※追記からどうぞ
恋人同士になって1週間とちょっと――
私達は変わらない日々を過ごしていました。
でも、変わらない、なんて言うと他の先輩達は顔を真っ赤にして『変わりすぎだーー!」って否定するんだけどね。
主に澪先輩と律先輩が。・・・・なんでだろ?
そしてこれは、そんな私達の関係に訪れたちょっとした変化でした。
ある日の放課後、いつもの練習前のティータイム――のはずだったんだけど、今日は珍しく唯先輩と二人きり。
他の先輩達は用事があるようで遅れてくるそうだ。
そして私達は長椅子に寄り添いながら座っていた。
唯先輩と過ごす静かな時間。
いつもは二人っきりじゃないからこういう時間がすごく嬉しい。
唯先輩が私の髪を優しく撫でる――
いつもはツインテールにしてるけど今は外してる。
唯先輩曰く、外した方が撫でやすいそうだ。
私はこうやって撫でられるのがすごく好きなんだ。
理由は簡単、すごく気持ちいいからだ。
やっぱり愛する人にされるのは一味違う。
唯先輩のぬくもりや優しさが伝わってきて、とても心が安らぐです。
あまりにも気持ちよくって唯先輩の肩に頭を乗せながら目を閉じてふにゃっとしてる。
まるでネコみたいだなぁって、自分でも思ってしまう。
そしてそんな事を考えていた時――
「あ、そうだ・・・・・・あずにゃん?」
唯先輩が優しい声で私に問いかけてくる。
「なんですか・・・・・・唯先輩?」
私は肩に頭を乗せたまま――目を閉じたまま唯先輩の問いに答える。
離れてから答えてもよかったんだけど、出来る事ならこのぬくもりを手放したくないと言う気持ちがあったから。
「あのね・・・・その・・・・お願いがあるんだけど・・・・」
(ん?・・・お願い・・・なんだろ?)
気になった私は目を開けチラッと唯先輩の目を見つめる。
唯先輩はちょっとだけ頬を赤く染め同じように目を見つめてくる。
(う・・・・)
ちょっと可愛いと思ってしまった私を誰が責められよう。
仕方ない、仕方ないのだ。
たぶん惚れた弱みです。
「は、はい・・・なんですか?」
そんな動揺を悟られたくなかった私は、出来る限り平静を装いながら返事を返した。
「あのぉ・・・・そのぉ・・・」
(なんだろ? 歯切れが悪い・・・・はっ、ま、まさか・・・・別れ話とか)
まあ結果から言えばそれは大きな間違い。
唯先輩のお願いは、私の考えとはベクトルが真逆だったから。
「あのね・・・私の事・・・その・・・”唯”って呼んでみて欲しいなって・・・」
(・・・・・・・・・・・?)
ごもごもと小さな声で私に告げる唯先輩。
聞こえなかった訳じゃないけど、最初何を言われているのか分からなかった。
分からないなら聞けばいいじゃないか――と言う事で疑問に思った事を質問した。
「あの?・・・それってどういう・・・」
唯先輩はさらに顔を赤くし、もう一度、今度ははっきりと私に告げる。
「だ、だからぁ・・・・私の事・・・・唯って呼び捨てで呼んで欲しいなって・・・」
もじもじとしている唯先輩はそれはもう可愛い。
だけど、そんな事よりも今は――
「え・・・えぇぇ!・・・そ、そんな・・・む、無理ですよ・・・呼び捨てだなんて」
そうだよ
まだ心の準備が――
それに唯先輩は仮にも先輩なんだし、先輩を呼び捨てで呼ぶなんて、ちょっとだけ抵抗がある。
まあ唯先輩はそんな事全然気にしないんだろうけど…。
「ううう・・・だって・・・恋人同士になったんだし、呼んでもらいたいなって」
うぐぅ…
目をウルウルさせてそんな事を言われては、もうお手上げだった。
(・・・・唯先輩ってホントずるいよね・・・・)
「わ、わかりましたから・・・・だからそんな顔しないでください」
「ほ、ほんと? わ~~い♪ だからあずにゃん好き~~」
さっきの涙目なんてなかったかのように、一瞬で笑顔になる唯先輩。
(ホントにずるい人・・・わざとやってるんじゃないかなぁ・・・)
「じゃ、じゃあ・・・・・いきますよ?」
「う、うん」
ど、どうしよう…
胸がドキドキしてきたよ。
ただ名前で呼ぶだけなのに。
けど今更イヤです、なんて言える訳ないし…。
それに唯先輩は頬を赤く染めながら私の言葉を待っている。
こんな状態じゃもう逃げられるはずがない。
「・・・・・・ゆ・・・・・・・・・ゆ、唯・・・・・」
――は、恥ずかしい…。
けどそんな私をよそに唯先輩は満面の笑顔。
そして――
「あ、あ、あずにゃ~~ん♪」
私の名前を呼びながら、いつもよりも強く抱きしめてくる。
「ちょ、ちょっと唯先輩っ!・・・・く、くるしいですよ」
「ぶー! 違うでしょ!・・・・ゆ・い!」
「う・・・・・・・・ゆ、唯・・・・」
「えへへ~」
ああ
こんな笑顔を向けられては、私は何も言えなくなってしまう。
私がこんなにドギマギしてるっていうのに、当の本人はいつもの調子…。
ホントずるい。
――そんな時だった、私の中に小悪魔が舞い降りたのは…。
いつもの仕返しにちょっと意地悪してやろうと思う。
唯先輩もちょっとは困ればいいんですよ。
私は唯の腕を放し目を見つめる。
そしてニッコリと微笑み――
「ねえ・・・・唯?」
「は、はい・・・」
自分でもらしくないかなって思う位の口調で唯に問いかける。
でもいいよね?
恋人同士なんだし。
たまにはこう言う変化も恋人関係には必要だ――と、私は自分に言い聞かせる。
ふふ
唯も私の様子に驚いてる。
「唯ばっかりずるいよね? 私の事も”あずさ”って呼んでよ」
「え、えぇぇっ! そ、そんな・・・・あずにゃん?」
唯の頭を抱き寄せ、顔に近づける。
距離は10cmもない。
さらに唯の目を見つめ――もちろん唯の目にも私が映っている。
唯は瞳を潤ませ、茹蛸の様に顔が真っ赤だ。
そんな唯に更なる追い討ちをかける。
「あ・ず・さ」
「うう・・・・・・・あ、あず・・さ・・・・・」
瞳をギュッと閉じプルプルと震える唯――
なんていうか、小動物みたい。
まさに犯罪的な可愛さってヤツです。
(もう・・・我慢できない・・・)
我慢の限界に来た私は、唯の可愛らしく瑞々しい唇に自分の唇を強く押し付ける。
――逃げられない様に首に腕を回して…。
「んっ!?・・・んん」
いきなりの事に驚く唯だけど私は考える暇を与えない。
少し開いた唇から舌を差し入れ、そしてちょっと激しい位に口内を蹂躙していく。
「ちゅ・・・・・じゅる・・・・・ちゅ・・・ちゅう」
「ちゅう・・・・んんっ・・・・・ちゅ・・・・あ、あず・・・」
最初、私の舌を押し返そうと必死だった。
けどやがて諦めたのか――それとも私と同じ気持ちだったのか。
それは分からないけど、おずおずと舌を絡めてきた。
「ちゅう・・・・・ン・・・・ちゅ・・・・じゅる」
「くちゅ・・・・ちゅ・・・・ちゅる・・・・・・ん」
1分?
いや5分位していただろうか…。
甘く蕩けるような長いキスが終わり、私達はゆっくりと離れる。
私達の間には大量の唾液の糸がてらてらと光輝いていて…
その銀色に輝く糸は、プツンと切れると床に滴り落ちていた。
「はぁ・・・・ふぅ・・・・・唯」
「はぁ・・・・はぁ・・・・あずさぁ」
目がトロンとなってハァハァと息づく唯はすごく色っぽかった。
私は息を整え、ゆっくりと唯を押し倒していく・・・。
唯も抵抗しようとはせず私に身を任せている。
ブラウスのボタンに手を掛け1つ1つゆっくりと外していく私を、唯は真っ赤な顔で見つめていた。
そして最後のボタンを外そうとした瞬間――
”ガチャっ”っと音楽室の扉が開かれた。
「「えっ!?」」
私達は慌てて扉の方を見る。
「ごめんなさい、遅れちゃって。すぐにお茶の用意する・・・か・・・ら」
扉を開けて中に入ってきたのはムギ先輩だった。
そうだ――理性が完全に飛んでいたから忘れていたけど、ここは音楽室――
他の先輩達が入ってきて当たり前だ。
しかもムギ先輩の眼前に広がっているのは、今から行為におよぼうとしている私たち…。
「あ、あのっ!これは・・・・ムギ先輩?」
「む、ムギちゃん?」
私達の方を向いて固まってままのムギ先輩。
少し様子がおかしかった。
そう思った私はゆっくりとムギ先輩に近づく。
「・・・・・・・・・・・」
「む、ムギ先輩・・・・?」
ムギ先輩の顔を覗き込む。
すると――
「・・・・・・・・・・・」
「む、ムギ先輩っ!?」
私は驚愕した。
なぜならムギ先輩は立ったまま気絶していたから。
鼻血を垂らしながら、それもとても清々しい顔をして――
もう思い残す事は何も無いって感じの顔でした。
「ちょ、ちょっとムギ先輩っ! し、しっかりしてくださいっ!」
「む、ムギちゃんっ!」
唯も衣服の乱れを直しムギ先輩の肩を揺さぶっている。
「・・・・・・・・・・・・・・・ハッ!・・・・・・・わ、私は一体何を・・・・・・?」
そしてようやくムギ先輩は目を覚ましてくらた。
「は、はぁ・・・・・よかった」
「も、もうムギちゃんいきなりだったからビックリしたよ・・・・・・」
「あ、あら・・・・唯ちゃん、梓ちゃん? 私どうしたのかしら? 扉を開けた所までは覚えてるんだけど・・・何かあったような?」
どうやら目を覚ましたムギ先輩は記憶が曖昧なようだ。
「あ、あのっ! べ、別に何もなかったですよっ! ホントっ!」
「そ、そうだよムギちゃんっ! ぜんぜん何もないよっ!」
さっきの事を思い出されても面倒なので必死に誤魔化す私達。
「そ、そう? あ、そうだ・・・・お茶とお菓子用意するね?」
「あ、はいっ! お願いします!」
「は、はやく食べたいなぁ~」
どうやら乗り切れたようです。
それにしてもムギ先輩、一体どうして気絶を?
もしかしたら、流石のムギ先輩でもさっきのは刺激が強すぎたのかな?
そんなことを考えている私を他所に、いつもの様にティータイムの用意をしていくムギ先輩。
そんな後ろ姿を見つめていると唯が私に耳打ちしてくる。
「あ、あの・・・・あずにゃん?・・・・その・・・・名前で呼び合うのは二人っきりの時だけにしようね?」
そんな可愛い事を言ってくる。
なら私もそれに答えよう――
「ふふ・・・・いいですよ・・・・唯・・・」
――と、優しく耳元で囁く。
「も、もうっ!・・・・あずにゃんったら!」
真っ赤な顔ではにかむ唯先輩は、それはもう可愛いくて今すぐにでも抱きしめたい気持ちだった。
ちょっと意地悪してみたくなってこんな事になっちゃたけど、いつも以上に可愛い唯先輩を見れたのでよしとしよう。
――そんな事を思いながら、私は唯先輩のほっぺに触れるだけのキスをした…。
END
【あとがき】
というわけでEP02でした。
最後まで読んでくれて有難うございました。
ちょっと梓がイケメンすぎました(笑
でも唯と梓、どっちもイケメンでいけると思うんですよね、うん。