※追記からどうぞ
唯先輩に抱きつかれた瞬間、私の中で何かが弾けとんだ…
そこからの記憶は曖昧で全然覚えてなくて…
恍惚の表情で荒い息をついている半裸状態の唯先輩に
あたり一面血だまりと化した床でビクンビクンと身体を痙攣させ倒れているムギ先輩…
そして顔を火だるまの様に真っ赤かに染め、頭から蒸気を噴出している澪先輩
それが、全てが終わった後に私が見た光景でした――
イチャ禁最終日~梓 覚醒~
もはや部室は混沌と化していた。
この世の終わりの様な沈んだ空気が音楽室を支配する中、けいおん部メンバー全員がテーブルを囲っていた。
誰一人として口を開くものはおらず、問題のなかったはずの律と澪も他の3人のどす黒い雰囲気にあてられて口を開く事が出来ないでいた。
こんな状態が既に30分も続いているのだ。もはや練習どころの話ではない。
しかしいつまでもこのままじゃいけないと思った2人。
お互いの顔を見合わせ、こくんと頷きあう。
「お、おほんっ…」
と、律は咳払いする。
そんなわざとらしい咳払いに3人の視線が律に集中した。
「「…ぅ…」」
3方向から向けられた瞳に2人は戦慄する。
その瞳には光が宿っていない。しかも表情に生気が感じられないのだ。
そんな表情を前にした二人は――
((…はぁ…イチャ禁なんてするんじゃなかった…))
――と、今更ながらに後悔していた。
もう最終日なのでそんな事を考えても仕方がないことは2人も分かっている。
それでもこんな3人を見ていると、呆れる以前にちょっと申し訳ない気持ちになってしまうのだ。
こんなのはいつものけいおん部じゃない。
色々フリーダムな所はあるけど、お茶とお菓子を食べながら、いつも笑顔の絶えない1週間前のけいおん部の方が1000倍マシだった――と2人は感じていた。
この事態を収拾するには、もはや手は一つしか残されていない。
それはイチャイチャ禁止令を解禁する事――
律はもう限界を悟っていた。
この3人はもう1時間だって持たないと…
このままじゃ間違いなく廃人と化すだろうと…
2人は今一度顔を見合わせ頷きあい――そして宣告した。
この地獄のような状況に終止符を打つために…。
「あー…お前ら…」
「「「…」」」
「…う…」
3人の視線に怯む律。
「頑張れ、律」
そんな律に励ましの言葉を投げかけたのは澪だった。
けいおん部の仲間として、そして大切な幼馴染として、本当の意味で律の事を助けられるのは澪だけなのではないだろうか。
律は澪の励ましの言葉にふっと一瞬笑みを浮かべると大きく息を吸い込み、そして吐いた。
「えーと…3人とも、その、よくここまで頑張ったな! ホントは今日も練習するつもりだったけど、頑張ったご褒美として今から禁止令やめようと思うんだけど…どうだ?」
最後まで言い切った律に、澪は内心拍手喝采。
そして禁止令解禁を言い渡された3人はといえば…
「「「ほんと(ですか)っ!?」」」
ほぼ同時といってもいいだろう。
ずいっとテーブルから身を乗り出した3人の瞳はキラキラと輝いている。
((…きりかえ早っ!?…))
さすがの2人もあまりの切り替えの早さに驚きを隠せない。
さっきまで死臭すら漂っていたといっても過言ではないのに一瞬でこの変わりようだ。
驚かない方がおかしいだろう。
「あ、ああ…3人とも今週よく頑張ってたしな…」
「うわ~い♪ りっちゃん太っ腹~♪」
「さすがです律先輩!」
「ありがとうりっちゃん。私、ホントにもうダメかと思ったのよ?」
「あ、あはは…」
3人の喜びように律は苦笑し、澪はやれやれといった感じで「…現金な奴らだなぁ」と呟く。
「じゃ、じゃあじゃあ、もうイチャイチャしてもいいんだね?」
唯は身体をうずうずさせながら律に確認をとる。
本当は今すぐにでも梓に飛びつきたいのだろう。
「ああ、もう好きなだけイチャイチャしてくれ」
その返事に「わ~い♪」と全身で喜びを表している唯。
そんな唯を見つめながら嬉しそうな表情の梓。
ムギにいたってはさっそく鞄からビデオカメラを取り出し、調整を行っている。
…本当に現金なものである。
「…はぁ…それにしても――」
「ん? どうした澪」
「んー…まあ大した事じゃないんだけど…結局最後まで持たなかったなーって…」
「ああ…まぁな。けどいいんじゃないか? これ以上続けてても3人とも練習なんて出来そうになかったし」
「…それは確かに」
それどころか逆によく持った方だ――と澪は素直に思った。
本当は1日でもダメなんじゃないかって心のどこかで思っていたから。
「…ま、これでようやく一件落着だな」
こうしてけいおん部には以前のような平和が戻ったのだが…
でもまさかこの後あんな事になるなんて
律と澪――そして当事者ある唯と梓にすら予想できていなかったのだ。
梓side
本当によかったです。
私自身そろそろ限界に来ていたので律先輩の言葉は何よりも嬉しかった。
もう我慢しなくていいんだ、もう唯先輩に触れてもいいんだって。
そんな喜びの気持ちが私の心を暗闇から明るい場所へと解き放ってくれた。
(…ありがとうございます律先輩…)
いつもはだらしなくて頼りない先輩ですけど、今日ばかりは尊敬しちゃいます。
こんな事本人に言ったらプンプン怒りそうなので言いませんけどね…。
(…はぁ、これでやっと唯先輩と――)
――思う存分触れ合える!
4日しか経っていないのに、私にとってはもう1ヶ月くらい経っているような感覚に陥っていた。
はたして4日ぶりに触れる唯先輩はどんな感触がするんだろう?
まあ4日前と変化がないのは分かるんだけど、私の思考がその感触を想像する度に身体を熱く火照らせるんです。
そんな熱く火照った身体を鎮めてくれるのはいつだって唯先輩だけなのだから。
(…愛しています唯先輩…だから――)
――早く私を求めてください!
そんな願いを視線に込めて唯先輩の目を見つめる。
そしてそんな願いはちゃんと唯先輩に届きました。
「あずにゃん…」
どこか熱を含んだような声色で、瞳を潤ませながら私の名前を呼ぶ唯先輩…。
それだけで私の思考回路はショート寸前でした。
「唯先輩…」
私も負けじと唯先輩の名前を呼んだ。
ありったけの愛を込めて…。
「あずにゃん…あずにゃんっ!…あずにゃーーんっ!!」
唯先輩は何度も私の名前を呼びながらダッと駆け出し私の元へ飛び込んでくる。
「――唯先輩っ!」
私も全身で唯先輩を感じるため両手を広げて唯先輩を迎え入れた。
――ぎゅっ!
私達は強く強く抱きしめ合い、お互いの温もりを確かめ合う。
実に4日ぶりの抱擁――
嬉しさで涙がでそうです…。
「ああ~久しぶりのあずにゃんだよ~♪ 柔らかくって暖かくてイイ匂い~♪」
私を抱きしめ心の底から嬉しそうな唯先輩に、他の先輩達も苦笑いを浮かべながらもどこか楽しそうに私達を眺めていた。
「……」
しかしそんな先輩達を他所に、私の中ではある異変がおきていた。
異変――それは私の思考回路が完全に焼き切れてしまったという事…。
久々に感じる柔らかい感触と脳髄を刺激する媚薬という名の甘い香りに
理性という名の鎖が一瞬にして千切れてしまったんです――
唯side
私は久しぶりに感じたあずにゃんの感触に天にも昇る気持ちだった。
4日間という長い期間を乗り切ったことで喜びも倍だ。
すんすんと匂いをかぐだけで漂ってくるあずにゃんの甘い香り。
抱きしめるだけで全身に感じる柔らかい感触。
ずっとずっと待ち焦がれていたものが今私の腕の中にある。
これ以上嬉しいことなんてないよ!
「あずにゃん…」
私は優しくあずにゃんの名前を呼ぶ。
「…」
…?
あれ?返事が無い…。
どうしたんだろ?…もしかしてどこか具合悪いのかな?
ちょっと心配になった私はそーっとあずにゃんの顔を覗き込んだ。
しかしその瞬間――!
「…んむっ!?」
――あずにゃんの唇が私のそれに押し当てられた。
「「「なっ!?」」」
突然のキスに澪ちゃん達も目をまん丸に見開いてビックリしている。
さすがにみんなの前でキスなんてかなり恥ずかしいよ…!
や、やめさせないと…!
「あ、あずにゃっ…だ、だめだよぉ…み、みんなみてるよ…?」
「ふふ♪」
「あ、あずにゃん…?」
あずにゃんの様子がおかしい…。
まるで何かにとりつかれたような笑顔だった。
いつもと様子の違うあずにゃんを心配に思った私は、話をしようと口を開こうとするけど…
「あ、あず――んんっ!?」
…できなかったんだ。
さっきと同じように唇で蓋をされちゃったから。
「だ、だめ…あず…ちゅっ…んちゅ…や…」
あずにゃんは唇の隙間からするりと舌を差し入れ、激しく口内を蹂躙する。
私は久しぶりのディープキスに考えるのを止めかけていた。
残り少ない理性を総動員して必死に舌を押し返そうとするんだけど、そんな私の抵抗も空しく、あずにゃんの舌はぴちゃぴちゃと水音を立てながら絡んでくる。
このままじゃダメだと感じた私は、あずにゃんの肩を掴みぐいっと押し返した。
私達を繋いでいた唾液の糸がぷつんと途切れ床に落ちる。
「はぁ…はぁ…あ、あずにゃん・・・だ、だめ…み、みんな見てるよ…?」
「…いいじゃないですか」
あずにゃんは妖しい笑みを浮かべながら私の言葉に予想外の言葉を返した。
「―え?」
あずにゃんは何を言ってるの?――最初私は何を言われているのか理解できなかった。
けど理解する。次のあずにゃんの一言で――
「だからぁ、見せ付けてあげればいいんですよ。
――私達がどれだけ愛し合ってるかを…ね」
「そ、そんな事!…ひゃんっ!」
もはやこれ以上何を口にしても最後まで言わせてもらえそうになかった。
あずにゃんは右手で私の胸をやんわりと揉み始め、左手でブレザーのボタンを外し始めた。
あずにゃんは私の弱い所を的確についてくるから、どんどん身体から力が抜けていく。
しかも身体の力と一緒にさっき持ち直したはずの理性がまた飛びかけた。
そんな私に、あずにゃんは更に追い討ちをかけてくる。
ブレザーとブラウスのボタンを全て外し終えたあずにゃんは、ブラの上から胸を愛撫し、さらに開いた手をスカート中に差し込んで下着の上から私の敏感な部分を指で刺激し始めたのだ。
「ひゃっ!…あ、あず…だ、ダメ!…そ、そんな…あんっ!…ひゃんっ!」
その蕩ける様な甘い刺激に私は喘ぎ声を上げることしか出来ない。
「気持ちいい?…唯」
「そ、そんな…こと…あんっ…はぁ…んんっ!」
みんなが見ている状況ということもあってか、私は素直に感じる事ができないでいた。
…けどそれも時間の問題だったんだ。
あずにゃんは耳元に唇を近づけ、とどめの一撃を囁いた。
「唯…力抜いて? いっぱい気持ちいいことシテあげるから…ね?」
……。
その一言に私は抗うことをやめた…。
それは快楽という名の宴の始まりを意味していた――
~蚊帳の外~
「澪、私は逃げるぞ!」
目の前でイケナイ事を行おうとしている二人を眺めながら律はそう言い放った。
「そ、そうだな…わ、私も逃げよ。え、えーとムギは…」
真っ赤な顔をしながらキョロキョロと辺りを見回す澪。
ムギはすぐに見つかった。
瞳をらんらんと輝かせ2人の全てを納めんとビデオカメラ片手に撮影を続けていた。
「あー…ムギはほっといても大丈夫だな…うん」
「そ、そーだな…」
澪はムギを置いていく事に決めたようだ。
律もそれに賛成だった。
ここで邪魔してもムギに怒られるだけだと2人は考えていたから。
「よし逃げるぞ!」
「ああ…って、あれ?」
「ど、どーした澪?」
「こ、腰が抜けて…立てない…」
床にしゃがみ込んだ状態の澪は必死に立とうと試みるが全然動けない。
どうやら2人の熱いキスシーンを眼前で目撃したため、腰が抜けてしまったようだ。
「おいっ!大丈夫か澪!」
「どうやら私はここまでみたいだ…律…」
「そ、そんな…みお…」
何か三文芝居のような事を始めた二人。
でも決してふざけているわけではない。…と思う。
「いけ律! 私の事はいいから早く逃げるんだ――」
「わ、わかった! それじゃあ頑張れよ澪!――お前の犠牲は無駄にしないからな!」
律はすっくと立ち上がると、一人音楽室から脱兎の如く飛び出した。
…澪の言葉を最後まで聞くことなく。
「――って一度言って見たかったんだよなぁ~。
…って、あれ?…お、おい律っ! じょ、冗談だよ! 戻ってこーーい!!」
…戻ってくる気配はありませんでしたとさ。
「お、おいうそだろ?…もしかして私置き去り?
――くっ!律の薄情ものーーーーー!!!」
さっきのセリフが引き金となった以上、澪にも少し責任はあるのだが…。
もはやこんな時にお茶目を働いた澪の自業自得と言うしかない。
こうして律を除いた澪とムギだけが
この桃色閉鎖空間と化した音楽室に取り残されたのだった――
**
~後日~
休み明けの月曜日。そのお昼休みの事である。
唯と梓を除いた3人は一週間前と同様に音楽室に集まっていた。
ホワイトボードには前と同じくでかでかと文字が書かれていたが、違うことといえば内容が “反省会”に変わったことくらいだろう。
「――で、ムギ…あの日あれからどうなったんだ?」
あの日の放課後、早々に撤退した律だったが、何だかんだ言って唯と梓のその後が気になっていた。
「えーと…」
律の質問にムギは腕組みしながら先週の事を思い出そうとするが…
「あの…ごめんなさいりっちゃん…。私もその日の事はあまり覚えてないの…」
「は?…あんなに気合十分でビデオ回してたのに?」
「それなんだけど…家に帰って確認してみたら開始5分くらいで映像がおかしくなってたの…」
「映像がおかしい? 故障か何か?」
「うん…ちゃんと映ってるのは最初の5分くらいでね、後は全部画面が真っ赤になっちゃったの…」
「…真っ赤って…それってまさか…」
(…ムギの鼻血なんじゃ…)
律の予想は120%当たっていた。
あの時ムギは鼻血による出血多量で意識が朦朧とし、5分程度で気絶していたのだ。
それで床に倒れ込んだ時に血の池と化した床の映像を延々と撮り続けたというわけだ。
その時の記憶も曖昧になっているせいか、その事にまったく気付いていないムギだった。
「ん? どうかしたの、りっちゃん」
「い、いやなんでも…。えーと…それじゃあ次は澪の番だな」
ムギへの質問を終わりにした律は、今度は澪に話しをふった。
「あー…その、澪はどうだったんだ? 先週…」
「…」
澪は律の問いかけに反応しない。
ただひたすらに顔を俯かせ、どんな表情をしているかすら読めない。
「ま、まあ澪のことだから、1分もしないうちに気絶しちゃったんじゃないか?」
「っ…!」
律のその言葉に澪の身体がビクンと跳ねる。
そこでようやく顔を上げた澪だったが目尻には涙が浮んでいた。
しかも顔はみるみるうちに真っ赤に染まり頭から蒸気を噴出したのだ。
まさしくオーバーヒート。今の澪にフライパンをのせたら目玉焼きだって焼けてしまうんじゃないだろうかと思うくらいだ。
…そんな澪の反応に、律は一つの結論に達する。
「あー…も、もしかして…全部見ちゃった…とか…?」
「―っ!!」
またも身体をビクンと震わせる澪。
その様子から、律は自分の予想が当たっていたことを悟った。
「あ、あんな事やこんな事も…?」
澪はその問いにコクンと小さく頷くと、今日初めて口を開いた。
「…そ、そうだよっ!あ、あんな事そんな事っ、あ、あまつさえこんな事までっ!?
ぜ、ぜぜ、全部全部見ちゃったんだよぉーー!!」
「い、いつもだったらすぐに気絶しちゃうのに…な、何で?」
「わ、私だってきっとそうなると思ってたよっ! け、けどその日に限ってうまく気絶できなくて…!」
「…そ、そっか、それは…まあ…その…災難だったなぁ」
「うぅ…」
「…そ、それで?…2人はどんな感じだったんだ…?」
男勝りといえど律も立派な女の子。
そういう事も気になるお年頃なのだ。
「うっ…そ、それは…」
「そ、それは…?」
「…す…」
「…す?」
「…すごかった…」
澪はボソッと呟き、真っ赤な顔で俯いてしまった。
きっとその日の出来事を思い出してしまったのだろう。
「そ、そーか…すごかった…か…」
「う、うん…」
2人のすべてをその網膜に焼き付けた澪…
それから数日の間、唯と梓の顔を見るたびにあの日の光景が蘇り
一人悶々としていたのだった。
こうして少女は大人の階段をのぼって行くのである――無理やりに…
おしまい
【あとがき】
ようやく完結です!
最初はこんなに長くするはずなかったのにいつの間にかこの長さですんません!
最後まで読んでくださった方もありがとうございます!
どうやらあずにゃんは長期間 唯に触れられないと反動で暴走してしまうようです。
うちのあずにゃんは唯のことを心の底から愛していますから!