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とある百合好きの駄文置場。二次創作SSやアニメ・漫画等の雑記中心。ゆいあずLOVE!

ゆるゆりSS 櫻子×向日葵 『専属家庭教師』

※拍手SS22
※追記からどうぞ。




それは1時間目の授業終了直後のこと。
終わりを告げるチャイムが鳴り終わると同時に隣の席からガタリと大きな音が響いて、
私は瞬間的に音のした方に目を向けそうになったが寸でのところで押しとどまった。
隣の席が誰かなんて今更考えるまでもないことなので反応するだけ無駄と言うもの。
何故なら小学生、いや幼稚園から今現在に至るまで、私の隣はあの子の定位置と化しているのだから。
もちろん私としては不本意極まりない腐れ縁。
出来れば今すぐにでも切ってしまいたい。切実に。


「さて…」


隣人の行動に無視を決め込み、前の授業に使った教科書やノートを机に仕舞い込む。
そして次の授業を確かめるため教室の一角に貼られた時間割に目を通そうとしたその時だった。
私と時間割の直線上に何者かが割って入ってきた。


「向日葵ぃ!宿題忘れたから見せてー!」


……櫻子だった。
そもそもこんな図々しいお願いをしてくるのは後にも先にも櫻子だけ。
楽しそうな声色とは裏腹に、告げられたその言葉はまったく楽観視できるものじゃない。
私の視界を遮ったのは『数学』とでかでかと書かれたノート。
そのノートを広げて私の眼前に突き出して、顔に押し付けんばかりの勢いで迫ってくる。

……おまけにノートは白紙だった。

これ以上白紙のノートとにらめっこしていてもどうしようもないので顔を上げた。
最初に目に映ったのは色素の薄い茶色い髪と溢れんばかりの笑顔。
宿題を忘れたというのに何故そんなに楽しそうなのか小一時間ほど問い詰めたい。
が、今はそんな事よりすることがあるので頭の中から放り捨てる。


「邪魔よ櫻子。そこに立たれたら時間割が見えませんわ」


先ほど席を立ったはずの櫻子が私の視界一杯に広がっていた。もちろん時間割が見えるはずもない。
私が櫻子から目を離そうと顔をずらして見れば、まるで嫌がらせのように櫻子は目先に移動する。
普通、そんな事をされてイラッとしないわけがない。


「なんなんですのさっきから!人の邪魔ばかりして!」
「そんな事より宿題見せてよ!次の授業、私当てられちゃうんだよ!」
「だからなんですの!次の授業で櫻子が当てられようがそんなの私の知ったことじゃありませんわ!」


手にした数学のノートをずずずいっと押し付けてくる櫻子を振り払い、
一瞬の隙を突いて時間割に目を通す。2時間目の授業は数学だった。


(って、よく考えたら櫻子が持っているのは数学のノートでしたわね…。次の授業で当てられるとか言ってましたし…)


頭に血がのぼって冷静な判断が出来なくなっていた自分に少しばかり気恥ずかしくなって、
誤魔化すように「コホンっ!」とわざとらしい咳払いをする。


「やれやれ、人の話も聞かずにバカですわねぇ向日葵は」


櫻子は人を小バカにした態度でニシシっと笑みを漏らす。
真正のバカにバカとか死んでも言われたくありませんわ!!
と、眉間にしわを寄せながら視線に込めて睨みつけた。


「まぁいいや。とりあえず宿題見せて? やってきてるでしょ?」
「何がとりあえずなのか分かりませんが断固拒否ですわ。あなたに見せる宿題なんてこの世のどこにもございませんの」


あの世でならもしかしたらあるかもしれませんが。
残念ながらまだ当分死ぬつもりはありませんのでそれも不可能ですわ。


「なっ! ちょ、ちょっとくらい考えてくれもいいじゃん! このままじゃ私、路頭に迷っちゃうよ!」
「迷えばいいんじゃないかしら。そもそも、はいそうですかと写させてあげるバカなんて櫻子だけで十分です。どうして人が苦労してやってきた宿題をわざわざあなたに見せてあげなくちゃいけないんですの?」


これ以上上から目線で小生意気な事を言われてはハラワタが煮えくり返ると言うもの。
私は席を立って仁王立ちし、フンっと胸を張って目下の敵に相対する。
櫻子よりも私のほうがいくらか身長が高いので自然と私の目線が上になった。
当然櫻子は私を見上げる形となる。いい気分ですわ!おほほ。


「こ、こっちが下手に出てればいい気になってぇ!向日葵は私の専属家庭教師だろー!」
「そんなものになった覚えはありません。しかも下手ですって? それが人に物を頼む態度ですの?」


そう言ってやると櫻子はムッとした態度で目を吊り上げた。


「はんっ! 向日葵はおっぱいだけじゃなくて態度もデカいんですのねー! あっなるほど、私分かっちゃった!つまりおっぱいの大きさと態度の大きさは比例するのか! 私また一つ賢くなっちゃった! てへ☆」


お茶目にもペロリと舌を出しながら私の体の一部を持ち出してくるバカが一人。
胸の大きさにコンプレックスがある私に対してこれ以上ないくらいの暴言だった。


「てへ☆ じゃありませんわっ! ひ、人が気にしていることをよくもまぁそんな風にいけしゃあしゃあと言えるものですわねっ!!」
 

もう一切の妥協はしませんわ!
謝罪の一つでもあれば宿題の一つや二つ、寛大な心で見せてあげることもやぶさかではありませんでしたのに!
もう許しません! 今度という今度は本当に堪忍袋の尾が切れましたわ!


「もう櫻子には二度と勉強教えてあげませんわ! 一人でのたれ死ねばいいんです!」
「なっ! ひ、卑怯だぞ! このままじゃ私、先生に怒られちゃうじゃんか!」
「やれやれ、卑怯という言葉の意味、辞書で引いたらどうかしら? そもそも自分で宿題をやってこなかった櫻子が一番悪いんですわ。一度先生にこってり絞られたらいいんです。フンッ」


眉間に青筋おっ立てたままプイっとそっぽを向いた。


「うぅー! もういいよ! 向日葵なんかにはもう頼まないからぁ!」


私の剣幕に圧されたのか定かではないが、櫻子は諦めてしぶしぶ私の席から去っていく。
まぁ去っていくと言っても隣の席に、ですけど。


(ふんっ、少しは反省なさい)


そんな風に思いながら私は片目を開けてチラリと櫻子に目をやる。
目に付いたのは涙目になりながら肩を落としてトボトボと席に戻っていく櫻子の姿だった。
見るんじゃなかった、と私はそう思わずにはいられなかった。後悔先に立たずとは言ったものだ。
生意気だけどいつも元気で明るい櫻子。そんな彼女の顔から笑顔が消えているのを見た私は、


「ぁ…」


思わず小さく声を漏らす。視線はただただ櫻子を追っていた。
何故か目が離せなくて無意識に手を伸ばしてしまいそうになるのを必死に抑え込んでいた。


(…ちょ、ちょっと言い過ぎたかしら…)


宿題くらい見せてあげても…って! だ、ダメダメ、いけませんわ!
こうやっていつも私が甘い顔をするから櫻子が図に乗るんですの!
あの子の為にもなりませんし、ここは心を鬼にして――!


「さ、櫻子!」
「…なに?」


肩を落としたまま櫻子は振り向いた。
なぜ呼び止めてしまったのかなんて私の心が一番よく分かっていた。


「…こ、今回だけですわよ」


結局の所、私は鬼にはなりきれないのである。


「え?」
「か、かか、勘違いしないでっ! べ、別にあなたのこと可哀相とか思ったわけじゃないんだから!!」
「え、えーと…?」


良く分かっていない顔で疑問符を浮かべる櫻子の視線に居た堪れなくなった。
その視線がなんとなく気恥ずかしくて目を逸らし、顔に熱が集まり火照っていくのを感じながら、
でもそれを認めたくない私はただ誤魔化すように、


「い、いいから早く教科書出しなさい! それと丸写しはダメですわよ! 
 せめて櫻子が当てられる問題くらいはきちんと解き方教えてあげるからしっかり覚えなさい!」


声を荒立てながら吐き捨てるように言い放った。
ボーっと突っ立ったままだった櫻子は途端にハッとしてわたわたと慌しく机の中を漁りだす。


「…やれやれ、ですわね…」


私は溜息を付きながら首を横に振る。
それは出来の悪い幼馴染に対してじゃなく、
幼馴染に厳しくなりきれない自分自身に対しての溜息だった。


(…ホント、私って甘いですわ…)


たとえ顔を合わせるたびケンカばかりでお世辞にも仲がいいとは言えないかもしれないけれど。
それでもずっと一緒に歩んできた幼馴染の沈んだ顔なんて見ていていい気はしなかった。
しょぼくれた櫻子なんて調子が狂うだけですし。
憎まれ口を叩いていた方が櫻子らしくて私は――。


「向日葵、教科書持ってきたよ」
「ハッ!」


ふいに呼び掛けられ、自然と心の中に紡がれそうになる言葉にハッとして我に返る。
一瞬でも櫻子におかしな感情を抱いてしまうなんて一生の不覚だった。
今回ばかりは櫻子にお礼を言いたい気分なのだが相手が相手だけに心境は複雑だ。


「どうしたの向日葵? なんか顔赤いけど?」
「い、いえそのっ! べ、別に何でもありません! あなたが気にすることじゃありませんわ!」
「そんなに必死になられると逆に気になるんですけど」


値踏みするような視線で足の先から頭のてっぺんまで見つめられ思わず目線を外す。
心の内を見透かされてしまいそうでこれ以上櫻子の顔を見ていられなかった。


「そ、そう…次期生徒会副会長の座を狙うライバルとして、ここで恩を売っておくのもいいかも、と思っていただけですわ!」
「…ふーん…」


だ、だから…、
それ以上の感情なんてびた一文持ち合わせてはおりません!


「ま、いっか。それよりさ…あ…ありがと…向日葵…」


さっきまでの強気な態度とは打って変わって、しおらしくもお礼なんて言ってくる櫻子に驚き目を見開いた。
言ってる傍から調子が狂う。この子が私にお礼なんて天変地異の前触れか何かだと思ってしまう。
冗談は抜きにして、本気で熱でもあるんじゃないだろうか。


「こ、これに懲りたら宿題くらい自分でやってきなさい」


まぁこの子がお礼を言うのなんて珍しいし素直に受け取っておこう。
もちろん心の中でだけ。素直に「どういたしまして」なんて言うには私達の関係はおしとやかじゃないのだから。
しかし櫻子は私の心情を知ってかしらずか突然ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「まったくぅ、向日葵は相変わらず素直じゃないなー。ホントは私に教えたくて教えたくて仕方ないくせに意地張っちゃってさぁ。あ、これが噂のツンデレってヤツ? あれ? もしかして向日葵ってば私のこと好きなの? いやぁ困っちゃうなぁ☆」
「――っ!」


ゴチンっ!!


「いったぁぁーー!!」


火花が散るほどの拳骨を櫻子の頭上にお見舞いしてやった。
櫻子の頭上にはそれはもう見事なタンコブが花開く。


「そんなバカなこと言ってると、教えてあげませんわよ?」
「な、何も殴ることないだろー!このおっぱいお化け!」
「なっ、なんですってぇー!!」


その後私の指導の甲斐もあり、櫻子はなんとか数学の授業を乗り切ることができた。
これを機に自ら進んで勉学に励んでくれることを切に望むが、
しかしそれをあの櫻子に求めるのは酷な事なのかもしれない。




「ところで櫻子」
「なに?」
「いつも思うんですけど、どうしていつも私に聞くんですの? 他にも赤座さんとか、吉川さんとかいるじゃありませんか」
「え?だって向日葵の方が教え方上手いし。ていうか他の人に聞いても良くわかんないもん」
「……」
「やっぱり向日葵が一番かな」
「っ…そ、それって…」
「勉強教えるの」
「……バカ」


どうやら櫻子の家庭教師は私だけの特権らしい。
まったく、本当にやれやれですわね。



おしまい

[ 2011/08/09 20:35 ] 未分類 | TB(0) | CM(0)
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