※追記からどうぞ!
イチャ禁3日目~予兆~
何かおかしい…。
律と澪がそう感じたのは3日目の部活からだった。
初日から2日目にかけては以前とは比べ物にならないくらい有意義な練習風景で、唯と梓(+ムギ)も練習不足を補うため必死で練習していたし、何も言う事はなかった。
しかし予兆は何の前触れも無くやってきた――
そわそわ…
チラチラ…
ボー…
何なんだ、この状況は?と二人は思う。
力なくギターを弾きながら、どこか落ち着かない様子でそわそわしている唯。
唯のことが気になるのか、ギターを弾く手を止め、唯の方をチラチラと見ている梓。
なぜお前も?と言いたくなるが、キーボードに手を置き、明後日の方を向きながらボーっとしているムギ。
明らかに様子のおかしい3人に澪は声をかける事ができないでいた。
音楽室の中に入った時から既にこの状況だったのだ。
澪は声をかけようかどうか迷っていた。
そんな澪にいち早く気付いたのは相棒にして幼馴染である田井中律だ。
さすがに付き合いが長いだけはある。
見かねた律は、やれやれと思いながら目の前にいる3人に声をかけた。
いつもは澪の方が頼りになりそうな感じではあるが、こういう時に頼りになるのがけいおん部の部長だ。
澪もそんな律を頼もしいと思いながらも、少し羨ましいと感じていた。
「おーいお前ら…大丈夫かー? 何かあったのか?」
「「…っ!…」」
唯と梓は律の声にビクッと反応すると顔を振り向かせる。
「あ!…りっちゃん、澪ちゃん、来てたんだ」
「あ、あの…ど、どうもです」
「…ボー…」
二人は律と澪が来ている事にまるで気付いていなかったのだ。
しかもかなり挙動不審で、わたわたと慌しい様子。
そんな二人の様子に律と澪は同じ考えに行き着いた。
((…もしかして私達が居ないのをいいことに
イチャイチャしようとしていたんじゃ…?))
だからといって実際にイチャイチャしていた訳じゃないので深く追求する事はしなかった。
澪は二人から視線を外し、もう一人の不審者であるムギの方に視線を向ける。
するとどうだ。ムギは最初の律の呼びかけにも気付きもせず未だにボーっとしていた。
「…ムギ?」
再度呼びかける澪
「…ボー」
しかし無反応。
これでは埒が明かないと思った澪は、大きく息を吸い込み
そして――
「ムギっ!いつまでボーっとしてるんだ!」
「っ!?」
と、ムギに向かって大声で呼びかけた。
澪の声に驚いたムギは一瞬ビクっと身体を震わせようやく我に帰った。
「あ、あら、澪ちゃんにりっちゃん…来てたのね…気付かなくてごめんなさい…」
「普通気付くだろ…っておい大丈夫か? 何だか顔色が悪いぞ?」
「…もしかして二人のイチャイチャが見れなくて元気ないー
とかじゃないだろうなぁ」
「――っ!!」
律の指摘に勢いよく顔を逸らすムギ。
完全に図星です、本当にありがとうございました。
「ぜ、全然そんな事ないのよ? そんな事これっぽっちも思ってないんだからね?」
必死に弁解するムギだったが、冷や汗たらして目を泳がせていては全然説得力がない。
「はぁ…まあいいか。じゃ今日も早速みんなで合わせようぜ」
「…ええ」
「…うん」
「…はい」
律は唯と梓の時と同様、ムギへの追求を中断し練習開始を宣告する。
3人はそれぞれ返事は返したものの、そこにはいつもの元気はなかった。
元気が無い理由は言わなくても分かっていただけるだろう。
イチャ禁は間違いなく3人の心を蝕んでいるのだ。
元気の無い3人を眺めながら澪は思う。
(…こんな調子じゃあと2日持たないんじゃないか…?)
イチャ禁4日目~それぞれの気持ち~
唯side
正直もう限界だよ…。
だってねぇ…もう3日間も――時間にして72時間もあずにゃんに触れてないんだもん。
私の中のあずにゃん分貯蔵タンクはとっくの昔にすっからかん。全然力が出ないんだよー…。
最初は何とかなると思ってた私がバカだったよ。2日、3日と日が経つにつれ、私の中のあずにゃん分は急速に減っていき“あずにゃんに触れたい!”と言う気持ちが爆発しそうになっていた。
いつも当たり前のように触れていたその感触がないだけで、私は水を失った花のようにしおしおに枯れてしまうのだ。
禁止令が解かれるのは明日の部活終了後。
あと1日じゃないか――と思う人もいるかもしれないけど、私にとっては生きるか死ぬかの問題なんだよ。
ああ!あずにゃんに触りたい!
抱きしめたい!
ちゅーしたい!
「…あずにゃ~ん」
そんな事を悶々と考えていたせいか、無意識の内にあずにゃんの名前を呼びながらあずにゃんの方へ足を向けていた。まるでゾンビのような足取りで、獲物を狙う狩人のように。
「…な、何ですか?」
「…ちゅーしたい…」
そして自分の気持ちを素直に口にする。
「っ!…な、何言ってんですか!
イチャイチャするのは禁止だって言われてるじゃないですか」
私のお願いにあずにゃんは顔を真っ赤にするけど、私の欲しい返事は返ってこなかった。
いつもだったら「しょうがないですねー」とか言いながら嬉しそうな顔でキスしてくれるのに。
「うー…まだ誰も来てないんだしちょっとだけー…ダメ?」
「ぅ…だ、ダメです!
ちゃ、ちゃんと約束したんですから明日まで我慢してください!」
「うー…」
「唸ってもだめです!」
うぅ…あずにゃんが冷たい。
こういう時のあずにゃんってホント頑固だよね…。
あずにゃんはつらくないのかな?
私はこんなにもあずにゃんを求めてるのに、あずにゃんは特につらそうな素振りも見せず淡々としてる。
そんな態度を見せられたらあずにゃんの愛を疑っちゃうよー…?
「…あずにゃんはつらくないのー?」
「…え?」
「私のライフはとっくに0なんだよ?」
「…い、言ってる意味がわかりませんけど。
ま、まあそこまでつらくはないです。
…たった5日間だけじゃないですか」
「ぶー…」
あずにゃんのバカ…。
あーあ、やっぱり我慢するしかないのかぁ…。
梓side
つらくない?
バカか私は?
つらくないわけないじゃないですか!
唯先輩のその愛らしい顔を見つめるたび、その柔らかそうな肢体を眺めるたび、私の欲望は爆発寸前です。
そんな今にも溢れ出しそうになる唯先輩を求める衝動を必死に抑えているのに…。
それなのに意味もなく取り繕って、唯先輩に嘘まで言って、私は本当に大バカだ。
でも仕方ないです…。
澪先輩達に約束した手前、途中で投げ出すわけにはいかないですから。
…まあ、唯先輩にちゅーしたいと言われた時はかなりクラっときましたけど。
こういう時素直になれない自分が恨めしく思います。
そして自分の気持ちを素直に出すことができる唯先輩がすごく羨ましい。
(…うぅ…唯先輩とキスしたいよぉ…)
勿論したいのはキスだけじゃない。
抱きしめたり――
頬擦りしたり――
…チョメチョメしたりとか。
有らん限りの愛を今すぐにでも唯先輩にぶつけたかった。
それがもう3日も出来ていないのだから、はっきり言って死にたくなる。
夜は一人寂しく枕を濡らし、唯先輩を思い浮かべながら一人で自分を慰める日々
…まあ日々といってもまだ3日ですが…。
いや!もう3日ですよ!
そんな性――生活、私もう限界なんです!
臨界点はとうの昔に越えてしまっているんです!
唯!私の唯!
貴女が欲しいです!
私は荒ぶる気持ちを心の中で爆発させる。
けどそれが唯先輩に届かない以上思っても意味が無い。
唯先輩がいなくなったら私は壊れるだろうと以前思った事があるけど、さらに付け加えてやります。
“唯先輩の命日が私の命日!”
そう断言してやるです!
紬side
おお神よ…。
百合を司る神よ…。
憐れな私をお助けください…。
私は天上から見守ってくださっているであろう百合神に祈りを捧げながら、音楽室のドアの前から中の様子を伺っていた。
なぜ部屋に入らないかって?
だって部屋の中には唯ちゃんと梓ちゃんが二人きり。
もしかしたらみんなの目を盗んでこっそりとイチャイチャしちゃうんじゃないかって淡い期待を抱いちゃったんだもの。
そんな私を責められますか?
百合に生涯の全てを捧げると誓った私にとって、二人のイチャイチャは心の栄養なんです。
栄養が取れなくなったら人はどうなってしまうんでしょう…。
答えは聞かなくてもわかりますよね…。
そうです、その先で待っているのは絶対の“死”
わかりますか?
私は今そういう状況に追い込まれているんですよ?
こんな事になるならイチャイチャ禁止令なんて断固反対するべきでした。
今目の前にタイムマシンがあれば、迷わず3日前の私達を縛り付けてでも止める事でしょう。
(・・・はぁ・・・末期ですね私・・・)
後悔先に立たず。
今更悔やんだところで過去が変わるはずが無いのはわかってます。
それでも祈らずにいられないのが人間というものなのです。
(・・・百合神よ・・・私を導いてください・・・)
そんな願いが通じたのか、さっきまでそわそわと落ち着かなかった中の二人――正確には唯ちゃんが梓ちゃんに向かって危うい足取りで歩を進めたではありませんか。
(・・・も、もしかして・・・)
ゴクリっと喉を鳴らす。
静寂が廊下を支配し、周りの音が遮断される。
神経を研ぎ澄ませ、中にいる二人に集中する。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・」
いつの間にやら鼻息も荒くなり、音楽室のドアにへばりついていた。
それほどまでに二人のイチャラブを求めている私に内心驚きを隠せないが、自分の生甲斐が目の前に存在している以上それは正常な行動といえる。…はず。
・・・変態といわれればそれまでですが。
だからといって、自分に嘘はつけない。
自分の望んだことにはいつだって全力でぶつかっていきたい。
たとえ他人から蔑まれようとそれは変わらない。
誰かに認めてもらう必要なんてない。
私はただ――
己の全てを賭けて――
欲望のままに生きるだけです。
そんな事を延々と考えていると、中の二人に変化があった。
(・・・ああっ!・・・どうしてそこで・・・!)
イチャイチャしたくて堪らない唯ちゃんを、梓ちゃんは持ち前のポーカーフェイスでやんわりと拒否したのだ。
(・・・ど、どうして・・・)
あの梓ちゃんが、唯ちゃん無しじゃ寂しくて死んじゃう梓ちゃんが、蜂蜜よりも練乳よりも甘い誘惑を拒絶したのだ。
(・・・そんな梓ちゃん――はっ!あ、あれは・・・)
私は見てしまった。
唯ちゃんが背中を向け溜息をついた瞬間、ずーん…っと、この世の終わりの様な表情で落ち込む様を。
(・・・そういうことですか・・・)
分かりますよ梓ちゃん・・・。
本当は今すぐにでも唯ちゃんに飛びついてイチャイチャしたいんですよね?
約束した手前、もう後には引けないと思ってるんですよね?
(・・・はぁ・・・あと24時間ですか・・・)
梓ちゃんが拒否してしまった以上、今日はもう期待した展開にはなってくれそうにないですね…。
果たして私は明日の朝日を拝めるでしょうか…。
(・・・死して屍拾うもの無し・・・)
もしかしたら今日が私の命日かもしれません。
そんな鬱になりそうなことを考えながら、私は音楽室の扉に手をかけ中に入った。
それから5分としないうちにりっちゃんと澪ちゃんも揃い、拷問という名の練習が始まったのだった。
つづく
【あとがき】
まずは謝ります!ごめんなさい!
私平気で嘘つきました!
後編で~とか何とか言っておきながらまさかの中編…
終わらせようと頑張りましたが集中力が完全にきれました
というわけで次回が後編です。マジで
…中編その2とかにはならないのでご安心を
では今度こそ後編で!
あなた様は神様です
いつも楽しみにしてます★★