※追記からどうぞ!
「ん・・・うぅん・・・あ、れ?」
薄暗かったはずの部屋は今では真っ暗で、カーテンの隙間から月明かりが差し込んでいた。
「・・・えーっと」
私は時刻を確認するために携帯を見た。
するとすでに夜の9時を回っている。
どうやら私は眠っていたらしく目を覚ましたのはあれから4時間近くたってからだった。
「こんなに・・・寝てたんだ・・・」
昨日はあの夢のせいであまり眠れなかったから寝不足だったのかも知れない。
でもどうして誰も起こしに来なかったんだろう?――と、そこまで考えて私はある事を思い出した。
「あ・・・そっか・・・」
そういえば今日、両親は仕事の出張で帰ってこないんだった。
朝から嫌なことばかり考えていたせいで忘れてしまっていた。
「ふぅ・・・」
ベッドから起き上がりカーテンを開ける。
すると真っ暗だった部屋が月明かりで多少明るくなった。
薄暗いことには変わりなかったけど、何処に何があるかは分かる。
「はぁ・・・」
溜息をつきながら天を見上る。
――そこには美しい月が存在していた。
「満月かぁ・・・」
その満月を見つめながら思う。
――私はきっとあの月と同じなんだ。
月は太陽の光を浴びて輝く・・・
私も同じだった。
唯先輩がいなきゃ私は――
そんな事を考えていた時だった。
突然”ピンポーン”と、家のチャイムがなる。
(だれだろう?・・・こんな時間に)
一瞬居留守を使おうかと思ったけどそういう訳にもいかないので自室を出て玄関へ向かった。
――玄関――
玄関前、私はゆっくりとドアを開けた。
「お待たせしてすみま・・・せ・・・」
ドアを開けたその先で待っていたのは・・・
「どう・・・して・・・」
目を疑った。
何故なら私の目の前に立っていたのは・・・
「えへへ・・・来たよ、あずにゃん・・・」
私が一番会いたかった人だったから・・・。
唯先輩はいつもの優しい笑顔で見つめてくる。
それは私が今日一日ずっと待ち望んでいたものだった。
けど何故唯先輩がここにいるんだろう?
気になった私は先輩に尋ねた。
「ど、どうして・・・唯先輩がここに?」
「うん?・・・だってあずにゃん、メールくれたでしょ?・・・会いたいって・・・」
「あ・・・」
そうだった…。
私が眠りに落ちる前、確かに唯先輩にメールを送った。
どうせあんなメール、意味ないだろうと思ってたから自分でもあまり気にしていなかったんだ。
「で、でも・・・あ、あんな訳分かんないメールなんかで・・・」
「わけわかんなくないよ?・・・だって会いたいって書いてあったもん・・・あずにゃん私に会いたかったんでしょ?・・・だったらそれだけで十分だよ」
「・・・・・・」
そう言ってニッコリと微笑む唯先輩に目尻が熱くなっていく。
・・・今にも涙が溢れそうだった。
「えへへ・・・ホントはね、もっと早くこれればよかったんだけど・・・メールきてるの気付かなくって・・・ごめんねあずにゃん?」
えへへと笑う唯先輩。
そんな嬉しい言葉に私の涙腺はついに限界を迎えた。
頬を伝う涙は止め処なく溢れ、ポタポタと地面を濡らしていく・・・。
「え?・・・え?・・・ど、どうしたのあずにゃん?・・・どっか痛いの?」
いきなり涙を流し始めた私に唯先輩はおろおろと慌てている。
「ち、ちが・・ぐす・・・違うんです・・・ぐす・・・わ、私・・・その・・・」
「あずにゃん・・・」
涙をこらえるのに必死で言葉を上手く伝えられない。
でもそんな私に、唯先輩は何も聞かず包み込むように優しく抱きしめてきた。
そして小さな子供をあやすように優しく頭を撫で始める。
「大丈夫だよ・・・あずにゃ・・・・梓・・・私が傍にいるからね?」
「う・・・ぐすっ・・・うぅ・・・うあぁぁぁぁぁ!!」
唯先輩の優しさに、ここが外だって事も忘れて、まるで子供のように大声を張り上げて泣き出してしまう。
そんな私が泣き止むまでの間、唯先輩は優しく頭を撫で続けていてくれた・・・。
**
「唯先輩・・・さっきはごめんなさい・・・あんなに泣いちゃって・・・」
「いいよ~、そんなこと気にしなくても・・・」
あれから少したって、私は唯先輩の胸の中でようやく泣き止んだ。
そのまま外にいるわけにもいかなかったから唯先輩を自室に招きいれた。
私達は電気も付けずにベッドの上で寄り添うように腰掛けている。
――そんな私達を月明かりだけが照らしていた。
唯先輩の胸に顔をうずめ、頬ずりする。
柔らかくて暖かくてすごく甘い匂いがする。
先輩はちょっとだけくすぐったそうにして、優しく微笑んでいた。
「でも、ビックリしちゃったよ、いきなり泣き出しちゃうから」
「え、えと・・・それは・・・」
「何か・・・辛い事でもあったのかな?・・・えと・・・無理には聞かないけど・・・できれば話して欲しいな。私はいつだって梓の力になるからね?」
「唯・・・」
唯はニッコリと微笑み優しい言葉をかけてくれる。
私のわがままでここまで来てもらっただけで嬉しいのに、どうしてこの人はここまで優しくなれるんだろう。
けど、きっとこれこそが『平沢唯』という存在なんだと思う。
そんな唯だからこそ私は好きになったんだから・・・。
「やっぱり・・・ダメかな?」
「い、いえ・・・あの・・・実は・・・その・・・」
全部話そう。
これ以上唯に心配をかけたくなかったし、なにより私自身の心がもう限界だったから・・・。
私は今朝の夢のことから今日一日の自分の事をゆっくりと話し始める。
そんな私の話を唯は黙って聞いていてくれた。
「夢を・・・見たんです。唯が私の前からいなくなる・・・夢・・・。夢の中の唯は・・・冷たい表情で私にさよならを言うんです・・・そして、私の前から・・・いなく・・・」
「・・・・・・・・・・」
そこまで言った所で私はまた涙を流している事に気付いた。
唯はそんな私の肩をそっと抱き、頭を撫でていてくれた。
唯がそばにいることをその身で実感して安心した私はさらに話を続ける。
「その夢をひきずって、今日一日・・・胸がズキズキして・・・。そして分かったんです・・・私は唯がいなくなってしまったら、きっとダメになっちゃうって・・・」
「・・・・・・・・・・」
黙って話を聞き続ける唯に問いかける。
「や、やっぱり・・・おかしいですよね?・・・ただの夢なのに・・・」
でも唯はそんな私の言葉に首を横にふった。
「ううん・・・ぜんぜんおかしくなんてないよ?・・・たとえ夢でも・・・梓は辛かったんだよね?・・・苦しかったんだよね?」
唯が優しい微笑みで見つめてくる。
「それにね?・・・私だって・・・もし梓がいなくなっちゃったら、きっとおかしくなっちゃうよ・・・」
「・・・唯・・・」
唯は私をギュッと抱きしめ耳元で優しく囁く。
「だいじょぶだよ・・・梓。私はどこにも行かない・・・梓の前から絶対いなくなったりしないから・・・ずっとそばにいるから・・・」
その言葉で私は、自分の心を支配していた不安がすぅーっと消えていくのを感じた。
私は唯が自分と同じ気持ちでいてくれている事がただ純粋に嬉しかった。
そしてその嬉しさと同じくらい愛しさが溢れ出してくる。
私達は見つめあう。
言葉はもう必要なかった。
潤んだ瞳・・・上気した頬・・・。
私達はゆっくりと瞳を閉じ顔を近づけていく・・・。
――月明かりの下、私達の影が今一つになった・・・。
つづく
なんども読み返したけど、この話すごく感動するわ〜。目にウロコが…
俺もゆいあずが別れたら壊れるかも…