※追記からどうぞ!
待ちに待った日曜日。まあ、あれから一日も経ってないんだけどね。
私はあずにゃんへの贈り物を探すべく商店街を物色していた。
けれども、どうしても「これだ!」って言う物が見つからなかった。
「うーん・・・・・ギー太を見つけた時みたいな運命の出会いはないかなぁ」
そんな願いが通じたのか否か、ふと目に入ったお店に目を奪われる。
「あれ?・・・・・・・・あのお店・・・・」
視線の先には、少し古ぼけた感じのお店。
大抵商店街にならんでいる店は新しい作りのものばかりだが、しかしそのお店は他のお店と違って古ぼけてるというかアンティークな感じというか、まあそんな感じだった。
ちょっと気になって、そのお店に惹かれるように足を向けた。
扉を開けると、カランカランという音が鼓膜をつく。
中はちょっと薄暗く、店内に並べられた商品はアンティークな感じの物ばかり。
どうやらアンティークな作りのお店は売っている物もそんな感じだったらしい。
「・・・・」
お店に入り、キョロキョロと見回す。
へぇ~、アクセサリーとかも売ってるんだ…。
「あ、これって・・・・・・ペアリング?」
ゆっくりと物色しながらふと見つけたのは小箱に入れられた二組の指輪だった。
見た目はシンプルなどこにでもあるような指輪。
他にも指輪はたくさんあったけど、なぜか私はこの指輪が気になって仕方なかった。
誘われるように指輪に触れようとしたその瞬間――。
「おや、いらっしゃい・・・・お客さんかい?」
ふいに後ろから声をかけられた。
「っ!」
急に背後から声をかけられたせいで驚いてしまう。
後ろをそーっと振り向くと、そこにいたのは一人のお婆さん。
「え、えと・・・あの・・・こ、こんにちは。 お、お店の人ですか?」
「はい、こんにちは。 そうだよ、一応私が一人でやってる店でねぇ・・・まあ半分趣味で
やってる様なものなんだけどね」
「へぇー・・・・・・・」
素直に驚く。歳は70歳くらいだろうか?
そんなお婆さんが一人でお店をやってるなんて・・・。
すごいなぁ、という感想しか思い浮かばなかった。
「それで、お嬢ちゃんは、お客さんでいいのかい? ん・・・・・・・・もしかして、その指輪が気になるのかい?」
指輪に触れる寸前で止まっていたから、お婆さんにも分かったらしい。
「あ、その・・・・はい。 なんでか分かんないけど、その、これが気になって・・・・」
「ふむ・・・・・・」
お婆さんは指輪と私の顔を見比べる。
どうしたんだろう、と疑問に思っていると、ふとお婆さんがニッコリと微笑んだ。
何が何だかわからなくて、私はただ疑問符を浮かべるばかりだった。
「ふふ・・・・ちょっとその指輪を貸してごらん」
「え・・・・?あ、は、はい!」
何をするのか分からなかったけど、私はお婆さんの言う通りに指輪を取ってお婆さんに渡す。
指輪を受け取ったお婆さんはゆっくりと窓の方へ歩いていった。本当に何をするつもりだろう…?
そう思っていると、振り向いたおばあさんがちょいちょいと私を手招き。
「お嬢ちゃんもこっちに来てごらん?」
恐る恐る近づくと、窓から差込む太陽の光がちょっと眩しくて思わず目を細める。
「見てごらん?」
「え・・・・? こ、これって、うわぁ・・・・す、すごい・・・・」
細めた眼をカッと開かせて、感嘆の声を上げることしか出来ない光景を目の当たりにした。
なぜなら、お婆さんが手にしているペアリングが太陽の光で虹色に輝いていたからだ。
「ふふ、すごいでしょう。この指輪、光に当てると淡い虹色に輝いて見えるんだよ。昔からこの店にあるんだけど、この指輪に気がついたのは、お嬢ちゃんが初めてだよ」
「そ、そうなんですか?・・・・こんなにすごいのに」
「まあ・・・見た目は普通の指輪だからね、普段は光に当たってないわけだし。気がつかないんだろうね」
光に照らされ虹色に輝く指輪をじっと見つめる。
誰も気づかなかった指輪を見つけた私。もしかしたらこの指輪は持ち主を選んでいるのかもしれない。
誰か、本当にふさわしい誰かの手に渡ることをずっとずっと誇りをかぶりながら待ち続けたのかもしれない。
運命という名の抑えられない衝動に駆りたてられながら、私の心は半ば決まっていた。
「あ、あの私、これ買いますっ!!」
「おや?・・・・これを買うのかい・・・でも、お金は大丈夫?」
「え?」
お婆さんにそう言われて、急いで値札を確認する。――?
「あれ?」
そこに書かれていた値段は「100000円」だった。
「んん?見間違いかな?」
目を擦り、もう一度確認する。
だけどやっぱりそこに書かれているのは1が1個に0が5個だった。
「ぜ、ゼロが一つ多いんじゃないかな?」
そんな私を見かねたお婆さんは苦笑いを浮かべて話しかけてくる。
「うーん・・・さすがに十万円は手が出ないかい?・・・・・そうさねぇ、折角この指輪を見つけてくれたことだし、その半分でどうかな?」
お婆さんは何とも太っ腹なことを言い出した。
あの?それは明らかにおまけしすぎじゃないのかな。
「え、え、で、でも・・・・・いいんですか?」
「いいんだよ。 このままこの店に埋もれてしまうよりはずっとましさ。 それに、この子達もようやく持ち主に出会えたのかもしれないしね」
お婆さんのそう言われ、私はうーんっとあまりいいとは言えない頭で考える。
(うーん、5万円か…)
ギー太のときも5万円だったけど、あの時はお小遣い前借してもらったんだっけ?
でも今回はちょっとなぁ。手っ取り早く、お金を手に入れる方法。お金…お給料…。
あ、そうだっ! あの手があったよっ!
「あ、あのお婆さんっ! この指輪買います!・・・・でもでも、今はお金がないんで、何日か待ってもらえると嬉しいんですけど・・・?」
「ああ・・・・ぜんぜん構わないよ」
「あ、ありがとうございます!」
お辞儀をしてお礼を言った。
「必ず買いに来ますからっ! それじゃあまた」
そしてお婆さんに挨拶をして、駆ける様にお店から飛び出していった。
「おやおや・・・元気だねぇ」
**
お店から出た私は、さっそく鞄から携帯を取り出しある人にかける。
プルルルル、プルルルルという呼びだし音の後、相手が電話を取った。
『もしもし? 唯ちゃん?』
「あ、ムギちゃん?・・・あのね・・・ちょっとお願いしたい事があるんだけど・・・」
電話の相手は同じ軽音部の仲間のムギちゃんです。
やっぱりこういう時に頼りになるのはムギちゃんしかいないもので。
『なにかしら? あらたまって・・・』
「あのね・・・そのね・・・・実は」
とりあえず要点だけをまとめてムギちゃんに話した。一応あずにゃんの事は話さない。ちょっと恥ずかしいし。
プレゼントを買うためにどうしてもお金が必要なことをムギちゃんに説明した。
『なるほど・・・それで私にバイト先を紹介して欲しいのね?』
そう、私が考えたあの手とはアルバイトの事だった。まあ、他に方法も無いしね。
「うん・・・何とかならないかな・・・・?」
『他ならぬ唯ちゃんの頼みだもの、大丈夫よ、私に任せて』
「ほ、ほんとに・・・・・ありがとうムギちゃん。 あ、それとバイトのことはみんなには内緒ね?」
『ふふ・・・わかったわ。それじゃ決まったら連絡するから」
「ありがとムギちゃん!」
『・・・・・・それにしても、そのプレゼントは一体誰に上げるのか気になるなぁ』
「え、えぇっ! そ、それはその・・・・・な、内緒だよっ! 内緒!」
『まあまあまあ♪ もしかして唯ちゃん・・・』
「あっ!そ、そうだ・・・私ちょっと用事があるんだった。そ、それじゃあ連絡待ってるねムギちゃん」
『あぁっ、ちょっと唯ちゃ』
プツッと音がなる。ムギちゃんの返事を聞かずに電話を切った。少し悪いと思ったけど、仕方ない。
ムギちゃんはいろいろと鋭い子だから、私の話から何かを悟ってしまうかもしれない。
まだあずにゃんと上手くいったわけじゃないんだし、どうせなら上手くいってからみんなにも話したいと思ったから。
電話をポケットに仕舞い込み、私はグッとガッツポーズ。
そして天高く右手を振り上げ、気合い十分に叫んだ。
「よーしっ! がんばるぞー! お~っ」
あの指輪と一緒に私のこの気持ちを伝えよう、そう意気込んで。
でもこの時の私は気付いていなかったのだ、私のせいであずにゃんがどれだけ苦しんでいたのかを――。
つづく