※追記からどうぞ!
「もう・・・特別、ですよ?」
「仲直り~の、んちゅちゅ~♪」
「きゃー!」
ぱちーん!
こんな事のあった文化祭。
唯先輩が風邪を引いたり、ギターを忘れるなんてトラブルはあったけど。
私達、放課後ティータイムの演奏は大成功に終わった。
「いやーそれにしても最高のライブだったなぁ」
「ああ」
前方で燃え盛る焚き火や後夜祭で盛り上がる生徒達を眺めながら、律先輩が感慨深く呟く。
そんな律先輩の言葉に同意する澪先輩。
確かに律先輩の言うとおり、私にとって始めての文化祭ライブは最高の結果で幕を閉じることができた。
唯先輩の演奏も病み上がりとは思えない位の出来だったし。
「一時はどうなる事かと思いましたけどね」
「ふふ・・・梓ちゃん、唯ちゃんの事ホントに心配してたものね?」
「べ、別に・・・そ、そんな事ないです!」
ムギ先輩の言葉に、思わず反論しちゃった。
ホントは心配で仕方なかったくせに・・・。
こんな時自分の気持ちを素直に出せない自分が恨めしかった。
「照れなくてもいいのに♪」
「照れてません!」
嘘。ホントはすごく照れてた。
どうしてか分からないけど唯先輩の事が絡むと素直になれない。
しかも唯先輩の前だとさらに素直になれなくて。
自分の思っていることと反対の事を無意識に口にしてしまっている。
なんでだろ?・・・私にとって唯先輩は他の人たちとは違うんだろうか・・・
「お、なんだぁ~梓、照れんなよ~、ばればれだぞー」
「な、何言ってんですか!へ、変なこと言わないでください!」
さっきまで澪先輩と話しをしていた律先輩が、まるで新しいおもちゃを見つけたみたいな顔で、ニヤニヤしながら私をからかってくる。
その顔はまるで私の“気持ち”を見透かしているみたいだった。
・・・あれ?
・・・私の気持ちって何?
一瞬、自分の心の中にある何かが出掛かった。
それが何かまでは分からなかったけど・・・。
「こら律!あんまり梓をからかうなよ!」
「ぶー!なんだよー、澪のアホー、しまぱんー」
「ぶっ!?し、しまぱん関係ないだろー!」
律先輩の言葉に途端に顔を真っ赤にして怒る澪先輩。
あはは・・・しまぱんって。まあ前に見せてもらった去年の文化祭のDVDでは見事なまでのシマシマでしたけど・・・。
この二人はホント相変わらずで、付き合いの短い私から見てもホント息がぴったりだった。
いつもこんな感じにケンカばっかりしてるけど。ケンカするほど仲がいいって言いますからね。
「あら・・・?」
私が律先輩と澪先輩のやり取りを眺めていると、不意にムギ先輩が何かに気付いた。
「どうかしたんですか?ムギ先輩」
「ううん・・・たいした事じゃないんだけど、さっきから唯ちゃんの姿が見えないなぁ~って」
「あ・・・」
そういえば確かに。さっきまで私たちと一緒に居たはずなのに、いつの間にか居なくなっている。
「何処いったんでしょうか?」
「うーん、音楽室に戻ったのかしら・・・」
「一人でですか?・・・あ、あの、私ちょっと、見てきますね?」
別に見に行かなくたって、その内戻ってくるとは思うけど
ちょっと気になった私は、先輩方を置いて音楽室へ向けて走り出した。
「あらあら・・・梓ちゃんったら。ホントに唯ちゃんの事が好きなのね」
**
明かりが付いているとはいえ夜の学校ってちょっと不気味。
後夜祭真っ最中だからか、校舎に残っている生徒はほとんど居なかった。
そんな中、私は音楽室への道をただひたすら走っていた。
廊下は走っちゃいけないって分かってるけど、何故か足が止まってくれなかった。
「はぁ・・・ふぅ・・・」
息が切れそうになって、一度立ち止まり、息を整える。
ようやく音楽室前の階段までやってきた。
でもここで唯先輩がいなかったら、骨折り損のくたびれもうけだ。
私は一段一段ゆっくりと階段を上っていき、扉の前で立ち止まり、ノブに手をかけ開く。
「・・・ゆ、唯先輩?」
「・・・あれ?・・・あずにゃん?」
恐る恐る中に入り、先輩の名前を呼ぶと返事が返ってきた。
どうやらムギ先輩の予想は当たったようだ。
中は電気がつけられていないせいか薄暗く、外の明かりが窓から差し込んでいるだけだった。
そんな中、唯先輩は長椅子に座ってギターをギュッと抱きしめていた。
「もう・・・心配しましたよ。急にいなくなるから・・・」
そう言いながら私は、唯先輩の横に座った。
「えへへ・・・ごめんごめん。ちょーっとギー太の事が気になったから抜けてきちゃった」
「そうですか・・・」
唯先輩はそう言うけど、きっとそれだけじゃないんだと思う。
それはギターを抱きしめ、憂いを帯びた表情をしている唯先輩を見ていると分かってしまう。
「今日のライブの事でも思い出してたんですか・・・?」
私の問いかけに唯先輩は一瞬大きく目を見開くと、ふんわりした笑顔を見せる。
「・・・よく分かったね。さすがあずにゃん」
「分かりますよ・・・、だって――」
先輩の事はいつも見てますから・・・。
「だって・・・何?」
「あっ!・・・べ、別に何でもないです!」
「え~、気になるよぉー、教えてあずにゃ~ん」
そう言いながら何時ものように抱きついてくる唯先輩。
「だ、ダメです、絶対教えませんから!・・・それより離してください、苦しいです」
別に唯先輩に抱きつかれるのは嫌いじゃない。
むしろ最近では悪くないかもとか思ってる。
先輩に抱きつかれると胸がポカポカしてあったかいし。
けどそんな事を素直に言えるはずも無く、何時もの調子で先輩から離れようとする。
「ぶー、あずにゃんのいけず~・・・」
唯先輩はしぶしぶといった感じで私から離れる。
私としてはもう少し粘って欲しいと思ってしまったけど、自分から離れてといった手前、どうすることもできない。
「・・・
唯先輩のバカ」
「ん?・・・あずにゃんなんか言った?」
「あ、いえ・・・何も。そ、それにしても今日のライブ、ホントにいい演奏でしたね!」
慌てて話を逸らす私。これ以上追求されても困るからね。
「え?・・・うん、そうだね。えへへ・・・ギー太忘れて来た時はどうしようかと思ったけどね」
「まったくですよ。けど、唯先輩の演奏・・・すごく素敵でしたよ・・・」
ずっと見てたから、先輩が演奏する姿、その横顔を・・・。
いつものちゃらんぽらんな先輩とは似ても似つかない。
一生懸命ギターを引いて歌い続ける先輩の横顔はすごくカッコよくて、見ているだけで胸がドキドキした。
「あずにゃん・・・うん、ありがと」
「い、いえ・・・ホントの事ですから・・・」
唯先輩は私の言葉に優しく微笑む。けど私はその笑顔を直視できずに目を逸らした。
何故?・・・自分でも分からない。
でもその笑顔を見た瞬間、胸がとくん、と跳ねた。
どくんどくんと鳴り始める心臓の音が唯先輩に聞こえてしまわないか気が気じゃない。
「どうかしたの・・・あずにゃん?」
「な、何でもないですから、き、気にしないで」
「・・・・」
何故か急に黙り込む先輩。
顔を逸らしているせいか、今、先輩がどんな表情をしているか分からない。
「・・・何でもないならこっち向いてよ」
「え?」
そこからの唯先輩の行動は早かった。
先輩は両手で私の肩を掴むと、ぐいっと私の方に引き寄せた。
その行動の早さに、私は最初何が起こったかわからなかった。
「あ・・・う・・・せ、先輩?」
何なんだろうか、この状況は。
身体を引き寄せられたと思ったら、今は目の前に唯先輩の顔。
その距離はあまりにも近い。
「あずにゃん・・・」
私の名を呼んだ先輩の声に、いつもは無い強い意思のようなものを感じた。
けどそれ以上に驚いたのはその表情だった。
優しさを感じるその表情の中に真剣さが垣間見える。
「な、何ですか・・・」
唯先輩の何時もと違う雰囲気に、私の心臓の鼓動がさらに激しさを増していく。
さっきみたいに顔を逸らしてしまえばよかったのかもしれないけど、何故か先輩の瞳から目を逸らすことができなかった。
「ね・・・あずにゃん?」
「は、はい・・・」
「・・・さっきの続きしよっか?」
「え?」
さっきの続き?・・・一体何の事だろうか・・・
「えと・・・な、何の事ですか?」
まったく落ち着きを取り戻さない心臓。
そのせいか、冷静な判断ができない私は、先輩が何を言っているのか理解することはできなかった。
でも、唯先輩の次の言葉のせいで嫌でもそれを理解した。
「・・・キスしよ、あずにゃん」
「っ!?」
キ、ス?・・・キスってあのキス?
さっきの続き、それは唯先輩がおふざけでキスしようとしたあの時の事だった。
あの時は、いきなりのことに平手打ちをくらわせちゃったけど・・・。
「・・・目、閉じて、あずにゃん」
「そ、その・・・あの、唯先輩?」
「閉じて」
「っ・・・」
分かってる。
今の唯先輩はおふざけでこんな事を言ってるわけじゃない。
そんなの唯先輩の真剣な表情を見れば分かることだ。
「あ・・・」
唯先輩は微笑み私の頬に手を沿え、優しく撫でる。
そしてゆっくりと顔を近づけてくる。
もう・・・限界だった。
今の先輩には逆らえない。逆らいたくない。
私は心のどこかでこうなる事を望んでる。
私はゆっくりと目を閉じる。
そして唯先輩がキスしやすいようにそっと唇を差し出す。
先輩の顔が近づいてくるのが気配で分かる。先輩の吐息を鼻先に感じた。
そしてその吐息を唇に感じた瞬間――。
「ん・・・」
私達の唇が重なった。
――ファーストキス
その相手が唯先輩だってことを嬉しく感じている自分がいる。
どうしてだろう、もっと、もっと、唯先輩を感じたい。
この柔らかさを、この暖かさをもっと感じたい。
「ふ・・・ちゅ・・・ゆ、いせん・・・んんっ!」
唇に微かな隙間が空き、私は先輩の名前を口にしようとした。
けど、先輩がさらに唇を押し付けてきたせいで、最後まで口にすることはできなかった。
唯先輩はぐいぐいと唇を押し付け、角度を変えながら私の唇の感触を楽しんでいる。
先輩のその行為に私は確かな興奮をおぼえていた。
さらに先輩は、少しだけ開いた唇の隙間から舌を差し入れ、私の舌先とちょんと触れ合った。
「んっ・・・ちゅ・・・ぴちゃ・・・れろ・・・」
舌先が触れ合った瞬間、全身に電流が流れる。
一瞬ビクッとした私を無視して、先輩は私の舌を舐め始める。
でも私はただ舌を硬直させたまま動かすことができなかった。
ファーストキスを体験した矢先に今度は大人のキスだ。
こんな時どうしたらいいか分からない私は、唯先輩にされるがままだった。
けど30秒、1分と時間が経つにつれ、あまりの快感に頭がボーっとしてきた私は、無意識に先輩の舌を自分から絡め始めた。
「じゅる・・・んん・・・ちゅぴ・・・」
「れろ・・・ん・・・ちゅ・・・ちゅ・・・」
お互いの舌を貪り続け、口内を荒らしていく。
ディープキスがこんなにも気持ちのいいものだとは思わなかった。
でもだんだん息苦しくなってきた私達は、どちらからともなくゆっくりと離れる。
舌同士が唾液の糸で繋がれ、すごくいやらしい。
「はぁ・・・はぁ・・・ねぇ、あずにゃん・・・」
「はぁ・・・ふぅ・・・な、何です?」
唯先輩は息を整えながら私をギュッと抱きしめると、耳元で囁く。
「――。」
「っ!」
…もう、唯先輩のバカ。これじゃ順番逆ですよ…。
そういう事はキスする前に言ってくださいよね…。
でも、おかげで私の”気持ち”にも気付くことができたから許してあげます。
今度は私の番ですから覚悟してくださいね?・・・唯先輩。
外では後夜祭で盛り上がる生徒達。
そんな生徒達を他所に私達二人だけの宴が始まりを告げた・・・
おしまい
【あとがき】
アニメ12話の後夜祭のお話でした。
なんか唯がイケメンすぎ?けどこんな唯もオレは好きさ!
なんか書いてるうちにR指定に突入しそうになったけど自重した
R指定書くのってかなり精神力が必要なんですよ、マジで・・・
さて、唯の最後のセリフいったいなんだったのか・・・
まあ分かる人には分かるでしょって事で伏せてみました。ていうか分かりやすすぎ?