※追記からどうぞ!
あの朝食(泣)から3時間が経過して、今は午後1時を回っていた。
「唯先輩のバカ!」
「うー…ごめん、あずにゃん…」
「謝ったって許してあげないもん!」
謝ってくる先輩に耳を貸さず、私はプイッとそっぽを向いた。
ぷくぅ~っとほっぺを膨らまして、「私怒ってます!」って感じを見せ付ける。
結局、先輩にいい様に弄ばれた私は、先輩が満足するまで鳴き続けた。
ライオンがウサギを狩るようなものだ。
百獣の王である唯先輩の、底無し性欲に抵抗する術なんて私は持ち合わせていない。
「ふーんだ!この色欲魔!変態!女垂らし!性欲魔人!」
「ああ~ん!そんなひどい事言わないでぇ~」
だからこうして、先輩に講義するくらいの事しかできやしない。
先輩は両手を顔の前で合わせて、何度も何度も謝ってくる。
このままでは土下座までしそうな勢いだ。
…て言うか、そこまで真剣に誤らなくたっていいのに。
私だって冗談でいってるんだから。
「もういいですよ…許してあげます。でも、あんまりヒドイと1週間エッチ禁止にしちゃいますよ?」
「ええぇ!?」
「ごめんなさい。嘘です」
正直、そんなの耐えられません。
言ってみて気付いたけど、1週間なんて私に死ねと言っているようなものだ。
自分で自分の首を絞めてどうする私!
「ほっ…よかったぁ…。あずにゃん私に死ねって言ってるのかと思ったよぉ~」
「唯先輩もですか…」
「?」
「いぇ、何でもないです」
先輩も私と同じで、1週間も耐えられないクチらしい。まぁ、そりゃそうだよね。
あのエッチ大好き唯先輩が7日間も我慢できるはずないもん。
もしかしたら、3度の飯より私とのエッチの方が好きって言うかもしれない。
それはさすがに大げさすぎる気もするけど、でも性欲だって人間の3大欲求の1つなんだから、仕方ないと言えば仕方ない。
ご飯を食べる事も、寝ることも、エッチするとも、人間としては当たり前の事なのだ。
とりあえず、エッチの話はもういいです。
何だか、今朝からエッチの話しかしてない気がします。
いい加減、この話は終わりにしましょう。
とりあえず、話を戻します。
現在時刻は午後1時を回って少し経ったあたり。
お昼ご飯を軽く済ませた私達はまた部屋に戻ってソファで涼んでいた。
開けた窓からそよいでくる風が心地いい。
春のそよ風ってヤツですかね。
「…いい気持ちですねー」
「…そうだねー」
私が言うと、先輩も笑顔で同意した。
窓から差し込む柔らかな日差しに包まれて、2人して心地よい温もりに浸る。
温かかくて、すごく気持ちよくて、眠ってしまいそう。
このまま眠ってしまっても問題ない気がするけど、午前中も寝て午後も寝てたら、さすがに時間が勿体無い…。
でもやっぱり、ぽかぽかで、気持ちいい。それに眠い…。
「やっと春らしくなってきましたもんね」
「うん」
その言葉のとおり、季節は春。4月某日。
今日は新学期に入って初めての日曜日だった。
3月の寒さなんて最初から無かったように、4月に入った途端に温かくなり始めた。
随分と過ごしやすくなった、とは思ったけど。でも。
春のぽかぽか陽気は、容赦なく私達から意識を奪っていく。
それは簡単に言うと眠くなるって事で。
「ギターの練習しないといけませんねー…」
「そうだねー…」
だからと言って、寝てもいられない。
忘れがちになるけど、今回のお泊りの目的は一応ギターの特訓という事になっている。
しかも今回は、ちょっと真面目にやろうって事になっていたのだ。
何せ、明日は新歓ライブがあるのだから。
さすがの唯先輩も練習もせずに望むのは得策じゃないと思ったんだろう。
もちろん部活でも練習はしているし、新学期初日は朝早くから部室で必殺技の練習をしていたのも記憶に新しい。
最近は中々、練習熱心だったりするのだ。
それは私としても嬉しい限りなんだけど、欲を言えば、それを1年前から出して欲しかったかな。
『あずにゃん! ギターもっと教えて!」
その一言から始まった今回のお泊り会。
部活の練習や自主トレでもまだ足りないと感じていたんだろう。
先輩の音を聞いた感じでは、いい感じに仕上がっているとは思っているけど
先輩が納得していないのなら、私としても練習に付き合うのもやぶさかじゃない。
それに私も唯先輩と一緒で、まだまだ練習不足だと思ってたし。
でも――
「でも…」
唯先輩が呟いた。まるで私の心を代弁しているように。
何となく言いたい事は分かる。
私も同じことを言いたい気分だから。
「やっぱり…眠いよー…」
ほらね、やっぱり。
言うと思った。
のんびりで、穏やか。
時間が経つことすら忘れてしまいそうな温かな空間。
唯先輩はとろんとした声で、半分寝ぼけ眼な感じ。
私だってそれは同じで、あんまり気持ちが良くて、ちょっとウトウト…。
「ふわぁ~…ちょっとだけ寝ちゃっていいかな? あずにゃん…」
唯先輩が大きな欠伸をし、眠気に負けてそう言った。
「…練習、しなくていいんですか?」
「うーん…、起きたらするよー…」
「まぁ…それならいいですけど…」
「えへへ、ありがとーあずにゃん」
唯先輩は感謝の言葉を口にして、私に身を預けてきた。
ぴったりと寄り添い、肩にもたれ掛かってくる。
先輩の優しい温もりを感じ、髪から微かに香る匂いが鼻腔をくすぐる。
「じゃーおやすみー…」
「はい…。お休みなさい、唯先輩…」
「…すぅ…すぅ…」
先輩はすぐに寝入ってしまった。すぅすぅという寝息も聞こえてくる。
そこまで眠かったのか、と思ってしまうけど私も人の事は言えない。
私だって、気を抜いたら眠ってしまいそうだもの。
先輩の寝顔を肩越しに見つめる。
とても安心したような顔で眠る唯先輩。
何だか、すごく幸せだった。
「うにゅ…」
ふいに、唯先輩の頭がかくんと下がった。
「お、っとと…」
そのままの勢いで崩れ落ちそうになる先輩を支えようと腕を伸ばそうとしたけど遅かった。
先輩の頭は、ぽすんっ、という音を立てて私の膝の上に収まる。
それは簡単に言えば、膝枕の格好だった。
「んっ…すぅ…」
衝撃で起きてしまわないか心配だったけど、杞憂に終わったみたい。
変わらずに寝息を立てているし、起きる様子はない。
私はほっと胸を撫で下ろす。
「ふふ…。先輩ってホント可愛いなぁ…。こんな可愛い人が私の彼女なんだよね…」
て言うか、唯先輩って彼女?それとも彼氏かな?
…まぁどっちでもいいけど。些細な問題だし。
でも、何となく唯先輩はカッコいいから彼氏って感じがする。
もし男の子なら絶対イケメンだろうしね。
「髪もさらさら…」
先輩の温もりと重みを太ももに感じながら、頭を撫でる。
ふわふわとした質感の髪を梳くように撫でると、唯先輩はくすぐったそうに身をよじる。
ゴロゴロと私の太ももに顔を擦り付けてくるその姿は、まるでネコみたいで。
そんな仕草を見ているだけで、私の胸は、ほぅっと温かくなって。
とっても優しい気持ちになれた。
「…ふぁ~ぁ…」
それから。
少しの間、唯先輩の柔らかな髪を撫で続けていると、私の眠気もピークを迎えた。
「…ん…ゆい…おやすみ、なさい…」
春の暖かい日差しと、優しいそよ風を体に浴びながら。
私はそっと目を閉じた…。
◇
私が目を覚ましたのは、それからしばらく経ってからだった。
目を開けると、すぐ目の前には静かに寝息を立てて眠る恋人の姿。
朝とまったく同じ光景だった。
膝の上で眠る唯先輩は、とても幸せそうで。
それが何だか嬉しくて、私まで幸せな気分になってくる。
そんな寝顔をいつまでも見ていたかったけど、私は仕方なく顔を上げた。
今の状況を知りたかったから。
私達は一体、何時間眠り続けていたんだろう。
そう思って部屋を見渡す。
窓から差し込む西日が、私の部屋を茜色に染め、春の優しい風が私の肌を撫でる。
もう夕方だった。
時計を見ると、5時を回っている。
どうやら4時間近く、ぐっすりだったみたい。
寝すぎだ…。
「はぁ…」
思わず溜息が出る。
結局、一日中だらだら過ごしてしまった。
いいのか、こんな事で?
うん、ダメだ。
ダメに決まってる。
何も無い時はそれでもいいかもしれいないけど、そうはいかないのが今日と言う日だった。
明日が新歓ライブだってことは忘れてない。
練習しなきゃいけいないことも、もちろん覚えてる。
「夜はちゃんと練習しないとね…」
さすがに今夜はちゃんと練習しないといけない。
となると、今夜のエッチはお預けか。少し残念だけど、仕方ないよね。
先輩だってせっかくやる気を出したんだし、私だって先輩に負けないように頑張らないと。
「新歓ライブ、だもんね…」
何気なく呟いた言葉は、虚空へと消える。
明日の新歓ライブは、とても大切なもの。
もしかしたら興味を持ってくれた新入生が、入部してくれるかもしれないのだから、やる気も一押しだ。
今まで以上に頑張らないと、という気持ちはもちろんあるし、他の先輩達だってそれは同じはず。
この数日、ビラ配りとか色々やってきたけど、あまりいい成果は得られなかったから。
よく考えると、これが最後のチャンスなのだ。
それに。
たとえ新入生が入部しなくても、演奏に妥協はしたくない。
「去年もそうだったよね…」
そう、去年の新歓ライブも同じだった。
1年前、軽音部に興味を持って入部したのは言うまでもなく私だ。
それは必然の出会いだったのかもしれないし、そうでなかったかもしれない。
『あ、あのっ!』
あの日、憂に声を掛けられた事で、すべては始まった。
憂につれられてきた場所は体育館だった。
そしてその場所で、私は衝撃の光景を目にする。
今目の前で眠る恋人の、心から楽しそうにギターを弾く姿を。歌う姿を。
それから、4人揃った演奏で見せる一体感を。
私は感動し、胸が震えた。
初めて感じる躍動感で、我を忘れてしまうほどに。
この人達と音楽がやりたいと素直に思った。
新歓ライブのおかげで桜高軽音部に入部できたわけだけど…。
「まぁ…その後、色々あったけどね……でも――」
今ではそれもいい思い出だ。
それに今、私にとって何より掛け替えの無いものになっているのだから。
軽音部の先輩達。そして。
――唯先輩の事。
「あの時はまさか、唯先輩とこんな関係になるなんて思ってなかったもんね…」
囁くように言って、私は先輩の寝顔を見つめながら、ふふっと笑った。
つんつんとほっぺを突っつくと、擽ったそうにむにゃむにゃと口を動かす。
私はクスっと笑った。
「ホント…懐かしいなぁ…」
まだ1年しか経ってないけどね。
最初は煩わしく思っていたはずの唯先輩。
変なあだ名はつけるし…。
抱きついてくるし…。
ネコ耳つけてくるし…。
正直、いいと思える所なんて無いんだと思ってた。
でも、違った。
全然そうじゃなかった。
優しくて、温かくて、一緒にいると楽しくて。
太陽みたいな笑顔を向けられるのが嬉しくて、もっと、ずっと、この人の傍にいたいと思った。
たぶん、きっと、最初から惹かれていたんだと思う、唯先輩に。
先輩のギターの音色に惹かれたあの日、私の心はすでに唯先輩に染められていた。
それに気付くのが遅かっただけで、私はとっくの昔に一目惚れしてて。
そして今、あなたの隣で笑っていられる。
「好き…唯先輩」
何気なく囁いた愛の言葉。
でも、心はこれでもかってくらい篭ってる。
「…」
先輩が起きる様子はない。
一度寝たら中々起きないのが唯先輩だから。
「大好きですよ…唯先輩」
何言っちゃってるのかな、私は。
「愛してます…唯」
返事が返ってくるわけでもないのに。
でも。
何故か、言いたい気分だった。
私は目を閉じて、心の中でふふっと笑った。
今度は唯が起きてるときに、言ってあげようかな。
と、そう思ったんだけど。
でも、余計なお世話だったみたい。
「私も愛してるよ、梓」
眠っていたはずの唯が、私の愛に応えてくれた。
目を開くと、そこには愛しい恋人の満面の笑顔。
いつの間にか目を覚ましていた唯は、膝枕のまま私を見上げていた。
「もう、いつの間に起きてたの?」
「んーと、梓が私のほっぺつんつんしたあたり」
「…寝たふりしてたんですか~?」
「えへへ~」
悪戯っ子みたいに笑う唯先輩に、私はハァっと溜息をついた。
何をされても、この笑顔だけですべて許せてしまうのだから不思議だ。
「まったく、ホントにしょうがない人ですね、唯は」
「え~、どう言う意味~?」
私がそう言うと、唯先輩はぷくぅ~っと頬を膨らませる。
そんな仕草もいちいち愛らしくて困る。
「だって、何だか私一人してバカみたいじゃないですか。恥ずかしいですよ、もう…」
「気にしない気にしない♪ それより梓、んん~~!」
唯は無邪気に笑って誤魔化したと思ったら、今度は私に向かって唇を突き出してきた。
それはどう見たって「キスして~」の合図にしか見えない。
「…仕方ないですねぇ」
「とかなんとか言っちゃって、梓だってホントは嬉しいくせにぃ。顔、にやついてるよぉ?」
「…うぐ」
痛いところを突いてくる。
そりゃ、私だって唯とキスするのは好きで好きで堪らないけど。
でもそんな風に言わなくてもいいじゃない。
こっちはホントに恥ずかしいんだから。
私は顔が火照っていくのを感じていた。
きっと今の私は顔が真っ赤で、そしてそれは唯もたぶん気付いてる。
だって、私の下にはクスクスと笑う唯がいるんだもん。
「むぅ~! もう怒った!」
「へ、あ、あずっ――ふぐっ!?」
だから私は真っ赤な顔を誤魔化すように、勢いよく唯の唇に自分の唇を重ねた。
膝枕してるせいか、ちょっと首が痛かったけど、それ以上に唯の唇の感触が気持ちよかったから我慢しよう。
「ふちゅ…んん…ちゅ、ちゅ…」
「ん、ちゅ…はぁ…ちゅ…んんっ」
最初は驚いた唯だったけど、すぐに私の首に腕を回してくる。
啄ばむようなキスを繰り返し、やがて舌が唇をなぞり、最後には自然と舌を絡める私達。
それから息の続く限り、甘くて蕩けるようなキスに没頭し続けたのだった――。
「それじゃあ唯、そろそろ練習始めましょうか!」
「うん!おっけー! じゃかじゃん弾いちゃうよ~!」
キスの後、気持ちを新たに、練習開始を告げる。
気合は十分。唯はギー太を、私はむったんを持って。
明日の新歓ライブに向け、猛特訓を開始した。
「ほら唯、そこ違いますよ。前にも教えたじゃないですか」
「あ、あれぇ~?」
でも結局、気合は空回り。出だしからこんな感じだ。
やれやれ…唯は私がいないとホントにダメダメなんだから…。
「まったく…これは徹夜でみっちり特訓ですね」
「ええぇ~」
「えーじゃありません! 覚悟してくださいよ! 今夜は寝かせませんからね!」
「そ、そんなぁ~~!!」
唯と出会った日から、1年。
私は2年生になって、唯は3年生になった。
そして今年は、とても大切な、忘れられない1年になるはずです。
何故なら、唯や先輩達と過ごせる高校生活最後の1年になるのだから。
だから私は、この1年間を大切に過ごしていきたいと思う。
心に残る、たくさんの思い出を作るために。
おしまい。
【あとがき】
新シリーズ一発目でした!
最初なので、ちょっとした日常から始めてみました。相変わらずのラブラブっぷりにしましたw
時期は見ても分かるとおり、前話から1ヶ月後の新歓ライブ前となっています。
1部は季節感がほとんどなかったので、2部では春夏秋冬ごとにやっていきたいと思ってます。
それでは最後まで読んでいただきありがとうございました!
修正+トップへの掲載が完了致しました。トップはランダム使用なのでご心配なくです。後、掲載期間はどの位にしますか?基本はそちら様に合わせて、こちらはランダム使用なんで帳尻を合わせるために長めに掲載しております。