※追記からどうぞ!
「にゃぁ~♪」
そんな鳴き声を発しているのは、もちろん猫。
私が鳴いているわけでも唯先輩が鳴いているわけでも“そーいうプレイ”をしているわけでもない。
たま~にそういうプレイも無きにしも非ずだけど今回ばかりは違う。
今回は本物の猫が私の家にお邪魔しているんです。
名前はあずにゃん2号(勝手に命名)
その名前で分かっていただけるだろう。
その猫とは以前、私の親友の一人でもある鈴木純から預かったことのある子猫だ。
何故あずにゃん2号がここに居るのか…その答えは簡単。
以前と同様に純から預かったからだ。まだ子猫ということもあり、心配で仕方がないのだろう。
私としてもまたあずにゃん2号と会えるということで、快く承諾したんだけど……。
「はぁ…」
溜息が出るのはなんで?…いや、原因は分かってる。
「にゃ~♪」
「えへへ、可愛いなぁ~あずにゃん2号は♪ ほ~れごろごろ~♪」
「うにゃぁ♪」
私の目の前でねこじゃらし片手にあずにゃん2号と戯れる唯先輩。
そして先輩の膝の上で丸くなってゴロゴロしている2号を小一時間ほど眺めていれば溜息だってつきたくなる。
今日は休日ということもあり唯先輩と自宅デートを決め込もうと思っていたのだが、とんだイレギュラーだ。
まさか2号に唯先輩を独占されてしまうとは…。
「にゃ♪」
あずにゃん2号…どうやら唯先輩が大好きのようで、先輩が部屋に入ると同時に胸に飛びついた。
さらにはその可愛らしい顔をペロペロ舐めるという暴挙まで。
先輩をペロペロしていいのは私だけだって言うのに…。
けど子猫相手にそんな事言ってもどうしようもないので我慢することにした。
――したんだけど…
それからというもの、唯先輩は恋人の私をほっぽってあずにゃん2号と戯れ始めた。
「ねぇねぇ、あずにゃん!」
「…何ですか?」
「あずにゃん2号可愛いね!」
「…」
はぁ…そのセリフもう10回目ですよ…。
「どうかした?あずにゃん?」
「…いえ、別に」
「そう?」
唯先輩はちょっとだけ気にする素振りを見せたけど、それ以上深く追求せず、結局はまた2号に目をやった。
…何だか私、いらない子?
私はあずにゃん2号に目をやる。
2号は先輩の膝の上で気持ちよさそうだ。
そりゃそうだろう、先輩の膝枕に勝る枕などこの世に存在するはずがない。
…ホントだったら、今あそこに居るのは私だったはずなのに…。
「はぁ…」
本日20回目の溜息。何でそんなの数えてるの?って言われても、数えちゃってるんだから仕方がない。
「何でかなぁ…」
唯先輩は可愛いもの好きだから分かるとして、どうして2号はこんなにも先輩に懐いているんだろうか?
…もしかして先輩からは猫の大好きなフェロモンでも放出されているとか?
まあ、分からなくもない。
元祖あずにゃんも先輩のフェロモンに虜にされちゃった一人なわけですから。
「むぅ…」
同じあずにゃんでも私は2号と違って恋人っていう特権があるっていうのに…どうして2号ばっかり…。
もしかして飽きられちゃった、私?
「はぁ、ホント可愛いなぁ…。このまま家の子にしちゃいたいくらいだよぉ」
「っ!」
な、なんて事言うんですか!
そ、それは聞き捨てなりませんよ!
「い、いるじゃないですか!」
私は我を忘れて声を荒げる。
「ふぇ?…ど、どうしたのあずにゃん?」
先輩も私の剣幕に驚きを隠せないようだ。
「せ、先輩には専用の猫がいるじゃないですか!」
わ、私は一体何を言おうとして――
「え?…そ、そんなの何処に――」
「先輩にはあずにゃんがいるじゃないですかっ!だ、だから2号となんて、絶対ダメですっ!」
「ええっ!?」
無意識の内に出たその言葉は、あまりにも頭の悪いセリフだった。唯先輩もかなり驚いてる。
「…あっ…」
どうしよう…。
一体どうやって収拾をつければいいんだろう。
既に言ってしまった言葉を取り消すなんでできない。
ああ、今思い起こすとかなり恥ずかしいセリフだったような気がする。
私は先輩の猫だから好きにしてって――先輩の所有物を自分から宣言したようなものだ。
…。
ま、まあ先輩が望めばそれもやぶさかではないけど…。
「あずにゃん…」
考えが変態的になりかけていた私を引き戻したのは唯先輩の声だった。
「何ですか…」
何だか先輩の瞳が潤んでいるように見える。
そんな瞳を私も見つめ返す。
ただ見つめあうだけ、余計な言葉なんて今の私達には必要ない。
「あずにゃん…」
「唯先輩…」
何とも言えないイイ雰囲気が私達の間に流れる…。
そう、そうだよ。こう言う時間を私は求めていたんだ。
やっと唯先輩が私を見てくれる…。
「あずにゃん、私……きゃっ!」
「にゃぁー!」
けどそれを壊したのはまたしてもあずにゃん2号だった。
「唯先輩っ!?」
折角の雰囲気をぶち壊しやがったあずにゃん2号は、先輩のスカートの中に顔を突っ込んでもぞもぞと動き出す。
「ひゃ…だ、ダメだよぉ…あずにゃん2号、そ、そんなとこ…」
「んなっ!」
絶対領域の奥に隠された秘境――私だけの禁断のデルタゾーンに顔を突っ込んでもぞもぞするなんて!
な、なんて羨ま――もとい、けしからん事をしてるんだあずにゃん2号!!
「こ、こら、あずにゃん2号!離れなさいってばっ!」
私は先輩に駆け寄ると未だに顔を突っ込んで先輩の桃源郷を弄んでいる2号を捕まえ、スカートの中から引き抜いた。
「ふーー!!」
「ちょ、ちょっと暴れないでよ!」
抱っこした瞬間、ジタバタと暴れまわる2号。
(い、一体何がそんなに気に入らないの!)
「わっ!…ちょっ!」
2号は私から飛び降りると、唯先輩の横に並び、またゴロゴロと顔を摺り寄せ始めた。
「な、なんで…」
何で? どうして?
浮んでくるのは疑問の言葉ばかり。
そしてその疑問に答えてくれたのは唯先輩だった。
「あはは…もしかしてヤキモチ焼いちゃったんじゃないかなぁ?」
唯先輩はスカートの乱れを直し、2号の頭を撫でながらそんな事を言ってくる。
や、ヤキモチ?…あずにゃん2号が?
「ヤ、ヤキモチですか?」
「うん…私とあずにゃんがイイ雰囲気になっちゃったから邪魔したくなっちゃったんだよ、きっと」
「そ、そんな…」
まさかとは思っても、先輩が言うならそうなのかもしれない。
「ふふ♪」
「ど、どうしたんですか…笑ったりして」
思い出し笑いのように、急にプッと吹き出す唯先輩。そんなに面白いことでもあったんだろうか?
「んーん、何だかね…あずにゃんとあずにゃん2号、似てるなって…」
「え、えぇっ!」
急に何を言い出すかと思えば、私と2号が似てるだなんて。そんな事あるわけ――
「だってぇ、ゴロゴロ甘えてくるのもそうだし、ヤキモチ焼きなところなんてホントそっくりだよ?」
「うぐっ」
…痛いところをついてくる。そんな事を言われては反論の一つもできやしない。
「それに~、私の事が大好きなところとかね!」
「う…そ、そんな事…」
「ないの?」
瞳を潤ませ、ちょっと悲しそうな顔で私を見つめる唯先輩。
こんな顔を見せられては素直になるしか他はない。
「…あります」
「えへへ、ありがとあずにゃん♪…ほら、あずにゃんもこっちおいで?」
100万ドルの夜景も逃げ出すほどの眩い笑顔で、自身が座っているソファの隣をポンポンと叩き、私を呼ぶ。
その笑顔に見惚れながらも、私は先輩の横に座り、身を預けた。
(はぁ…唯先輩の体温ってやっぱり落ち着くなぁ…)
ずっと待ち焦がれたぬくもりを今ようやく手に入れた。
その柔らかな感触、鼻腔をくすぐる甘い香り…。
それらの要素が相乗効果となり、私の胸をトクントクンと高鳴らせる。
たったこれだけの事で満足してしまえる私は、もしかするとあずにゃん2号と同じくらい単純なのかもしれない。
「えへへ、何だか幸せ♪」
「そ、そうですね…」
「にゃぁ~」
こうして2匹のあずにゃんに囲まれた唯先輩は、終始笑顔を絶やす事はありませんでした。
今日の事で分かったことがある。
どうやらあずにゃん2号は私にとってライバルだという事。
強敵と書いて友と読む、そんな関係こそが私達には相応しいのかもしれない。
おしまい
【あとがき】
最後まで読んでくださりありがとうございます!
と言うわけで満を持してあずにゃん2号登場!
いや…別に登場したからどうってわけでもないですが(汗
ゆいあずを語る上で2号も大事な要素なわけですからね
13話とか…13話とか…って!13話しかねーよ!?