※拍手お礼ss5
※追記からどうぞ!
「ん~♪ ムギちゃんは柔らかくって気持ちいいね~♪」
「ちょ! ゆ、唯ちゃん…いけないわ、そんな…」
「…」
どうもこんにちは、琴吹紬です。
さっそくですが、私、今とっても困ってます。
いえ、別に困ってはいないんですが、少し恥ずかしいと言うかなんというか…。
先ほどの唯ちゃんのセリフで、何となく分かった方もいらっしゃるのではないかと思いますが
実は私、唯ちゃんに抱きつかれているんです。もちろん現在進行形で。
それはもう情熱的にハグされてます。全身を密着させ、触れていない場所は無いんじゃないかって思うほどに。
こんな事を毎日のようにされていた梓ちゃんを心の底から尊敬しちゃいます。
「あぅ~♪ このふにふにおっぱいは癖になりそうだよ~♪」
「きゃっ!…あ、あん…ゆ、唯ちゃん…だ、ダメよぉ…」
ああ!唯ちゃんがさらなる強行にでました!
私の胸に顔を埋め、頬ずりしてきたのです!
唯ちゃんのほっぺが布越しに擦れて、私の敏感な部分を刺激するぅぅ
ちょっとくすぐったくて、それでいて気持ちよくて…何だか変な気持ちになってきちゃう。
(ああ…このままじゃどうにかなってしまいそう…誰か助けて…)
そう思って、辺りを見回すと、ふいに梓ちゃんと目があった。
(ひっ…!)
ものの1秒で後悔した。見るんじゃなかった、と…。
梓ちゃんは、無言でこちらを睨み付けていたのです。
その雰囲気はまさに鬼そのもの。桃太郎も裸足で逃げ出すような迫力を感じます。
その瞳にはドス黒い炎を宿し、見るもの全てを地獄の業火で焼き殺さんとしています。
殺気で人を殺せたら~みたいな状態です、マジで。
はっきり言って、物凄く怖いんです。
(うぅ…どうしてこんな事に…)
そもそも何故こんな事になってしまったんでしょうか…。
いつもなら唯ちゃんが抱きつくのは梓ちゃんだけのはずなのに…。
そう考えてはみても、結局の所、昨日の“アレ”が原因であることは私も分かっているのです。
そう、それは昨日の放課後の事ですーー
「いい加減にしてくださいよ!」
「ええーまだ全然あずにゃん分溜まってないのに~」
練習前のひととき
いつものように抱きつく唯ちゃんの腕から、梓ちゃんがするりと抜けた。
いつもだったら、抱きしめるその手を振り解こうとはしないのだけど、その日に限っては違っていました。
私としても、もう少しイチャイチャしているところを眺めていたかったんですが…少し残念です。
「何ですか! そのけったいな成分は!」
「えへへー、あずにゃんを抱きしめると溜まってくんだよ~♪ いいでしょ!」
「全然よくないです! 抱きつかれてる私の身にもなってくださいよ!」
身になって…とは言うけど、私が見る限り、梓ちゃんも結構嬉しそうにしているのを私は知っている。
唯ちゃんに抱きつかれているときの梓ちゃんの顔は、飼い主に甘える子猫のようにゴロゴロと喉をならしているようにしか見えませんから。
しかしそこは気まぐれなツンデレ猫。喜んでいることを認めようとはしないのです。
「ぶぅー…あずにゃんだってホントは嬉しいくせにー…」
唯ちゃんはほっぺを膨らましてそんな事を言ってしまう。
そう――この唯ちゃんの言葉が引き金だったんです。
素直じゃない梓ちゃんにこんなセリフを言ったりしたら、どんな言葉が返ってくるかなんて目に見えているのに。
「なっ!? へ、変な事言わないでください! 全然嬉しくないですよっ!」
そんな事を言いながら、梓ちゃんはつーんっとそっぽ向いて、ほっぺを膨らます。
やっぱりと言うか何と言うか…教科書通りのセリフですね。
「え…そ、そうなんだ…ごめんあずにゃん…」
梓ちゃんのその一言に、唯ちゃんはずーんっと落ち込む。
「え!」
(え!)
唯ちゃんが落ち込んだ事で、梓ちゃんが驚きの声を上げる。
かくいう私も内心驚きを隠せなかった。いつもの唯ちゃんだったら「まったまた~♪」とか言いながら、遠慮なく梓ちゃんにぶつかっていくのに…
しかも唯ちゃんは――
「分かったよあずにゃん…これからはもう抱きついたりしないから…、今までごめんね?」
なんてことをいい出す始末。
これは本格的にヤバイのではないだろうか…?
何がヤバイって…このままじゃ私の生甲斐が奪われてしまう。
何とかこの場を収める方法はないだろうか、と考えていたのも束の間――
「そ、その…わ、分かればいいんです!分かれば!」
「うん…ごめんね」
梓ちゃんの最後の一言によって、私の人生最大の楽しみが終わりを告げたのです。
そして今に至る。
昨日そんな事があったわけで、今日の唯ちゃんは梓ちゃんに抱きつく事はしませんでした。
毎日の日課が無いのは物凄く寂しいのですが、そんな寂しさを感じる暇もなく
何故か唯ちゃんは、私にその矛先を向けたのです。
どうして私に抱きつくの? と質問してみたら――
「んー、あずにゃんに抱きつけなくなっちゃったからねー、今日からムギちゃんに抱きつく事にしたのー」
なんて満面の笑顔で言うから、危うく理性が飛んでしまうところでした。
それほどまでに、唯ちゃんの笑顔は破壊力が強いのです。
しかし、そこは梓ちゃんに悪いと思ったので、やんわりと断ろうとしたのですが…
「ダメ…?」
なーんて、ちょこんと首をかしげて、目をウルウルさせながら上目遣いで見られてしまった日には
「どんとこいでーす!」
って、言うしかないじゃないですか…。
しかも、それを目の当たりにした梓ちゃんは殺気を放出しながら無言で私達を睨み付ける始末。
きっと、昨日あんな事を言ってしまった手前、後には引けないと思っているんでしょう。
本当に素直じゃないです、梓ちゃんって。
まあ、そこが可愛いところでもあるんですけど…。
それにしても、いつも当たり前にあったものが無くなるってどんな気持ちなんでしょう。
しかも梓ちゃんにいたっては、その行為を心の底では望んでいたのだ。
きっと私には想像もできないほどの絶望が、梓ちゃんの心を支配しているのかも。
(ああ、なんて可愛そうな梓ちゃん! このままではいけないわ!)
梓ちゃんに笑顔を取り戻すため、そして私の生甲斐を取り戻すために、私は心を鬼にすることをここに宣言します。
「あの、唯ちゃん…、そろそろ離れてくれないかしら…?」
私は、チラッと梓ちゃんの方を見やりながら、唯ちゃんに離れるよう促す。
すると、梓ちゃんからの殺気が薄れ、瞳に少しだけ光が戻った。
が、しかし――!
「え~、もうちょっと~。もう少しだけでいいから~」
そんな感じに空気の読めない事を平然と言ってのける唯ちゃん。
さすが唯ちゃん、そこに痺れる憧れるぅ!
その唯我独尊な風貌は、まさに軽音部最強に相応しい。
しかし昨日同様、そんな唯ちゃんの一言が引き金となってしまった。
ぶちんっ!
梓ちゃんから、何やらイヤな音がしました。
まるで切れてはいけないものが切れてしまったような…そんな音。
さすがに唯ちゃんもそれに気付いたのか、ようやく梓ちゃんの方に目を向けました。
そして恐る恐る声をかけます。
「あ、あずにゃん…?」
「…ぅ…」
「う?」
「うにゃああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
「あ、あずにゃん!?」
ああ…梓ちゃんが壊れた…。
唯ちゃんも梓ちゃんの豹変ぶりに驚きを隠せません。
天高く吼えた梓ちゃんは、私達にその鋭い眼光を向けると、勢いよく私達の方に突進してきました。
(も、もしかして殺されるっ!?)
そう思ったのも束の間、梓ちゃんはそのままの勢いで唯ちゃんの胸に飛びついたのです。
「ごふっ!? あ、あずにゃっ…!」
しかも急に抱きつかれた事によって、唯ちゃんは体制を崩し、そのまま床に倒れ込みました。
(ああ…よかった…私じゃなかったのね…)
そんな風に思ってしまった私を誰が責められよう。ごめんね唯ちゃん。
「いたた~…、あ、あずにゃんいきなりどうしたの~」
少し頭を打ったらしく、さすさすと頭を撫ですさりながら、唯ちゃんは梓ちゃんに問いかける。
「…ぁ」
「え?なあに?」
虫も泣くような小さな声で梓ちゃんが呟いた。
唯ちゃんの胸に顔を埋めているせいか何を言っているのか聞き取れません。
唯ちゃんもさすがに聞き取れなかったのか、耳をすませます。
まあ、私は顔を近づけるような真似はしませんでしたが…
何故かって?
だって、こういう時って大抵が嵐の前の静けさですから。
そして私の予感は見事的中しました。
梓ちゃんは、唯ちゃんの胸に埋めていた顔を勢いよく上げると、すぅっと息を吸い込み一気に放出した。
「ばかぁーーーーーー!!!」
目尻に涙を浮かべ、唯ちゃんに怒声を浴びせる梓ちゃん。
そのあまりに大きな声に、音楽室全体がビリビリと振動しているように感じました。
「あ、あずにゃん、ど、どうし…!」
怒声に驚く唯ちゃんですが、そんなもの完全無視で梓ちゃんの猛攻が続きます。
「唯先輩のバカっ!」
「な、なん…」
「どうしてムギ先輩なんですかっ! 先輩には私がいるじゃないですかっ!」
「ええっ!?」
「唯先輩は私にだけ抱きついてればいいんですっ! ていうか、もう私以外の人に抱きつかないでくださいっ!」
「え、ええっ!? だ、だって…あずにゃん昨日もうやめてって…」
「そんなの知りませんっ!」
「ええー!そ、そんな~…」
息もつかせぬマシンガントーク。しかも何だかとっても恥ずかしい事を言ってます。
きっと今の梓ちゃんはそんな事考える余裕なんてないんですね。
積もりに積もった思いの丈を全てぶつけなければ気がすまないのでしょう。
まさに炸裂あずにゃん!
訳してアズバースト!!
「何がおっぱいふにふにですかっ! あんな贅肉袋の何がいいんですかっ!」
はーい、いい度胸です梓ちゃん、そこに直りなさーい!
それは私の、いや巨乳人種に対する侮辱ですよ!
ああ…なるほどそう言う事ですか…、それは私に対する宣戦布告と見なしていいんですね?
いいでしょう!さぁかかってきなさい梓ちゃん!
なーんて脳内戦闘も空しく、そんな私を無視して、梓ちゃんはついにその瞳から涙をポロポロと落とし始めたのです。
「私の…ぐす…私のおっぱいじゃ、ダメですか…? やっぱり大き……」
「あずにゃんっ!」
「っ!?」
梓ちゃんの言葉は唯ちゃんの力強い抱擁によって途中で遮られた。
泣いている姿を見ていられなくなったのか、唯ちゃんは梓ちゃんの頭を自分の胸に押し付けると優しく頭を撫で始めた。
「…ごめんねあずにゃん…、私が間違ってたよ。やっぱり私…あずにゃんじゃないとダメみたい…」
「…え…?」
「ちっちゃくて…、柔らかくて…、いい匂いで…、その全部が私は大好きなの」
もちろんおっぱいもね?…と唯ちゃんは続けた。
「ムギちゃんに抱きついてみて分かったんだ…、あずにゃんに抱きついてるときは胸がドキドキするのに、ムギちゃんが相手だと全然ドキドキしないの」
喜んでいいのか、悲しんでいいのか、よく分からないセリフですが
ゆいあず的には万々歳です。もっとやってください。
「私…きっとあずにゃんの事…」
(!?!?)
こ、これはまさか…
いいえ、間違いないです!
これは間違いなく愛の告白!!
「唯先輩…」
梓ちゃんが顔を上げ、唯ちゃんの目を見つめる。
二人とも顔が真っ赤で、瞳をウルウルさせている。
もちろん私も、鼻の下が既に真っ赤です。
「…」
「…」
もはや二人の間に言葉は要らない。
二人は無言で見つめ合い、どちらからともなくゆっくりと顔を近づけていきました。
その行為が何を意味するのか、もちろん私にも分かっています。
唇を少しだけ開き、目を閉じるその体勢…接吻以外の何がございましょう!
二人の距離が徐々に縮まっていく…、10cm…5cm…1cm…!!
(さあ見せてください! 私に百合の真髄を!!)
二人の唇が触れるか触れないか、その瞬間――!!
ドカーンっ!
「おーっす! 遅れて悪かったなー諸君!」
「悪いな、遅れちゃって」
ドカン!という激しい効果音と共に、音楽室の扉を開けて中に入ってきたりっちゃんと澪ちゃん。
もちろんそれに驚いた唯ちゃんと梓ちゃんは、唇が触れる寸前で固まっています。
そうです…。この二人のせいで、唯ちゃんと梓ちゃんのラブちゅっちゅが未遂に終わってしまったのです。
「りっちゃん…、澪ちゃん…」
「ひっ!」
「ど、どうしたムギ…そんな怖い顔して…、ていうか何で鼻血?」
何故か澪ちゃんは恐怖で顔を真っ青にし、りっちゃんも澪ちゃんとまではいかないまでも、恐怖で顔が引き攣っている。
ていうか人の顔を見て、そんな顔するなんてひどいですねぇ…。
「…二人とも…」
「「は、はいっ!」」
「…………少し、頭冷やそうか?」
そんなセリフを最後に、音楽室に二人分の絶叫が響いたのでした――
END
あの、二人にどんな刑が執行されたやらww