※追記からどうぞ!
ある日私は、彼女の新しい一面を知りました――。
「はぁ・・・どうしよ・・・」
思わず溜息をつく。
時刻は放課後、私は音楽室前の階段を重い足取りで上っていた。
いつもなら待ち遠しい時間のはずなのに、今日は何故か行きたくなかった。
いや理由は分かってる、明らかに“これ”のせいだ。
私は自分の手に握られた一通の手紙を見る。
「・・・はぁ」
これで何度目の溜息になるだろう・・・。
教室からここまで来るのに軽く二桁は越えているかもしれない。
溜息が止まらない理由はこの手紙が私の手に握られているため。
――なぜならその手紙は・・・ラブレターだったから。
“ガチャ”
私はいつもより重く感じる音楽室のドアを開ける。
するとすでに他の先輩たちはティータイムを始めていた。
「あ、あずにゃ~ん♪ 遅かったね!・・・ほらほら早く一緒にお茶しよ?」
私に気付いた唯先輩がニッコリと微笑み、トコトコとこっちに近づいてくる。
いつもは愛しいこの笑顔も今日は見るのがつらい・・・。
それもやっぱりこの手紙のせいなんだと思う。
「ほらほら~♪・・・って、あれ? あずにゃん何持ってるの?」
唯先輩が手紙に気付く。
これからこの手紙について説明しなきゃいけないと思うと気が重くなる。
(でも・・・ちゃんと説明しなくちゃいけないよね)
「ええと・・・その・・・じ、実はこれ・・・ら、ラブレターなんです。そ、その、クラスの子に渡されちゃって・・・あ、あはは・・・」
私は苦笑いを浮かべる。
唯先輩ならこれくらいの事、何でもないよね、とか思っちゃった私――
けどそれは大きな間違いだった。
なぜなら
唯先輩の顔からさっきまでの笑顔が完全に消えていたから・・・。
ガタンッッ
「っっ!」
一瞬何が起きたか分からなかった。
唯先輩は私を壁に押し付け、さらに身体を密着させてくる。
私の顔の横に手を付き、真剣な顔で目を見つめてくる。
その瞳に映るのは――怒り?悲しみ?
「ゆ、ゆい・・・せんぱっ・・・」
「今、何て言ったの? 梓」
「っ!」
私は驚きを隠せなかった。
唯先輩から発せられた声は、いつもの優しくて暖かいものじゃなく――絶対零度の如く冷め切っていたから。
しかも呼び方もあだ名から名前に変わっていた。
「あ・・・う・・・そ、その・・・・ら、ラブレター・・・を・・・」
「貰ったの?」
「え・・・えと・・・その・・・」
私は答えられなかった。
いつもと違う唯先輩の雰囲気にうまく声が出せなかったからだ。
何も答えない私に唯先輩は面白くなさそうな顔をする。
「ふぅーん、そっか・・・私がいるのに、こんなの貰っちゃうんだ? もしかして私の事嫌いになっちゃった?」
そう言いながら右手を私の左手に持っていき、薬指にはまった指輪を撫で始める。
そう――それはまるで『貴女は私のモノ』と主張されているようだった。
・・・これが独占欲というものだろうか?
「ち、ちがっ・・・・・・んあっ」
唯先輩の問いかけを否定しようとしたけれど、それを最後まで言うことができなかった。
なぜなら唯先輩は空いたほうの手で私の太ももに触れてきたからだ。
触れるか触れないかの優しい手付きで私の太ももを撫で回していく。
そのくすぐったさと気持ちよさからか、私は甘い吐息を漏らしてしまう。
「あふ・・・・はぁ・・・・・・・やぁ・・・・」
ギュッと目を閉じ、唯先輩の愛撫から気を逸らそうとする。
そんな私に妖しい笑みを浮かべた唯先輩は太ももを撫でていた手をスカートの中に差し入れる。
そして私の割目の部分を下着越しに優しくなぞる。
「あんっ・・・ああ・・・や・・・やめ・・・て・・・くださ・・・い・・・せんぱぃ・・・」
その甘美な刺激に私はだらしなく喘ぎ声を上げてしまう。
「やめて欲しかったら、ちゃんと答えてよ?・・・梓私の事嫌い? 好き? どっち?」
「ひぅ・・・ん・・・そ、そんな事・・・」
言わなくても分かって欲しかった。
けど今の唯先輩には何を言っても無駄のような気がした。
そしてなかなか答えようとしない私に不満を覚えたのか、優しくなぞっていた指を激しく擦りはじめる。
「ひゃうんっ!・・・あんっ・・・はぁあっ・・・!」
「っ・・・言ってよぉっ!!」
普段は絶対言いそうにない口調で命令する唯先輩。
私は唯先輩の顔を見つめる。するとその表情には明らかに不安や焦りの様なものが見えた。
(もしかして・・・唯先輩は・・・)
そんな唯先輩を見ていられなくなった私は、素直な気持ちを先輩に伝えることにした。
「あん・・・はぁ・・・わ、わたしが・・・好きなのは・・・唯先輩だけ・・・ですっ・・・あぅ・・・唯先輩・・・だけを・・・愛してますっ!」
愛撫によって感じてしまっている私の言葉は途切れ途切れになってしまう。
でもなんとか最後まで自分の気持ちを伝えることができた。
その答えに満足したのかようやく唯先輩は手を離し、ホッとしたような顔を見せる。
「そ、そっか・・・じ、じゃあそのラブレターは・・・」
――そうだった。
唯先輩の雰囲気に呑まれてすっかり忘れてたけど、このラブレターのこと説明しなきゃ。
「はぁ・・・はぁ・・・あ、あのっ・・・」
「ん?」
「こ、このラブレター・・・唯先輩宛て・・・なんですけど・・・」
そう・・・実はこれ、私のじゃなくて唯先輩宛てだったんです。
唯先輩って意外ともてるからね。新歓とか学園祭のライブとかで憧れている子も少なくない。
ホントは受け取る気なんてなかったけど、クラスの子にどうしてもと言われてしぶしぶ受け取ってしまった。
唯先輩はたぶん――ていうか間違いなく私のだって勘違いしてたと思うけど・・・。
「・・・・・・・・・・・・・え?」
衝撃の事実に唯先輩は笑顔のまま固まる。
そして次の瞬間――
「えぇぇぇぇぇーーーーー!?」
唯先輩の絶叫が音楽室に響き渡った。
**
「ご、ごめんねあずにゃん・・・」
放心状態から戻ってきた唯先輩は開口一番に謝ってきた。
しかも心底申し訳なさそうに俯いている。
「もう・・・唯先輩のバカ・・・私いじられ損じゃないですか」
「うぅ・・・ごめんね・・・何か分かんないけど、頭真っ白になっちゃって・・・」
どうやら唯先輩自身もさっきの状態をおかしいと思っているらしい。
もしかすると無意識からの行動だったのかもしれない。
「そ、そもそも・・・私が唯先輩以外を好きになるなんてありえませんっ」
「あ、あずにゃん・・・」
そんな私の言葉に唯先輩は頬を赤く染めて目をウルウルさせている。
そう――私が他の人を好きになるなんて天地がひっくり返ったってありえないんだから。
「・・・そ、それでどうするんですか?・・・そのラブレター・・・」
私にとってはそれが一番気になる所だった。
まあ・・・さっきの様子を見ればぜんぜん心配いらないと思うけど・・・。
それでも唯先輩の口から聞かなきゃ安心はできない。
「も、もちろん・・・その・・・断るよ? あずにゃん以外なんて考えられないもんっ」
そんな嬉しい事を言ってくれる唯先輩。
それを聞いたらさっきいじられちゃった事なんてどうでも良くなってくる。
(まあちょっと怖かったけど・・・ちょっとかっこいいかも・・・とか思っちゃったし)
でもただ許すだけじゃつまらないのでちょっとだけ困らせることにした。
「そうですか・・・じゃあ許してあげます。でも一つだけ条件があります」
「条件?」
?な顔して首を傾げる唯先輩は可愛いんだけど、ここで負けるわけにはいかない。
「今度、私の言う事一つだけなんでも聞いてください」
これが私の出した条件。
これくらいいいよね?・・・あんな事されちゃったんだし。
あ、でも別に嫌だったってわけじゃないんだよ?
そこの所勘違いしないように。
「ええ! なんでも!?」
「なんでもですっ!」
私の出した条件に唯先輩は顔を真っ赤にしている。
一体何考えてるんだろう・・・も、もしかしてエッチなこととか?
ま、まあいっか…とりあえずそれについては後でゆっくり考えよう。
それにしても・・・さっきの唯先輩のアレって、やっぱり嫉妬ってやつだよね?
唯先輩ってやきもち妬くとあんな風になっちゃうんだ・・・。
出会ってから随分になるけどあんな唯先輩は見たことがない。
もしかすると恋人同士になった事で唯先輩にもそういう感情が芽生えたのかもしれない。
それにやきもち妬かれること自体はすごく嬉しい。それだけ私のことを想ってくれているって事だから。
不安にさせちゃってこう言うのもなんだけど、唯先輩の新しい一面を見る事が出来てよかったな・・・。
~蚊帳の外~
「はぁ・・・」
律が紅茶を飲みながら溜息をつく。
「あたしら・・・完全に忘れられてるよな・・・?」
律は唯達から目線を外し、チラッと横を見る。
「はぁ・・・お~い、みお~・・・大丈夫かぁー」
「・・・・・・・・」
溜息をつきながら澪に問いかけるが返事が無い。
どうやら完全に気絶しているようだ。
真っ赤な顔して頭から蒸気を噴き出している。
まあさっきのアレは澪には耐えられるはずもなかった。
律の方はというと、最近は免疫が出来てきたようで何とかなっている。
けど意外な事にもう一人の気絶要因であるはずの紬が気絶していなかった。
「お、おい、ムギ・・・お、お前大丈夫か?」
ジーーー
「はぁ・・・はぁ・・・・・・大丈夫よ・・・りっちゃん・・・」
震える手でビデオカメラを回しながら荒い息で律に返事を返す紬。
「だ、大丈夫って・・・と、とりあえず、鼻血は拭いといた方がいいぞ・・・マジで」
そう――律の言うとおり紬の座っている机はすでに鼻血の海と化していた。
「だ、だめよ・・・一分一秒だって無駄になんてできないもの・・・ハァ・・・ハァ・・・」
いつもだったら必要以上のいちゃつきでも気絶寸前の紬なのだが今日は持ちこたえている。
「む、ムギ・・・お前・・・」
「何も言わないで・・・私にだって・・・負けられない戦いといものが・・・あるのよ・・・ぐふっ!」
なんかカッコいい事を言っている紬だが鼻血を噴きながら言っても全くキマっていなかった。
――そしてここで記録された愛のメモリーは琴吹家の家宝になったことは言うまでもない・・・。
END
【あとがき】
最後まで読んでくださってありがとうございます。
やきもち妬きな唯が見たかった・・・という事で書いた作品です。
なんかやきもち通り越してるような気がするけど気にしない方向で。
意外に独占欲が強かった唯の図・・・です。