※追記からどうぞ!
それはとある休日のことだった。
私こと中野梓は、いつものように恋人である唯先輩の家に遊びに来ていた。
まあ遊びに来たって言うのは語弊があるけど。
一応だけど今日はギターの練習をすることになっている。
きっとお泊りになっちゃうんだろうけど、まあこれもいつもの事だし。
”ピンポ~ン”
そんな事を考えながら、私は押しなれたチャイムを鳴らし、家の主が出てくるのを待つ。
何度この門を前にしたか数えるのも大変だけど、やっぱり何度来ても、この胸の高揚感は変わることはない。
唯先輩と一緒にいられることが私にとって何よりも幸せなことだから。
「は~い」
そう言って扉を開け、外に出てきたのは――
「あ、唯せ……」
ではなく、
「ぁ…う、憂」
唯先輩の妹、憂だった。
「あはは…ごめんねお姉ちゃんじゃなくて」
ちょっと苦笑いの憂。
「そ、そんな事ないよ」
「そう?…でも私が出てきたとき一瞬残念そうな顔してたよ?」
「…」
不覚。どうやら顔に出ていたみたいだ。
「そ、それで唯先輩は?」
これ以上話していても色々と墓穴を掘りそうだったので話を変えることにした。
なにせ相手はあの憂だ。完璧超人のこの子に私が言葉でかなうはずがない。
「ああうん、お姉ちゃんならまだ寝てるよ。……ほっといたら昼過ぎまで寝てるから」
「ああ…」
私は携帯で時間を確認する。時刻は10時を回ったあたりだ。
…確かにこの時間帯じゃほぼ確実に唯先輩は夢の中。別に忘れていたわけじゃない。
もしかしたら唯先輩が私を出迎えてくれるんじゃないかって淡い期待を抱いていただけ。
それをあの、ぐーたらな恋人に望むのは酷なのかもしれない。
けどイイこともあるんだよね。
なにせあの激可愛い寝顔を間近で見られるっていう特典があるから。
「まあいつもはちゃんと起こすんだけど、梓ちゃんが来るときは起こさないんだよ」
「え!?…な、なんで?」
それは初耳だ。
てことは憂が唯先輩を起こしてくれれば、唯先輩が溢れんばかりの笑顔で私を出迎えてくれるってことなのでは?
これはちょっと聞き捨てならないよ、憂。
「なんでって…梓ちゃん、お姉ちゃんの寝顔見たいでしょ?」
さも当然と言わんばかりに言ってくる。
「へ?」
唯先輩の寝顔?…そ、それはもうかなり見たい。
遊びに来た時は寝顔を堪能しながら、携帯で写真を撮るのが当たり前。
唯先輩の寝顔コレクションはもうかなりの数になってる。メモリが足りなくなるのが困りものだ。
と、それはいいとして…あの、それはつまり私のためって事ですか、憂さん?
「うん♪」
ニッコリと笑顔で返事を返す憂。
な、何と言う気配り上手。さすが未来の義妹、こんな義妹をもって私は幸せです。
「あ、ありがとう憂…」
何だか嬉しくて涙が出そうだよ…。
「それは言わないお約束だよ、梓ちゃん。さ、早く上がってお姉ちゃん起こしてあげて?」
「うん!」
さぁいざ戦場へ!
**
「天使だ…」
唯先輩の部屋に入った第一声がそれだった。
目の前にいる唯先輩の寝顔は間違いなく天使の寝顔と言っても過言じゃない。
何だか先輩の寝顔を見るたびに同じ事を言ってるような気がするけど気にしない。
だってホントに可愛いんだもん。
一緒に寝て、朝目覚めた時に見る寝顔とはまた違った可愛さなんです。…何でだろうね。
「…まあとりあえず、一枚」
パシャっ
写真を撮る。
そこっ、盗撮って言わない!
恋人同士だからいいんです。いいって事にしておいてください。
…続けざまにアングルを変えて一枚。
…さらに(ry
……。
「…ふぅ」
――何度かそれを繰り返して満足した私は、ようやく先輩を起こそうと思い立った。
「唯せんぱ~い…」
自分の顔を先輩の顔に近づけながら、小さな声で名前を呼ぶ。
「うにゅ~…すぴー…」
ごくりっと、思わず喉をならす。
先輩の瑞々しい唇に目がいってしまう。一度気になってしまうと目が離せないのはお約束。
何度も触れた事のあるその場所。何度触れたって飽きはこない。
それはまるで麻薬のようで、何度だって触れたくなる、そんな魔法に私は掛かってしまっている。
「先輩…起きてください、起きないと…キスしちゃいますよ?」
「すぅ…うぅん…すー」
まるで起こす気のない小声で囁く。
はっきり言おう。
キスする気満々です。
寝込みを襲うのは気がひけるけど、こんな天使を前にしたら理性なんて一瞬で崩れ落ちる。
わざわざこんな事しなくても、堂々とキスしたらいいはずなんだけど…。
…据え膳食わぬはなんとやら。
頂きます唯先輩…。
意を決してゆっくりと顔を近づけていく…。
先輩の吐息を肌に感じながらさらに距離を詰める。
もう少し…マジでキスする5秒前…
梓、いっきまーす。
触れるか触れないか、その瞬間――
部屋のドアが開かれた。
「っ!?」
「梓ちゃ~ん、お姉ちゃん起きた……って、あ!」
「う、憂っ」
入ってきたのは憂だった。いつもは入ってこないから油断していた。
「あ、あの…その…」
目のやり場に困った憂は、頬を赤く染めながら私から顔を逸らしている。
それはそうだろう、今まさに唇が触れようとしているこの状況で直視できる方がどうかしている。
「ご、ごめんね、ま、まさか、昼間からこんなことしてるとは思わなくて…」
そんな事を言いながらも時折こちらをチラチラと見ている。
何だかんだで気になるようだ。
「え、えーとね憂、これは――」
「う、ううん、いいの、恋人同士だもんね!それくらい昼飯前なんだよね!」
それを言うなら朝飯前では?…まあお昼前だから間違ってはいないけど。
「だ、だから、その…ど、どうぞごゆっくり!」
ダッとその場から駆け出し部屋を後にする憂。
弁解する暇もなかった。いやそもそも弁解の余地なんてないんだけど…。
「うぅん…うにゅ…ふぁ~あ……」
どうやら憂とのドタバタで唯先輩が目覚めてしまったようだ。
…ちょっと残念
「はれ?…あずにゃん?」
「はい、そうですよ」
「おはよー、あずにゃん♪」
私が居た事に一つも疑問ももたず、花が咲いたような笑顔で挨拶をしてくる唯先輩。
「お、おはようございます。先輩」
そんな笑顔を見ていると、さっきまで寝込みを襲おうとしていた自分に自己嫌悪…。
ああ、ごめんなさい唯先輩。
…と、一応心の中で謝っておく。
「あずにゃん、んー♪」
先輩はそっと目を閉じると唇を私の方に突き出してくる。
それはまるでキスをねだっている様に見える。いや見えるんじゃなくて間違いなくそう。
何故かって?
そんなの毎回同じことを繰り返してれば、嫌でも分かるでしょ?
結局、私達の休日はいつもこんな感じで始まるわけです。
「おはようのちゅ―して、あずにゃん」
……。
頂きます。
ちゅっ
**
憂side
時刻は午後3時を回ったあたり、そろそろおやつでも持っていってあげようと思い、コップと飲み物、そしてお菓子をお盆に乗せ階段を上がる。
午前中は失敗しちゃったから、今度はノックを忘れないようにしないと…。
(…じゃないとまたお取り込み中だったりするかもだし)
「はぁ…心臓がいくつあっても足りないよ…」
あの二人が付き合い始めてから、何度か「お取り込み中」に遭遇したことはある。
でも、この目で見るのは実は初めてだった。
遭遇といっても、自室に居る時にお姉ちゃんの部屋から聞こえてくるだけだから…。
そんな時は必ず耳栓を装備するようにしている。
(だ、だって…私にはまだ早いって言うか…刺激が強すぎるんだもん)
「…と」
そんな事を考えながら歩いていると、いつの間にかお姉ちゃんの部屋の前まで来ていた。
扉を見据え、一度深呼吸してからノックしようとした瞬間――
『…あずにゃん、気持ちいい?』
『ン…うん、すごく…』
(ぶふぅっ!?…な、何事っ!?)
一瞬お盆を落としそうになるのを何とか持ち堪える。
(い、今…中からとんでもないセリフが飛び出してきたような?)
私はお盆を床にそっと置き、飲み物の入っていないコップを手に取る。
そして音を立てないように扉に押し付け、コップの底に耳を添えた。
(…うん、まだちょっと聞こえずらいけど、これなら何とか……って、私は一体何を!!)
あまりにも自分の行動が自然すぎて、全く疑問に思わなかった。
(だ、ダメだよ、こんな事…二人に悪いよ…)
そんな事を思いながらも決して耳を離さない私。やってる事と考えてる事が全然違う。
『…ほら…あずにゃんの……こんなに硬くなってるよ…?』
『そ、そうですか?…そんな事ないと思いますけど…』
(か、硬っ!?…いいい、一体、なな、ナニが?…も、もしかして…梓ちゃんは“禁則事項”を標準装備してるのっ!?)
『…今楽にしてあげるからね?…じゃあ……入れるよ?』
『…ん、はい…お、お願い…します…』
(い、入れっ!?…な、ナニを!何処にぃ!?)
私の脳内は完全にフルバースト!!
(…そ、そんなお姉ちゃん!梓ちゃんの“禁則事項”を自分からなんて…わ、私の知っているお姉ちゃんは何処に行っちゃったのかな!?)
どうやら私の姉は大人の階段を3段抜かしで飛び越えていってしまったらしい。
つい最近までは「あ~い~す~」とか言いながら床を転がっていたあのお姉ちゃんが…。
姉の成長をこの目で見続けてきた私としては寂しいような悲しいような、それでもって嬉しいような?
…なんで最後だけ疑問系?
(と、とにかく!二人が“ぱいるだ~おん”しちゃう前にこの場を離れないと!)
さすがにこれ以上聞き耳を立てるのはいけない。
これ以上聞いたら、私のレベルは1から一気に10に上がってしまう。
それは運良くはぐれメ○ルを倒したような、そんな感覚だ。
…私、レベルは1ずつ上がる位が丁度いいと思います。
そんな意味不明なことを考えながら、私は扉から離れ、お盆を取るとそそくさと下へ降りていった。
「はぁ…なんだか、どっと疲れちゃったよ…」
(うぅ…これからあの二人にどんな顔して会えばいいんだろ…)
私は胸のドキドキを抑えながら、これからの事を悶々と考えていた。
「あ、とりあえずお赤飯炊かなくちゃ!」
**
~憂が部屋に来る少し前~
「ふぅ…それじゃちょっと休憩しよ」
「そうですね、はぁ~それにしても、ちょっと肩こっちゃいましたよ…」
ギターのストラップを肩から外し、手で肩をさする。
休憩もいれずに2時間くらいぶっ通しでギターの練習をしていたせいか、ちょっと肩が痛い。
「そーなの?…あ、そうだ、じゃあ私が肩揉んであげるよ!」
「え?…あー、じゃあちょっとお願いしてもいいですか?」
「うん♪まかせて」
唯先輩は私の後ろに回ると肩にそっと手を置き、ゆっくりと優しく肩を揉み始めた。
「どう?…あずにゃん、気持ちいい?」
「ン…うん、すごく…気持ちいいです」
「うわ~…あずにゃんの肩こんなに硬くなってるよ?」
「そ、そうですか?…そんな事ないと思いますけど…」
「もうカチコチだよぉ、今楽にしてあげるからね?…じゃあちょっとだけ力入れるよ?」
「ん…はい…お願い、します」
まあ細かいことは気にしないで、今は唯先輩にお任せしよう。
先輩の肩揉みはとっても気持ちいいし…。
「そ~れ、もみもみ♪」
はぁ~気持ちいい♪
おしまい
【あとがき】
久しぶりのシリーズでした。
まあシリーズとか短編とか、あまり関係ないような気がしますが
まあそこらへんは気分という事で^^
どうやら憂のムギ化が始まったようです、まだまだレベルは低いですが(笑
まあムギ化しようと何しようと、基本、憂は良い子なんですけどね^^