※追記からどうぞ!
暖かい風が頬を撫でる中、私とあずにゃんは学校の屋上で昼休みを過ごしていた。
いつもと同じと言ってしまえばそれまでだけど、でも今日の昼休みはそんな「いつもの」とはちょっと違っていた。
まあ、いつもと違うのは主に私の心の中だけで・・・なんだけどね。
でもそんな私の心中を察したのか、あずにゃんはおずおずと口を開き、私に問いかけてくる。
「あの・・・唯先輩?」
「な、なに?」
「何じゃないですよ。どうかしたんですか?・・・何か妙にそわそわしてますけど」
「え、えーと・・・」
どうやらあずにゃんにも分かっちゃうくらい今の私は挙動不審だったみたい。
いつもなら楽しみで仕方ないはずのランチタイムなのに、今日は妙な緊張感が私の心を支配していた。
これはあれだ、あずにゃんに告白した時の緊張感に似ている・・・様な気がする。
「べ、別にどうもしないよ?」
「そ、そうですか・・・それならいですけど・・・」
どうもしない、なんて嘘だった。
何故なら、私は今日、あずにゃんにある物を渡そうと思っていたから。
で、そのある物は今、私が後ろに隠し持っている訳です。
「ん?・・・唯先輩、後ろになんか隠してません?」
「えっ!べべ、別に何も隠してないよぉ~」
や、やばっ!気付かれちゃった・・・どうしよう。
いや別に気付かれてもいいんだけど、まだ心の準備とが・・・。
「・・・もう、そんな事言ったってバレバレですよ?何か微妙にピンクの布が見えてますし・・・」
「う、うぅ・・・」
どうやらもう言い逃れはできそうにないみたい。
それにあずにゃんが言ったピンクの布っていうのはハンカチで、それにはある箱が包まれていた。
まあ今がお昼休みなんだから誰だって分かると思うけど、その箱って言うのはお弁当だった。
でもただのお弁当じゃないんだよ?・・・これは私があずにゃんのために作ってきたものだから。
つまりはその・・・俗に言う愛妻弁当。
これを渡すか渡さないかで私は悩んでいたわけ。
まあ食べてもらうために作ったんだから渡さなきゃ意味ないんだけど。
一応ね、憂に何度も何度も習って作ったんだよ。
でもあんまり味も見栄えも自慢できないものだから。
でもでもこれでもホントに成長したんだよ?
最初の頃なんて卵焼きを作るはずだったのに何時の間にか卵焼き「だった物」に変わってたんだから。
料理って奥が深いんだなって身を持って思い知ったよ。
まあ自分で食べるものなら味も見栄えもそこまで気にしないけど、あずにゃんに食べてもらうために作ったものだから、すごく気になった。
・・・こんな物だけど、あずにゃん、喜んでくれるかな?
「唯先輩、大丈夫ですか?」
「あ・・・・・・・ご、ごめんね、あずにゃん。大丈夫だよ」
そんな事を悶々と考えていたからか、気が付くとあずにゃんが私の顔を心配そうな表情で覗き込んでいた。
いけない、いけない。あずにゃんに心配をかけさせたら本末転倒だ。
これ以上考えたって何も始まらない。それならあずにゃんにお弁当を渡して玉砕したほうがまだましだ。
・・・まあ玉砕しても困るけどね。
そして、かれこれ1分程悩んで、ようやくあずにゃんの前にお弁当箱を差し出した。
「あずにゃん・・・・・」
「なんですか?唯先輩」
「その・・・・・・・これ、食べて?」
差し出したお弁当を持つ手が、少し震えていた。
こんなに緊張するのは、あずにゃんに告白した時以来じゃないだろうか。
学園祭のライブの時だって、こんな事にはならないし。
「え、えーと・・・」
あずにゃんは少しの間、お弁当と私の顔を見比べていた。
私にはその少しの間が随分長く感じられたけど、すぐにあずにゃんの表情は私の大好きな笑顔に変わった。
そしてゆっくりとお弁当箱を手に取る。
「その、これ唯先輩が作ってくれたんですか?」
「えと、う、うん。あ、おいしくなかったら・・・・・・無理して食べなくてもいいよ?」
「そんな、唯先輩が私のために作ってくれたお弁当が、おいしくないはずないですよ」
うぅ・・・・あずにゃん、そんな気遣いは無用だよぉ。
これでおいしくなかったら、私きっと立ち直れないよ。
「えと、それじゃあ、頂きますね?」
「あ・・・・」
あずにゃんが私の作ったお弁当に箸を付ける。
慌てふためく私に構わず、あずにゃんはおかずの中から卵焼きを口に運んだ。
もちろんちゃんとした卵焼きだよ?・・・卵焼き「だった物」じゃないからね?
「ん・・・・」
あずにゃんはもぐもぐと無表情で食べている。
だからそれがあずにゃんにとっておいしいのか、そうでないのか、私にはよく分からなかった。
「ど、どうかな?・・・あずにゃん」
気になった私は、思わず自分の口からあずにゃんに感想を求めてしまった。
あずにゃんは少しの間黙っていたけれど、すぐにまた笑顔になった。
「・・・・・だから言ったじゃないですか。唯先輩が私のために作ってくれたお弁当が、おいしくない筈ないって」
「え、それじゃあ・・・・・・」
「はい。とってもおいしいですよ、唯先輩」
そう言ってあずにゃんはニッコリと微笑んだ。
その言葉に、私の全身から力が抜けるのを感じた。
よかったぁ、あずにゃんが気に入ってくれて・・・。
けど私はいつもより心配性になっていたみたい。
あずにゃんが無理しておいしいって言ってくれたんじゃないかって、だからこう聞かずにはいられなかった。
「・・・・・ホントに?私に気を使ってくれないくてもいいんだよ?」
あずにゃんはその質問には答えてくれなかった。
その代わり、自分で食べていた卵焼きを私の前に差し出した。
「えっ?」
「心配性ですね、唯先輩は。自分で食べてみれば分かりますよ?はい、あ~ん」
「あ、あーん・・・・・・・」
私は一瞬戸惑ったけど、あずにゃんが差し出した卵焼きを口にした。
「むぐむぐ・・・」
あれ?確かに一応食べられる味だ。
昨日家で練習したのはとても料理と言えないくらいの味――っていうか料理ですらなかったけど。
そんな私の料理?に『お、お姉ちゃんには、料理は無理かもね・・・』なんて言われちゃう始末。
けど好きな人のために頑張りたいって私の気持ちを汲んでくれた憂は、最後まで私の面倒見てくれたんだけどね。
できのいい妹を持って私は幸せだよ、うん。
「どうです?おいしいでしょ?」
「うん、まあまあ・・・・・・かな」
「唯先輩はもっと、自分に自信を持っていいと思いますよ。唯先輩はやれば出来る人なんですから」
あずにゃんが本当にお弁当を気に入ってくれたことが分かって、やっと普通に笑うことが出来た。
今日はずっと緊張しっぱなしで全然笑えなてなかったから。
そして、そんな私の笑顔に、あずにゃんの表情も眩しいくらいの笑顔になる。
私の大好きなあずにゃんの笑顔。
それを見る事が出来ただけで、今日お弁当を作ってくるまでの苦労なんていっぺんに吹き飛んだ。
「ありがとね、あずにゃん」
「ふふ、お礼を言うのは私の方ですよ。唯先輩の手料理が食べられて幸せです♪」
そんな風に言ってもらえると、やっぱりお弁当を作ってきてよかったなって思う。
そんな小さな幸せに浸りながら、あずにゃんが嬉しそうにお弁当を食べる姿をずっと眺めていた。
**
「ごちそうさまでした。おいしかったですよ、唯先輩」
「えへへ・・・・・・ありがと、あずにゃん」
あれからあっという間にお弁当が空っぽになった。
私もあずにゃんの笑顔だけでお腹いっぱいだ。
「とってもおいしかったんですけど、食後のデザートが欲しいですね」
ところがあずにゃんはいきなりこんな事を言い出した。
「ご、ごめんあずにゃん、デザートは用意してなかったよ・・・」
「え?・・・何言ってるんですか。ちゃんとあるじゃないですか」
「?」
どういう事だろう?
あずにゃんが言うところのデザートの意味を考え込んでいると、あずにゃんが私の顔のすぐ前に自分の顔を寄せた。
「ねぇ唯先輩、デザート貰ってもいいですか?」
「だ、だからデザートはっ・・・・・・んむっ!?」
私の言葉は途中で遮られた。
あずにゃんの唇によって。
そこでようやくあずにゃんの言うデザートの意味を理解した。
そっかぁ・・・あずにゃんの言うデザートって私の事だったんだぁ・・・。
「・・・・・んっ」
最初はびっくりしたけど、すぐにあずにゃんを受け入れた。
そんな私に気付いたのかあずにゃんの舌が私の口の中へ入り込んでくる。
「ん・・・ちゅ・・・ちゅぷ・・・んんっ」
やっぱりあずにゃんとのキスは気持ちいい。
それはきっとどんなデザートよりも甘美なもの。
結局私はあずにゃんの息が切れるまでキスを続けた。
「ふぅ・・・・・・唯先輩、デザートごちそうさまでした」
「も、もう、あずにゃんってばぁ・・・・・」
キスを終えたあずにゃんは凄く満足そうだった。
**
それから私達は満腹感と日差しの暖かさから眠るように寄り添いあっていた。
「え?・・・・なんですか、唯先輩?」
あずにゃんはちょっとまどろんでいたみたいで、目をこすった後、私の言葉に反応した。
「今度はあずにゃんのお弁当が食べたいなぁ」
あずにゃんの愛情がたっぷりつまった最高のお弁当をね。
「ふふっ・・・・いいですけど、一つだけ条件があります」
条件?・・・気になった私はあずにゃんに問う。
「なあに?あずにゃん・・・・・・・」
「・・・お弁当を作ってくる代わりに、唯先輩を食べさせてくださいね?」
「え・・・・ええっ!?」
その言葉に驚いた私だったけど、それも悪くないかなぁって思っちゃう私はえっちな子なのかな?
でもいいよね、あずにゃんの前でだけだもん。
――そして後日、お弁当の代わりに、私がおいしく食べられちゃったのはまた別のお話。
おしまい
【あとがき】
最後までお付き合いありがとうございます。
以前「お弁当」っていうタイトルで書いたSSだったんだけど
恋人同士設定だったから、シリーズ用に改良しました。
ていうか自分の書いたSS何処に入れたかわかんなくなるなんてダメだな自分・・・orz
そして自分が何書いたかも忘れてるから始末が悪い。
・・・もう年なのかな?
やっぱり自分のために作ってくれたお弁当はおいしいですよねー
そして作る側は不安……と
何はともあれ、ご馳走様でした