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とある百合好きの駄文置場。二次創作SSやアニメ・漫画等の雑記中心。ゆいあずLOVE!

ゆいあず!!シリーズSS EP04 『軽音旅情浪漫譚 #2 ~揺れる心と新幹線~』

※追記からどうぞ!



ガタンガタンと新幹線に揺られること30分と少し、いまだに目的地である京都には着かない。
まだ走り始めてそんなに経っていないのだから仕方ないこととは言え、何故か気分は先へ先へと追いやられて。
もう着いてもいい頃合じゃないだろうか…なんて。そんな事ばかり考えてしまう。
旅の風情も醍醐味もあったものじゃない。
修学旅行ということもあってか、少し興奮気味なのかも。
柄じゃないから、さすがに騒いだりはしないけど。

とにかく少し落ち着こうと思って深呼吸。
――してみても、中々落ち着けないのが正直な話。
何せ人生最後の修学旅行だ。開放的な気分になって然るべき。
私だって出来たら心の底から大声を張り上げて騒いでみたい。
目をキラキラと輝かせてワイワイとはしゃぐ唯や律みたいに。


「…ふぅ…」


一息ついて、何気なく手にしていたデジカメを見つめる。
ピッピッという電子音を聴きながらデータをチェックして。
…といっても、残念ながらまだ中身は空っぽ。
何も撮られていない、空っぽのデジカメだった。
この日のために入っていた写真はパソコンに移動させてきたのだから残っているわけがない。
そう、これからこのデジカメに写し出されるすべては修学旅行の思い出だけ。
きっとこの旅行が終わるころには、内蔵メモリどころかSDカードの中まで一杯になっているんじゃないだろうか。
なんて、少し大袈裟すぎとも思えることを平然と考えてしまっている自分に少しおかしくなった。
これも修学旅行効果だろうか?


「楽しみだな…」


思わず「ふふっ」と笑みを漏らし、無意識に呟いていたその言葉に「ん?」と、耳聡く反応した人がいた。
おっとりぽわぽわが代名詞、名前は琴吹紬、軽音部のキーボード担当の不思議少女だ。


「どうかしたの澪ちゃん?」


新幹線に乗って此の方、延々とはしゃぎまくる唯や律を眺めていたムギ。
私の隣でニコニコと微笑みを絶やさなかった彼女が、疑問符を浮かべながら、キョトンとした顔で問いかけてきた。


(聞こえてたのか…さすがムギだな…)


本当に小さな声量で発せられたはずの呟きに反応してしまったムギの地獄耳。
他者への気配り上手が災いしたというかなんというか、とにかく少し感心してしまう。


「え、え~と…」
「ん?なぁに?」


くりっとした穢れのない瞳で見つめてくるムギに、何となく恥ずかしくなって。
心持ち顔を逸らし、誤魔化すようにぽりぽりと頬を掻くと、頬に触れた指先が少しだけ熱を感じた。
さてなんて答えようかと少し悩んだが、よく考えたら特に隠すことでもないと思いそのままムギへと伝えることにした。


「そ、その…修学旅行楽しみだなって」


するとムギは「あぁ…」と、どこか納得げな表情を浮かべ、両手をポンっと合わせる。
楽しそうに、そしてどこか嬉しそうに、いつもみたいなおっとりとした笑顔を浮かべて。


「そうね、みんなで行く最初で最後の修学旅行だもんね。私も楽しみで仕方ないもの」


ムギはそう言うと、脇に置いていた水筒に手を伸ばしクルクルと蓋を開け始める。


「まぁ…な」


何気なく告げたであろうその言葉は、私の胸に鈍い痛みを残す。
それが何故なのか、私自身、自覚はしていた。
“最初で最後”、そこに少し寂しさを覚えていたんだ。
自分たちが今3年生だということを嫌でも実感してしまうから。


「……」


卒業――ふと、そんな単語が脳裏を過ぎった。
私達はあと1年も経たずに卒業し、学び舎である桜ヶ丘から、大人への道を一歩前へと進んでいくことになる。
分かってる。それは今更言うまでもないことで、別に忘れていたわけじゃない。
今はまだ考える必要はないと思っていただけで、心の中にはいつもすぐ傍にあったのだ。

果たして進学するのか就職するのか、それはまだ分からないし決めていないが、
それでも、先の見えない未来への不安が、私の胸をキュッと締め付けていることは確かだった。
そう、今は期待よりも不安の方が大きかったから。

みんなと離れ離れにならないだろうか、とか。
放課後ティータイムはどうなってしまうんだろうか、とか。
音楽を続けていけるだろうか、とか。

私としてはもちろん、これから先もみんなと一緒に音楽を続けていければいいなとは思ってる。
音楽が大好きで、放課後ティータイムが大好きで、それに何より、みんなの事が大好きだから。
きっとみんなも同じ気持ちで、卒業くらいじゃ私達は終わらないって。
そう、信じてはいるけど…。


(でも…)


しかしそれでも、多少の不安は拭い切れない。
信じていたってこればっかりはどうしようもない。
この世には、「変わらないもの」と「変わるもの」の2種類が存在して。
さて、果たして私達放課後ティータイムはどっちに分類されるだろうか、なんて。
悩んだところで到底答えの出そうのない自問自答を繰り返して。
そのすべてが嫌な未来を想像して、気分は深い海の底に沈んでいくのだ。

分からないからこそ不安になる。
この世には絶対なんてないのだから。


「澪ちゃん」
「ぁ…な、何?」


悶々と思考が行ったり来たりしていたその時、突然ムギに呼びかけられ、ハッとして正気に戻る。
正気に戻って最初に感じたのは、鼻腔をくすぐる甘い香りだった。
見ると、ムギはお茶の入ったカップを私に差し出してニッコリと微笑んでいた。
優しくて、温かい、そんな微笑み。女の私から見ても綺麗だなって思うくらいに。
いつも唯や梓を見つめるような暴走状態とは似ても似つかない雰囲気を醸し出している。


「はい、お茶どうぞ。熱いから気をつけてね」
「あ、ありがと」
「いぇいぇ、どういたしまして♪」


差し出されたカップを手にとって、湯気の立つみなもにふぅ~っと息を吹きかけ、ひとくち口に含んだ。
市販のものとは違う独特の紅茶の味が喉を潤し、体を温める。
とても美味しかった。
その味はいつも放課後に堪能しているムギの紅茶の味そのもの。
わざわざ作って持ってきたんだ、と少し感心しながら紅茶を口に含む。

そうしていると、ふと私を見つめる視線を肌に感じた。
その視線の主は言わずもがなムギである。
お茶を渡したにもかかわらず、いまだにムギの視線は私の顔に釘付けだった。


「ど、どうかしたのかムギ? 私の顔に何か…」
「澪ちゃん、何か悩み事でもあるの?」
「っ…な、なんで?」
「うーん、なんとなく…ね」
「へ、へぇ…」


確かに悩み事のような悩み事とはいえないような事は考えていたけど、まさか気付かれるなんて。
ムギはなんとなくと言ったけど、果たして本当にそうだろうかとちょっと不信に思う。
何せ相手はあのムギだ。
悟りの境地に辿り着いているといっても過言ではないあの琴吹紬だ。
いつも思ってることだが、ムギは人一倍どころか凡人を遥かに陵駕する洞察力の持ち主。
読唇術なんてお手の物だし。もしかしてすべて悟った上で聞いているのかもしれない。

ジーッとムギの顔を見つめながらそんな事を考えていた矢先、
ムギは何を勘違いしたのか、突然ポっと頬を赤らめ顔を逸らした。


「だ、ダメよ澪ちゃん。澪ちゃんにはりっちゃんがいるんだから。浮気なんていけないわ…」
「んなっ!?」


いったい何を勘違いしたらそんな思考に行き着くのか誰か説明してくれ。


「ふ、不倫になってしまうわ…」
「ぶふぅっ!ちょっ!ちょ、まっ、何言って!?」


思いがけないセリフの数々に、私の顔が真っ赤に染まり、頭から湯気が立ち込める。
じっと見つめていただけでこの言われよう、さすがにひどい。
律がいるとか、浮気とか、不倫とか、それじゃまるで律が私の嫁でムギが愛人で…って、げふんっげふんっ!
そ、そんなわけあるか!り、律はただの幼馴染だ!そ、それ以外は何も…本当に何もないんだから!
ていうかムギが愛人ってどんな妄想だよ!?

確かにムギは綺麗で優しくて、非の打ち所がないように見えて実は暴走娘だけど。
でも私には勿体無さすぎるよ。全然釣り合ってないもん。


(改めて見るとムギって本当に綺麗だよな…)


特徴的な眉毛を筆頭に、綺麗な瞳、形のいい鼻、小さくて瑞々しい唇。
見たものすべてを恋に落としそうな、つやつやしたブロンド髪。
そしてそれらすべてを取巻く顔立ち。まるで中世のお姫様のようだ。
実際、ムギは生粋のお嬢様だしな。間違ってはいない。

とにかくそんなお姫様に、私みたいな平民が釣り合うわけないんだから。
私は黙って同じ平民である律と――って、何言わせんだよ!


「うふふ♪澪ちゃんったら百面相になってるよ?」
「そ、それはだって…ムギが…」
「大丈夫、冗談だから♪」


冗談なのに、何故か明後日の方を向いて。


「…どうして目を逸らすんだ?そういう事は人の目を見て話そうな?」
「で、澪ちゃんはいったい何に悩んでいたのかしら?」
「無視!?」


仕舞いには強引に話を変えられてしまった。
もう好きにしてくれとは思ったけど、結局悩みを打ち明けるまでには至らなかった。


「別に、本当に何にも悩んでないよ」


これは私の心の問題だから、自分自身で何とかしなくちゃいけないと思ったから。


「ふ~ん、そっか…」


ムギは、どこか納得したような、でも納得していないような、微妙な反応だった。
ふぅっと一息つきながら、そのまま正面を向くムギだったが、その表情はどこか硬い。
何となくムギに悪い気がしたけど、とにかくこの話はもう終わりってことでいいんだよな?

そう思っていたのも束の間、なんとか誤魔化すことが出来たとホッと胸を撫で下ろした矢先。
ふいにムギがコホンと咳払いをした。そのわざとらしい咳払いに私の体がビクンと反応する。
チラッと横目でムギの顔を見つめると、ムギは正面を向いたままそっと口を開き、ポツポツと語り始めた。


「今から言うことは独り言だから」
「え…?」


何事かと思えば、いきなり独り言とやらを語りだすムギ。
自分から独り言といってしまっては独り言にすらならないのではないかと思うんだけど。
とにかく独り言と言っている以上、聞く必要なんてない。
それは分かってるんだけど、でも。
何故かムギの話が気になって、言葉を聞き漏らすまいと耳を傾けてしまう。


「澪ちゃんが何に悩んでいても…」
「っ…」


悩みなんてないって言ったばかりなのにムギの言葉はそれを否定する言葉だった。
しかも独り言とか言っておいて名指しで私を持ち出している。


「きっと大丈夫だから」
「……」


何の脈略もない突然の「大丈夫」だった。
正直、ムギの言わんとしていることが、思惑が理解できない。

―――何が大丈夫なの?
―――そんなの何の気休めにもならないよ。

そんな私の心情に反して、ムギは決して後には引かなかった。


「絶対、大丈夫だよ」
「っ…!」


きっと、何に対して大丈夫といっているのかも分かっていないはずなのに。
大丈夫なことなんて何一つないはずなのに。それなのに胸に響くその言葉。


(あ、あれ?)


ムギの優しさが、温かさが、想いがたくさん詰まった「大丈夫」
その心は、私の不安を取り除き、徐々に安心へと変えていく。
まるで魔法のようだ。
誰かに大丈夫といってもらえるだけでこんなにも心に変化が生まれるなんて。
私が単純なのか、それともムギの思いやりの成せる業なのか、それは分からないけど。
でもさっきまで霧のようにモヤモヤしていた私の心が少しずつ晴れていくのは確かだった。


「なんとなくだけど、澪ちゃんが何に悩んでいるか予想はつくの。“最初で最後の修学旅行”って言ったとき、澪ちゃんとっても寂しそうな顔してたから。きっと澪ちゃんは先のことで不安になってるんだろうって、そう思った」
「……」
「私だって不安がないわけじゃないのよ? これから先どうなっちゃうんだろうっていつも思ってる。もしかしたら、唯ちゃんやりっちゃん、梓ちゃんだって同じことで悩んでいるかもしれない」
「……」
「でもね澪ちゃん。こう言ってはなんだけど、本当の本当は、未来なんて意識するだけ損なんだよ」
「……どうして?」


自称独り言に返事を返すのはどうかと思ったけど、聞き返せずにはいられなかった。


「未来は絶えず変化していくから。私たちがどう思ったところで、所詮未来なんて不確定だもの。その時の行動によって選択肢は無限に広がるから。起こるかどうかもわからないことに悶々と頭を悩ませるなんてエネルギーの浪費よね」
「確かにそうだけど…。でも分かってたってそう簡単に割り切れるものじゃないだろ?」
「確かに、人は不安を抱かずにはいられない生き物、不安があってこそ自然なのかもしれない」
「それでもムギは大丈夫なんて口にするのか?」
「そう、それでも。そうだったとしても」
「…なぜ?」
「なぜなら大切なのは“今”だから。今を精一杯生きることが何より大切だから。そしてそれは、必ず未来に繋がると信じてる。未来よりも、過去よりも、現在を見て?」
「…現在(いま)?」
「今、澪ちゃんの目には何が見える?」


告げられた言葉に意識を戻すと、視界に飛び込んできたのは唯と律の二人だった。
二人が満面の笑顔で、心の底からはしゃいでいるのが目に映る。
修学旅行が楽しくて楽しくて仕方ないって、嫌でも伝わってきた。


「おい見ろよ唯!富士山だぞ!始めて見た!」
「おおーっ!これは写メっておかなくては!」
「知ってるか唯?富士の樹海には鬼のように真っ赤な眼をした侍が氷付けで封印されてるって話だぜ。何でも千人斬で恐れられた伝説の侍なんだってさ」
「なんとっ!?それ見たい!」
「まー所詮伝説だからいるかどうかわかんないけどな。それに、唯が富士の樹海になんて入ったら延々迷ったあげく出られなくなるぞ?」
「うぅそれは困るかも。迷ったらニュースに出たりとかするかな?」
「ああ、捜索願いが出された挙句“平沢唯さん(17)、伝説を追い求めて行方不明”って題でお茶の間に流れるだろうよ」
「一躍有名人だね!」
「まぁ結局見つからなくて、そのまま白骨死体で発見されるのがオチだろうけどな」
「が、ガーン!?」


ムギの独り言すら耳に入ってないようにただただ無邪気にはしゃぐ二人。
不安なんて微塵も感じない。窓の外を眺めてはきゃっきゃと騒いで。
でもそんな笑い声がどこか耳に心地よかった。

二人は、現在(いま)を全力で楽しみ生きている。

ムギはチラッと私の顔を横目に見ながら、クスっと笑みを漏らし、話を続けた。


「未来に不安を抱いて笑顔を消すよりも、今この瞬間笑い合えることがどれだけ大切なことか、それを忘れないで。そして信じることをやめないで。澪ちゃんが望む未来は私達のその笑顔の先に必ず繋がっているはずだから」


確かに未来は不確定だ。不確定だからこそ不安が生まれる。
考えるだけ損だとしても、それはもうどうしようもない。


(けど、それでも――)


未来は、自分で、そしてその未来を望む者達と共に創り出していくしかない。
それこそが、未来を予測できる最善の方法なのだから。


「ありがとうムギ…なんか少しスッとした」
「あら、私は独り言を言ってただけなんだけど、どこからかお礼の言葉が聞こえるわ。幻聴かしら?」
「もう!」
「うふふ、ごめんなさい♪ でも最後にもう一つ。自分じゃどうにもならないことは誰かに相談するのも必要なことだよ。1人よりも2人。2人でダメなら3人でもいい。それだけで不安っていうのは薄れていくものだから。1人で抱え込まないで、澪ちゃんには私達が付いてるんだからね」
「ムギ…うん!ありがとう!」


ムギの気遣いにジーンと胸が熱くて、ぽかぽかと温かくて、とても優しい気持ちになる。
さっきまでの不安がウソのように胸がスーとしていく。本当にムギさまさまだと思った。
もし一人で悩んでいたら、この修学旅行も心の底から楽しめなかったかもしれない。


「なんかごめんな。せっかくの旅行なのにしんみりしちゃって」
「気にしないで。ほらっ、お菓子もあるから一緒に食べよう?」
「ああ、じゃあ貰おうかな」


さっそく気持ちを切り替えて、ムギの差し出したお菓子に目を向けた。
ムギの両手には二つの箱があった。
その二つの箱は同じに見えるが実はパッケージと中身が違うもの。
右手の方は“たけのこの里”で左手の方は“きのこの山”である。
それは子供から大人まで幅広く人気のあるお菓子で、日本人として生まれたからには皆一度口にしているのではないだろうか。

私は二つの箱を交互に見つめ、それからムギの顔をチラッと見た。
「好きな方をどうぞ」と目が語っている。
そういうことなら私の答えは最初から決まっていた。
断然“きのこの山”だろう。
私は昔から“きのこの山”派なので迷いはない。

手を伸ばし、きのこを一つ取ったその時――。


「「ああーー!!」」


新幹線を揺らしそうなほどの大声が私の鼓膜を突いた。



つづく
[ 2011/01/20 22:28 ] 未分類 | TB(0) | CM(0)
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