※追記からどうぞ!
ある日の放課後、珍しく私とあずにゃんは二人きりで練習していた。
他のみんなはどうしても外せない用事があるとかで今日は休み。
まあ私としてはあずにゃんと二人っきりでいられるから、ちょっと嬉しく思ってしまう。
みんなには悪いけどね。
「あずにゃ~ん・・・ここどうやるんだっけ?」
「またですか、唯先輩?・・・って、ここさっきも教えたとこじゃないですか!」
「えへへ・・・ごめんごめん」
「もう・・・しっかりしてくださいよ」
あずにゃんにギターを習うのはいつもの事だ。
でも今日は二人きりということもあってか、教えてもらってもあずにゃんの事が気になって、あまり練習に身が入らなかった。
そんな私にあずにゃんは呆れたような声を上げ、やれやれって感じでポリポリと頭を掻いている。
「だってぇ、あずにゃんと二人っきりだもん・・・」
「う・・・もう、そんな事言ったってダメなんですからね!」
いつもだったら二人っきりって事を意識させると、顔を真っ赤にしてもじもじしちゃうあずにゃん。
けど今日は珍しく乗ってこない。
「ああ~ん、あずにゃんのいけず~・・・・って、あれ?」
そんな事を言いながら私はいつものようにあずにゃんに抱きつこうとした。
でも不意に窓の外に目がいって、動きが止まる。
なぜ動きが止まったか。それは外の空模様が原因だった。
「あれぇ・・・なんか雨振りそう・・・」
私は窓の外を眺めながらポツリと呟く。
朝から放課後までは晴れてたのに、今ではすっかり曇り空で、すぐにでも降り出しそうな感じだ。
「・・・え?・・・うわ、ホントですね」
私の呟きにあずにゃんは同じように窓の外を眺めた。
「うーん・・・あずにゃん傘持ってきた?」
実は、私は傘を持ってきていなかった。
だからあずにゃんが持ってきていれば入れてもらおうと思ったわけだ。
俗に言う「相合傘」、一度やってみたかったんだよね。
まあ、このまま雨が降ればの話だけど。
「持ってきてないですよ・・・朝はあんなに晴れてたし、天気予報でだって雨が降るなんていってませんでしたもん」
予想に反してあずにゃんの答えは私が望んだものじゃなかった。
うーん、さすがのあずにゃんでも持ってきてないか。
まあそうだよね、天気予報では今日は一日中晴れっていってたもん。
まったく、天気予報ってあんまり信用できないね。
「唯先輩は持ってきてないんですか?」
おや?もしかしてあずにゃんも「相合傘」を狙ってる?
まあ狙われても持ってきてないから答えは決まってるんだけど。
「ううん、私も持ってきてないよ」
「まあ・・・そうですよね。けどどうしましょ、このまま降ってきたら・・・」
「うーん、濡れて帰るしかないねぇ」
降り出しそうな空模様に、私達は傘を持ってきていない。
こんな状態で雨が降ってくれば濡れて帰るしか選択しはない。
「あ、雨が降り出す前に帰った方がよくないですか。どうせ今日は私達二人しかいないわけですし、このまま練習終わらせて帰りましょうよ」
「おお、あずにゃん頭いいねぇ~」
よく考えれば一番最初に考えてもいい事のように思えるけど、二人きりという状況だとどうしても他の事よりあずにゃんの事ばかり考えちゃうんだよね。
きっとあずにゃんも同じなんだと思う。たぶんだけど。
「それじゃ、降り出す前に帰ろっか?」
「はい」
あずにゃんの提案に賛成した私は、二人して帰り支度を始めた。
**
所変わって下駄箱。
外を見ると、なんだかさっきよりも雨雲に重みが増しているように感じた。
「あずにゃん、早く帰ろ!」
「は、はい!」
これはホントにまずい――そう思った私は、急いで靴を履き替えるとあずにゃんと一緒に早足で校門を飛び出した。
「ああもう、なんで傘もってこなかたんだろ」
今更愚痴をこぼしても意味はないけど、言わずにはいられなかった。
これからは置き傘くらいしておいた方がいいかもね。
「仕方ないです。今日雨が降るなんて誰も思いませんよ」
「うん、そうなんだけど・・・」
「それに、まだ降ると決まったわけじゃないです」
確かにあずにゃんの言う通りだった。
雨が降りそうってだけで、まだ雨は降ってないんだから。
このまま、ただの曇り空でいてくれることを切に願うだけだ。
「そ、そうだよね・・・まだ降って・・・・あっ!」
その言葉は途中で切れた。
なぜなら、言葉の途中で頬にポツポツと雨粒がかかったからだ。
言ったそばから降り出すなんて、もしかして私、何かに憑かれてる?
もしかしたら私は雨女なのかもしれない。
「ふ、降り出しちゃいましたね」
「うわーん、は、早くしないとびしょ濡れになっちゃうよぉ~」
「と、とりあえず走りましょう、先輩!」
「う、うん」
あずにゃんは私の手をとると、ダッと駆け出した。
繋いだ手からあずにゃんのぬくもりが伝わってきて、ちょっとドキドキ――
・・・って、そんな事考えてる場合じゃないや!
妄想している間にも、ザーザーとどんどん雨脚が強まっていって、容赦なく私達を濡らしていく。
「ど、どうしよー!ぎ、ギー太濡れちゃうよ~」
「口動かすより、足動かしてくださいよ!唯先輩!」
「う、うん」
これはもうギー太どころか鞄の中まで被害がいってるだろう。
私達も私達で全身びしょ濡れ、下着までぐしょぐしょだ。
下着がぐしょぐしょなんて聞くとちょっとエッチな感じだけど…って、ホントにこんな事考えてる場合じゃないんだって~!
「先輩!私の家の方が近いから、よってってください!」
「え?・・・う、うん、いいの?」
「当たり前です!こんな雨の中先輩一人にさせられません!」
「あずにゃん・・・うん!ありがと!」
ホントにあずにゃんって優しい。
そんなたまに見る優しさに私は惹かれたんだよね。
ホント、あずにゃんと恋人同士になれてよかったぁ。
そして
足を止めず走り続けた私達は、ようやくあずにゃんの家に辿り着いた。
あずにゃんの家に着いた頃には、頭の先から足の先までびしょ濡れで、鞄やギターも全滅だった。
これはお手入れが大変だよ…。
「ふぅ・・・やっと着きましたね。・・・大丈夫ですか唯先輩?」
「う、うん・・・でも下着までぐっしょりでちょっと気持ち悪いかも・・・」
「あ・・・そうですよね、待っててください、今タオル持ってきますから。私の部屋にいっててください」
「え?・・・う、うん」
あずにゃんはそう言うと早足でタオルを取りに行った。
私は言われた通りあずにゃんの部屋に上がる。
うーん、濡れたままであがったから、部屋が汚れちゃうよ・・・。
「あずにゃ~ん・・・早く来て~」
小声で言ったって聞こえるはずないけど、呼ばずにはいられない。
でもそんな祈りが通じたのか、あずにゃんが部屋の扉を開けて入ってきた。
「お待たせです、先輩」
「おおーあずにゃん、待ってたよぉー」
まさに救いの女神。
やっぱりあずにゃんはどんな時でも私に応えてくれるね。
そんな事を考えていると、あずにゃんは私に近づき、おもむろに私の身体を拭き始めた。
「ひゃっ!?・・・あ、あずにゃん?」
私はいきなりの事に驚きの声を上げてしまう。
「拭いてあげますから動かないでください、唯先輩」
「ええっ!い、いいよぉ、自分で出来るからぁ」
私がそう言ってもあずにゃんは手を止めてくれなかった。
それどころかどんどん力強く私の身体を拭いていく。
胸の辺りを拭かれるとちょっとくすぐったくて、声を上げそうになるのを必死に耐えた。
そんなこんなで私の身体をくまなく拭き終わったあずにゃんはようやくタオルを解放した。
「あ、ありがと、あずにゃ・・・っ!!」
「ぁっ!」
ドキン、と胸が高鳴る。
――私、いや私達は驚いた。
なぜなら、顔を向けた先にお互いの顔が近くにあったから。
目線が交差し、まるで魅入られたように目を離すことができない。
顔が熱くなっていく。
それはあずにゃんも同じようで、朱に染まっていく頬を見れば明らかだった。
「あずにゃん・・・」
「唯先輩・・・」
お互いの名を呼びながら、私達の顔は徐々に近づいていく。
そしてその柔らかな唇に自分のそれを重ね合わせた。
あずにゃんの唇は柔らかい以上にとても熱かった。
雨に濡れ、冷えた私の身体がいつも以上にそう感じているのかもしれない。
「ん・・・ふ・・・」
重ねた唇の隙間から吐息が漏れる。
「唯・・・」
「梓・・・」
名前を呼び合い、ギュッと抱きしめあうと身体の触れたところから熱を帯びていく。
雨で濡れた服が肌に張り付いているせいか、まるで肌同士が触れ合っているような錯覚に陥っていた。
「唯・・・いいですか?」
「・・・・」
私は答えなかった。
だってもう言葉なんて必要なかったから。
それはきっとあずにゃんだってわかってる。
あずにゃんは私をベッドに押し倒すと、フッと優しく微笑み、キスを落とした。
私達のふわふわ時間はまだ始まったばかり。
外で降り続ける雨をBGMに、私達は熱く蕩けるような時間を過ごしたのだった。
おしまい
【あとがき】
ゆりゆりだいすきっ様のところで相合傘ネタをやってたので
自分も雨にまつわる話を書いてみました
今回もご馳走様でした
二人のその後も気になりますが、それよりもギー太たちが無事なのか気になります
ギターは水で濡れるとすぐ使い物にならなくなりますから……って、SSでこんなこと言うのも変ですね
あ、10000hitおめでとうございました