※追記からどうぞ!
正直がっかりだった。
期待に胸を躍らせながら入部した軽音部は、私が想像していたものとはちょっと違っていて。
入部して数日たっても練習しないでお茶ばっかり、おまけに私に猫耳つけて楽しんでるし…。
あまりにもヒドイから、一度は辞めて他のバンドに参加しようかと考えたこともある。
新歓ライブに心惹かれたのは、気のせいだったんだろうって思い始めてたから。
「よし!じゃあ梓のために演奏するか!その時の気持ちを思い出せるようにさ!」
「「「うんっ!」」」
でも気のせいなんかじゃなかった。
改めて先輩方の演奏を聞いて、この部に入部したのは間違いじゃなかったって気付かされたから。
――私はもう迷わないから…。
「…ホント、あずにゃんが辞めなくてよかったよ」
先輩と二人だけの帰り道、あかね色に染まる空を見上げながら唯先輩がポツリと言葉を漏らす。
「…ごめんなさい、心配かけちゃって…」
「ううん、ちゃんとしなかった私達も悪かったんだもん、だからあずにゃんは悪くないよ」
「…そ、そんな事っ」
言葉が詰まる。
…ないです、って言おうとしたけど言えなかった。
ちょっとはまあその、唯先輩の言うとおりですから。
「で、でも皆さんの演奏ってやっぱりすごいですよね」
わざとらしく話を逸らす。
けどこれは素直に感じた事だった。
4人揃ったときの演奏は別物と言っても過言じゃない。
楽しそうに演奏する先輩方を見ていると、こっちも楽しくなってきて。
今までこんな風に感じた事なんてなかったから新鮮だった。
バンドなんてどこでやっても一緒だって、そんな風に思ってたから…。
「えへ~、そっかなぁ~♪」
私の一言に、嬉しそうに頭をかいている唯先輩。
…ダメですね。ここで唯先輩を調子付かせると、また練習サボってだらけるのが目に見えている。
「だからって調子に乗っちゃだめですよ。唯先輩一人だけだったら、全然なってないんですから」
「うっ!…あぅ~あずにゃんひどいよ~」
ちょっと言い過ぎかなって思うけど、これも唯先輩のためです。
「…私が教えてあげますから」
「ふえ?」
「…私だってまだまだですけど、先輩に教えるくらいのことはできます」
一人だって頑張れる。けど一緒ならもっと頑張れる気がするから。
…唯先輩と二人でなら。
「…いいの?あずにゃん迷惑じゃない?」
「全然迷惑じゃないですよ、だから一緒に頑張りましょう」
これから長い付き合いになるんだし、同じギター担当としてお互いイイ刺激になるはずだ。
「あずにゃん……うん♪」
唯先輩は心の底から嬉しそうな笑顔を見せる。その笑顔があまりにも綺麗で、ちょっとドキっとする。
その笑顔にボーっと見惚れている私を他所に、突然唯先輩が小指を差し出してくる。
「じゃあさ、ゆびきりしよ」
「あ…え、ゆ、ゆびきりですか?」
「うん!これから一緒に頑張っていこうねって、約束だよ」
「…は、はい」
私は唯先輩の小指に自分のそれを絡ませる。
何だかちょっと恥ずかしかったけど、悪い気分じゃなかった。
「「ゆ~びきり、げんまん嘘ついたらハリセンボン飲~ます」」
…唯先輩と私の、二人だけの約束が――
「「ゆびきった!」」
――今ここに。
「えへへ」
「ふふ」
私達はお互いの顔を見つめながら、どちらからともなく笑い合う。
「ねえ、あずにゃん」
「?」
「これからも、よろしくね?」
「…こっちこそ、よろしくです」
きっとこれが二人の始まり。
おしまい
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます!
9話の補完的な何か。梓が戻ってきた日の帰りです。
あずにゃんと唯の始まり~