とある百合好きの駄文置場。二次創作SSやアニメ・漫画等の雑記中心。ゆいあずLOVE!

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憂純SS 『真夏の夜の夢物語―前編―』

※アニメ13話「残暑見舞い!」ネタ
※追記からどうぞ!



夏の猛暑も物ともせず、熱気と興奮に包まれた、騒がしくも楽しい夏祭りをこれでもかってくらい堪能した。
お姉ちゃんや他のみなさんもいつも以上にはしゃいでて、とっても楽しそうで。
焼きとうもろこしをげっ歯類のごとく食べ漁ったり…って、これはお姉ちゃんだけだね。
他にも定番のかき氷なんかを食べたりもしたし。
色鮮やかなシロップ色に変色した舌を見て、笑ったり驚いたりと大忙し。

それからもちろん、夏祭りの醍醐味でもある花火もたっぷり堪能した。
お姉ちゃんたちとははぐれちゃって、一緒に見ることができなかったのは残念だけど
梓ちゃんと純ちゃんと一緒にみられたから十分かな。
二人とも、花火が打ちあがるたびに感嘆の声を漏らしてたっけ。

もちろんそれは私も同じで
とても綺麗に咲いた花火は、私の網膜にこれでもかってくらい焼き付いていて、瞼を閉じれば鮮明に思い出せるほどだ。
また一つ忘れられない思い出ができたという喜びと、嬉しさ。
こんなに綺麗な花火を親友達と見れたことが何よりの財産だった。



でも…

そんな楽しい夏祭りももう終わり。
始まりがあれば終わりがやってくるのは仕方がないことだけど、何故かやるせない。

すでに夏祭りが終わって30分以上が経過している。
どこもかしこも帰宅ムード一色。

私は未だにお祭り気分が抜けなくて、胸が高揚していた。
得てして、お祭り気分というものは、なかなか抜けてくれない。
1時間だったり、1日だったり、人によってまちまちだとは思うけど
人によっては、1週間もお祭り気分が消えないかもしれない。
まぁ…さすがに1週間は大げさだけど…。

私はどうだろうと考えてみたけど。
でもそれは、時間が経過してみないと分からないので何とも言えない。

楽しい楽しい夏祭り。
親友達と過ごす至福のひととき。
そんな時間をもっと感じていたいという気持ちを胸に抱きながら
私はそれを決して表には出さないで、静かに胸の中にしまっておいた。
それもきっと祭りの醍醐味だと思うから

…っていうのはさすがに言いすぎかな?



さて、当然と言えば当然だけど
祭りが終われば、あとは帰るだけなのは言うまでもない。
この後何か用事でもない限り、ほとんどの人が自宅に帰宅することだろう。
それはもちろん私達も例外じゃない。

今私は、純ちゃんと自宅に帰るべく、夜道を黙々と歩いていた。
家が一番近かった梓ちゃんとはすでに別れ、今ではすっかり私と純ちゃんの二人きり。
静寂が支配する闇の中、闇夜を照らす街灯を頼りに前へと進む。


「……」
「……」


私達の間に会話は無かった。
周りに音はなく、シーンと静まり返る夜の小道。
音と言えるものは、アスファルトを叩く私達の足音だけ。


「……」
「……」


ただひたすら無言で、前へ前へと進み続ける。
別に会話が無いからって気まずいとか言うのは全然なくて
逆に、とても落ち着いた雰囲気が私達の間に流れていた。
純ちゃんとは長い付き合いになるし、そもそも緊張感なんてものは私達の間には相応しくない。

私は、何気なく純ちゃんの顔をチラっと見つめた。
純ちゃんは夜天を見上げながら、ボーっと歩いてる。
上を見ながら歩くなんて器用なことをしている純ちゃんを、素直にすごいと思った。
電信柱にぶつかりそうになると、まるで見えてるみたいにひょいっと避けてるし。
それでも、ちょっと危ないけどね。
車とか来たら大変だし。

それともう一つ気になるのは、まるで考え事でもしているような虚ろな瞳だった。
ボーっとしているようで、意外にも瞳には光がしっかりと宿ってる。


(何…考えてるのかな…?)


そんな風に疑問に思っても、結局答えなんて出るはずがなくて
とりあえず、私も純ちゃんと同じように夜天を見上げた。

雲間からお月様がひょっこり顔を出し、その周りには綺麗なお星様。


(綺麗だなぁ…)


満点の星空を前にして、ふぅっと感嘆の溜息をついた。
よく冬の星空の方が綺麗に見えるとか言うけど、私には夏の星空だって十分綺麗に見える。
アルタイル…デネブ…ベガ…夏の大三角だってはっきりと私の目に映ってる。

月と星が輝く夜天の下、私と純ちゃんはボーっと星空を眺め続ける。
まるで金縛りにあったみたいに、何故かその光景から目が離せななくて。


(歩きながら上向いてると危ないけどね…)


私は純ちゃんみたいに上を向きながら電信柱を避けるなんて芸当、とてもじゃないけど出来そうにない。
前を向かなきゃ危ないよって純ちゃんに言ったほうがいいかもしれないけど
それを言ったら風情がないので、言わないでおく。
その分私が正面に気をはっていればいいんだから。

それからちょっとの間
私たちは星空を眺めながら歩いていた。

ふいに、私の口から言葉が漏れ出る。


「今日は楽しかったね…」


意識して言ったわけじゃない。
ただ何となく、無意識に。
もちろんそれは隣で肩を並べて歩く純ちゃんへの問いかけ。


「…ん?」


純ちゃんはその呼びかけに反応すると私に視線を移し、ふっと笑ってコクンと頷いた。


「そーだね…なんだか一生分遊び尽くした気分だよ」


冗談とも取れるその一言に、私はあははっと苦笑い。
今日は梓ちゃんを含めた3人でプールに遊びに行って
その帰りにお姉ちゃん達軽音部のみなさんと合流し、夏祭りに参加
確かに思いっきり遊んで、楽しんで、夏休みに入ってからこんなに遊んだのは初めてだったけど。
でもさすがに、一生分は言い過ぎじゃないかな?


「…一生分は大げさじゃない?」
「んーそーかな? じゃー1週間分くらいで手を打つよ」


にししっと楽しそうに笑いながら、そう言ってのけた純ちゃんに可笑しくなって
私は思わず立ち止まり、お腹を押さえてクスクスと笑ってしまった。
急に笑い出した私にぎょっとした純ちゃんは、なんだなんだと目をパチクリさせる。
でもすぐに笑顔になって、私と一緒にあははっと笑った。

私達は顔を見合わせながらひとしきり笑いあう。
静かな夜が一変して騒がしくなってしまった。
楽しさに溢れ、どこか心地いい。


「…はぁ…ふぅ…もう! 憂のせいで笑いのツボに入っちゃったじゃん」
「え~、私のせいなの? もとはと言えば私を笑わせたの純ちゃんじゃん」


まあ、純ちゃんには私を笑わせようって気はなかったのかもしれないけど…。
結果的には私が笑ってしまったのだから、純ちゃんに責任がある…ということにしておいた。


「おっ、生意気な! そんな事を言うのはこの口かぁ~!」


純ちゃんはそう言ってニヤっと笑みを浮かべると、私の頬に両手を添え、ぐにーっと横に引っ張った。
私の頬が餅みたいにびよ~んと伸びる。
ちょっと痛い。


「ふもっ! にゃにふるほぉ~!」
「あはは♪ 何言ってるか全然わかんない♪ ていうか憂の顔面白すぎっ…あははは!」


頬を引っ張りながら私の顔見てケラケラと笑う純ちゃんに、さすがの私もムカッときて
思わず純ちゃんの頬にすっと手を伸してた。
それから同じようにぎゅむーっと横に引っ張る。
純ちゃんの柔らかいほっぺが、まるでゴムみたいに横に伸びた。


「んあっ!…はひふんは~! は~ら~へ~!」
「ひゃあ、ひゅんひゃんもはらひれお~!」


て言うか、私達何言ってるか分からない。
それにこう言っちゃ悪いけど、純ちゃんの顔は随分とマヌケな顔になってて
思わず笑いがこみ上げてくる。
きっと、純ちゃんの目に映る私の顔も同じなのかもしれない。
ちょっと恥ずかしいけど…でも、純ちゃんになら見られてもいいかな。


夜の小道で、私達は一体何をしてるのだろうかという疑問はさておき
さすがにいつまでもこんな事をしていたって不毛なだけ。
それにここ住宅街だし。
あんまり騒ぐと近所迷惑になってしまいそう。

そう思った私は、目で純ちゃんに合図を送る。
純ちゃんはそれに気づいて「そろそろやめようか」と目で合図を返してきた。
私は素直にコクンと頷いて
それから、どちらからともなく手を離した。


「あ…」
「ん? どうしたの憂?」


よく見ると、純ちゃんの頬は引っ張っていたせいで少しだけ赤くなってた。


(ちょっと強く引っ張りすぎちゃったかな? 悪いことしちゃったかも…。で、でもでも、きっと私のほっぺだって赤くなってるだろうし、おあいこだよね?)


と、そんな事を思いながらも、ちょっとの罪悪感は拭えなくて。
とりあえず謝罪の言葉だけは言っておこうと思って、口を開こうとしたんだけど…


「ご――ふむっ!?」


「ごめんね」って一言口にしようした瞬間、ふいに純ちゃんの人差し指が私の唇をピトっと押さえつけた。
口を開くことが出来なくて、当然、謝罪の言葉も不発に終わる。
狙ったようなタイミング。
まるでこれから何を言おうとしていたのか分っていたみたい。

純ちゃんは優しい瞳で私を見つめながら、首を横に振って、ニコッと笑う。
その瞳から流れ込んでくる純ちゃんの優しさが、私の胸を打った。
分かってるから大丈夫だよって、謝る必要なんてないよって、その目は語ってる。
確信を持って言えるわけじゃないけど
でも、そんな風に思わずにはいられない。

純ちゃんはとっても優しい女の子だから。
友人同士のスキンシップに謝罪の言葉なんて不釣合いにもほどがある。
純ちゃんはきっとそう言いたいんだろう。


(ダメだなぁ…私…)


私は物事を少し難しく考えすぎなのかもしれない。
もう少し力を抜いて行こうと、私は思った。
あんまり肩肘張ってると、疲れちゃうしね。


(ありがと…純ちゃん)


それに気付かせてくれた純ちゃんには感謝しないと。
ここでお礼の言葉を口にするのは何となく野暮な気がしたので心の中で言っておく。

結局私は、それ以上何も言わないで、体からふっと力を抜いた。
それを感じ取った純ちゃんは、ようやく私の唇から人差し指を離した。

純ちゃんは何も言わずに前を向くと、一歩足を進める。
それに遅れまいと、私も後に続き、肩を並べて歩きだす。
地上を明るく照らす月と星の光を頼りに私達2人は前へ前へと進んだ。


「…やれやれ…憂も意外と負けず嫌いだよね…」
「…え?」


歩いていると、ふいに純ちゃんが呆れ気味にそんな事を言ってきた。


「そ、そうかな…? そんなことないと思うけど…」
「そんなことあるよ。プールのときだって、私に泳ぎで負けたの悔しくて勝つまでやったし」
「そ、それは…」


確かに、純ちゃんの言う通りプールで泳ぎ勝負をしたのは覚えてる。
覚えてるって言っても、まだ数時間前の話だから忘れる方がどうかしてるけど…。

勝負の内容は至って単純で、25mの距離を先に泳ぎきった方が勝ちというもの。
これでも私、水泳は結構得意な方なので勝つ自信はあった。
自慢じゃないけど、子供のころから水泳で負けたことは一度も無かったから。
自分の力に自惚れていたわけじゃないけど、あまり運動の得意じゃない純ちゃんには多分負けないだろうと思ってた。
その時までは。

勝負の結果…まさかまさかの敗北。

どうやら純ちゃんは、水泳が大の得意だったらしい。
自分の一番得意なことは何ですかと聞かれれば、迷わず「水泳です!」と答えられそうなくらいに。

本当に完膚なきまでに叩きのめされた。
接戦というならまだ救いはあったけど、でもそんな生易しいものじゃない。
たぶん…5mくらいは離されて負けてしまったはずだ。
審判をしてた梓ちゃんも心底驚いてた。
開いた口が塞がっていなくて、ポカーンとしてたから。
純ちゃんがこんなに泳ぎが得意なんて思っていなかったみたい。
私だってそうだったし。

それから
負けてしまった私はといえば、その事に悔しさ覚え、何度も何度も純ちゃんに挑戦したのだ。
5回連続で負け続け、6回目にしてようやく勝つことが出来たんだけど…。
でも、最後は純ちゃんの体力切れで勝ちを譲ってもらったようなものだった。
全然勝った気がしなかった。
それにもし、純ちゃんの体力に限りがなかったら、正直言って何回泳いでも純ちゃんには勝てないような気さえした。


「私って…負けず嫌いなのかな…?」
「そーだよ。でなきゃ、勝つまでなんて普通やらないし」
「…そっか…私って負けず嫌いなんだ…」


生まれてから16年とちょっと。
新たに知った自分の一面に、感慨深くなる。
それに気付かせてくれた純ちゃんには感謝した方がいいのかなとも思うけど
でも新たに加わった自分の一面が負けず嫌いって、何だか複雑な心境。
可愛げが無いっていうか、何て言うか…。


「でも、純ちゃんって泳ぎ本当に上手だよね? 私、ビックリしちゃった」
「そう? でもそう言えば憂と出会って随分になるけど、今まで何かで勝負したことなかったもんね」
「うん」


中学時代からの付き合いだけど、よく考えたらこうして何かで勝負をしたのは始めてだった。
だからこそ、純ちゃんの実力に気付かなかったわけだけど…。


「何か特訓でもしたの?」
「んー別に特に何もしてないよ。自然と泳げたし」
「それであんなに早いんだ…すごいね」
「まぁでも、田舎のおばあちゃん家では川とかで泳ぎまくったからね。そのおかげじゃないかな?」
「へー、そうなんだ」


そう言えば、毎年田舎に帰省してるって言ってたっけ。今年もそうだったし。
ジャズ研で部活してるのかと思ったら、実は田舎にいたんだもんね。
田舎は何もない~って愚痴ってたっけ。


「まあ最近はほとんどしなくなったけどねー、子供のころはしょっちゅうだったし。潜って魚とか取ったこともあるよ」
「へ~すごいんだね!」
「あはは、まあね。あのころは私も若かったなー」


腕を組みながらうんうんと
誇らしげに頭を上下に振る純ちゃんに可笑しくなって、思わずクスっと笑った。


「なるほど…純ちゃんの泳ぎが得意なのは大自然パワーのおかげなんだね」
「そゆこと♪ こればっかりは憂にだって簡単に勝ちは譲らないよ~」
「むむ…」
「おっ、悔しがってる悔しがってる。もっと悔しがれ~♪」


楽しそうに言う純ちゃんに悔しくなって、思わずぷくーっと頬を膨らます。


「うー…じゃあまた今度勝負しようよ! 今度は絶対負けないからね!」


今回は勝ちを譲ってもらったけど、今度はそうはいかないもん。
いっぱい練習して、今度こそ実力で純ちゃんに勝ってみせるから。


「おっいいねー、受けて立とう! 何度でもかかってきなさい!」


そう言い合ってお互い顔を見合わせジーっと睨み合うけど
睨んだ顔なんてあっという間に崩壊して、途端にぷっと吹き出して笑いあった。
夜の住宅街に、私達の笑い声が響く。
そのときばかりは、近所迷惑になるとか忘れてお腹を抱えて笑ってた。

楽しくて、嬉しくて、優しい気持ちになれるそんなひととき。
そんな時間をくれる純ちゃんには感謝してもしきれない。


(やっぱり、純ちゃんと一緒にいるとすごく楽しいな…)


純ちゃんはどこかお姉ちゃんと似ているところがある。
楽しくて、優しくて、一緒にいると安心する。


(でも…やっぱり少し違うよね…)


お姉ちゃんと一緒にいるとき
梓ちゃんと一緒にいるとき
それとはまた違った感覚が純ちゃんと一緒にいるときには感じる。
胸の奥からふつふつと湧き出してくるこの気持ちは何だろう。

それが何なのか、今の私には分からないけど。
でも…。

今この瞬間、私は間違いなく幸せを感じている。
純ちゃんと一緒にいて幸せを感じてる。
だからそれでいいと思った。
ずっと、純ちゃんの傍にいられれば…それだけで…。


「――ぃ…憂? 憂ってば!」
「へっ!」


よく分からない感覚に捕らわれてボーっとしていた私を現実に引き戻したのは、純ちゃんの呼び声だった。


「何ボーっとしてるの? それに何か顔赤いし…もしかして風邪引いたんじゃない?」
「あ…う、ううん! ち、違うの…風邪なんて引いてないよ?」
「ホントに~? 何か怪しいなぁ…あ、もしかしたら夏風邪かも」
「ち、違うって」
「うーん…憂って意外と抜けてるところあるから心配なんだよね…」


そう言いながら、ジト目で私の顔を覗き込んでくるけど、その瞳には明らかな心配の色が見えた。
心配してくれるのは嬉しいんだけど、顔までの距離があまりにも近くて心臓が飛び跳ねる。
あとちょっと近づいたら唇同士が触れてしまいそうな距離だった。
その距離感を嫌でも意識した私の顔は、徐々に熱を帯びていく。
心臓の鼓動はバクバクと、けたたましく鳴り響いていた。
まるで自分の心臓じゃないみたい。

言い知れぬ羞恥を感じた私は、それから逃れようと純ちゃんからパッと顔を逸らす。
火照った顔を鎮めるために首をブンブンと横に振って


「ほ、ほほホントになんでもないからっ!そ、それよりほらっ…あ…ぇと」
「ん?」
「ぁ…な、夏祭りも…た、楽しかったよね!」
「はぁ…?」


私は、誤魔化すように話を変えた。
そんな私の様子に怪訝そうな顔をしていた純ちゃん。
でもこれ以上聞いても無駄だと悟ったのか、すぐに顔を緩ませて「そうだね」っと私の言葉に同意した。
なんとか誤魔化しは上手くいったみたい。


「カキ氷も食べたし、花火も見たし…」
「うんうん!」
「それに軽音部のみなさんも楽しかったし…」
「そうだね~」


楽しそうに夏祭りでの出来事を話す純ちゃんに相槌をうっていると
ふと、純ちゃんの顔に寂しさのようなものが浮かんだ。
もちろん私はそれを見逃さなかった。
何だろうと思って、声を掛けようとしたその時、先に純ちゃんから話し始めた。


「あーあ…やっぱり私も軽音部に入っとくんだったなぁ…」


その一言で、私は全部理解した。
純ちゃんが感じている寂しさを。
でも…。


「…えと…それは、もう仕方ないっていうか…」
「…分かってるよ、ぶ~」


悔しそうにぶーたれる純ちゃんを見つめていると
ふと、桜高に入学してすぐのことを思い出す。
あれはもう1年以上前のこと――。
あの日、軽音部に興味を持った純ちゃんに誘われるまま、音楽室へ見学に行ったのを覚えてる。
一度は音楽室の敷居を跨いだ純ちゃんだったけど、軽音部の持つ、あまりのフリーダムさに不安を覚えたのか
結局、軽音部には入部しないで、ジャズ研に入部するという道を選んだ。
それはそれで仕方のないことだけど…でも。
それでも、純ちゃんは心のどこかで、あの日軽音部に入部しなかったことを後悔していたのかもしれない。
だって、今日だけに限らず、梓ちゃんが軽音部の話をするたびに羨ましそうな顔をしていたのを私は知ってるから。
ずっと、純ちゃんのことを見てるから、それくらいの事は手に取るように分かってしまう。
そんな純ちゃんを見るたび、私の心は何故か軋んだ。
純ちゃんの寂しそうな顔なんて、私は見たくなかった。


「でも…純ちゃんだって、来年軽音部に入部するんでしょ? 梓ちゃんにそう言ってたし」
「へ? あぁ…あれね」
「あ、あれ? も、もしかして冗談だったとか?」


それは夏祭りの帰り、梓ちゃんと別れる前にした話だった。
軽音部を羨ましがる純ちゃんに、梓ちゃんが今からでも軽音部に入らないかと勧誘した。
それに対して「いいよ」と同意した純ちゃん。
しかしそれは来年の話で、梓ちゃんが一人になってから入部するというものだった。
梓ちゃんもすごく残念がってたね。

もしあのときの言葉が冗談なら、梓ちゃんが可愛そうな気がするんだけど…。
でも…


「んー別に冗談じゃないよ。割と本気」
「あ、やっぱりそうなんだ」


私は何となく確信していた。
純ちゃんのあの言葉に偽りはないって。


「やっぱりって?」
「だってあの時の純ちゃん、嘘言ってるみたいに見えなかったもん」
「――」


私がそう言うと、純ちゃんは驚いたように目を見開き、何故か頬を朱に染めた。
薄暗い夜道でも分かるくらい、はっきりと染まっている。
どうしたんだろうと思って首を傾けて純ちゃんを見つめると
純ちゃんは顔を逸らして、人差し指で頬をぽりぽりと掻いた。


「…へ、へぇ~…意外としっかり見てるんだ…私のこと」
「へっ!…ぁ…ええと…それは…その」


どうやら、さっきの自分の言葉は純ちゃんにとっては意味深に聞こえたらしい。
純ちゃんの問いに何て答えようと、しどろもどろになっている私を他所に、純ちゃんはクスっと笑う。
笑っただけで、それ以上の追及はしてこなかった。

なんて言うか、ちょっと拍子抜けした。
純ちゃんだったら根掘り葉掘り聞いてきそうだったんだけど。
私のことからかうの好きみたいだし。
まぁ、ないならないで助かるんだけど…。
聞かれても何て答えて言いか分らないし。


「で、でも…純ちゃんが軽音部に入れば、梓ちゃんもきっと喜ぶよ!」
「ん? 何人事みたいに言ってんのさ」
「え?」


純ちゃんの目が私の目を捕らえる。


「その時は憂も一緒に入るんだからね」


純ちゃんは、さも当然のようにそう言ってのけた。
まるで初めから私が入ることが決まっていたみたいな、そんな言い方。


「え…」


純ちゃんの思いがけない一言に、私の思考が一瞬フリーズし、立ち止まった。
何を言われたのか、理解するまで少しだけ時間を要して。
その一言を頭の中で何度も反復し、ようやく理解するまでに至るのだが
その意味を理解した瞬間――


「ええぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


近所迷惑も考えずに絶叫していた――




―続き―

[ 2010/08/05 22:38 ] 未分類 | TB(0) | CM(0)
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