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とある百合好きの駄文置場。二次創作SSやアニメ・漫画等の雑記中心。ゆいあずLOVE!

ゆいあず!!シリーズSS EP04 『軽音旅情浪漫譚 #12 ~おおきく振りかぶってⅡ~』

※追記からどうぞ!



それから意気揚々と外に出たまではよかったが、その雨脚の強さにいきなり心が折れそうになる。
傘で身を守るのも大変な作業だった。道端を車が通ろうものなら、3人総出で飛び跳ねる水しぶきをガードし、風が吹けば傘が飛ばされないように必死に押さえたりなどなど。
やっぱり家にいた方がよかったんじゃないか、と口を告いで出そうなったが、せっかくここまで来て、また来た道を戻るのも虚しさ全開なので何とか堪え我慢する。
時間にして30分弱歩き続け、ようやく目的地へと到着した。
純ちゃんの道案内のもと、必死の思いで訪れたその場所は、


「どうしてバッティングセンターなのよぉ!!」


町の外れにあるバッティングセンターだった。もちろんできるのはバッティングだけではなく、ゲームセンター他、バッティング以外の娯楽で遊ぶことも可能な、いわゆる一つのアミューズメント施設である。
そんな場所につれてこられ、有無を言わさずバッティングに興じさせられた梓ちゃんは、涙ながらに憤慨した。


「くっ…しかも早すぎてぜんぜんボール見えないし…!」


大きく振りかぶって投げたように思わせる機械のピッチングマシーンが、ガコンっ!という鈍い音を響かせて投げ込んできた数百キロの速球。梓ちゃんは寸分の狂いもなく飛んでくるストレートのそれを、半ば尻込みしながら見事なまでのへろへろスイングで空振った。


「まぁまぁ、たまにはこういうのも味があっていいじゃない?」
「どうせ野球漫画読んでたらやりたくなったとかそういうオチでしょ?」
「さすが梓、分かってるねぇ」


てへぺろっと、可愛らしく舌を出しながらバチンっとウインクをかました純ちゃん。


「というわけでせっかく来たんだし楽しんでいきまっしょい!」


それからバッティングへと集中し出し、飛んできたボールを力任せにフルスイング…したまではよかったが、しかしバットの重さに耐え切れず一回転半を決めていた。
バットを振ったというより、バットに振られたという方が正しい表現だった。
とにかく純ちゃんの振ったバットは、ぶおんっ!という風を切る鈍い音がしただけで、ボールを打ち鳴らした『カキーン!』というお馴染みの快音はいつまで経っても聞こえてこない。


「あ、あれ?」


やはりというかなんというか、半ば予想通り、純ちゃんはいとも簡単に、清々しいまでに空振っていた。まったくかすりもしなかったボールがポンポンと地面を転がり戻っていく様を見て、さすがの純ちゃんにも冷や汗が伝う。


「ちょっ、こんな早いの打てるわけないじゃん! ぜんぜん反応できないし! 誰よ、バッティングセンター行こうなんて言い出したの!? もう帰ろっ!!」
「一個前のセリフはどこ行ったの!? ていうか何の説明も無しに『着けば分かるから~』とかほざいてバッティングセンターに案内したのは純でしょ!」
「…そんなこと言ったって、か弱い女子高生にこの速さは新幹線が通り抜けるにも等しいよ」


実際には時速100km弱で飛んでくるボール。しかし純ちゃんの発言もなかなか的を得ていると思わざるを得ない。ソフトボール部員ならまだしも、野球経験のないただの女子高生には、100kmでも十分脅威の剛速球なのだ。
遠目では分からないが、一度打席に立ってみるとその速さがよく分かった。反応できない速度というわけじゃないのだが、それでもバットを振った次の瞬間には、背後のゴム板をバスンッと鳴らしていた。


(…たぶん、振り遅れてるんだよね…えぃっ!)


心の中で自身のバッティングを分析しつつ、飛んでくるボールに何度かバットを振ってみるけれど、ボールは前へ飛ぶどころかかすりもしていない。
帰宅部である私は、放課後よく女子ソフトボールの練習風景を目にしていたが、その時は当たり前のようにボールを前へと飛ばしていた部員を見て、きっと振れば当たるものなんだと思い込んでいた。
しかし今日実際にそれを経験してみて、それが間違いなんだと思い知らされた。


「…なんか、悔しい…な」


思わず口にしていた言葉。それは無意識に出たものだった。
私らしくない一言だったのかもしれない。
でも。それでも。
自分は、自分で思っている以上に負けず嫌いなのかもしれないと、飛んでくるボールをボーっと人事のように見つめながら思っていた。
フッと笑みを浮かべる私。
なぜか悪くない気分だった。たまにはこういうのも悪くない。そう思えた。


(…1回くらい当てなきゃ、帰れないよね…!)


私はなにも、人が言うように自分が何でも出来る完璧超人なんて露程も思ってないし、思うつもりもない。その時その時、できないことをできるまで努力しているだけで、実際はできないことの方が多いのだ。
簡単にできてしまうこともあれば、それこそ死に物狂いで努力して手に入れたものだってある。
今日のことでまた一つはっきりした。どうやら私は、できないことをできないままにしておくことが許せない性格だったらしい。


(…難儀な性格だよね…でも、そんな自分も悪くないよね…!)


私らしくない。でも、私らしいとも思う。どんな自分でも私自身。受け入れなきゃいけない。受け入れて初めて、私は私になれる。平沢憂として、この先もずっと――。


「――はぅっ!」


ぶおんっとバットが空を切る。容赦なくストライクゾーンに飛び込んでくるボールに必死に手を出していくが、たまにバットをかすめるだけで一向に芯を捉えてくれない。
ここでイラついてもいい結果は生まれない。そう判断し、いったん落ち着こうと目を閉じて深く深呼吸をした。
その時だった。


『もっとボールを良く見て、手元まで引き付けて、ここに壁を意識して、打つ!分かったか?』


ふいにそんな声が耳に飛び込んでくる。
見れば隣の打席には一組の親子連れ。お父さんと思われる男性が、息子と思われる小さな少年にバッティングのコツを身振り手振りで教えていた。
私は息をのみ集中する。その動きを無意識に目で追って、一挙手一投足を網膜に焼き付ける。


(…なるほど、手元まで引き付けて…壁を意識して…打つ…か)


頭の中で呪文のように何度か復唱していると、ふいにバスンっという音で我に返る。ぽんぽんと飛び跳ね戻っていくボールを見送りながら、次のボールが飛んでくるまでの間、私は頭でイメージした動きを実際にその場で実践する。
バットに振られるのはバットの重さに私の筋力がついていかないから。別に非力さをアピールするわけじゃない。事実、そうなのだから仕方がない。
となれば、バットを短く持って、自分にあった重心を調節する。一度、二度、バットを振り回し、自分にあった長さを調節。やはり、バットの長さだけで十分ヘッドスピードが変わってくる。長ければその分ヘッドスピードが落ちるし、短く持てば持つほど、早く鋭くなる。その分、飛距離が伸び悩むが今この場では仕方がない。
今の私の目標は、ボールを芯で捉え、前に飛ばすことなのだから。


「よしっ…!」


気合を入れなおしバットを構える。体全体の力を抜き、自然体で打席に立つ。それからピッチングマシーンを静かに見据え、スローでせりあがっていくそれを見つめながら、ボールが飛び出す瞬間をじっと待った。
今までの約20球にもおよぶ投球で、だいぶボールの速度が目に慣れてきていた。もちろんボール到達までの時間や距離感もだいぶ掴めている。
あとは打つ姿勢。バッティングスタイルが最後の決め手。
さきほどの指導からも分かるとおり、私に足りなかったのはまさにそれだった。それさえ補えれば、打てない道理などありはしない。
だから――。


(…くるっ…!)


大きく振りかぶって投げられた速球が私目掛けて飛んでくる。
目で追えない速度じゃない。もはや今の私には止まって見えるほどだった。それほどまでに全神経をボールのみに集中させていた。

ボールを手元まで引き付けて――。
手前に壁を意識して――!
振り抜く――!!

瞬間、キンッ!という快音が鼓膜に響いた。
一瞬何が起こったか理解できなかったが、私は確かに見たような気がした。
ボールがバットの芯を捉えたその瞬間を――。


「…ぁ…」


思わず小さく声を漏らし、目を見開く。その証拠はすぐに目に飛び込んできた。天高くアーチを描き飛んでいくボールがホームランゾーンに直撃し、ぐらぐらと板を揺らしていた。
打った本人であるはずの私は、その光景を半ば呆然と見守っていた。


「――った」


自分が打ったことを自覚するのにそう時間はかからなくて、


「やった♪ 当たった!当たったよ二人とも!しかもホームランだって!」


自然と嬉しさがこみ上げ、年甲斐もなくぴょんぴょんと飛び跳ねて喜びを全身で表していた。
この喜びを真っ先に伝えたい親友二人に視線を向けると、


「…あれ?」
「憂、梓は犠牲になったのだ」
「は?」


意味の分からないことをのたまう純ちゃんだけがポツンとそこに佇んでいた。
犠牲はともかくとして、そこには梓ちゃんの姿は形も存在していなかった。
もしかして、トイレにでも行ったのだろうか?
と、冷静な人間なら幾つか可能性はあげられた。


「純ちゃん。梓ちゃんは?」
「ん」


気になって尋ねると、純ちゃんは答える代わりにクイクイっと親指である場所を差す。その親指の指し示す方向に、ガラス窓を通して梓ちゃんの姿がはっきりと映った。ゲームセンターのクレーンゲームに夢中になっている梓ちゃんの姿が――。


「えーと…」
「あの薄情猫はバッティングを早々に切り上げて遊びに行きました」
「そ、そんなぁ…」


せっかくホームランをかっ飛ばしたのに、それを見ていて貰えなかったなんて――。
その事に少しばかりショックを覚えてしょぼんとしていると、見かねた純ちゃんがグッと親指を立てて、ニカっと笑って見せた。


「大丈夫だよ憂! 薄情な梓の変わりに私がちゃんとその勇姿を目に焼き付けといたから。カッコよかった!惚れ直したぞ!」
「あっ…その…あ、ありがと…えへへ」


純ちゃんに褒められて、照れと笑顔が同時に訪れる。
気付いた時には、しょんぼり気分なんて無くなっていた。
あるのは喜びと幸せと。
純ちゃんへの感謝の気持ちだけだった――。




その後すぐにバッティングを切り上げた私と純ちゃんは、クレーンゲームに夢中になっている梓ちゃんを椅子に腰掛けながらボーっと眺めていた。
小銭を投入しては頭を抱え、投入しては顔をしかめ、投入してはガラスに張り付き、それを何度も繰り返す姿を見ていれば、その結果はだいたい予想がついた。
そもそも景品が取れていない時点で、その結果が芳しくないことは明白だと思う。


「うぅ…クレーンゲームで二千円すられた…」


とぼとぼとした足取りで戻ってきた梓ちゃんは、落ち込みながら結果を報告した。


「やれやれ…そこは千円くらいでやめとけばよかったのに…」
「…あとちょっとで取れると思ったらいつの間にか二千円使ってたんだよ」


純ちゃんの言う事も尤もだけど、梓ちゃんの気持ちも分からなくもなかった。クレーンゲームというものは一回で取れることがまず奇跡に等しい。運が良ければ一発で取れたりもするが、ほとんどの場合、何度か景品の位置をずらし、クレーンが引っ掛かるように工夫するしかない。それで取れれば苦労はないが、取れなくても、もう少しで取れると思わせることがクレーンゲームの怖いところなのかもしれない。


「はぁ…こんなことならバッティング続けてればよかったよ…」
「まぁ自業自得ってことで諦めなよ。それより憂がホームラン打ったんだよ!すごくない?」


まるで自分の事のように嬉しそうに話す純ちゃん。
梓ちゃんは驚いたように目を見開いた。


「へぇーさすが憂。もしかしてその抱いてるおっきい亀のぬいぐるみがホームラン賞とか?」
「うん。ちょっと大きすぎな気もするんだけどね」


ホームランの景品にと貰った巨大な亀のぬいぐるみ。
もちろんそれに不満はないし、可愛いから満足ではあるんだけど。それでも私の体の半分以上はあろうかと言う亀のぬいぐるみの扱いに困っていたのも確かだった。
何せこの後、このぬいぐるみを抱えたまま雨のなか自宅までの道のりを帰らなければいけないのだ。傘を差しているとはいえ、この大きさでは少し濡れる程度は大目に見るしかない。最悪、自分の体を濡らしてでも亀のぬいぐるみだけは守ろうかとも考えていた。


「にしても大きいね、トンちゃんの10倍くらいはあるんじゃない?…って、ぁ…」
「どうしたの梓?」
「梓ちゃん?」


私の抱えた亀のぬいぐるみを茫然と見つめながら、徐々にその顔を蒼白に変えていく梓ちゃん。そんな顔をされて気にするなと言う方が無理で、疑問符を浮かべながら問いかけるが、梓ちゃんは物言わぬ置物と化していた。
しっかりと停止すること30秒弱、動き出すころには涙目になって唇を震わせていた。


「……トンちゃんのこと、忘れてた」


梓ちゃんの口から語られる驚愕の事実に唖然とする私と純ちゃん。
それからの私達の行動は早かった。有無を言わず行動に出た。
傘は差していたが、雨に濡れることすら気にも留めず、濡れるのを覚悟でアスファルトを駆け抜ける。

向かう先はただ一つ――。

桜ヶ丘高校、音楽室――軽音部部室。

トンちゃんの待つ、その場所へ――。



つづく

[ 2011/05/30 23:48 ] 未分類 | TB(0) | CM(5)
お忙しい中、更新、お疲れさまです♪
今回もSS、楽しませていただきました(o^∀^o)
修学旅行シリーズのあずにゃん、なんだかとってもツボです(^w^)
あずにゃんのことが、もっと好きになっちゃいました!(≧∇≦)
もちろん私は、唯ちゃん一筋ですが…(笑)

13話と最終話、あと残すところ2話になってしまいましたが、期待しています♪
忙しい中での更新…とお聞きしておりますので、お身体にはどうかお気をつけください(^O^)

いつも、素敵なSSをありがとうございます(*^_^*)
[ 2011/05/31 00:20 ] [ 編集 ]
もう梓がどこかの某妹なのかはたまたどこかの見てのとおりの某軍人なのかわからなくなってしまいましたw特に軍人の方はツボでしたw『抱きしめたいなぁッ!唯先輩ィ!!』
[ 2011/05/31 07:49 ] [ 編集 ]
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[ 2011/06/01 05:51 ] [ 編集 ]
ただいまー!
お久し振りに俺、参上!試験も終えてようやく帰還しました、隊長(笑)


何かアンソロが唯梓分豊富という事で今日バイト帰りに2,3軒本屋回りましたが・・・売ってなかった。皆仕事早いです。


そして小説ですが・・女子3人でおっぱい談義とは・・思わず笑ってしまいました。
現実でそんな話する奴らいるのか?という幻想は右手でブチ壊した事は秘密です(笑)


試験期間だというのにちゃっかり日常を見ていた自分。
ゆっこがキレたり蚊と戦ったり、東雲家の平和な日々・・・やはり癒されます。


そして日常のOPのCDも購入しました。ヤバい、歌ってみたいです(笑)
それでは!
[ 2011/06/05 00:32 ] [ 編集 ]
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[ 2011/06/05 00:35 ] [ 編集 ]
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