、そんな悲しい事を時々思ってしまうのだ。


(…まぁ、そこまで卑屈にはなれないけど…)


人が聞けば、それは間違った考えだと口を揃えて言うかもしれない。
もちろん私だってそんな風に思いたくないし、そんなの絶対おかしいって声を大にして言いたい。
それでも、誰にも間違いだと言い切れない何かがあるのもまた確かだった。
『恋』や『愛』と言う言葉を生み出したのも、所詮やはり人間なのだから。
ムギは、はぁ~っと大きく息をつくと、ティーカップをその手に持って紅茶を口に含み、ティーカップを置いて、静かに話を続けた。


「それでもね、だいぶ世界は変わってきていると思うわ。同性婚の認められている国が昨今の世界で増え続けているのも事実だもの。まぁ日本は相変わらずだけど。それでも少しは希望が出てきたと思う」
「いっその事ムギが日本のトップになって法律変えればいいんじゃないか?」


律は冗談めかしてそう言ったが、ムギは苦笑しながら首を横に振った。


「たとえ私が日本国の最高権力を握ったとして、法律を変えたとしても、人々が持っている価値観はそう簡単には変えられないわ。今までの歴史を丸ごと引っくり返すようなものだもの。それを力ずくで変えようとするなんて独裁者のすることだし、ひんしゅくを買うの精々ね」


意外とちゃんとした考えを持っているムギに驚く私達。
ムギはニッコリと優しく微笑み、


「少しずつでもいいの。何年かかってもいいから、ちょっとずつ世界がより良い方向へ変わってくれたらいいなって思うわ」


その言葉を最後に、私と律は一度顔を見合わせて、そして改めてムギに向き直る。


「最初は何事かと思ったけど、ムギって意外と色々考えてるんだな。ちょっと見直したよ」


ただの百合趣味持ちの鼻血ブーなお嬢様だと思ったら大間違いって事か。
今後は考えを改めないといけないな。


「うふふ、私はこの世界に咲き誇る全ての百合の味方よ」



ムギの望む世界――理にとらわれない自由な愛が生まれる時代。
いつか来るのだろうか、そんな時代が――。



おしまい



【あとがき】
紬お嬢様メインですけど、ゆいあずがイチャイチャしてればそれはゆいあずSSなのです。
反論は認めます…って認めるのかよ!?
人はもっと色々な事に目を向けるべきなんじゃないかなって、
そう思ってしまうのでした。byまど神
[ 2011/08/24 21:50 ] 未分類 | TB(0) | CM(2)
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[ 2011/08/24 22:17 ] [ 編集 ]
通りがかりの百合スキー
いつになくまじめな話…だったのかな?(爆)
個人的には当事者たる自分以外に物理的な迷惑さえかけないのであれば倫理は必要ないと思っている人種です。同性だろうが近親だろうがです。
第一オス×メスの交配が自然の摂理と言うのなら「近親」は動物界での交配では良くあることなので、同性だけが縛られてると言う事になります。

個人的には同性婚は賛成派です。恋愛に貴賤も性別も年齢も関係無いのですから。
[ 2011/08/25 14:04 ] [ 編集 ]
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