※追記からどうぞ!
ほどなくして準備も終わり、今ではすっかり宴会ムード一色。
わいわいがやがやと。とても賑やかで楽しいひと時を過ごしていた。
部長であるりっちゃんの挨拶を皮切りに。
待ってましたと言わんばかりに憂ちゃんの料理に食らいついていく一同。
時刻は正午を少し回った辺りで、ちょうどお昼時。
しかも長い徒歩移動でお腹の空き具合も限界に来ていたのか、箸の進み具合がすごく早くて。
ボーっとしていたらあっという間になくなってしまいそうだった。
「やっぱ憂ちゃんの料理うめー!」
「確かに。これならお店に出しても通用しそうな気がするな」
りっちゃんに賛同する澪ちゃん。
うんうんと頷きながら箸を鳥のから揚げに伸ばす。
私も食べないと、と思って残り少ない玉子焼きに箸を伸ばした。
「うん。ホント美味しいわね」
ホント、憂ちゃんを琴吹家専属のコックにしたいくらいだ。
口に含んだだけで溶けてしまいそうな、ふわふわとした柔らかな玉子焼き。
だしもしっかり効いていて、何もかけなくても美味しかった。絶妙に。
これが純ちゃんが絶賛していた玉子焼きなのだ。
正直言って、絶賛するのも無理はないと私は思った。
当の純ちゃんはといえば、玉子焼きを口にした瞬間、目の色を変えていた。
「憂、私のために毎日玉子焼き作る気ない?」
「え…?」
つまり生涯を共にしろということですね、分か(ry
真面目な顔で憂ちゃんの肩に掴みかかるとそんな事を口にした純ちゃん。
どう聞いてもプロポーズです。本当にありがとうございました。
最初何を言われているのか分かっていなかったようでポカーンとしていた憂ちゃん。
しかし理解していくと、それに合わせて顔が赤く染まっていく。
最終的にはボンっと言う音を立てて頭から煙を噴いた。
「あ、あああ、あのあの! じゅ、純ちゃん?!」
突然のプロポーズ?に慌てふためく憂ちゃん。
無理もない。心の準備なんて出来ていなかっただろうに。
「どうしてそんなに驚いてんの? もしかしていやなの?」
「ええっ! い、いやとか…えぇっ!?」
どうやら純ちゃんは本気と書いてマジのようだ。
(まさか私の妄想が現実になってしまうなんて…)
正直言って予想外の出来事だった。やはり憂純というのは侮れない。
期待のホープは伊達じゃなかったということか。
この後二人がどうなったか――。
それはまた別のお話なのでここでは語らないことにしておきます。
あしからず。
「はい唯先輩、あ~んです」
「あ~ん♪」
とりあえず、ゆいあずの二人は特に言うことはありませんよ。いつも通りです。
ただ私の鼻の下が限界まで伸びきり、ニヤニヤが止まらなかったとだけ記しておきます。
それから少し時間が経って――。
お弁当タイムが済んでも終わらないのがお花見と言うもの。
お菓子にお喋りに遊びにと、まだまだ終わりを見せることはない。
お花見という名の宴会は今のところ順調な形を見せていた。
「♪~はっぴぃ にゅう にゃあ~♪ は~じめまして~♪ キミにっ あげるっ さっいしょのおーばらぁ~ん♪」
桜吹雪が舞う中、梓ちゃんの歌声が響き渡る。
カラオケマイク片手に、どこかで聞いたことのある歌を歌う子猫ちゃん。
みんなの手拍子のもと必死に歌い続けていた。
澪ちゃんまでとはいかないまでも、人前で歌うのは恥ずかしいのだろうか。
少し頬を朱に染めているところを見ると、やはりと思ってしまう。
だがそれがいい。実に見目麗しい愛らしい姿で、癒されずにはいられない。
中でも一番癒されているのは当然恋人の唯ちゃん。
「きゃぁ~!! あずにゃん可愛い~!L・O・V・E!ラブリーあずさ!!」
これでもかと言うくらい顔を蕩かせて、黄色い声援を絶えず送り続けている。
まるで熱狂的なアイドルのファンのようだった。
「おい知ってるか澪?」
「ん?なんだよ」
「この曲、実は私も歌えるんだぜ?」
そう言って得意げに胸を張るりっちゃん。
確かにりっちゃんの言うとおり、この中でこの曲を歌えるのは梓ちゃんとりっちゃんだけだ。
何故かと問われれば、中の人の問題だとか大人の事情だとかが絡んでくるのであまり声を大にしては言えない。
「へ、へぇー。じゃ、じゃあ次歌って見せてくれよ?」
なぜか顔を赤くしてしどろもどろになる澪ちゃん。
あれ?ここ赤くなるところですか?
「いや、さすがにやめとく。梓ならともかく、私に猫語はちとはずかしーし」
そう言って頬を朱に染めるりっちゃん。
きっと今、澪ちゃんは心の中で叫んだはずだ。
「はずかしくねぇーしぃー!!」と。
「あれ?なんでそんな残念そうな顔してんだ?」
「べ、別に…」
きっと澪ちゃんは聞きたかったのだ、りっちゃんの「にゃ~♪」を。
必死に平静を装っているように見えるが、全身からだだ漏れている「聞きたい!」が隠しきれていなかった。
心中お察ししますよ、澪ちゃん。
「それよりさ澪!せっかくだから一緒に歌おうぜ!」
「え?一緒に?」
「そ。一緒にハートキャッチしようぜ!」
「ハートキャッチって…」
♪~ はぁ~ときゃっち☆ はぁ~ときゃっち☆ ぷ(ry
知ってますか? 心の種ってお尻から出てくるんですよ? すごいですよね。
ちなみに梓ちゃんが歌い終わった後、二人は本当にハートキャッチしていた。
そんな二人を見てハートを鷲摑みされたのは言うまでもない。
やはり歌はいい。歌はリリンが生み出した文化の極みであるからして。
さらに時間は経ち――。
歌い疲れたのか、一同桜を眺めながらボーっとしていた。
こうやって静かに眺めるのもお花見には大事だと思う。
「ムギちゃん」
「っ…ど、どうしたの唯ちゃん?」
梓ちゃんと寄り添って、いい雰囲気で桜を眺めていた唯ちゃん。
私もボーっとしていたせいか、突然の呼びかけに少し驚いたが、ちゃんと返事を返した。
「ジュースのおかわり貰っていーい?」
「あ、ちょっと待ってね」
唯ちゃんに言われるまま、紙コップを渡された私は一度立ち上がった。
「あ、ムギ先輩。私も貰ってもいいですか?」
「ええ、ちょっとまってね」
梓ちゃんからも紙コップを渡されて。
私のすぐ傍に置かれたさわ子先生のクーラーボックスを開く。
温くならないようにと、前もってペットボトルはクーラーボックスに閉まっていたのだ。
少し大きめのクーラーボックスだったので、2リットル入りのペットボトルが2、3本は軽く入った。
「えーと、ジュースは…。っと、これは――」
ジュースを取り出そうとして、ふと手が止まる。
目に付いたのはジュースの入ったペットボトルではなく。
さわ子先生の持ってきたお酒、ビールやらチューハイやらの缶だった。
「…ひっく…おとこがなんぼのもんじゃい…わらひらってねぇ~、わらひらっれぇ~…うぐっ…ひっく…」
呂律の回っていない舌。
真っ赤な顔でべろべろに酔っ払っているさわ子先生。
その脇には十本以上の空き缶が転がっていた。
先生は絶えず浴びるほど飲んでいるが、ボックス内にはいまだに十本以上のお酒が残っていた。
これなら1,2本無くなったくらいじゃ気付かれない。
「……」
―――唯ちゃんと梓ちゃんが酔ったら、どんな感じになるのかしら?
お酒をジーッと見つめていた私に舞い降りる一瞬の閃き。悪魔が光臨したと言ってもいい。
今私は、二人にお酒を飲ませて酔わせようなどというトチ狂ったことを考えていた。
いや、少しだけ訂正しよう。二人だけじゃない、ここにいる全員の酔った姿を見て――。
(ちょ、ちょっとまって私! 何考えてるの、それはさすがにダメよ!)
それだけはさすがにいけないと、その考えを打ち消すようにブンブンと頭を振ったが。
それはあまり効果がなかった。こう言ったものは一度考えてしまったが最後なのだ。
頭を振り乱したくらいで簡単に消えてしまうなら苦労はしない。
つまり、私の頭の中は今、悪魔のごとき思考に染まりかけていた。
(ダメよ紬!思いとどまりなさい!そんな事をしたらダメ!)
それでも負けてはいけないと思った私は、指で思い切り頬を抓る。
少し痛かったが、何とか冷静さを取り戻した。
そう。やっぱりダメだ。いくらなんでもこれは道徳に反する。
仮にも未成年な私達。いや、仮じゃなくても未成年。
お酒は二十歳になってからと相場が決まっている。
お酒をみんなに飲ませるなんてできるはずが…。
「……」
ちょっと待ちなさい私。何をお酒の缶を取ろうとしてるんですか!
冷静になったんじゃなかったの?
取るならジュースのペットボトルを取りなさい。
ちょっと私!聞いてますか!!
どうやら私の体は私の話など聞いていないらしい。
体は勝手に動き、チューハイの缶に手を伸ばすことをやめない。
なぜチューハイかと問われれば、さすがにビールではみんな飲んだ瞬間に気付いてしまうと思ったからだ。
チューハイなら、何とか炭酸ジュースと言い張れば誤魔化せる。
もちろん分かる人は分かるとは思うけど、私はそこまで考えていなかった。
今私の頭の中にあるのは、どうやってお酒を飲ませるか。それだけだった。
ダメだダメだと頭では思っていても、胸の奥からあふれ出す好奇心という名の欲望が私の体を突き動かす。
私には無限に広がる欲望から逃れる術など持ち合わせてはいなかった。
ついに私はチューハイの缶を手にとってしまった。もう後戻りはできない。
みんなに見えないようにと後ろを向き、プルタブを空ける。
カシュっ!と言ういい音を立て、飲み口から少量のお酒が溢れてきた。
溢れたお酒が缶の側面を伝い、ポタポタとシートを汚す。
キョロキョロと周りを見回してみんなの様子を伺うが、私の行動を怪しんでいるものはいないようだ。
みんながみんな、桜の見物に夢中でこちらのことなど気にもしていない。
私としても細心の注意を払っているから、気付かれることはまずないだろう。
これは好機。そう思った私は、急いで紙コップにお酒を注いでいく。
(紙コップ程度の量で酔うかどうかは分かりませんが…)
トクトクと注がれるお酒を見ながらそんな事を考えるが、今更やめることなんて出来ない。
いちかばちか。やってみないことには何とも言えない。
私はやらないで後悔するより、やって後悔する女。
ここでやめて後悔したら、死んでも死にきれない。
成せばなる!頑張れ私!
お酒に弱い人は、少し飲んだだけでも酔っ払うと聞いた事があるので可能性がないわけじゃない。
願わくば、みんながみんな何かしらの反応を示してくれることを祈ろう。
「はい、唯ちゃん、梓ちゃん。ジュースよ」
何がジュースか。アルコール度数約5%。
入っているのはまごうことなき缶チューハイだ。
「ありがとムギちゃん」
「どうもです。ムギ先輩」
何も知らない二人は笑顔でそれを手に取ると、そのまま口に持っていき一口飲んだ。
少しドキドキしながらその様子を見守る。
お願い、ばれないで!
「あれ? 何だか変わった味だね。炭酸なんてあったっけ?」
「さぁ、あったようななかったような。でも炭酸にしては少し苦味がありますね。飲めないこともないですけど」
ふぅっと、私は大きく息を付いた。なんとか乗り切ったようだ。
二人は炭酸ジュースかなんかと勘違いして、それがお酒であることには気付いていない。
後は全てを飲み終わった後に何かしらの反応を示せば、この勝負、私の勝ちだ。
この二人はとりあえずOK。
あとはさわ子先生を除く他のメンバー。
つまりはここからが私の腕の見せ所だ。
未使用の紙コップを5つ用意し、全てにお酒を注ぐ。
(まずは和ちゃんから…)
最初に狙うのは和ちゃんの紙コップから。
なぜなら、すぐ目の前に和ちゃんがいて、その脇には飲みかけの紙コップ。
格好の的といっていい。
だが、だからと言って油断してはいけない。
すり替える瞬間に気付かれてしまえばそれまでだ。
相手が和ちゃんなら尚更気を引き締めてかからないといけない。
そこで私は“あれ”の封印を解くことを心に決める。
それは琴吹家に代々伝わる48の殺人技の一つ。
正直これだけは使いたくなかったが致し方ない。
私はお酒の入った紙コップを手に、和ちゃんの紙コップに狙いを定める。
神経を集中させ、周りの音を消す。私の目に映るのは今この瞬間、紙コップのみ。
そして――
(琴吹紬、参ります――!)
―――残像拳!!!
その瞬間、世界が一瞬にしてモノクロに染まった。
スローモーションの中を私だけが普通に動いている感覚。
それはまさに神のごとき速さ。神速の領域。
その領域を捉えることが出来るのは同じ領域に立つものだけ。
手を伸ばしたと思った次の瞬間、私の手にはすでに和ちゃんの紙コップが握られていた。
当然、和ちゃんの脇にはお酒の入った紙コップが鎮座している。中身も一滴も零れていない。
つまり、成功したということだ。和ちゃんもまるで気付いていないらしく桜に夢中だ。
(なせばなる…腕は鈍っていないようですね…)
思いのほか上手くいって、私は思わず口の端を歪める。
プルプルと痙攣する唇。私は笑みを浮かべたくなるのを必死に抑えていた。
(これならいける――!)
そう思って調子に乗った私。
他のみんなのコップも摩り替えようと気合を入れ、集中力を高めていった――。
もはや私に敵はいない――。
つづく
【あとがき】
またまた中途半端ですが、最後まで読んでいただきありがとうございます!
長らくお待たせしてごめんなさいです。一応、これが本当にラスト一歩手前になります。
最後はもう書き始めているので、あまり時間はかからないかと思ってますが…
まぁ私の言葉はあまり信用できないのであまり期待しないでくれるとありがたいです。
にしても…私の中のムギちゃん像が最強無敵のフリーダムキャラになりつつあります…。
だって、ムギ師匠なら何でもありな気がしませんか?しますよね?ね?
続きwktkしつつまってます!