とある百合好きの駄文置場。二次創作SSやアニメ・漫画等の雑記中心。ゆいあずLOVE!

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ゆいあず!!シリーズSS EP04 『軽音旅情浪漫譚 #13 ~ 風琴~雨に唄う優しき旋律~Ⅰ ~』

※追記からどうぞ。




降りしきる雨のなか駆け抜けたアスファルトは、靴の底が地面を踏み鳴らす度に水しぶきをあげ、容赦なく靴を濡らした。
靴下までびしょびしょになっていて少し気持ち悪いが、泣き言を言っていられる状況ではないのは重々承知なので心の中だけに留めておく。そもそも口に出したところで結果が変わってくれるわけでもないのだから。

先行する梓ちゃんの背中を、私と純ちゃんはつかず離れず追っていく。息を切らせてもなお、走る速さを緩めない梓ちゃん。思い返してみれば、こんなに必死な梓ちゃんは久しく見ていなかった気がする。もちろん全然なかったわけじゃないが、そのほとんどがお姉ちゃん関連の時だけに見せていた。それくらいお姉ちゃんバカになりつつあったのだ。
しかし今はどこか違う。お姉ちゃんがいなくなった時とはまた別の必死さが感じられるその姿。正直、戸惑いと驚きを隠せない。それでもその姿こそが、梓ちゃんの梓ちゃんたる所以なんだと思い直すまでに、そう時間はかからなかった。
忘れかけていたはずの梓ちゃんの本質。変わらぬ親友の姿が何より嬉しい。


(やっぱり梓ちゃんは梓ちゃん。何も変わってないね)


心の中でそっと呟き、どこか頼もしく感じるその背中を見つめながら軽く微笑んで見せる。
ただ一人、いや一匹、薄暗い校舎のなかで人知れず泳ぎ続ける大切な仲間のことが心配で心配で仕方ないのだろう。

スッポンモドキのトンちゃん――。

私としてもお姉ちゃんに聞かされていただけでトンちゃんをその目で見たことはまだ一度もない。それでも梓ちゃんのその必死な姿を見ていれば、どれだけ大切にされているかは嫌でも分かる。
お姉ちゃんの話ではこの春から軽音部の新入部員として仲間入りし、めでたく梓ちゃんの後輩になったのだという。
その後輩が餌もなく置き去りにされているとあっては、仲間思いの梓ちゃんなら気が気じゃないだろう。

そうこうしているうちに見えてくる桜高校門前。
見慣れた校門が私の視界をかすめた。


「見えた!」


梓ちゃんの荒々しい息遣いから発せられた澄んだ声が、雨の音に掻き消されずはっきりと耳に届くや否や、梓ちゃんはラストスパートとばかりにピッチをあげていく。私達も遅れずにそれについて走る。

正門を跨いで中へと侵入すると、目に飛び込んできたのはこの1年幾度となく目にしてきた桜高の校舎。なのに、この違和感はなんだろうか。見慣れているはずにもかかわらず、まるで今日初めて見た、知らない建造物に思えてならないのは、何故だろう。


(…休日の学校だから、かな…?)


たぶん、それも理由の一つだとは思う。平日と休日ではやはり感じ方も違ってくるだろうし。でもやっぱり一番は、光の届かぬ灰色に染まった寂しげな背景がそう思わせたのかもしれない。

やがて正面玄関前に差し掛かり、立ち止まることを余儀なくされた。
辺りを見渡してみたが、やはり休日というだけあって人通りは皆無に等しい。校舎内にも人の気配は感じられなかった。たぶん宿直の先生や警備の人はいるだろうとは思うが、それでも平日の賑わいを思えば、今日のような静かでがらんとした校舎は馴染みがない。
しかも今日は生憎の空模様、部活動に精を出す運動部なんて影も形も見当たらないし、これが文化部ともなれば、よっぽどの事がない限り、雨の中わざわざ学校まで来たりはしないだろう。

どこか落ち着かない様子で忙しない梓ちゃんを一瞥しつつ、手持ち無沙汰になっていた私は、とりあえず傘を閉じて、水浸しのそれの先をトントンとコンクリートに叩き水滴を払った。飛び散った水滴はコンクリートの地面を点々と濡らし、やがて消える。
ふと、膝に手をついて肩で息を整える純ちゃんが目に飛び込んだ。


「じゅ、純ちゃん大丈夫?」


咄嗟に言葉をかけるが、純ちゃんの反応は薄い。


「ハァ…ハァっ…だっ、大丈夫っ…じゃない、かも。なんか、一生分走らされたような、気がするよっ…」


虫の息だ。鼻息も荒く、脳に十分な酸素がまわっていない様子だった。言葉もどこか途切れ途切れにしか返ってこない。言っていることもどこか大袈裟に聞こえてならない。
さすがに一生分は言い過ぎのような気もした。しかし、運動があまり得意じゃない純ちゃんからしてみれば仕方のないことなのかもしれない。


「もぉー、純ってばだらしないなぁ。これくらいでヘバってどうすんの? ちょっと走っただけじゃん」
「ちょ、ちょっとって…あ、あのねー…生粋の文化部所属の私が、15分近くもノンストップで走り続ければ、そりゃバテるに決まってんじゃんっ…!」


そのわりには、同じ文化部の梓ちゃんにはあまり疲れは見られなかった。肩で息をしていたのはほんの僅かの間だけで、あとは軽く深呼吸して元に戻っていた。さすがに日々体力づくりに精を出しているだけのことはある。
おそるべし、深夜のプロレスごっこ…。


「ハァ…まぁいいや…。それより早く中入ろうよ…。今の私はとにかく一休みしたい…」


疲れ切った顔でそう促す純ちゃんに、梓ちゃんは一瞬考える素振りを見せ無言で頷いた。




「ありがとうございました」


正面玄関から中へと侵入を試みた私達は、びしょびしょに濡れた靴をスリッパに履き替え、受付の警備員に音楽室の鍵を借りた。警備の人は理由を話すと快く承諾してくれた。
梓ちゃんのお礼に続くように、私と純ちゃんも軽くお辞儀をして梓ちゃんの後を追う。

校舎の中は、外に負けず劣らずの薄暗さだった。夜の暗闇とはまた違う。すべてが一色に塗りつぶされた灰色の世界。色彩なんてあったものじゃない。まるで白と黒のモノトーン。昔のモノクロテレビを見ているみたい。
私は休日の校舎に物珍しさを感じながら、


「電気ついてないからやっぱり暗いね」


と、無言でもくもくと先行する二人の背中になんとなしに声をかけてみる。
するとそれに反応した純ちゃんが、振り向き様に悪戯を思いついたような顔でニヤっと笑って見せた。その含みのある笑みにはちょっとばかり嫌な予感がして冷や汗が伝う。


「うふ、確かに結構雰囲気あるよねー。おあつらえむきに雨まで降ってるしぃ?」


楽しそうに話す純ちゃんが嫌な予感をさらに膨れ上がらせる。


「おばけとか出たりして。ねぇ憂、ホントに出たらどうしよっか? 私達呪われちゃうかもしれないよ?」
「ちょ、ちょっと純ちゃん…変な事言わないでよぉ」


純ちゃんの言うとおり、確かに今日の校舎にはそれなりの雰囲気があった。誰もいない校舎。雨に打たれる音しか聞こえてこないがらんとした廊下。薄暗さも合わさって、いつ何が出てきてもおかしくない雰囲気を放っている。
もちろん本当に何かが出てくるとは思ってはいないし、幽霊の存在を認めているわけではないが、世の中には絶対なんてないし、いつ何が起こるか分からないという点ではやはり恐怖というものは生み出されてしまう。


「あ!憂の後ろに黒い影が!」


ふいに純ちゃんは、私の顔の横を指差して声を張り上げる。


「~~っ!?」


背筋も凍る思いとはまさにこのことかと思った。
驚愕に染まり、唇をわなわなと震わせている純ちゃんの顔を見て、全身から血の気が引いていく。声にならない悲鳴をあげつつ、まるで金縛りにあったみたいに動けなくなり、ただ小刻みに体を震わせることしかできなかった。

怖い――。
それは純粋に恐怖だった。

そんな私の様子を前にして純ちゃんの驚愕に染まった顔が途端に崩れる。崩れた先は驚愕とは無縁の笑顔だった。笑顔というよりは爆笑とでも言おうか。恐怖に身を強張らせる私を他所に、突然「ぷっ!」と吹き出した純ちゃんはケタケタと楽しそうに笑い出して、


「…なーんちって♪」


悪戯の成功したみたいな子供みたいな無邪気さで、ペロリと舌を出しウインクして見せた。
騙された――そう思い至ったのはそのあとすぐだった。つまり私は、まんまと純ちゃんの罠にはまってしまったわけだ。やれやれ。そもそも出るといった傍から出てしまったら何の苦労もない。幽霊のオンパレードなんて、それこそニュースどころの騒ぎではない。


「も、もうっ! 純ちゃんやめてよ! 心臓止まるかと思ったよ!」


私は、抗議とばかりに珍しく怒って見せる。めったに怒らないと自負している私の怒った顔を見て、純ちゃんも少しは反省すればいい。そう思ったのだが、しかしながら純ちゃんはまったく意に介した様子もなく、


「あはは、ごめんごめん! 恐がる憂が可愛くってさ♪」


ただただ無邪気な笑顔で相対するだけだった。無邪気ゆえに邪気がないから始末におえない。そんな顔を向けられてはどんなことをされても許してしまいそうになる。というよりすでに私は許してしまっていた。


「……ずるい」
「え?なに?」
「知らないもん!純ちゃんのバカ!」


私らしくない罵声を浴びせてやると、純ちゃんは「ガーン!」という効果音と共にこの世の終わりのような顔をして、


「…憂にバカって言われた……死のう」


絶望に打ちひしがれるまま、その場でうずくまって、のの字を描き始めた。
そのいじけ様ったら、お姉ちゃんを失った梓ちゃんみたいだ。


「もぅ、純ちゃんまで梓ちゃんみたいなこと言わないでよぉ」


なんだか純ちゃんに振り回されてばかりだと、それを自覚してもなお、それが嫌だとは思わない自分が不思議だった。逆にそんな生活も悪くないないかなって、そんな風に思ってしまうのだ。


「ちょっと二人とも!」


私と純ちゃんのそんなやり取りを最初こそ立ち止まって眺めていた梓ちゃんだったが、一向に足を動かさない私達に痺れを切らせ、口より手、手よりも足を動かせとばかりに声を張り上げた。


「こんなとこに来てまでイチャイチャしないでよ!早く音楽室行くよ、トンちゃんが待ってるんだから!」


そう言って梓ちゃんは、私達を置き去りにして走り出す。その背中から伝わってくる、もう立ち止まらないという意思は絶対だった。


「あぁん、ちょっと待ってよ梓ぁ~!」
「……いちゃいちゃなんて、してないんだけどなぁ」


ツッコミたいことはやまほどあったけれど、とにかくトンちゃんの事を最優先に考えて、遠くなっていく梓ちゃんの背中を追いかけた。




やっとの事で辿り着いた音楽室は、やはり校舎同様、平日とはまた違った異彩を放っていた。
人っ子一人見当たらないのは当然として、いつかの放課後にお邪魔させてもらった音楽室の風景を思い返してみれば、その静けさはあまりにも寂しすぎる。
そう感じてしまうほど、いつもの音楽室は賑やかで楽しげな雰囲気を醸し出しているのだ。私自身、その光景しか目にしたことがないから尚更そう思ってしまう。
そんな中、電気の点けられていない薄暗い音楽室の奥、その隅っこで、先に到着していた梓ちゃんが水槽に向って何やら話しかけていた。


「トンちゃん、今餌あげるからね」


餌――という単語に反応したのかはさだかではないが、水槽の中をふよふよと静かに泳いでいたトンちゃんが、突然8の字を描きながら忙しなく泳ぎまわり始める。まるで、梓ちゃんの言っていることを理解しているような行動で「早くご飯が食べたい!」そんな風に聞こえてならない。

とりあえず私と純ちゃんは、梓ちゃんの方へと足を動かす。水槽の中に餌を振り撒く梓ちゃんの背後に近づき、横から覗き込むように水槽の中で優雅に泳ぎ続けるトンちゃんと初対面を交わした。


「この子がトンちゃんかぁ、ちっちゃくて可愛いね」


スッポンモドキというからどんな巨大亀が飛び出してくるかと思っていたが、なんてことはない手のひらサイズの小さな子である。傍目から見ても小さく見えたが、間近で見るとさらに小さく見える。


「でしょでしょ♪」


梓ちゃんは自分の事のように喜び、顔を綻ばせた。


「うん!お姉ちゃんも言ってたよ、梓ちゃんと同じくらい可愛いって!」
「へっ…そ、そうなんだ…。えへへ♪ よかったねぇトンちゃん♪」


梓ちゃんは頬を朱に染めてもじもじと、トンちゃんは大きく円を描くように泳ぎ回って、その喜びを全身で表現していた。
なんだか梓ちゃんとトンちゃんって姉妹みたい。
似たもの同士の一人と一匹にそんな事を思いつつ、餌へと元気に食らいつくトンちゃんの姿を印象深く見つめていた。この小さなボディのどこに、これほどまでの元気があるのだろうか。ちょっと不思議に思う。


「へー、なんか鼻が豚みたい。あははっ、ふがふが言ってるよ!」


純ちゃんは水槽に顔を張り付かせながら、トンちゃんと睨めっこしていた。
その様子に梓ちゃんはクスっと軽く笑って、


「豚みたいな鼻だから“トンちゃん”なんだってさ。唯先輩が考えたんだよ? 最初はなんだかな~って思ってたんだけど、確かに見れば見るほど“トンちゃん”って感じだなって」


指で軽くつまんだ餌をパラパラとふりかけながら、思い出を懐かしむように笑みをこぼし、楽しそうにその時のことを語っていた。
さすがお姉ちゃん。我が姉ながらなかなかのネーミングセンスだ。ギー太といいトンちゃんといい、キュートな名前をつけることに関してはお姉ちゃんの右に出るものはいないかもしれない。


「じゃあ本名はトン・ジルとか?」


純ちゃんの思いつき突発ネーミングは、見事に梓ちゃんの癇に障ることに成功した。


「……カッコよさげに言ってるようだけど、それってつまり豚汁ってことだよね? まさか食べようとか考えてるんじゃないでしょうね? トンちゃんで出汁をとったら美味しそうとか? いやぁ、さすがの純でもまさかそこまでは考えてないよね? もしそんなこと考えてるんなら…もちろんどうなるか分かってるよね?」


梓ちゃんは睨みを利かせながら凄んだ。蛇に睨まれた蛙もとい猫に睨まれた犬とでも言おうか、純ちゃんはビクンッ!と体を震わせて「あ、あははっ…」と引き攣った笑みを浮かべながらご自慢のツインテールを庇うようにギュッと掴み、


「も、もちろんそんな事考えてないよ~? 考えてるわけないじゃ~ん。こんなに可愛らしいマスコット的存在を出汁にとろうなんてさぁ、あはは…」


ジト目の梓ちゃんをのらりくらりかわして、言い訳染みた言葉を並べた。
不用意な発言は身を滅ぼす。純ちゃんには是非とも教訓にしてもらいたいが、昨日今日で同じことを何度も繰り返している時点で、学習はしていないようだ。

梓ちゃんは呆れたように溜息をついて純ちゃんから目を離し、トンちゃんへと目配せするや否や、途端に表情を曇らせ、申し訳なさそうに瞳を伏せながら、


「ごめんねトンちゃん…忘れちゃってて…」


消え入りそうな声で、そっと謝罪の言葉を呟く。やはり無事だったとは言え、罪悪感は拭えないのだろう。いくら変わらず元気にやっていたからと言って、責任感の強い梓ちゃんが、「忘れていたから」なんて理由にもならない理由で自分を許すとは到底思えなかった。


「…もう大丈夫だからね」


コンコンと、水槽を指で軽く小突いた梓ちゃんのもとへと、ふよふよと泳ぎながら近づいてきたトンちゃんがまるで頷いたかのようにコクンと首を縦に振って見せた。それはまるで「気にしないで」と梓ちゃんを慰めているようにも見えた。


「ふふっ、ありがと、トンちゃん」


きっと梓ちゃんにもそう見えたんじゃないかな。だからお礼なんて――。
なんだか梓ちゃんとトンちゃんの絆のようなものを垣間見た気がする。微笑ましいなぁなんて笑みを漏らしつつ、純ちゃんと二人、トンちゃんと目と目で会話しながらどこか優しげな梓ちゃんをしばらくの間見守っていた。




つづく

[ 2011/06/10 00:40 ] 未分類 | TB(0) | CM(0)
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