※追記からどうぞ!
唯side
クリスマス、大晦日、元旦と、年末から年明けまで何かと騒がしかった日々。
そんな日々も終わりを告げ、ついには冬休みすら終わってしまった。
しかも、その冬休みだってただで終わったわけじゃない。
何故なら、私のもとには白紙状態の宿題の山が残っていたのだから。
そんな宿題を前に真っ青になった私がいて
さらにはそんな私を不安そうに見つめる憂までいて
冬休み中、延々とだらだら過ごした結果なのだから仕方がないとは言え、これはさすがに涙が出そうになった。
けどそんな私を見かねた憂が、私のために宿題の手伝いを買って出てくれたのだ。
1年後輩なのに2年生の問題が何で解けるのか、という疑問は置いておいて、その時の憂は、私にとって救いの女神に見えた。
憂の指導のおかげで、ぎりぎり最終日の夜に無事宿題を終える事ができたんだけど、その夜は宿題を終わらせられた安堵感からか、泥のようにぐーすかと眠ってしまった。
しかしトラブルはまだ続いた。
宿題を終わらせて安心したのも束の間、翌日の新学期初日にまたまた問題が発生したのだ。
なんと私、新学期早々、寝坊して遅刻しそうになってしまったのだ。
宿題終わらせるのに夜更かししたせいで、いつもより寝るのが遅かったのが原因だろう。
私を必死に起こそうとしてくれた憂まで遅刻ギリギリにしてしまって、本当に悪い事しちゃったよ。
でも…
そんな慌しい新学期初日から、すでに2週間
冬休み気分もほぼ完全に抜けきったそんな頃…私達軽音部にある変化が訪れた――
放課後の音楽室、珍しく私とりっちゃんは二人きりだった。
ムギちゃんは掃除当番だから遅れてくるのは当然として、澪ちゃんもあずにゃんも来ていないのは珍しかった。
私達はともかくとして、あの真面目な二人なら最初に来ていても不思議じゃないから。
「はぁー…みんな遅いなー」
「うん…、早くムギちゃんのお菓子食べたーい…」
私とりっちゃんはテーブルの上で力なく垂れていた。
まるでどこぞのパンダのように、だら~んと
このまま机と一体になってしまうんじゃないかと思うくらいに溶けていた。
「みんな何やってんのかなー…」
「うーん…なんだろー…」
今の私はお菓子分とあずにゃん分がすっからかんなので、あまり物事を考えたくない。
でも、ただ一つ予想を上げるとすれば、ムギちゃんと同様、掃除当番が一番可能性高いだろう。
「掃除当番とかじゃないかなぁ…」
「あー…なる…」
りっちゃんは力なく納得する。
そんな無気力な姿を見ていると私まで力が抜けていきそうだった。
しかしそんな時、私はある事を思い出す。
(…そうだ…こんな時は、あずにゃんの事考えよ…)
最近やるようになったセルフ式あずにゃん分補給方。
あずにゃんがいない時は、どうしてもあずにゃん分が不足しがちだから
何とかして補給する方法はないかと考えたときに思いついたのだ。
さすがに本物のあずにゃんとではエネルギー補給量に開きがありすぎるけど、自家発電にしては中々のものだ。
(…はぁ…あずにゃん可愛いよぉ…)
私はさっそく目を閉じて、あずにゃんの事を思い浮かべる。
すると瞼の裏にちょっとツンっとした表情のあずにゃんが現れた。
(わ~♪ 今日のあずにゃんはツンあずにゃんだぁ~)
実はこの補給方、自分でどんな妄想あずにゃんが出るかコントロールできないのだ。
時にはプンプン怒ったあずにゃんだったり…
またある時は、猫耳つけてにゃーにゃー言ってたり…
それはもう、さまざまな妄想あずにゃんがランダムで出てくるんだけど
中でも一番大好きな妄想あずにゃんは、このツンあずにゃんだった。
あずにゃんの一番の魅力って言うのは、ツンツンした態度の中で、ときおり見せる優しさや照れた表情なんだよね。
そう、所謂一つの萌え要素、その代表とも言えます。そしてそれを人は敬意を込めてこう呼びます。
――ツンデレと
もちろんツンデレな部分だけじゃなくて、見た目も申し分ない。と言うか可愛すぎだよあずにゃん。
ツインテールにした艶やかな長い髪に、ちょっと吊り目気味のネコっぽい瞳、それから整った顔立ちに小さな鼻と柔らかそうな唇――
まだまだあります。
ちっこいボディにちっこいお胸
抱きしめたときに感じる柔らかい感触に、鼻腔をくすぐる甘い香り
そのどれもが、私が求めてやまないあずにゃんの魅力なんです。
そして…そんなあずにゃんと恋人同士になりたいと思っているのが、この私、平沢唯(17歳)なのです。
女の子が女の子を好きになる異例のこの事態――
気持ちに気付いた当初は、諦める事も考えました。
しかし…ムギちゃん曰く、女の子同士の恋愛と言うのは、この世界の真理にして絶対の正義だそうです。
男女じゃなきゃおかしいとか、男女の恋愛が当たり前とか、そんな器の小さい事を考えていては、本当の恋愛はできないと…そう言っていました。
だから私はその言葉を信じて、自分の想いを貫き通す事を決めたのです。
この先の未来が茨の道でも、自分の気持ちに胸を張って生きていこうと思います。
(はぁ…、早く…伝えたいな…)
伝えたいのはもちろん、私のあずにゃんに対する恋する気持ち。
あの元旦の日、あれだけ神様にお願いしたというのに、今だに叶わないのはどうしたものか。
まあ、まだあれから1ヶ月も経っていないので、まだまだこれからなんだけど、ちょっとだけ神様に文句を言ってやりたい気分でした。
しかし結局の所、気持ちを伝えるかどうかは自分の勇気次第なので、神様にあーだこーだ言ってもしょうがないのは分かってるんだけどね。
ただ自分のヘタレ具合を神様のせいにしたいだけなんだ。
でもこんな私でも、一度だけあずにゃんに気持ちを伝えようとした事があるんです。
それは3日前の部活開始前、たまたまあずにゃんと二人きりになったことがあって、その時に告白しようとした。
でも結果から言えば失敗。結局告白できなかったんだ。
もし断られたら…って思うと足がすくんで、声が出てくれなくて、全身が金縛りにあったみたいに硬直しちゃったの。
恋は人を臆病にするっていうのを、身をもって体験した瞬間だったよ。
でもまだだ。
まだ終わってない。
失敗したのはまだ一回だけ…。
その時がダメでも、次、そのまた次と何度だって挑戦すればいい。
だから、もっともっと――!
「――頑張らないとねっ!」
「うおっ!…ど、どーした唯」
思わず大きな声を上げてしまった私にりっちゃんが驚く。
「あ…ごめんごめん、何でもないよ~」
無意識の内の声を出してしまっていたようだ。
それだけ意気込みがあるって事なんだろうけど
失敗失敗…。ちょっと興奮しちゃったよ。
けど、りっちゃんはそんな私の様子を変な意味にとってしまったようだ。
「ホントに大丈夫か?…あーもしかして脳の病気とか?」
怪訝そうな、それでいて心配そうな顔で問いかけてくる。
「あー!ひどいよりっ…痛っ!」
とっても失礼な事を言ってくるりっちゃんに、ぷんぷん怒ろうとした私だったけど…ふいに目の中にチクンと痛みが走る。
「ど、どうした?」
「んー…な、何か目にゴミ入った…」
チクンチクンと痛み、目に何か入ってるような違和感がある。
これがゴミでないなら一体何だと言うんだろう。
私は手でゴシゴシと擦るけど、一向に取れる気配がない。
それどころか、さっきよりも違和感が大きくなったように感じる…。
「あーあー、あんまり擦るなって…、どれ私に見せてみ?」
そう言って私の傍によってくるりっちゃん。
「ほい…」
「どれどれ~…」
ぐーっと指で目を開いたりっちゃんは、ゴミの詮索を開始する。
「ん~と…」
「りっちゃんあった~?」
「まだ…あっ、見っけ!…て、これまつげだな」
目の中に入っていた異物はどうやらゴミではなくまつげだったらしい。
まあゴミでもまつげでも目の中に入っていれば同じ事なんだけど。
痛い事には変わりないしね。
「じゃー取ってやるからじっとしてろよー」
「おー!」
元気一杯に返事をした私に、りっちゃんは苦笑を浮べると、目の中に入ったまつげを取るべく、私に顔を近づけた。
でも…これがいけなかったんだ…。
まさかこの後、あんな事になるなんて、私はもちろん、りっちゃんにだって予想できなかったんだから。
りっちゃんが私に顔を近づけたのと、音楽室の扉が開かれたのは同時だった。
「…キス…」
「「え…?」」
私達二人は反射的に声がした方に振り向いた。
キス――確かにそう聞こえた。
それを口にしたのは一体誰だったのか
何故そんな事を口にしたのか
それは今の私達には分からなかったけど
振り向いたその先にいたのは、澪ちゃんとあずにゃんで
そして二人の様子はどこかおかしかった。
「あ、あずにゃん…?」
「澪…?」
二人とも、まるでありえないものを見たような、そんな顔で…
瞳を揺らし、ただ呆然と私達を見つめていた――
To Be Continued...
【あとがき】
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
やっぱりと言うかなんというか、続きものですみません(汗)
話はがんたん!の続きなんですが、今回は唯梓+律澪で行きます。
しかもシリアスになる予感バリバリです。
…さすがに最後までシリアスはありえませんが、たまにはシリアスもやっておかないと^^
続きはまだまだ途中なのでもうしばらくお待ちくださいね。
それでは次回お会いしましょう!