とある百合好きの駄文置場。二次創作SSやアニメ・漫画等の雑記中心。ゆいあずLOVE!

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憂純SS 『love your life ~U&J~ 番外編Ⅱ 前編 』

※憂純週末編SS
※追記からどうぞ!


11月12日、金曜日。
その夜――。

私こと鈴木純は、中学からの親友、平沢憂の家に足を運んでいた。
夜中に他人様の家に何の用だと思うかもしれないが、理由は単純にお泊り会。
今時の中高生なら、そこまで珍しいことでもないと思う。

さて、普通お泊り会に小難しい理由なんてあるはずないが、
このお泊り会には海よりも深く、山よりも高い理由があった。
実はこのたび、憂の姉である唯先輩が一時的に梓の家に居候することになったのだ。
理由は梓の両親が2週間以上も仕事の都合で不在らしく、梓が独りになってしまうから。
唯先輩は、梓を独りにしておけなかったらしい。

一時的とは言え、2週間以上という長い期間の滞在。
さしもの憂も寂しがっていた。表には出さなかったけどね。

それは今朝の出来事、HR前の短い時間でした会話でのこと。
私が何気なく「唯先輩いなくて寂しい?」と質問したとき、
憂は元気いっぱいの笑顔でこう返した、「ぜんぜん大丈夫だよ」って。
しかしすぐに私はあれ?っと、その笑顔に違和感を覚えた。

それはたぶん、他の人には分からない違いだったと思う。
みんなから見たら、いや、たぶん梓が見ても、いつもの憂と変わらないって言うほど自然に見える笑顔。
見えるだけで、本当の本当は寂しいんだろうって、私にはそう思えてならなかった。

昔からそう。
憂はあまり自分の弱さを他人に見せない子だから。
そして、それを隠すのも昔からお手の物だった。

なまじ何でも出来てしまう優等生ゆえに「私がしっかりしなきゃ!」って気持ちが強すぎる。
そんな気持ちが変に作用して、己の弱い部分を他人に見せないように胸の奥底に隠してしまう。
私にはそれが寂しかった。せめて私や梓の前でくらい、本当の心を見せて欲しかった。

でも、いいさ。

うまく隠せていようが何だろうが、私にはちゃんと見えてる。
憂の心の内側が。彼女が感じている寂しさが。痛いほどに伝わってくる。
楽しさも、喜びも、寂しさも、怒りも。
ずっと、一番近いところで見てきた。
私だけが憂の本質を知ってる。
あの子は、本当はとっても寂しがりや。
しっかりしてるようで、どこか抜けてて。
でも姉思いで、友達思いで、とってもいい子。

長い付き合いだから。
ずっと見てきたから。
だから私は――。


憂を独りにしておけない。


唯先輩が梓を選ぶなら、私は憂を選ぶ。
憂と一緒にいよう。ずっと、幾久しく。
心の感じるままに、想うがままに。


そう思ったら膳は急げ。
思い立ったが吉日ってことで、私の崇高な計画が始まりを告げた。

まずは軽いジャブから。

「土日、泊まりに行っていい?」って、友人同士なら当たり前の方法で攻めてみた。
さすがに「寂しいなら私が憂と一緒にいてあげようか?」なんて言ったら、絶対遠慮するに決まってるから。
あの子、あれで結構頑固者だからね。一度決めたら梃子でも動かない。
こういう場合は断られる可能性が低い方法で攻めるのが一番なんだよ。
これで落ちれば言うことないけど、相手はあの憂。
果たしてどうなるか、と思ってたけど、私の不安は杞憂に終わる。

突然のお泊り宣言に最初こそ驚いて、瞳を揺らしていた憂だったけど
すぐに何か悟ったような顔をして「うん!」と、嬉しそうに返事をしてくれた。
憂は賢い子だから。もしかして私の思惑ばれちゃったかな?とは思ったけど、
とりあえず断られなかったということは私の気持ちを察してくれたってことなんだろう。

憂に笑顔が溢れてた。
それは憂の心からの笑顔だと私は知っている。

そう――その笑顔。

私が見たかったのはその笑顔。憂の本当の姿。
陽だまりのように暖かく、全てを包み込んでしまいそうな、そんな慈愛に満ちた笑顔。
この子と出会ってからの記憶。その中で一際輝くそれが目の前にあった。

思わず苦笑してしまった。
そして思った。

あぁ…憂にはやっぱり私がついていてあげなきゃな、って。



ピンポ~ン♪

チャイムを鳴らし、ドアの前に立ち尽くすこと数秒、
ドアの向こう側から「は~い!」と言う元気でどこか上擦った声が聞こえてくる。
聞き間違うはずもない、親友の声。
姿が見えずとも、声だけ聞けば憂の楽しげな様子がありありと想像できる。
ドタドタドタっていう憂には似つかわしくない慌しい足音が近づいてきた。
そんなに急がなくたって私は逃げないよ、と思わずクスクスと笑ってしまった。

さて今のこの状況、シチュエーションとしては出来立てホヤホヤの新婚夫婦かな?なんて考えてみる。
旦那様の帰りを今か今かと待ちわびる嫁の姿を想像してみた。


(エプロン姿でお出迎え。これって鉄則だよね?)


どんな鉄則だよっていうツッコミはさておき、この場合私が旦那で、憂が嫁。
ちょっとその光景を妄想してみる。


(へぇー何か結構絵になるんじゃない?)


この際だから、憂を私の嫁にするか?

幸せ家族計画的な妄想は止まることをしらない。すでに二人の間には子供が誕生していた。
やれやれだ。私も結構妄想力逞しいなと、しみじみ思う。

とりあえずボーっとしているわけにもいかず、扉に手を伸ばした。
ガチャリっと音を立てて扉が開け放たれ、私は一歩足を踏み出し平沢家の敷居を跨いだ。
自分の家とは違う、他人の家特有の匂いが微かに鼻腔を霞める。


「おじゃましまーす!」


まずは挨拶。親しき仲にも礼儀あり。


「いらっしゃい純ちゃん♪」
「くはっ!」


出鼻に右ストレートを顔面に食らわされた気分だった。
嫁の出迎えに1ラウンドKO寸前である。2ラウンド持たないよ。


「ど、どうしたの純ちゃん?」
「ど、どうしたって…あ、あんたねぇ…」


家に入ってすぐに目に入ったのは見目麗しい向日葵の如き満面の笑顔。
パァーッと照りつける太陽の如く、直射日光にも似たそれが私の心をピンポイントで貫いたのだ。
いきなりのことで回避することも出来ず、直撃を食らってしまった。


(や、やばっ…なんかドキドキしてんだけど)


何故だか知らないが、直撃を食らった瞬間、心臓がドクンっと飛び跳ねた。
さらにドキドキと胸が高鳴りだして、頬がカァーーッと熱くなっていく。
やばい、今私の顔絶対真っ赤だ。茹蛸もびっくりの茹で上がり。


「ふふ♪ 変な純ちゃん♪」
「くぁっ!?」


おいおいヤバイでしょこれ? 何この可愛い生物。食べていいの?
その笑顔は反則。反則取られちゃうよこの子。退場は免れないよ?
イエローカードなんて生ぬるい。いっぱつレッドカード確定だね。


(な、なんて笑顔でお出迎えしてんのよっ!)


先ほど妄想したとおりエプロン姿でお出迎えなのはいいが、まさかの伏兵が潜んでいた。
心の準備もないままに伏兵と相対した私は、なす術もなく撃退されてしまった。
つまり、即死。憂の笑顔にMMQしてしまったわけである。


(そんなに私が来るのが嬉しかったのか?そんなに私と一緒にいたいのか?そんなに私の嫁になりたいのか?)


おっと、いかんいかん…、と首を横に振り乱して邪念を振り切るZE!!
深読みしたくなる気持ちを抑えられないが、とりあえずこういう時は深呼吸が一番。


「すぅ~はぁ~すぅ~はぁ~~」


心を落ち着けて、今一度憂に向き直る。
目の前には何が何だか分かっていないおろおろした憂。
つぶらな瞳でキョトンとしている憂ちゃんマジ天使。


(いちいち可愛いなチクショウ!)


憂の殺人的な可愛さにムラムラするのを必死に押さえ込む。


(と、とりあえずまずは挨拶からよね!)


人間関係をよりよいものにするには最初が肝心。偉い人もそう言ってたし。


「きょっ、きょきょっ、今日からヨロシコね!」


しかし出だしから失敗。気を張りすぎて声が裏返ってしまった。
ていうか何だヨロシコって!ヨロシクだろぉおおお!


「アアァー!」
「じゅ、純ちゃん!?」


奇声を発しながら頭を抱えて首を振り乱す。恥ずかしい言動に自己嫌悪フルバースト。


(ていうか恥ずかしすぎる!穴があったら入りたいいいい!)


一心不乱にきょどりまくっている私の様子に、さすがの憂もおかしくなったのか、


「うふふ♪ もう純ちゃんたら~♪」


クスクスと楽しそうに笑いだした。本当に楽しそうにお腹を抱えて笑ってる。
それを見てたら、何だか私までおかしくなってしまった。


「…ぷっ…ははっ」


やれやれと、苦笑気味に私は肩をすくめる。




ひとしきり笑い合い、だいぶ落ち着いてきたので改めて向き直る。


「あー、えーとそれじゃ改めて。こんばんは憂。今夜からヨロシク」
「うん、こんばんは純ちゃん。こちらこそヨロシクね」


挨拶はほどほどにして、ボストンバックから包装紙に包まれた箱を取り出し憂に差し出した。


「これ、つまらないものですが」


お約束なセリフで手渡す。中身は何の変哲もない和菓子の詰め合わせ。
手ぶらでくるのもあれだし、母親が以前に買ってきた未開封のものをそのまま持ってきたのだ。
途中で買うという選択肢もあったけど、なにぶん今月のお小遣いが厳しかったので断念せざるを得なかった。
ご利用は計画的に。
それがお小遣いの鉄則だけど、欲しいものがあるとどうしても財布に手が伸びてしまう。
仕方がないさ。そんなお年頃なんだよ。女子高生っていう生き物はね。
それに、誰だってそういう気持ちあるでしょ?
人間、我慢しすぎるとストレス溜まっちゃうしね。


「わぁー♪ありがとね純ちゃん!」
「いえいえ。どういたしまして~」


和菓子ぐらいで喜んでもらえるなら、私としても持ってきた甲斐があるってものだよ。
私がお金出したわけじゃないけど。そこは言いっこなしという事で一つどうかヨロシク。


「そういえば親はいないの?」
「うん、まだ仕事から帰ってきてないよ。今日残業なんだって。帰りは遅くなるんじゃないかな」
「そっか」
「うん」


雑談もほどほどに平沢家に上がりこんむ。
用意されてあったスリッパを履いて、憂と共にリビングへと向った。
リビングに近くなると、どこからともなく胃袋を刺激するいい匂いが漂ってくる。
思わず、くんくんと鼻をピクピク動かしてしまう。


「ちょうど夕ご飯の準備終わったとこだから、冷めないうちに食べようね」
「憂の手料理か~、楽しみー♪」


憂が作ってくれるってことで、もちろん晩ご飯は食べてない。


「いっぱい作ったから遠慮なくおかわりしてね♪」
「もちろん!お腹ぺこぺこだしね~」


ここだけの話、憂の本格的な手料理を食べるのはこれが2回目だったりする。
一度目は梓の誕生日。昨日のことだ。昨日も憂が料理全般を担当し、みんなの舌を唸らせた。
お店に出しても通用しそうな料理の数々。
十分お金が取れるレベルの品々だったのを私の舌が覚えてる。
いっそのことお店でも出したらいいんじゃないかと思った。

ちなみに憂の料理の中で私の一番の好物は玉子焼きだ。
どれくらい好きかと言えば、憂のお弁当から毎日摘まんじゃうくらい大好き。
あの、あま~い玉子焼きが口の中で蕩ける食感が堪らなかったりする。
美味しすぎてホッペが落ちそうなんだよ。


「じゅるっ…おっと!」


思い出したら口の端から涎が垂れそうになった。袖でゴシゴシっと拭う。
食べる前からこんなでは、いざ食べた時に我慢が効かなくなりそうだ。
まぁ、憂の口ぶりから察するに我慢なんか必要なさそうだけど。
でも女の子がガツガツと料理を食べ漁ってるのって絵的にどうよ?


(うあー!早く食べたーい!)


それでもやっぱり食に対する欲望は私から女の子の常識を奪い去っていく。
やはり人間の三大欲求の一つ『食欲』には女の子の常識なんて通用しないということか!

とりあえず女の子の常識はこの際考えないことにした私だった。
まぁ、今夜は憂と二人きりだし、無礼講ってことで一つ。
羽目を外そうってことに今決めました。決定です。OK?
人間、我慢は体に毒ですぜ?


そんなこんなで憂の料理が待ち遠しくてしかたがない。
るんるん気分を抑え切れず、思わずスキップしながらリビングに足を踏み込んだ。







「す、すげぇ…」


それが第一声。テーブルの上に置かれた料理の数々を見て最初に思った感想だった。
凄いという言葉しか思い浮かばないほどの光景が目の前に広がっていた。


「足りなかったらまだまだあるからね?」
「いや、どう考えても二人で食べるには果てしなく多いですよ憂さん?」
「そうかな?」


そうかなって…、まぁとりあえず量は置いておこう。これはまだ予想の範囲だから。
着目するべき点はそこじゃないのだ。問題は料理の量ではなく、料理の質。


(何これ?満干全席?宮廷料理?)


正直、食べたことも見たこともないが、そう言う名前がしっくりきそうな、一般人にはお目にかかれないような料理の数々だった。
ただの料理だというのに、見ているだけでプレッシャーに押し潰されそうだ。


「あ、あの憂、これ全部一人で作ったの?」
「え?うん、そうだよ」


さも当然のように質問に答える憂。背筋に冷たいものが走った。


(こ、この子…ホントに人間か?)


驚くな、と言う方が無理がある。
一介の女子高生に作れるレベルを遥かに超えているのだから。
これを一人で、短い時間の間に全て作り上げた憂はやはり只者じゃないと思った。
料理の鬼。いや、料理の女神と崇め奉ろうか。
ていうか、マジでお店出した方がいいじゃない、これ?


「はぁ…」


眼前の光景に心奪われて数十秒、足がすくんで未だに動けずにいた。
ただただ、感嘆の溜息だけが口から漏れる。


「あ、あの…今日は誰かの誕生日でしたっけ?」


誕生日なら昨日、梓の誕生日会をしたばかりじゃないか。
それでも、あるわけないのは分かっているが聞かずにはいられなかった。
恐る恐る問うが、憂は笑顔のまま首を横に振った。


「ううん違うよ。純ちゃんが来るって思ったら嬉しくなっちゃって、少し張り切りすぎちゃった♪」


ニコッと天使のような笑顔を浮かべる憂ちゃんマジ天使。
ラブリーマイエンジェルういたんの誕生だった。


「……」


穢れを知らないその笑顔に、キュンキュン胸がときめく。
つまりこの料理すべてが私のために作られた。私のためだけに。
トクントクンと優しい胸の鼓動。喜び以上の何かで胸がいっぱいになる。


(もう我慢できん!)


思わず憂の両手をギュッと握りしめ、ジッと憂の目を見つめた。
これから何をするって?それは聞くだけ野暮ってもんでしょ。


「憂…」
「な、なぁに?」


緊張した面持ちで私の言葉を待っている。
頬がどことなく赤いのは気のせいではないだろう。
そんな憂に私は、


「私の嫁になりなさい」


プロポーズと言う名の手榴弾を全力投球で投げつけた。


「へ……えぇええ!?」


対する憂。突然の嫁宣言に、当然のように過剰な反応を示す。
顔を真っ赤にして慌てふためき始めた。
「えーと!その!あの!」ときょろきょろと視線を泳がせながら言葉を捜しているが、
しかしいい言葉が見つからないのだろう。完全にきょどりまくっている。

やれやれ、困らせるつもりなんてなかったんだけどなぁ。
うそ、ごめん、訂正。実は困らせるつもりでした。てへぺろ~♪


「やっ、あ、あのね、私たちその女の子同士だし、あっ、といっても純ちゃんのこと嫌いってことじゃなくてねっ、もしろ大好きなんだけどっ、ああっ! だ、大好きと言ってもそういう意味じゃなくってっ!いやいやその、べ、別にそういう意味でも悪くは…」 


何か言っているみたいだが、早口でブツブツ言ってて、正直聞き取れない。
それから1分くらいブツブツ言っていた。さすがの私も痺れを切らしてしまった。
こういうときの対処法はいくらでもあるけど、手荒な真似はしたくないので穏便にいこう。
自分の世界に行ったまま戻ってこない憂の頬をむにーっと横に引っ張ってみた。
横に横に、ゴムみたいにビヨーンっと伸びる柔らかな頬。とてもいい感触だった。


「ひにゃっ! ま、まみふうもー!」
「あはは♪面白い顔!」
「うぅー!」


パッと手を離すと、頬を引っ張ってるわけじゃないのに憂はプクーッと頬を膨らませた。
どうやら自分の世界から脱出できたようだが、今度は怒らせてしまったようだ。
やれやれ、笑ったり照れたり怒ったり、忙しいお姫様だな。可愛いからいいけど。


「ごめんごめん♪悪かったって!」


仕方ないので頭を撫でて宥める。
すると「あぅ」と小さな声を上げながら借りてきた猫みたいに大人しくなった。
まったく、いちいち可愛い反応だな。狼に食べられでもしないか心配で仕方がない。
おっと、この場合食べるのは私の仕事かな? まぁいいや。それよりも――。


「さっきのは冗談だからさ。そんなに悩まなくてもいいよ」
「え?冗談なの?」


しゅん…と落ち込んだような顔をする憂。どうしてそこで残念そうな顔するかなぁ。
そんな顔したら本当に食べちゃうぞ、って憂よりもまず目の前に出された料理を食べなきゃ始まんないよね。
体力つけなきゃいけないし。って何の体力だよ!はい、ノリツッコミ終了!


「ほらほら、そろそろ料理食べよ。冷めちゃうよ」
「う、うん、そうだね」


話が長引いてしまったが、ようやく私達はご飯にありつけた。
仲良く揃って座り込み「いただきます」をして、美味な料理をもぐもぐと食べながら、雑談に花を咲かせ。
やっぱり食事は一人よりも誰かと食べる方が美味しいなとしみじみ思う、そんなひと時だった。






「けふっ…まだお腹パンパンだよ…」


夕飯の時間が終わりのんびりと時間を過ごす。
パンパンに張ったお腹を両手で叩いてみると、ポンポンとタヌキのお腹みたいな音がした。
やれやれ、女の子の常識なんてもはや見る影もない。
さすがにお腹パンパンの姿のまま外に出るのだけは勘弁願いたい。
妖怪タヌキ女として全国指名手配されそうだよ。


「…もう1週間くらい食べなくても大丈夫な気がする…」


やはりというかなんというか、料理の量は半端じゃなかった。
それでも憂が私のために作ってくれたものを残すわけにもいかなかったので、
私は出されたすべてを食べきった。おかわりはさすがにしなかったけど。


「……ふぅ……」


一息付く。静かな時間が私の神経を研ぎ澄ましていく。
ふと、台所の方からジャージャーと言う水の音に混じって「ふふふ~ん♪」と楽しそうな鼻歌が聞こえてきた。
憂は食器の片付けのため台所で洗い物仕事だ。見事に主婦してんなーって思う。
私も最初は手伝おうかと思ったのけど、いかんせん、お腹がパンパンで動けなかった。
少しでも動けば、胃袋の中のものが全部逆流して大惨事になりかねなかったから。


『るる~♪らららぁ~♪』


憂は洗い物仕事まで楽しそうだなっと、ぼんやりと考えていた。


「何だかいいな…こういうの」


こういうのって、どういうの?
つまり新婚生活って、こんな感じなんじゃないかってこと。
嫁が張り切りすぎて作りすぎた料理を、旦那が無理して食べて、そして太っちゃう。
こういうのを幸せ太りっていうのかもね。まぁ太る方は堪ったものじゃないけど。
だって私、女の子だし。さすがにブクブク太るのは嫌ですのことよ。


「憂と結婚する人は幸せだよねー…」


ぜひ私が!…と言いたいとこだけど、残念なことに法律がそれを許しちゃくれない。女の子同士だし。
まぁ結婚しなくても、一緒にいるだけならやろうと思えばやれると思うけどね。
ただ、そこまでの覚悟が持てるほど、人間は強くないんだ。


ふいに、キュっと水道が閉じる音が聞こえた。どうやら洗い物が終わったみたい。
カチャカチャという食器の音が聞こえなくなると、ほどなくして憂が台所から出てきた。
ここは一つ、労いの言葉でもかけてやるか。


「おつかれー、憂」
「うん。純ちゃんはもうお腹大丈夫?」
「まぁね。だいぶこなれてきたかな」
「もう、無理して食べなくてもよかったのに…」


憂は苦笑気味にそう言った。
作った本人がそれを言っちゃおしまいだと思うんだけど。
そこのところどうだろうね?


「そんなこと言ったって、すっごく美味しかったし。残したら勿体無いじゃん?」


見た目どおり、料理の味は絶品だった。
どこぞの味の王様が食べたら、目をピカーっと光らせて「うーまーいぞぉおおおお!!」と叫んでいたに違いない。
おまけに巨大化しちゃうかもね。


「残ったのは次の日に食べてもいいし、お弁当とかにも使えるから残してくれても良かったんだよ?」
「いやいや、出されたものは全部食べるっていう家訓が鈴木家にはありましてね」
「ふふっ、なにそれー」
「なんだろうね、ははっ」



せっかく憂が私のために愛情込めて作ってくれた料理だもん。
憂の愛情、一つだって残せるはずないよね。




―中編へ―
[ 2010/12/09 21:13 ] 未分類 | TB(0) | CM(0)
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