※微エロ。R-15位なので閲覧の際は気を付けてください。 ※追記からどうぞ!
それはきっと終焉の始まり。
「んぁあぁぁあっ!!」
それは、私がカメラのシャッターを押そうとしたのと同時だった。
ふいに私の背後から聞こえてきたのは頭を蕩かすような甘い甘い淫らな声。
「ほら、どうしたの唯? もうこんなに硬くなってるよ? うふふ♪」
「ひにゃあっ!…やぁ、やらよぉ…らめらよぉ…!」
その声の主が誰かなんて今更言うまでもなく。
あの二人しかいなかった。
(そうだった…)
私は一番重要なことを忘れていた。そして今になってハッと思い出した。
何故今まで忘れていたのだと、自分自身に憤慨してしまう。
私は、本来一番最初に考えるべき存在のことを頭から放り捨てていた。
そしてすでに私は、イチャイチャしている憂ちゃん達や、今のりっちゃん達の痴態に満足しきっていた。
憂ちゃん達とりっちゃん達の写真さえ撮れれば、これ以上はもう必要ないと、そう思い込んでいた。
そう、これはそんな矢先の出来事だ。
(こ、このプレッシャーは…)
後ろを向いている私にすら漂ってくる並々ならぬ重圧感。
背中を刺すリリィオブピンクな空気に今にも心が押しつぶされそうになっていた。
ダメだ。後ろを振り向いたらダメ。私は必死になって自分に言い聞かせる。
何故ダメなのか…それはつまり、向いた瞬間に私の命が終わってしまいそうな気がしていたから。
二人の言葉や声色から察するに、今後ろで何が行われているのか、大体想像はつく。
なぜそんな事態になっているんだと少し疑問にも思ったが、あの二人なら何でも有りな気がした。
それは私が一番に望んでいたことだと言っても過言じゃない。けど…。
(分かってる…!自分の体の事は自分が一番よく分かってる…!)
もう、これ以上の百合成分摂取は間違いなく体に毒だった。
いや、もしかしたら毒を食らった方がまだマシかもしれない。
だってあの二人の百合成分だもの。
見た瞬間に限界値を突破して全身の血管がパーンしてしまうかもしれない。
どうすればいい?
どうしたらいい?
焦りだけが募っていく。
このまま私は終わるのかと、思いかけていたその時だった。
私は「そうだわっ!」と声を荒立てて、天を見上げた。
神は私に大きな贈り物をしてくれた。
――それは一瞬の閃きだった。
私の背後では相変わらず、厭らしい鳴き声が絶えず聞こえていた。
それに負けないように、私はブンブンと首を横に振った。
「…こんな時に頼りになるのは…!」
そうだった。忘れていたことがもう一つあった。
まだいるじゃないか、たった一人だけ。
この中で誰にも染まらず、孤高の浮雲として君臨する我が高校の生徒会長様を!
そう、その名も――真鍋和ちゃん!
あの子ならきっと、この場を難なく収めてくれる!
そう信じて、私は彼女の名前を呼んだ。
「和ちゃっ――!」
しかし、彼女のいた方に目を向けてすぐに言葉が詰まった。
何故なら――。
「…うぅ…ん…すぅ…曽我部先輩…わたしには…ん…無理ですよぉ…ふぁんくらぶの…会長なんてぇ…くぅ…」
「って、寝てるっ!?」
彼女は静かな寝息を立てて、シートの上ですやすやと眠りに落ちていたのだから。
ちなみに和ちゃんの隣ではさわ子先生もぐーすかと寝息を立てていた。
もう飲めませんと言わんばかりに幸せそうな顔で。
「そ、そんな…」
確かに、よくよく冷静になって考えてみれば当たり前の事だと思った。
あれだけ色々大騒ぎしていたのに何の反応も示さなかったのは明らかにおかしいって。
その理由がまさかお酒のせいで眠っていたからだったなんて。なんてお約束な展開だ。
頼みの綱の和ちゃんが行動不能と知って、ダラダラと冷や汗が頬を伝う。
「あれ…、ちょっと待って…」
だ、ダメ!それだけは考えちゃダメよ紬!
それを認めてしまったら、私はもう完全になす術がなくなる!
しかし、それが意味を成さない事を私が一番よく理解していた。
一度考えてしまったことが頭に残るのはお酒の事で実証済み。
考えないようにしようとすればするほど、それは効果があるのだ。
「もしかして…私、一人…?」
私はついにその現実に向き合うことになった。
右を見れば、幸せそうに抱きしめあう憂ちゃんと純ちゃんがいて。
左を見れば、魂の抜けたりっちゃんと、彼女のオデコをベロンベロンに嘗め回す澪ちゃんがいて。
正面を見れば、すやすやと眠りにつく和ちゃんとさわ子先生がいて。
そして、私の後ろには言わずもがな。
目に映る光景、そして背後から聞こえてくる声を前に、私は唇をギュッと噛み締めた。
自身の耳に響くギリギリという歯軋りの音が耳に煩かった。
「…こんなはずじゃ…なかったのに…」
どうしてこうなったの?
誰に文句を言えばいいの?
今更何を言ってるんだと、嘆かずにはいられなかった。
そんな嘆きの言葉は春風に消えてしまう。誰の耳にも届くことなく。
「くくっ…ふふ…あはははっ…」
それから何を思ったのか、プっと吹き出して声に出して笑ってしまう。
だって。
だって全部私の自業自得だもの。
こんなことになったのは全部自分のせい。
私自身が引き起こした事態なのだから全く救いようがない。
これが笑わずにいられようか。
――ポタポタ…
ふと、私の耳に水滴のようなものが滴る音がした。
何だろうと思って下を見ると、私の足元は赤い液体で彩られていた。
なおもポタポタと滴り落ちるその液体。
どこから落ちてるんだろうと思ったが、すぐに分かった。
どうやら私の顔から落ちているようだ。
「は…はは…そっか…これ、私の…」
それは、まごうことなき人間の血液。つまりは私の鼻血だった。
鼻からは鮮血がほとばしり、ポタポタと地面を彩る。
今までに流したことがないくらいおびただしい量の血の池。
私の足元はすでに赤一色。血染めのレジャーシートになっていた。
どこを見ても、赤、赤、赤。止まる気配すら見せない。
さらには足元がおぼつかなくて、膝がかくかくと笑ってる。
血が足りなくて、今にも倒れてしまいそうだった。
今の今まで何の異常も見せなかったのに、血を流していたと意識した途端、体に異変が起こった。
きっと私の百合魂がすべてを凌駕していたのだろう。しかしそれも終わりを迎えた。
つまりは気が抜けてしまったということだ。
よく考えればおかしかったんだと、私は今になって気付いた。
あんな痴態の数々を見せつけられて、この私が鼻血を流さないなんてあるはずがないと。
そう、やっと理解した。とどのつまり、ただ夢中になりすぎて気付かなかっただけ。
気付かなかっただけで最初から、つまりは憂ちゃんと純ちゃんのイチャイチャを見ていた時から――。
―――鼻血なんてダダ漏れ状態だったんだ。
「なんでっ…どうして、こんな事になっちゃったの…私はただ…」
内心焦りと恐怖が支配していて、心の中は泣き言でいっぱいだった。
俯き気味にギリギリと歯軋りした。
拳はこれでもかってくらい握っていて、血が滲みでそうだった。
誰も助けてくれるものがいないこの状況で。
出血多量で足元がおぼつかないこの状況で。
いったい私に何が出来るんだろう。
しかしそう思った瞬間、思わずクスっと笑みが漏れた。
(何がって…選択肢なんて二つに一つじゃない…)
そう、分かってる。選択肢なんて最初から決まってるって。
このまま黙って情けなく死ぬか。
後ろを振り返って自分の信念を貫いたまま死ぬか。
その二つの選択肢しかない。
私は天空を見上げた。
そこには青く澄み渡る空と照りつける太陽があって。
これから死ぬかもしれないって時なのに何故か気分は晴れやかだった。
たぶん今度ばかりは倒れるだけではすまないだろうってことも理解しているのに。
「みんな、今まで本当に楽しかったわ。本当に――」
きっと聞こえていないだろうけど、これだけは言わせて欲しい。
「ごめんなさい」と、そして最後に心からの「ありがとう」を。
もちろん心残りがないと言えば嘘になる。
出来ることなら、これから先の未来もずっとみんなと一緒に歩んでいきたかった。
でもそれが無理だってことは分かってるから。
――私は覚悟を決めた。
私の選ぶ選択肢なんて、最初から一つしかないのだ。
私がこの生き方を選んだその瞬間に、それは決まっていたこと。
それこそが私が生きた証だから。
背後に広がる世界。
それは私のような百合を愛するものには、まさに神の領域。
きっと私のような人間が目にしていいものじゃないのかもしれない。
それでも私は、自分の生きた証を残してみせる。
(どこまで持つか分からないけど…)
最後の一瞬までこの目に焼きつけて、地獄の底まで持っていこう。
「すぅ~はぁ~…すぅ~はぁ~…」
私は一度深呼吸をして、そして目を瞑った。
みんなと出会ってからの思い出がまるで走馬灯のように駆け巡る中、私はついに踵を返す。
振り返り、息を付いて、そしてゆっくりと目を開く。
そして目の前に広がっていた世界は――。
「あはは♪ 唯ったらもうこんなにぐちょぐちょだよ~」
「あんっ…ひあぁっ…やらっ! やめてあずにゃっ…んぁ!」
――人目も気にせず縺れ合う恋人同士の姿だった。
梓ちゃんは唯ちゃんを背後から抱き締め、体をもてあそんでいた。
唯ちゃんの洋服のボタンを上から2つ外し、その隙間から手を差し入れ、胸を揉みしだいて。
さらには開いた方の手で太ももを撫でながら、スカートの中に手を差し入れモゾモゾと動かしている。
その中で何が行われているかなんて、火を見るより明らかだ。
つまりは唯ちゃんの大事なところを――。
「うふふ…唯ってホント感じやすいね? 可愛いよ」
「あくっ…んんっ…あぁ…」
お酒の効果で梓ちゃんは完全に自我を失っていた。
ただ唯ちゃんが欲しいという願望、いや欲望のみで動いていた。
それはいつだったかのイチャイチャ禁止令の時に見せた梓ちゃんに似ている。
あの時は一瞬でダウンしてしまったからあんまり覚えていないんだけど、確かそうだったはず。
「はぁ…あぁっ…んっ…あんっ…いぃ…いいよぉ…!」
対する唯ちゃんは顔を真っ赤にして、梓ちゃんの執拗な愛撫に身も心も蕩けさせていた。
その様子からはお酒に酔っているかどうかなんて分からない。
だが抵抗していないところを見ると多少は思考回路がショートしているのかもしれない。
まぁ梓ちゃんに酔っているという点では間違いなく酔っているだろうけど。
「うふふ…どうして欲しいの? ちゃんと言って? 言わないと…分かってるよね?」
そう言うや否や、梓ちゃんはクスクスと楽しそうに笑いながら突然手を止めた。
なんて意地が悪いんだろう。やめるつもりなんて端からないくせに。
唯ちゃんに厭らしい言葉を言わせて、悦に浸るつもりなのだ梓ちゃんは。
「キ、ス…して?」
「ふふ、いいよ…いっぱいしてあげる」
その要望に、梓ちゃんは勢いよく唯ちゃんの唇に吸い付き、唇を犯していく。
「んんっ…ちゅっ…ちゅぷっ…んっ…ふむっ…」
「ちゅっ…れろっ…」
それから少し開かれた唇から舌を差し入れて。
唾液に濡れたそれを絡ませて、クチュクチュと厭らしい音を響かせていく。
1分、いや5分くらいはお互いの口内を犯しあっていた。
さすがに息苦しくなってきたのか、どちらからともなく離れると荒い息をついて。
「んっ、ちゅっ…はぁはぁ…あとはどうして欲しい?」
「んっ…ハァ…あぁ…も、もっと胸…」
「胸? 胸のどこをどうして欲しいの?」
梓ちゃんはニヤリと厭らしい笑みを浮かべて、口の端を歪めた。
そんな焦らしプレイに唯ちゃんは涙を溜める。
潤んだ瞳で梓ちゃんを見つめて、ぷるぷると震える唇を開いた。
「…さ、先っちょ…を、指で…弄って…」
「ふふっ…胸だけでいいの?」
「っ…し、下もぉ…もっとぉ、もっと激しくぅ…!」
まるで羞恥の欠片もなく、厭らしくおねだりする唯ちゃん。
そこには常日頃から見せる愛らしい少女のような姿などなく。
ただただ性欲に溺れた卑しい女しかいなかった。
「エッチ…。でもいいよ。いっぱい愛してあげるから」
「うん…いっぱいシテ…あずさ…」
そのやり取りを最後に、梓ちゃんはついに唯ちゃんを草原に押し倒して。
容赦なく、それでいて情熱的に、赤みを帯びた唯ちゃんの体に自分の痕を残していくのだった――。
そしてそれは同時に――。
私の意識がブラックアウトした瞬間でもあった。
◇
数日後――。
ある意味一生の思い出となったお花見が終わって、すでに数日が経っていた。
部員達はいつものように放課後の音楽室に集まって。
そしてこれまたいつもの如くティータイムの真っ最中。
しかしいつもと違うことが確かに存在して。
そこには一週間前までの様な楽しげな雰囲気はまるでなかった。
全員ボーっと、まるで魂が抜けたように暗い面持ちで。
ティーカップに淹れられた紅茶を口に含んでは溜息ばかりついていた。
「やっぱり…ムギちゃんのお茶が一番だったよね…」
ふいに唯がボソッとそう口にする。
他の全員の視線が唯に集中する中、唯は今一度紅茶を口に含むとまた溜息をついた。
唯の悲しげな表情が部内の雰囲気をさらに暗くしていく。
彼女の言うとおり、その日の紅茶は紬が淹れたお茶ではなかった。
「そうですね…やっぱりムギ先輩のが一番ですよね。ホントに、何でこんなことになっちゃったんでしょう…」
梓はそう言いながら、誰も座っていない空いた机を見つめた。
そこは本来であれば紬が座っているはずの席だった。
彼女の姿はどこにもない。
「……」
澪も同じように空席を見つめる。そして無言のまま暗い表情になっていく。
今にも泣き出しそうな、そんな悲しそうな表情で、ふるふると首を振って。
それはまるで、現実を認めたくないと、心が悲鳴を上げているように見えてならなかった。
「でもさ!ムギは幸せだったと思うんだよ。最後の最後まで、自分の生き方貫いたんだからさ!」
そう言いながら、バンっと机を叩いて身を乗り上げる律。
自分だって辛いはずなのに、いつまでもこんな暗い雰囲気ではいけないと自分を奮い立たせていた。
「りっちゃん…」
「律先輩…」
「律…」
確かに律の言うとおりだと、他の3人は思った。
言われて気付いて。彼女の――紬の笑顔を思い浮かべた。
すべてを癒すような、あのおっとりぽわぽわした優しい笑顔を。
「そう…ですよね。私達がこんなじゃムギ先輩が浮かばれませんよね」
「うん、りっちゃんの言うとおりだ」
「ああ…そうだな」
3人は口々言うと、ふふっと笑みを浮かべた。
彼女が淹れてくれたお茶の味を思い出しながら、紬と過ごした沢山の出来事に思いを馳せる。
そんな時、梓が何かを思いだしたように「あ!」と声を上げた。
「そういえば、あの日は何があったのかよく覚えてないんですけど…どうしてでしょうね?」
「あずにゃんもなの? 私もなんだよね…何でだろ? 憂に聞いても覚えてないって言うし…」
「なんだ、唯も覚えてないのか? 実は私も全然覚えてないんだよなぁ…。桜見てたとこまでは覚えてるんだけど…」
梓の一言から、唯も澪もあの日の記憶を振り返ってみたが。
しかしやはり思い出せないのか、首を横に振って溜息をついた。
「いや、頼むから澪はそのまま忘れててくれ。頼むから思い出すな。永久に」
律はもちろんあの日の事を鮮明に覚えているので、そう言うのも無理はない。
実は誰にも話してはいないが、彼女達の記憶が不鮮明な理由ももちろん理解しているから。
あのお花見があった数日間、律はカチューシャを外し、前髪を下ろして登校していた。
何故なら律のオデコは無数の赤いアザがついていて、はっきり言って人様に見せられる状態ではなかったのだ。
そのアザをつけたのかが誰なのかなんて、今更説明する必要もないだろう。
覚えてない話をしても不毛だと律はみんなに言って聞かせ、その場は何とか収まったが。
しかし収まったら収まったで、やっぱり考えることはこの場にいない紬のことだった。
「ムギちゃん」
「ムギ先輩…」
「「ムギ…」」
彼女達はそれぞれ祈るように目を閉じて。
そして心の底から願っていた。
せめて彼女に安らかな眠りを――と。
―完―
とある病院の一室――。
「あの…なんだか私が死んじゃったみたいな話になってますけど、ちゃんと生きてますからね? そこのところ勘違いしないでくださいよ? お願いですから勝手に殺さないでください」
あの日の決意表明も虚しく、ちゃっかり生き残っている彼女――琴吹紬17歳。
三度の飯より百合が好きな彼女は、出血多量によって全治2週間の入院を余儀なくされていた。
今も病院のベッドの中で医療中だ。
残念なことにこれからやってくるゴールデンウィークも返上の予定だった。
「うふふふふふ…♪」
しかしそんな状況にもかかわらず、彼女の顔はどこまでも晴れ渡っていた。
それはまさに雲ひとつない快晴。後光すら差し込んでいた。
言い換えれば、幸せの絶頂期にあるということだ。
彼女の手には、あの日の全てが収められたビデオカメラが握られていた。
それを見るたび鼻血を噴いて三途の川を行ったり来たりしている紬は、つまりまったく懲りていなかった。
ついには担当医に叱られてビデオカメラを没収されたのだが、それはまた別のお話――。
おしまい
【あとがき】
とりあえず最初に一言…
長っ!?
最初は3部構成だったはずなのに、何を間違ったのか8話構成になってしまいました。
文章量的には100kオーバーの超長編。エンゲージRやカッコユイ先輩を超えました。
話の構成考えてたときはこんなに長くなるなんて思ってなかったんですけどね。
これも全てムギ師匠のなせる業なのかと思いましたw
とにもかくにも、何とか完結です!
よかったー完結できて!
途切れ途切れで読んでくださった方も、いっき読みしてくださった方も
ここまでお付き合いくださって本当にありがとうございました!
次回はたぶん、3話付近のネタになる予定。
いまや伝説になっている梓のあのセリフが飛び出すかもわかりませんw