※追記からどうぞ。
人はどんな事に対しても順応し慣れていく生き物だと言うが、まさにその通りになりつつあった。
二人は相変わらずスキンシップ真っ最中ではあるが、しかしそんな現状にだいぶ慣れ始めてきている自分がいた。時間経過が慣れをもたらした可能性は大だ。むろん、慣れたからと言って常識という名のモラルが失われたかと言えばそうでもない。
それはそれ、これはこれなのだから。
あれから時間もだいぶ進み、外は赤らみ始めていた。また音楽室も同様に茜色に染まりつつあった。そろそろお開きの時間帯ではあるが、誰一人として動こうとするものはいなかった。久しぶりのティータイムということで、皆心のどこかで名残惜しさを感じていたのかもしれない。
「それでセバスチャンが臭くってねぇ~」
「ははっ、ホント臭いよなー」
「ああ、臭いな」
時間も忘れ、雑談に花を咲かせる。唯と梓のじゃれ合いを聞き流しつつ、ムギや律と共に旅行中の思い出や取り留めもない話題で盛り上がっていた。
結局練習なんて一つも出来ないまま今日の部活は終わろうかとしていたその時、まるで狙ったように音楽室に客人が訪れた。
ガチャリと開かれる扉――。
唯と梓を除き扉に集中する視線が3つ。
そろそろ完全下校時刻なのにお客さんなんて珍しいなと思いつつ、ゆっくりと開かれていく扉を見守っていた。
「こんにちは~」
「お邪魔しマース」
そんな挨拶と共に中へと入ってきたのは、軽音部的にはとても見慣れた女子生徒が二人。一人は唯の妹である憂ちゃんと、もう一人は憂ちゃんと梓の共通の親友である鈴木さんだ。
「あらまぁ、いらっしゃい二人とも。今お茶淹れるから飲んでいってね」
「わ~ぉ!やったぁ! ムギ先輩のお茶が飲めるなんて光栄です!」
「すみません紬さん、お邪魔しちゃって」
二人は目の前でいちゃつく唯達など最初から目に入っていないかのようにソファの横を素通りすると、テーブルの横まで歩を進めた。その様子に若干疑問符が浮かんだが、きっと憂ちゃん達も私のようにスル―スキルを働かせているんだろうと勝手に決めつけていた。
「うふふ、ぜんぜん気にしなくていいのよ。それに丁度席が二つ余ってるしね。ささ、どうぞ~」
ムギは空席となっていた唯達の特等席の椅子をそれぞれ引き、憂ちゃんと鈴木さんを座らせた。二人は「ありがとうございます」と簡単に会釈をして席に着く。
「それで二人とも、こんな時間に来たってことは何か用事でもあるのか? ていうか憂ちゃんはまだ残ってたんだ? 鈴木さんは確かジャズ研だったよね?」
カップに注がれていく紅茶を眺めながら手持無沙汰になっていた二人にそれぞれ質問を投げかけると、
「えーと、私はちょっと友達に委員会のお仕事頼まれちゃいまして。それで今の時間まで手伝ってたんです。すぐ終わると思ってたんですけど、意外にかかっちゃいまして」
「私は今さっき部活終わって、ちょうど帰ろうとしてたんですけど、さっきばったり憂と会っちゃって。憂が音楽室に行くって言うから、なら私もーってことでついてきたんです」
「音楽室に来たのはついでというかなんというか、その、お姉ちゃんと梓ちゃんが皆さんにご迷惑おかけしてないか気になっちゃって…その」
憂ちゃんと鈴木さんがそれぞれ理由を述べ終わると、丁度ムギが紅茶を注ぎ終わった。ムギはそれぞれのカップを笑顔で差し出して、二人はそんなムギに軽く会釈をする。それから二人とも早々にカップに手を付けた。
「うん、相変わらずおいしいですね。さすが紬さんです」
憂ちゃんは紅茶を口に含み、開口一番に素直な褒め言葉を口にする。
「ふふ、ありがとう憂ちゃん。おせじでも嬉しいわ」
「そんな!お世辞なんかじゃないですよ!」
「でも私なんてまだまだ…もっと上手に淹れられたらいいんだけどね」
そんなムギの謙遜した態度に、鈴木さんが勢いよく首をぶんぶんと横に振った。
「そんな事ないですって! 私、こんな美味しい紅茶飲んだの初めてですから! もっと胸張っていいと思いますよ!」
「あらあら♪ そんなにおだてても何も出ないわよ? うふふ、でもありがとう純ちゃん。よかったらケーキも食べていってね。今日は旅行明け初日だから、奮発してホールケーキなの」
「マジっすか!? んじゃお言葉に甘えて…」
ムギの進言に鈴木さんはすかさずフォークをケーキに突き刺し、
「あむっ! ん~~~♪」
大きな口を開けて、そのまま口へと放り込んだ。
すると途端に目をキラキラ輝かせ始め、口の中いっぱいに広がる幸せの甘さに歓喜し身を震わせる。
なんていうか、この子は唯と律にどこか挙動が似ている気がした。足して2で割ったら丁度いいくらいになりそうだ。
なんて、そんなくだらない考えに少しばかりおかしくなり思わず笑みを漏らした。
憂ちゃんは紅茶を半分ほど飲み干し、ほぅっと熱い溜息をついた。
それからちらりとソファの方に視線を向けた。それはつまり例の二人に目をやったことと同義である。
やっぱり気づいてたのか。そりゃ気づかない方がおかしいよな。
「ハァ…」
「ん、どうかした憂ちゃん?」
憂ちゃんにしては珍しい心底疲れ切ったような溜息。
私は思わず問いかけてしまっていた。
「あ、いぇ、大したことじゃないんですけど…その、お姉ちゃん達、ずっとこんな感じなんですか?」
こんな感じとはつまり、ムギ風に言わせてもらえばラブラブチュッチュのことをさしているのだろう。
「あぁうん。放課後始まってからずっとかな」
「そうですか、なんだかすみません、姉がご迷惑お掛けしちゃって…」
「いやいや、憂ちゃんは気にしなくていいんだよ」
「で、でも――」
「憂ちゃんはホントによくできた妹だなー」
憂ちゃんの言葉を遮るように律が空気を読まずに口を挟んだ。いや、この場合は空気を読んだと言えるのかもしれない。たぶん律本人はまったく意図していないのだろうが。
「一家に一人は欲しいよなー。どうだい憂ちゃん? ウチの弟と交換しないか?」
「バカ律。何アホなこと言ってんだ。そんな事言ったら聡が泣くぞ?」
「ははっ、冗談だって!」
憂ちゃんは私達のやり取りに顔を綻ばせると優しく微笑んだ。
「うふふ、でもお姉ちゃんのお世話もこれはこれで大変なんですよ? 昨日だって――あっ!」
勢い任せに放ったと思われるその言葉は、憂ちゃん自身の意思で途切れた。その意味深とも取れる発言が気にならないと言えば嘘になるが、聞いてはいけない何かを感じたのも確かだった。
「昨日? 昨日何かあったのかしら? 憂ちゃん」
しかし私が聞くのを躊躇おうとも、他がそうだとは限らない。ムギみたいな好奇心旺盛な者からすれば、餌を撒かれた魚の如く、入れ食いなのは火を見るより明らかだった。
「え、えと…」
己の失言に憂ちゃんは顔を俯かせ、思い悩むように顔をしかめた。
たぶん、いやまず間違いなく、本当は言うつもりじゃなかったのだろう。
もしかしたら誰にも言わず、墓場まで持っていくつもりだったのかもしれない。
それはさすがに大袈裟だが、あの憂ちゃんが言いよどむくらいなのだから、それなりに言い辛いことなのだろう。
「その、昨夜の話なんですけど…」
言おうかどうか迷っていた憂ちゃんだったが、考え込むこと一分弱でようやく決心がついたのか、ふいに顔を上げ、一呼吸おいてからポツポツと昨日の出来事を話し始めたのだった。
「実は梓ちゃん、私の家に泊まっていったんです。次の日は学校だったし、金土の夜も泊まっていったしで、本当はその日の夜までは泊まる予定じゃなかったんですけど、でも旅行から帰ってきたお姉ちゃんの顔見たら我慢できなくなっちゃったみたいで、それで――」
それっきりお姉ちゃんにくっついたままスッポンみたいに離れなくて…。
『ほらあずにゃん、明日になれば学校でいっぱいお話できるんだし今日はもう帰ろ? ね?』
さすがのお姉ちゃんも今回ばかりは修学旅行疲れで心身ともくたくただったらしくて、最初は梓ちゃんに帰るように勧めたんです。でも…。
『…やです。今唯先輩から離れたら今度こそ死んじゃいます』
『あずにゃん…もう、あずにゃんったら本当に甘えん坊さんだね。でもね、さすがの唯先輩も今日はもう疲れちゃって、体がいうこと利かないというかなんというか…』
『…何もしなくていいですから…ただ唯先輩を近くに感じていたいだけですから…』
『あ、あずにゃん…』
『ダメ、ですか?』
『…くはっ!』
涙目&上目遣いの梓ちゃんにお姉ちゃんも最終的に折れちゃいまして…。
「それで結局泊まっていくことになっちゃったんです」
「あ、ちなみに私も憂んちに泊まっていったんですよ。本当は帰ろうかと思ったんですけど、さすがに野獣の巣窟に憂だけ残していくのは忍びなくてですね」
憂ちゃんの話が途切れるところを見計らって、鈴木さんがそう付け加えた。
「ちょっと待って憂ちゃん、純ちゃん」
ムギは話の途中で割り込みをかけると、ティーポットをテーブルに置き、早々と自分の席に座った。その様子は稀に見る真剣な表情である。一言たりとも聞き逃すまいという意気込みが、その姿勢からは感じられた。
まことにやれやれである。何がムギをここまで駆り立てるのかなんて、そんな野暮ったいことは今更聞いたりはしない。
「さ、続きを聞かせて二人とも」
「あ、はい。それで最初の方は梓ちゃんもお姉ちゃんの体の事気遣って、あまり激しいスキンシップはしなかったんですが…」
「ふむふむ」
「紬さん、お姉ちゃんが梓ちゃんに買ってきたお土産覚えてますか?」
「天使のオルゴール、よね」
「そうです。それをお姉ちゃんが梓ちゃんに贈ったのがすべての始まりだったんです」
鈴木さんも腕を組んで目を伏せながらウンウンと頷いていた。
すべての始まりとは何なのか――。
私の心臓の動悸が激しくなる。それは予感にも似た何かだった。その後何が起きたのか、予想できてしまう自分がいた。
願わくば己の予想が外れてくれることを祈っていたのだが、
「その素敵なオルゴールに感激しちゃった梓ちゃんが、そのお礼にと、その…き、キスしちゃったんです。お姉ちゃんのくちびるに。きっと我慢できなくなっちゃったんでしょうね。嬉しくて嬉しくて」
「ふんすっ!それで?」
「たぶん、それが引き金だったんじゃないでしょうか…。お姉ちゃんったらまるで人が変わったみたいに「ふぉおおお!!」ってご近所さんにも聞こえそうな叫び声あげて、そのまま梓ちゃんをお姫様だっこして自分の部屋にお持ち帰りしちゃったんです」
私の祈りは天には通じず。まぁ、分かってたけどな…。
くたくたのへとへとだったはずの唯。私自身、家に帰ったときは今までの疲れがどっと押し寄せてきてそのままベッドインしたのだから、その疲労感がどれほどのものか理解しているつもりだった。
にもかかわらず、唯はそんな疲労感などまったく感じさせないような力を発揮している。それが愛の成せる業と言ってしまえばそれまでだが、憂ちゃんの言葉を借りるなら、唯は疲れていながらも『梓が欲しい』という欲求に我慢がきかず、溜まりに溜まったそれはお姫様のキスでついに暴発してしまったということだろう。
「それからあとの事は…たぶん紬さんが想像している通りだと思います」
「つまり、オオカミとライオンの異種格闘戦が繰り広げられていたと?」
「え、えぇ…。おかげで私、昨日は一睡もできなくて…ふわぁ」
口元に手を当ててあくびを噛み締める憂ちゃん。そういえばよく見ると、目の下にはクマが出来ているのが分かった。しかも一睡もできなかったということはつまり、一晩中そのバトルは繰り広げられていたということになる。
もう体力有り無しの問題じゃない。二人とも化け物だ。正直、その体力はどこから生み出されてくるのかと小一時間ほど問い詰めた気分である。
「気苦労が絶えないわね憂ちゃん。本当にお疲れ様。できることなら変わってあげたいところだけど…」
よく言うよ。『出来ることなら』じゃなくて、この場合は『是非とも』の間違いだろ?
「ちなみに純ちゃんはどうしていたの?」
ムギの視線が憂ちゃんから今度は鈴木さんに移る。
鈴木さんは待ってましたとばかりに、オホンと咳払いをして意気揚々と語り始める。
「私は憂の部屋で一晩過ごしてましたよ。憂が一緒に寝ようっていうから憂のベッドで二人で寝ました。えぇえぇ、そりゃもう大変でしたとも。隣の部屋からは絶えずギシギシアンアン聞こえてくるし、隣で横たわる憂は「純ちゃん…」とか呟きながら、意味深な視線を送ってくるしで、もう理性がいつ吹っ飛んでもおかしくなかったです」
「ええぇ!? ちょちょっ、純ちゃんあの時寝てたんじゃ…っ!! ベッドに入るなりぐーぐー寝てたよね!?」
「実は寝たフリしてました。ていうかあんな状況で寝ろって方が常識的に無理でしょ?」
「そ、それは、そうだけど…」
憂ちゃんは顔を朱に染めて、恥ずかしそうに顔を伏せてしまった。
「まぁまぁ憂ちゃん。それで純ちゃん、話の続きだけど…」
「はい。寝たふりしてたってところまではいいですよね?」
「ええ」
「実はその時ですね、薄目開けて憂の様子を観察してたんですよ」
「ほぅ、それは興味深い話ね」
「――!?!?」
憂ちゃんが何やら言葉にならない言葉をあげて叫んでいるが、ムギと鈴木さんは二人だけの世界で話を進めていく。
「純ちゃん貴女、なかなか好きモノなのね」
「へへ、お褒めに預かり光栄です」
この二人、意外と気が合うのかもしれない。
もちろんいい意味ではないが。
「私と憂と二人して部屋に戻ったときには隣からギシギシ音がしてて、おまけに唯先輩と梓のそれはもう悩ましげな声が絶えず聞こえてたんです。さすがの私もちょっと恥ずかしくなりましてですね? ああいや、まぁもちろん憂の方も完全に茹で上がったタコみたいに真っ赤っかでしたけど」
「じゅ、純ちゃんっ…その話はもうっ――」
当人を無視して赤裸々な話をされれば、当事者である憂ちゃんが居た堪れなくなるのは当然のことだと思う。憂ちゃんは必死に話に割って入り中断しようと試みるが、そこですかさずムギの視線が憂ちゃんの瞳に突き刺さった。
その様子はまさに、蛇に睨まれたカエルそのもの。
「だめよ憂ちゃん、今いいところなんだから。黙って純ちゃんの話を聞きましょう? ね?」
「――っ」
あたたかみのある微笑み。優しげな声色。それにもかかわらずムギの言葉の一つ一つに覇気を感じた。視線だけで憂ちゃんから言葉を奪い去る。結局はそれ以上何も言えなくなってしまい、ムギから視線を外すことしかできなくなっていた。
助けてやりたいのはやまやまだったが、正直今のムギは私にも止められる自信はなかった。
すまん憂ちゃん。許してくれ。
「まぁ私としても、さすがにその状況で憂と寝床を同じくするわけにはいかないかなーなんて、気を利かせて床で寝ようとしたんですよ? でも、憂の方から「ね、ねぇ純ちゃん…一緒に寝ない?」なんて、パジャマの裾を掴まれながら上目遣いで言われたりなんかしたら、嫌でもOKしちゃいますよ。あのときの憂はまさに天使でしたね」
「分かるわぁ~」
「そのあとはもう理性との戦いでした。一緒のベッドに入ったまではよかったんですが、憂ったら潤んだ瞳でじっと私の顔見つめてくるんですよ。何かを期待するような眼差しで、しかもどんどん私のほうに擦り寄ってきて。おまけに私に顔近づけて「純ちゃん…」って、熱い吐息をわざと吹き掛けながら誘ってくるンですよ?」
「なっ!? ち、ちがっ――!!」
憂ちゃん諦めろ。
もう二人には憂ちゃんの言葉は左から右に流れてしまっている。
ここは流れに身を任せて事の顛末を最後まで見届けようじゃないか。
私もそうだが、律なんてもう話半分も聞いちゃいないぞ。
ああ、お茶がうまいなぁ。
「ホント、あの時はもう生きた心地がしませんでしたね。天国と地獄を味わいました」
「ふむ…、話を聞くに、どうして純ちゃんはそこで手を出さなかったのかしら? 我慢することに意味があったようには思えないけれど…」
ムギの視線が射抜く中、鈴木さんは意に介した様子もなくフッと余裕の笑みを漏らす。
「うふふっ…そこはもちろん、今は手を出すときじゃないと思ったからですよ」
「っ!? と言うと?」
「まぁ最初は放置プレイを楽しみたかったというのもありますけど」
「放置…さすがね」
「でもそんな時です、私の灰色の脳細胞がそれ以上の答えを導き出したのは」
「それ以上の答え?」
「ええ。ねぇムギ先輩、餌を与えずにマテの状態でずっと放置し続けたら普通の生物はどうなりますか?」
「そ、それは…その欲求が極限まで高まって――って純ちゃん、貴女まさかッ!?」
「そうです。憂だって人の子ですからね。人間の三大欲求には抗えないと思います。それに憂は“あの”唯先輩の妹なんですよ? しかも『妹』という属性だけでお釣りがくるって言うのに、そこに『淫』という属性が加わるんです。それがどれほどの核爆発を引き起こすのか…考えただけでゾクゾクしませんか?」
「っ…つまり、限界まで高められた欲求を発散したくても出来ない状況に追い込み、肥えに肥えたところを――」
「はい、その通りです」
「…純ちゃん、貴女…最高よ。貴女とは最高の友になれそうな気がするわ」
「もったいないお言葉ですよムギ先輩」
「おぬしも悪よのぅ」
「いぇいぇ、お代官様ほどではありません」
「「うふふふふ腐」」
ムギと鈴木さんは別の世界へと旅立ってしまってしまい、その後の消息は不明だ。
後に残された憂ちゃんは憑き物が落ちたように清々しい顔で優雅なティータイムを楽しんでいた。
「今日も元気だ紅茶がうまい。うふふ」
ようこそ憂ちゃん。我らアウトローの住まう世界へ。歓迎するよ。
キミがいれば世界は安泰さ。是非ともキミは最後まで良心であってくれ。
「ところで憂ちゃん」
「はい、なんですか澪さん」
「唯がいない間、いろいろお疲れ様」
「ふふ、本当に。でも、悪いことばかりでもなかったですよ」
「そうかい?」
「はい、それ以上に楽しいこともありましたし。それにとても大事なことも思い出しました」
「そっか…憂ちゃんがそう言うなら本当にそうなんだろうな」
「澪さんこそ、お姉ちゃんが迷惑かけませんでしたか?」
「ふっ、唯はいつものことだしな。そんなドタバタにももう慣れたよ」
「そうですか、それは良かったです♪」
「良かった…のかな?」
「良かったんですよ、きっと」
「そっか」
「ええ!」
戻ってきたはずの日常。でもどこか以前と違う日常。
でもそれを悪くないと感じている自分がいた。
そしてそれは、目の前で微笑む憂ちゃんにも同じことが言えるのだろう。
だって、私も憂ちゃんと同じように笑うことができていたんだもの。
なら、それはきっと同じ気持ちだろう?
「いろいろあったけど、修学旅行も無事終わってよかったよ。失敗もあったし、思い通りにいかないこともあったけど、それも今ではいい思い出だ」
「こんなとき使う言葉って言うと、やっぱりアレですかね?」
「ああ、アレだろうな」
終わりよければすべてよし、ってな。
おしまい
【あとがき】
憂に始まり澪に終わる。ついに修学旅行編完結です。長らくお待たせして申し訳ありませんでした。
去年の12月から書き始めて、まさかの半年が経過してしまいました。その間色々と大変な出来事もありましたが、なんとか完結させることができたのも、ひとえに皆さんの応援があったればこそだと思ってます。
最初からコツコツ読んでくれた方も一気読みしてくれた方も最後までお付き合いくださりありがとうございました。
覚えている人がいるかどうか分かりませんが、
次回はようやく「カッコユイ痴漢編」です。
流石金たろう様、わたくしめの笑う瞬間を分かっていらっしゃる・・・ww
今回はお嬢様のコンボで、不覚にも笑いすぎちゃいましたでゲス・・・親が後ろにいたのに(´・ω・`
てか、まさか6か月もたっていたとは・・・時は早いですな
俺的には1ヶ月くらいしかたっていない様な感じかな・・・・・とりま、次回の「痴漢」を楽しみにしておりますです!