とある百合好きの駄文置場。二次創作SSやアニメ・漫画等の雑記中心。ゆいあずLOVE!

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憂純SS 『本当の「私」を見つけて ―前編―』

※追記からどうぞ!



高校に入学して初めての文化祭。
その少し前に、お姉ちゃんが突然風邪を引いた。
実は驚くことに、お姉ちゃんが風邪を引くのはこれが生まれて初めてだったのだ。


「きゅ、きゅきゅ、救急車呼ばなくっちゃっ!?」

「…あはは…だいじょーぶだよー…ういー」


そんなやり取りがあったのもつい数日前の事。
さすがに救急車は呼ばなかったけど、きちんと病院には行って、お薬も貰ってきた。
医者の診断では完全に風邪だそうだ。
あとは良く寝て、よく食べて、お薬もちゃんと飲めば風邪なんてあっという間に治るだろう。

…と、最初はそう思ってたんだけど

これが中々頑固な風邪のようで、数日経っても一向に治る気配がなかった。
もしかすると今まで風邪を引いたことが無かったから、風邪に対する免疫力が極端に低いのかもしれない。
あの元気が取り柄のお姉ちゃんが病気だなんて、本当に何かの間違いではないだろうかと、今でも信じられない。
最初は天変地異の前触れかと思ったくらいだし。明日世界が終わってしまうんじゃないかと思ったりもした。

でもこれが現実だった。
お姉ちゃんだって一人の人間なんだもの。
病気になるのだって仕方が無いといえば仕方が無いのかもしれない。

風邪の原因は多分、文化祭ライブで着る予定の衣装を家の中で長い間着込んでいたせいだと思う。
この衣装というのがまた浴衣みたいな格好で、しかも意外と薄着だった。
季節の変わり目ということもあり、最近めっきり冷え込んできていた。
そんな中、防寒対策の欠片もないその格好ではしゃいでいたから、さすがにお姉ちゃんの身体も参ってしまったのだろう。

もうじき文化祭というこの時期に風邪をこじらせるなんて、ついてないし可哀想という他ないのだけど、その原因がお姉ちゃん自身にある以上、こんな事は言いたくないけど自業自得というしかない。
それに私にだって原因はあるのだ。そんなお姉ちゃんの風邪を未然に防ぐことが出来なかったのだから。
いまさら後悔しても遅いけど、こんな事になるなら心を鬼にしてでも止めるべきだった。ホント、後悔は先に立たないものだ。

正直、ベッドで寝込んで具合の悪そうなお姉ちゃんを見ているのはつらくて、出来ることならその風邪を私が肩代わりしてあげたかった。
それが出来ないにしても、何でもいいからお姉ちゃんのために何かしてあげたくて…役に立ちたくて…。

そしてそんな時、私はある事を思いつく。
実際はお姉ちゃんのためになっているかどうかは微妙だったけど、何もしないよりはいいと思い、それを実行に移した。

そのある事とは――






『 本当の「私」を見つけて 』







文化祭を3日後に控えた日の放課後、私は学校のトイレにいた。
そして備え付けの鏡に映った自分の顔を見つめながら、両手で頬をパンっと叩き「よし!」と気合を入れる。
別に気合なんて入れなくてもいいのだけど、これからの事を思うと少しでもテンションを上げていかなければいけなかった。
それくらい今から私がしようとしている事は気力を使うのだ。

何故ならこの私、平沢憂はただ今から“平沢唯”になりきらなければならないのだから。

私は髪に結わえられたリボンを解き、持ち前のポニーテールを崩す。
そして櫛を髪にあてがい、ゆっくりと優しく梳き、整えていく。
髪の長さはお姉ちゃんとほぼ一緒なので、髪さえ下ろしてしまえばお姉ちゃんと見分けがつかないくらい似てしまう。
物心ついた頃からポニーテールにしていたし、人前で髪を下ろしたことはほとんど無かった。
私が髪を下ろすのは、もっぱら家の中だけだった。

別に髪形を変えたいと思ったことはないし、特に意識したことはない。
お姉ちゃんと見分けがつくならそれでもいいかなって思ってるし。
それに昔、一回だけ髪を下ろして生活していたこともあったんだけど、そんな時は決まってお姉ちゃんに間違われてしまった。
それが嫌だと思ったことはないし、実際に髪を下ろしてお姉ちゃんのヘアピンをつけて並ぶと、どっちが“平沢唯”か分からなかったから。


「よし、と…これで大丈夫かな…」


丁寧に髪を梳き、お姉ちゃんから借りたヘアピンを髪に取り付けた。
鏡に映った私は間違いなく平沢憂。だけど、他の人から見れば“平沢唯”にしか見えないはずだ。


(うん、大丈夫…今の私は“平沢唯”…)


私は平沢唯――とまるで呪文のように何度も何度も心の中で唱える。
しかしそう心の中で思っている間、何故か胸にズキンと痛みを感じていた。
チクンチクンと徐々に大きくなっていくその痛みを抑えるように、私は胸に手を当てる。


「…あ、あれ?…」


おかしいな…。なんでだろ…。
胸に手を当ててみても、痛みの理由が分からない。
別に具合が悪いわけでも、風邪を引いたわけでもないはずだ。
考えても考えてもその原因も理由も分からなかった。


「あ!そ、そうだ…早くいかないと…」


私はハッとする。
すでに放課後に入って結構時間が経過しているのだ。きっと軽音部も練習を始めている頃だろう。
これ以上時間をかけるのは得策じゃないと考えた私は、さっきまでの考え事を放棄する。
今の私にはそんな事を考えるよりもやらなくちゃいけない事があるのだから。
“平沢唯”を演じきって、風邪で寝込んでいるお姉ちゃんの変わりにバンドに参加するんだ。
文化祭までにお姉ちゃんが治れば私はお役御免。万々歳だ。
仮に最悪の事態――文化祭当日になっても風邪が治らないようなら、私がお姉ちゃんの代わりにライブに参加するくらいの覚悟は出来ている。
幸い、お姉ちゃんにギターを触らせてもらっていたおかげで、演奏もお姉ちゃんほどとはいかないまでも、人並み程度には出来るようになっていたし。


「…」


無言で今一度鏡に映った自分を見つめなおす。
キリッとした真剣な表情で、もう一度「よし!」と気合を入れ、ギュッと拳を握りしめた。
そして背中でずり落ちそうになっているお姉ちゃんのギター、通称“ギー太”を背負い直しトイレを後にしたのだった。





**





「ごめんなさい…。ベッドで寝込んでるお姉ちゃん見てたら、いてもたってもいられなくなっちゃって…」


結果から言えば、私の作戦は失敗に終わってしまった。
最初は完全にうまくいっていたし、先輩達や、あの梓ちゃんですら私が平沢憂であることに気付かなかっし、疑いもしなかった。
これならいけると思っていたのも束の間、一緒に演奏を始めると、皆さん揃って「あれ?」と疑問符を顔に浮かべていた。
どうやらお姉ちゃんと私では演奏に違いがあるようだ。さすがに演奏までコピーすることなんて私には出来なかった。
思いが先走りしすぎて、一番大事な事が頭から抜け落ちていた。
どうやら姿形だけでは“軽音部員としての平沢唯”を演じる事は出来なかったようだ。
二度目の演奏で完全におかしいと思われてしまったようで、極めつけはさわ子先生のこの一言だった。


『唯ちゃんよりおっぱい大きいじゃない!』


そんな事を自信満々に言われてしまっては私の立つ瀬が無い。
まさか胸の大きさで判別できる人間がこの世にいたなんて思いもしなかった。
確かに私の胸はお姉ちゃんよりも少し大きいけど、そこまで差は開いていない。
そんな微々たる差を、見た目からそれも服の上か判別するなんて、さわ子先生は一体何者なんだろうか。
…でもまあそんな事は考えても分かるはずが無いのが正直な所。
ただ1つ言えることがあるとすれば、それはさわ子先生が常人よりも遥かに特殊な人間だということだろう。


それからもう一つ驚くことがあった。


なんと、風邪で寝込んでいるはずのお姉ちゃんが音楽室にやってきたのだ。
顔も真っ赤で、その手には鼻をかむためのティッシュ。
お姉ちゃんはもう大丈夫と言ったけど、全然そんな風には見えない。
そう感じたのは他のみなさんも同じようで、みんな心配そうにお姉ちゃんの身を案じていた。
そして案の定、全然熱の下がっていなかったお姉ちゃんはそのままソファにうな垂れ、倒れてしまったのだった。


私は今、校舎の廊下を歩いていた。
梓ちゃん達がお姉ちゃんを見てくれている間に、私はお水を買うため自販機へ行っていたのだ。
今は目的の物を買って、もとの道を引き返していている最中だった。


「もう…お姉ちゃんたら…、ちゃんと寝てなきゃダメだっていったのに…」


思わず口からこぼれていた言葉は、どこか諦めのような気持ちが含まれていた。
お姉ちゃんがどれだけ軽音部を大切にしていることは知っているから。
きっと少しでも練習して、文化祭に備えたいと思っていたのだろう。

しかしそれはそれ。これはこれだ。
そんな事をしていては、治るものも治らなくなってしまうと思う。たかが風邪、されど風邪だもの。
お姉ちゃんもお姉ちゃんで、みんなに心配かけたくないからって言うのは分かるんだけど
でもそれ以上に私達の方が心配していたら本末転倒になってしまうのだ。


「……心配、か」


ふと、先ほどの音楽室での出来事を思い出す。
さっきも思ったことだけど、あの中で一番心配していたのは梓ちゃんだった。
顔には出さなかったけど、私にはその心の内が手にとるように分かった。
何故なら梓ちゃんのお姉ちゃんを想う気持ちが、痛いほど、ひしひしと伝わってきていたから…。
たぶん…いや、きっと梓ちゃんはお姉ちゃんの事が好きなんだろう。
そしてたぶんお姉ちゃんも…。

お姉ちゃんは梓ちゃんと一緒にいる時が一番輝いてるし、梓ちゃんだってそれは同じだ。
いつも『唯先輩が~』とか憎まれ口ばかり言ってるけど、どこか楽しそうで優しい気持ちが含まれていたのを私は知っているから。

この二人は強い絆で結ばれている。
それは誰にも断ち切れないものだ。
そう、妹の私でさえも。

それがちょっと寂しくて、それ以上にとても羨ましかった。
この場合の羨ましいっていうのは、梓ちゃんに対してじゃなく、お姉ちゃんに対してだ。
私にもいつかお姉ちゃんみたいに梓ちゃんみたいな存在が現れるのかな、なんて幻想を抱いてしまう。


お姉ちゃんにとっての梓ちゃん
私にとっての誰か


「…はぁ…」


また溜息が出てしまう。先ほどから何度溜息をついたか分からない。
こんな事では幸せが逃げてしまいそうだ。

そしてふと、横の窓ガラスに映った自分の顔に目が行った。
映っているのは平沢憂。私だ。
でも――


「…ん」


私は結びなおしたリボンをまた解き、ポケットからお姉ちゃんのヘアピンを取り出して髪に付けた。
そして改めてガラスに映った自分を見つめる。


「…私じゃ、ないのかな…」


そこに映っているのは間違いなく“平沢憂”であるはずなのに。
なのに初見では誰も私だと気付かない。たとえ平沢憂だと教えても、言わないと絶対に分からないのだ。
似てる。唯ちゃんみたい。全然気付かなかった。などなど…
さっきもそんな事を何度も言われたけど、何故か全然嬉しくなかった。

私は憂だ。唯じゃない。
どうして誰も分かってくれないの?
どうして誰も気付いてくれないの?
どんなに似ていたって、私は私でしかないのに…。


「…どうして誰も“私”を見てくれないのかな…?」


思わず口に出していた言葉に私はハッとする。
ああそうか…。あの時の胸の痛みのわけがようやくわかった。
私は嫌だったんだ。お姉ちゃんに間違われることが…。
ううん…違う、そうじゃない。
お姉ちゃんに間違われることが、じゃない。
お姉ちゃんに間違われ続けることで、いつか私という存在が消えていってしまうんじゃないかって…それが私は怖かったんだ。


「…はぁ…バカだなぁ、私…」


何を考えてるんだろう私は…。
どうやらちょっとナーバスになってしまったようだ。
こんなくだらない事で悩んで、一体何になるっていうんだろう。
意味が無いよ、こんな事を考えたって。今まで通りの髪型にしておけば何にも問題ないんだから…。
もうよそう…変なこと考えるのは…。

頭の中の嫌な考えを掻き消すため、ぶるぶると勢いよく頭を振る。
こんな事くらいで一度考えてしまった嫌なことが消えてくれるとは思えない。
えてして、嫌な考えほど頭に残りやすいものなのだ。
けど、少しでも気を紛らわせたかった。



音楽室へ向けて歩き出そうとしたその時――



「あれー? 憂じゃん。何やってんの、こんなとこで?」

「…え?」


――誰かが私に声をかけた。




―後編に続く―

[ 2010/04/22 00:11 ] 未分類 | TB(0) | CM(0)
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